ブルース・スプリングスティーン、クラレンス・クレモンズへ捧ぐ
2011年6月18日、脳卒中の合併症のため69歳でこの世を去ったブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドのサックス奏者、クラレンス・クレモンズ。6月21日パームビーチのRoyal Poinciana Chapelにて行われた葬儀には、ブルースとパティ夫妻、Eストリート・バンドのメンバー、ジャクソン・ブラウンなどが参加した。
◆クラレンス・クレモンズ&ブルース・スプリングスティーン画像
ブルースは弔辞の中で、二人の初めての出会い、バンドが売れる前のエピソード、クラレンスの子供たちへのメッセージ、そして生涯の友への想いを語った。自分とクラレンスを「スクーターとビッグ・マン」という『明日なき暴走』の名曲「凍てついた十番街」の登場人物になぞって紹介している。この曲の主人公「スクーター」は追い詰められ、締め付けられ、自分の居場所を探してもがき苦しんでいるけれど、「ビッグマン」と出会い、バンドに加わり「スクーターとビッグマンがこの街を破裂させる」までになる。この曲はまさにブルースとEストリート・バンドの若き日々の姿そのものだ。
そして、ブルースはこう語った。「クラレンスは死んでもEストリート・バンドを去りません。彼がバンドを去るのは僕らが死ぬときです」
ブルース・スプリングスティーンの弔辞の全文を下記に紹介しよう。じっくり読んでもらえれば、夢と希望と、そして絶望をも共に全てを分かち合ってきた仲間との永遠の友情・絆の力を、感じることができるだろう。
◆ ◆ ◆
ビッグ・マンに捧ぐ
僕はここに座って、みんながクラレンスについて語るのをずっと聴きながら、すぐそこにある僕ら2人の写真を見つめていました。それはスクーターとビッグ・マンの写真で、時に僕らは彼らだったんです。見ての通り、特にこの写真ではクラレンスが自分の筋肉を自慢していて、僕はそのことに無頓着なふりをしながら、彼に寄りかかっています。僕は頻繁にクラレンスを頼って寄りかかりました。ある意味では僕はそうすることで自分のキャリアを成功させたんです。
クラレンスと人生を分かち合った僕らは彼の愛と彼の混乱を分かち合いました。「C」は年を重ねるにつれて丸くなりましたが、彼の生き方はいつだって激しく、予測のつかないものでした。今日ここに彼の息子たち、ニッキー、チャック、クリストファー、ジャロッドが座っていますが、彼らの中に「C」の特性の多くが映し出されているのがわかります。彼の輝き、彼の暗闇、彼の優しさ、彼の荒々しさ、彼の穏やかさ、彼の怒り、彼の明晰さ、彼の立派さ、彼の善良さが見えるんです。でも、君たちが知っての通り、君たちのパパは簡単に理解できるような人ではなかった。「C」の生きた人生では、彼は自分のやりたいことをやって、その行動に対して誰であれ何であれがどう言おうがかまわなかったんです。僕らの多くと同じく、君たちのパパは素晴らしい魔法を生み出す能力を持つだけでなく、かなり困った状況を作り出すこともできました。それが君たちの父さんで、僕の素晴らしい友だちの人間性だったんです。
クラレンスの無条件の愛情は心の底からのものでしたが、たくさんの条件を伴ってもいました。君たちのパパは常に作業半ばの大きなプロジェクトだったんです。「C」は何に対しても線を辿って取り組むことは決してなかった。彼の人生が直線で進むことは決してなかった。彼がA... B.... C.... Dと進むことは絶対になく、いつだってA... J.... C.... Z... Q... I....だったんです。それがクラレンスの生き方で、そうやって世の中を渡っていきました。そのことはたくさんの混乱をもたらし、人を傷つけうると僕は知っています。でも、君たちの父さんはたくさんの愛情も運びました。そして、君たち一人一人をとても、とても深く愛していたと僕は知っています。
