FUN.【インタビュー】「得たものを作品に封じ込めることのほうが重要だ」

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去る7月21日、東京の渋谷duo MUSIC EXCHANGEで行なわれたFUN.の“一夜限りの来日公演”がいかに素晴らしかったかについては7月24日付の記事にも書いた通りだが、実はその日の午前中、都内某所で彼らと話をすることができた。目の前に並んだネイト・ルイス(Vo)、ジャック・アントノフ(G)、そしてマルチ・プレイヤーのアンドリュー・ドストは、異国の空気に浮かれた感じでもなければ疲れが溜まっている様子でもなく、なんだか本当に自然体という印象。2012年を代表するヒット・ソングのひとつになった「伝説のヤングマン~ウィー・アー・ヤング~」をはじめとする“いい曲”がたくさん詰まったメジャー・デビュー作『サム・ナイツ~蒼い夜~』に関することはもちろん、3人のパーソナリティーについても探ってみた。このインタビューを読むことで、このアルバムはあなたの耳にいっそうリアルなものとして響くようになるかもしれない。

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▲左からネイト、ジャック、アンドリュー
――もう聞き飽きた言葉かもしれませんが、まずは“おめでとう!”を言わせてください。『サム・ナイツ~蒼い夜~』のヒットに関してももちろんですが、あの作品でFUN.のスタイルが確立されたことについても。

ネイト:ありがとう!実際、すごく達成感があるんだ。あのアルバムを作り始めた頃から、ユニークなものになるんじゃないかって予感はあった。だけど実際にそういう作品にすることって、口で言うほどたやすいことじゃないんだ。たとえば楽曲は良くても、結果的に誰かが過去にやったのと同じようなものになってしまったり、そこに気付かされて煮詰まってしまったりすることってあるじゃないか。今回の場合、幸運だったのは、プロデューサーのジェフ・バスカー(カニエ・ウエスト、ビヨンセやドレイクなどとの仕事で知られる)と一緒に最初に手をつけたのが「伝説のヤングマン~ウィー・アー・ヤング~」だったこと。ヒップホップの要素をそこに取り入れたいと思っていたわけなんだけど、スタジオでその夜の作業が終わる頃には、あの曲自体が自分たちでも“やった!”と叫びたくなるようなものになっていたんだ。その瞬間、“これはうまくいくぞ!”と思った。そのときの経験が自分たち自身にとっての刺激になって、他すべての曲にも作用することになったんだよ。次の瞬間から何もかもが突然、ビッグで貴重なものになり始めたというか。結局、この3人とジェフとで一緒にやることがすごく重要だったんだ。

アンドリュー:まったく同感だな。ジェフと一緒にスタジオのなかに入ったとき、そこにマジックが発生して素晴らしいものが生まれつつあることに気付かされたんだ。このアルバムのことはすごく誇りに思っている。なにしろそれを、自分たちが最初に発信する形で作ることができたわけだからね。

ジャック:うん。なんかある意味、すべてがちょうどいいタイミングに起こったんだ。いい作品ができそうな気配があるときでも、ありきたりの形に嵌まってしまうことを恐れるあまり、自分たちの本意に反したものを作ってしまうケースってあるだろ? 僕らは、その罠に嵌まるのを恐れること自体をやめたんだ。その結果、この作品を生み出すことができたんだと思う。

――実は僕、2009年に発売された1stアルバム『AIM AND IGNITE』(日本未発売)も大好きなんですよね。でも、あの作品でのスタイルに固執したままだったら今作は生まれ得なかっただろうとも思うんです。

ネイト:前作も聴いてもらえてるなんて嬉しいな。でもね、その指摘は間違いないと思う。あのアルバムについては今でもグレイトだと思っているし、後悔みたいなものもない。だから実際、今回のアルバムの楽曲の初期ヴァージョンというのは、ほとんど前作の延長線上にあるものばかりだったんだ。それも悪くはないけど、僕としてはそうあるべきじゃないという思いのほうが強かった。アーティストってものは同じ場所にとどまることなく、常にチャレンジを続けていくべきものだと思うからね。だから当然、1枚目を乗り越えて、それ以降に得てきた新しいインスピレーションの数々を反映させながら2枚目を作らなきゃいけない。それをわかっていつつも、