クラレンス・クレモンズの面倒を見るには村中の人たちの協力が必要でした。ティナ、君がここにいてくれて、とても嬉しいよ。僕の友だちの面倒を見てくれて、彼を愛してくれてありがとう。ヴィクトリア、君はクラレンスにとって、夫を愛する優しく、思いやりのある妻でした。そして歩くことすら簡単じゃなかった時期に、彼の人生を見違えるものにしてくれました。「C」を支えてくれたおびただしい数の人たちのネットワーク、その名前は多すぎてここでは触れられませんが、あなたたちは自分のことだってわかっているでしょう。どうもありがとう。あなたたちへの報酬は天国の門で待っているでしょう。僕の仲間は手に負えない奴だったけど、あなたたちの人生に唯一無二のものをもたらし、彼がその愛の明かりを灯したときには、それがあなたたちの世界を明るくしてくれました。僕はとても幸運なことに約40年もの間、その明かりの中、クラレンスの心のそば、ソウルの寺院の中に立っていたんです。
そこで、ちょっぴり昔話を。クラレンスと僕が一緒に旅していた初期の日々から、僕らがその晩の宿に着くと、数分のうちに「C」は自分の部屋を彼自身の世界に作り変えてしまったものです。取り出したのは、電気スタンドを覆う様々な色のスカーフ、香料入りの蝋燭、お香、パチョリ油、ハーブ、音楽で、昼間は消え去り、お楽しみが次々と登場し、シャーマンのクラレンスが君臨し、魔法を働かせたものです。来る夜も来る夜もです。クラレンスのクラレンスであることを楽しむ能力は途方もありません。彼は69歳まで思う存分生きました。だって、彼は平均的人間の人生で言えば10人分くらい、690年を既に生きていたんですから。どの晩にだって、どの場所でも、その魔法は「C」のスーツケースから飛び出してくるんです。成功のおかげでそれが可能になるとすぐに、彼の控え室はホテルの部屋と同じような装飾が施されるようになって、その部屋を訪ねるのは、膨大な埋蔵量の油田を掘り当てたばかりの独立国への旅のようにまでなりました。
「C」はどう生きるべきかを常に知っていました。プリンスがおむつを卒業するよりずっと前に、ビッグ・マンの世界では好色な神秘主義の気配が支配していたんです。僕は数個の素敵なソファとスポーツ用ロッカーを備えた自分の控え室から彼の部屋に足を踏み入れ、自分が何を間違えているのかと考えてしまったものです。そういった歳月のどこかの時点で、これらすべてが「ソウルの寺院」と名付けられ、「C」はにこにこしながらその秘密とその喜びを支配する主宰者を務めました。その寺院の不思議な世界への入場を許されることは素敵な体験でした。
僕の息子サムは幼かった頃、ビッグ・マンに心を奪われてしまいました…驚きじゃないですね。子供にとって、クラレンスは何かとてもエキゾティックな童話から出てきた、見上げるように大きなおとぎ話の人物でしたから。彼はドレッドロック・ヘアの巨人で、大きな手と優しさと心づかいの感じられる太い低音の甘い声の持ち主でした。そして…幼い白人の少年だったサムにとっては、彼は強烈な印象を与える神秘的な黒人でした。サミーの目に「C」はアフリカ大陸のすべてがアメリカ的なクールさで満たされ、暖かく歓迎して愛してくれる一人の人物になったように見えたに違いありません。だから…サミーは僕のワークシャツを拒否すると決め、クラレンスのスーツと王様のようなローブに魅せられるようになりました。彼は父のヴァンの座席を断り、「C」の長い車体のリムジンを選び、彼の隣に座ってショウの会場までのゆっくりとしたドライヴを楽しんだのです。彼はどこにでもあるロッカーの前での夕食はおもしろくないと判断し、廊下をぶらぶら歩き、ソウルの寺院の中に消えていきました。
もちろん、彼に心を奪われたのは、サムの父親も同じでした。アズベリー・パークの半分しかお客さんの入っていないバーの暗がりから僕の仲間が大股で歩いてくるのを見た初めての出会いからずっとです。彼の前に道が開けるのが見えました。僕の兄弟が、僕のサックスマンが、僕のインスピレーションが、僕のパートナーが、僕の生涯の友人がやってきたんです。クラレンスの隣に立つことはこの惑星で最高のワルの隣に立つようなものです。自分が誇らしく、逞しく思え、起こるかもしれないことに、彼と一緒ならできるかもしれないことに、わくわくさせられ、楽しくて笑いました。昼や夜が何をもたらしても、何たりとも自分を傷つけられないと感じたんです。
クラレンスは繊細なところもありましたが、力と安心感を発散させていました。そして愉快なやり方で、僕らはお互いの保護者になったんです。たぶん僕は今もなお大男の黒人であることがそんなに楽ではない世界から「C」を守ったのだと思います。人種差別はずっと存在していましたし、彼と一緒の年月の間、僕らはそれを目にしてきました。クラレンスの名声と体格も彼を差別から逃れさせられませんでした。また、たぶん「C」も不安を抱えた風変わりなやせっぽちの白人少年であることがそんなに楽なわけではない世界から僕を守ってくれたんだと思います。でも、一緒に立つと、どの晩にだって僕らはワルでした。僕らの得意とする領域では、この惑星の最高のワルの数組にも並びました。僕らは一心同体で、僕らは強く、僕らは本物で、僕らは揺るぎなく、僕らは愉快で、僕らはひどくダサく、このうえなく真剣でした。そして僕らは皆さんの町へ行って、皆さんを揺さぶり、目を覚まさせました。僕らは一緒に僕の歌と音楽の中で書いてきたものを超える友情のもつ可能性についてのもっと古い、もっと豊かな物語を語ったのです。クラレンスはそれを心の中に持っていました。その物語ではスクーターとビッグ・マンは街をまっぷたつにしてしまっただけでなく、僕らは大暴れして、その街を作り直してしまった。僕らの友情がそれほど例外的ではない類の場所を作ったんです。そして、そのことを僕はこれからずっと残念に思うでしょう。毎晩のようにその誓いを新たにしてその物語への賭けを倍額にする機会を失ったのです。なぜなら、それは特別なことでした。それこそが僕らが…僕ら2人が一緒にやった最も重要なことだからです。クラレンスは大きく、彼は僕に大きく感じて、考え、愛し、夢を見させてくれました。ビッグ・マンがどれほど大きかったって? 死ぬにはあまりに馬鹿でかかった。それは事実です。彼の墓石にそう刻むこともできます。君の旨にそうタトゥーを入れてもいい。受け入れてください…これは(彼のいない)新しい世界なんだって。
クラレンスは死んでもEストリート・バンドを去りません。彼がバンドを去るのは僕らが死ぬときです
だから、僕は自分の友だちを、彼のサックスを、彼のサウンドの持つ自然の力を、彼の栄光を、彼の馬鹿げたところを、彼の業績を、彼の顔を、彼の手を、彼のユーモアを、彼の肌を、彼の騒音を、彼の混乱を、彼の力を、彼の平穏を思い出して寂しく感じるでしょう。でも、彼の愛と彼の物語、彼が僕にくれた物語、彼が耳元で囁き、僕に語ることを許してくれた…そして彼がみなさんに与えた物語は続いていきます。僕は神秘主義者ではないんですが、それに反して、クラレンスと僕の友情の力と神秘は僕をこう信じる気にさせます。僕らは別のもっと古い時代にも、他の川沿いで、他の街で、他の平野で、一緒に立って、神の仕事の我々のささやかな解釈を何度もやっていたに違いないと。そしてその仕事はまだ完成していないんだとも。だから、僕の兄弟にさよならは言いません。ただこう言うだけです。次の人生で、この道の先で、また会おう。そこで僕らは再びその仕事を始めて、やり遂げるんです。
ビッグ・マン、君の優しさに、君の力に、君の献身に、君の仕事に、君の物語にありがとう。その奇跡に…そしてこのちっぽけな白人少年をソウルの寺院の横のドアから忍び込ませてくれてありがとう。
さあ、紳士淑女の皆さん、いつも最後の紹介になりますが、決して一番小さな存在ではありません。盛大な拍手をお願いします。大惨事をもたらす名人、大物祈祷師、セックスの癒しで博士号を持つ男、パデューカの公爵、世界の王様、オバマは気をつけて、死んでしまっても次の黒人米国大統領なんですから。みんなが彼のようになりたいと願うが、それは無理なんです!紳士淑女の皆さん、あなたがこれまでに見た中でも最も巨大な男! 繰り返して、C-L-A-R-E-N-C-E。何のスペルだい? クラレンスだ! 何のスペルだい? クラレンスだ! アーメン。
今日は最後にビッグ・マン自身の言葉でみなさんとお別れします。前回のツアーの最後のショウを終えて、バッファローから帰ってくる飛行機の中で交わした言葉です。僕らはフロントキャビンでお互いを称えながらお祝いをして、僕らが共にしてきた多くの素晴らしいショウやロックした夜、楽しい時間についての話をしていました。「C」は静かに座っていて、それらの話をすべて聞いてから、グラスを揚げて、微笑みながら、集まったみんなに言いました。「これはもっと大きな何かの始まりに違いないよ」。
愛しているよ、「C」。
ブルース・スプリングスティーン
◆ ◆ ◆
クラレンス・クレモンズ追悼企画
2011年10月発売予定 完全生産限定 紙ジャケット仕様
●クラレンス・クレモンズ「レスキュー」(1983)
●クラレンス・クレモンズ「ヒーロー」(1985)
●クラレンス・クレモンズ「ア・ナイト・ウィズ・ミスターC」(1989)
●ブルース・スプリングスティーン DVD『ザ・プロミス:ザ・メイキング・オブ“闇に吠える街”』
発売中 SIBP-197 ¥4935(税込)
※ブルース&Eストリート・バンドとの最後の競演を収録
◆ブルース・スプリングスティーン・オフィシャルサイト
◆ブルース・スプリングスティーン・オフィシャルサイト(海外)
◆BARKS洋楽チャンネル
◆クラレンス・クレモンズ&ブルース・スプリングスティーン画像
ブルースは弔辞の中で、二人の初めての出会い、バンドが売れる前のエピソード、クラレンスの子供たちへのメッセージ、そして生涯の友への想いを語った。自分とクラレンスを「スクーターとビッグ・マン」という『明日なき暴走』の名曲「凍てついた十番街」の登場人物になぞって紹介している。この曲の主人公「スクーター」は追い詰められ、締め付けられ、自分の居場所を探してもがき苦しんでいるけれど、「ビッグマン」と出会い、バンドに加わり「スクーターとビッグマンがこの街を破裂させる」までになる。この曲はまさにブルースとEストリート・バンドの若き日々の姿そのものだ。
そして、ブルースはこう語った。「クラレンスは死んでもEストリート・バンドを去りません。彼がバンドを去るのは僕らが死ぬときです」
ブルース・スプリングスティーンの弔辞の全文を下記に紹介しよう。じっくり読んでもらえれば、夢と希望と、そして絶望をも共に全てを分かち合ってきた仲間との永遠の友情・絆の力を、感じることができるだろう。
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ビッグ・マンに捧ぐ
僕はここに座って、みんながクラレンスについて語るのをずっと聴きながら、すぐそこにある僕ら2人の写真を見つめていました。それはスクーターとビッグ・マンの写真で、時に僕らは彼らだったんです。見ての通り、特にこの写真ではクラレンスが自分の筋肉を自慢していて、僕はそのことに無頓着なふりをしながら、彼に寄りかかっています。僕は頻繁にクラレンスを頼って寄りかかりました。ある意味では僕はそうすることで自分のキャリアを成功させたんです。
クラレンスと人生を分かち合った僕らは彼の愛と彼の混乱を分かち合いました。「C」は年を重ねるにつれて丸くなりましたが、彼の生き方はいつだって激しく、予測のつかないものでした。今日ここに彼の息子たち、ニッキー、チャック、クリストファー、ジャロッドが座っていますが、彼らの中に「C」の特性の多くが映し出されているのがわかります。彼の輝き、彼の暗闇、彼の優しさ、彼の荒々しさ、彼の穏やかさ、彼の怒り、彼の明晰さ、彼の立派さ、彼の善良さが見えるんです。でも、君たちが知っての通り、君たちのパパは簡単に理解できるような人ではなかった。「C」の生きた人生では、彼は自分のやりたいことをやって、その行動に対して誰であれ何であれがどう言おうがかまわなかったんです。僕らの多くと同じく、君たちのパパは素晴らしい魔法を生み出す能力を持つだけでなく、かなり困った状況を作り出すこともできました。それが君たちの父さんで、僕の素晴らしい友だちの人間性だったんです。
クラレンスの無条件の愛情は心の底からのものでしたが、たくさんの条件を伴ってもいました。君たちのパパは常に作業半ばの大きなプロジェクトだったんです。「C」は何に対しても線を辿って取り組むことは決してなかった。彼の人生が直線で進むことは決してなかった。彼がA... B.... C.... Dと進むことは絶対になく、いつだってA... J.... C.... Z... Q... I....だったんです。それがクラレンスの生き方で、そうやって世の中を渡っていきました。そのことはたくさんの混乱をもたらし、人を傷つけうると僕は知っています。でも、君たちの父さんはたくさんの愛情も運びました。そして、君たち一人一人をとても、とても深く愛していたと僕は知っています。
クラレンス・クレモンズの面倒を見るには村中の人たちの協力が必要でした。ティナ、君がここにいてくれて、とても嬉しいよ。僕の友だちの面倒を見てくれて、彼を愛してくれてありがとう。ヴィクトリア、君はクラレンスにとって、夫を愛する優しく、思いやりのある妻でした。そして歩くことすら簡単じゃなかった時期に、彼の人生を見違えるものにしてくれました。「C」を支えてくれたおびただしい数の人たちのネットワーク、その名前は多すぎてここでは触れられませんが、あなたたちは自分のことだってわかっているでしょう。どうもありがとう。あなたたちへの報酬は天国の門で待っているでしょう。僕の仲間は手に負えない奴だったけど、あなたたちの人生に唯一無二のものをもたらし、彼がその愛の明かりを灯したときには、それがあなたたちの世界を明るくしてくれました。僕はとても幸運なことに約40年もの間、その明かりの中、クラレンスの心のそば、ソウルの寺院の中に立っていたんです。
そこで、ちょっぴり昔話を。クラレンスと僕が一緒に旅していた初期の日々から、僕らがその晩の宿に着くと、数分のうちに「C」は自分の部屋を彼自身の世界に作り変えてしまったものです。取り出したのは、電気スタンドを覆う様々な色のスカーフ、香料入りの蝋燭、お香、パチョリ油、ハーブ、音楽で、昼間は消え去り、お楽しみが次々と登場し、シャーマンのクラレンスが君臨し、魔法を働かせたものです。来る夜も来る夜もです。クラレンスのクラレンスであることを楽しむ能力は途方もありません。彼は69歳まで思う存分生きました。だって、彼は平均的人間の人生で言えば10人分くらい、690年を既に生きていたんですから。どの晩にだって、どの場所でも、その魔法は「C」のスーツケースから飛び出してくるんです。成功のおかげでそれが可能になるとすぐに、彼の控え室はホテルの部屋と同じような装飾が施されるようになって、その部屋を訪ねるのは、膨大な埋蔵量の油田を掘り当てたばかりの独立国への旅のようにまでなりました。
「C」はどう生きるべきかを常に知っていました。プリンスがおむつを卒業するよりずっと前に、ビッグ・マンの世界では好色な神秘主義の気配が支配していたんです。僕は数個の素敵なソファとスポーツ用ロッカーを備えた自分の控え室から彼の部屋に足を踏み入れ、自分が何を間違えているのかと考えてしまったものです。そういった歳月のどこかの時点で、これらすべてが「ソウルの寺院」と名付けられ、「C」はにこにこしながらその秘密とその喜びを支配する主宰者を務めました。その寺院の不思議な世界への入場を許されることは素敵な体験でした。
僕の息子サムは幼かった頃、ビッグ・マンに心を奪われてしまいました…驚きじゃないですね。子供にとって、クラレンスは何かとてもエキゾティックな童話から出てきた、見上げるように大きなおとぎ話の人物でしたから。彼はドレッドロック・ヘアの巨人で、大きな手と優しさと心づかいの感じられる太い低音の甘い声の持ち主でした。そして…幼い白人の少年だったサムにとっては、彼は強烈な印象を与える神秘的な黒人でした。サミーの目に「C」はアフリカ大陸のすべてがアメリカ的なクールさで満たされ、暖かく歓迎して愛してくれる一人の人物になったように見えたに違いありません。だから…サミーは僕のワークシャツを拒否すると決め、クラレンスのスーツと王様のようなローブに魅せられるようになりました。彼は父のヴァンの座席を断り、「C」の長い車体のリムジンを選び、彼の隣に座ってショウの会場までのゆっくりとしたドライヴを楽しんだのです。彼はどこにでもあるロッカーの前での夕食はおもしろくないと判断し、廊下をぶらぶら歩き、ソウルの寺院の中に消えていきました。
もちろん、彼に心を奪われたのは、サムの父親も同じでした。アズベリー・パークの半分しかお客さんの入っていないバーの暗がりから僕の仲間が大股で歩いてくるのを見た初めての出会いからずっとです。彼の前に道が開けるのが見えました。僕の兄弟が、僕のサックスマンが、僕のインスピレーションが、僕のパートナーが、僕の生涯の友人がやってきたんです。クラレンスの隣に立つことはこの惑星で最高のワルの隣に立つようなものです。自分が誇らしく、逞しく思え、起こるかもしれないことに、彼と一緒ならできるかもしれないことに、わくわくさせられ、楽しくて笑いました。昼や夜が何をもたらしても、何たりとも自分を傷つけられないと感じたんです。
クラレンスは繊細なところもありましたが、力と安心感を発散させていました。そして愉快なやり方で、僕らはお互いの保護者になったんです。たぶん僕は今もなお大男の黒人であることがそんなに楽ではない世界から「C」を守ったのだと思います。人種差別はずっと存在していましたし、彼と一緒の年月の間、僕らはそれを目にしてきました。クラレンスの名声と体格も彼を差別から逃れさせられませんでした。また、たぶん「C」も不安を抱えた風変わりなやせっぽちの白人少年であることがそんなに楽なわけではない世界から僕を守ってくれたんだと思います。でも、一緒に立つと、どの晩にだって僕らはワルでした。僕らの得意とする領域では、この惑星の最高のワルの数組にも並びました。僕らは一心同体で、僕らは強く、僕らは本物で、僕らは揺るぎなく、僕らは愉快で、僕らはひどくダサく、このうえなく真剣でした。そして僕らは皆さんの町へ行って、皆さんを揺さぶり、目を覚まさせました。僕らは一緒に僕の歌と音楽の中で書いてきたものを超える友情のもつ可能性についてのもっと古い、もっと豊かな物語を語ったのです。クラレンスはそれを心の中に持っていました。その物語ではスクーターとビッグ・マンは街をまっぷたつにしてしまっただけでなく、僕らは大暴れして、その街を作り直してしまった。僕らの友情がそれほど例外的ではない類の場所を作ったんです。そして、そのことを僕はこれからずっと残念に思うでしょう。毎晩のようにその誓いを新たにしてその物語への賭けを倍額にする機会を失ったのです。なぜなら、それは特別なことでした。それこそが僕らが…僕ら2人が一緒にやった最も重要なことだからです。クラレンスは大きく、彼は僕に大きく感じて、考え、愛し、夢を見させてくれました。ビッグ・マンがどれほど大きかったって? 死ぬにはあまりに馬鹿でかかった。それは事実です。彼の墓石にそう刻むこともできます。君の旨にそうタトゥーを入れてもいい。受け入れてください…これは(彼のいない)新しい世界なんだって。
クラレンスは死んでもEストリート・バンドを去りません。彼がバンドを去るのは僕らが死ぬときです
だから、僕は自分の友だちを、彼のサックスを、彼のサウンドの持つ自然の力を、彼の栄光を、彼の馬鹿げたところを、彼の業績を、彼の顔を、彼の手を、彼のユーモアを、彼の肌を、彼の騒音を、彼の混乱を、彼の力を、彼の平穏を思い出して寂しく感じるでしょう。でも、彼の愛と彼の物語、彼が僕にくれた物語、彼が耳元で囁き、僕に語ることを許してくれた…そして彼がみなさんに与えた物語は続いていきます。僕は神秘主義者ではないんですが、それに反して、クラレンスと僕の友情の力と神秘は僕をこう信じる気にさせます。僕らは別のもっと古い時代にも、他の川沿いで、他の街で、他の平野で、一緒に立って、神の仕事の我々のささやかな解釈を何度もやっていたに違いないと。そしてその仕事はまだ完成していないんだとも。だから、僕の兄弟にさよならは言いません。ただこう言うだけです。次の人生で、この道の先で、また会おう。そこで僕らは再びその仕事を始めて、やり遂げるんです。
ビッグ・マン、君の優しさに、君の力に、君の献身に、君の仕事に、君の物語にありがとう。その奇跡に…そしてこのちっぽけな白人少年をソウルの寺院の横のドアから忍び込ませてくれてありがとう。
さあ、紳士淑女の皆さん、いつも最後の紹介になりますが、決して一番小さな存在ではありません。盛大な拍手をお願いします。大惨事をもたらす名人、大物祈祷師、セックスの癒しで博士号を持つ男、パデューカの公爵、世界の王様、オバマは気をつけて、死んでしまっても次の黒人米国大統領なんですから。みんなが彼のようになりたいと願うが、それは無理なんです!紳士淑女の皆さん、あなたがこれまでに見た中でも最も巨大な男! 繰り返して、C-L-A-R-E-N-C-E。何のスペルだい? クラレンスだ! 何のスペルだい? クラレンスだ! アーメン。
今日は最後にビッグ・マン自身の言葉でみなさんとお別れします。前回のツアーの最後のショウを終えて、バッファローから帰ってくる飛行機の中で交わした言葉です。僕らはフロントキャビンでお互いを称えながらお祝いをして、僕らが共にしてきた多くの素晴らしいショウやロックした夜、楽しい時間についての話をしていました。「C」は静かに座っていて、それらの話をすべて聞いてから、グラスを揚げて、微笑みながら、集まったみんなに言いました。「これはもっと大きな何かの始まりに違いないよ」。
愛しているよ、「C」。
ブルース・スプリングスティーン
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クラレンス・クレモンズ追悼企画
2011年10月発売予定 完全生産限定 紙ジャケット仕様
●クラレンス・クレモンズ「レスキュー」(1983)
●クラレンス・クレモンズ「ヒーロー」(1985)
●クラレンス・クレモンズ「ア・ナイト・ウィズ・ミスターC」(1989)
●ブルース・スプリングスティーン DVD『ザ・プロミス:ザ・メイキング・オブ“闇に吠える街”』
発売中 SIBP-197 ¥4935(税込)
※ブルース&Eストリート・バンドとの最後の競演を収録
◆ブルース・スプリングスティーン・オフィシャルサイト
◆ブルース・スプリングスティーン・オフィシャルサイト(海外)
◆BARKS洋楽チャンネル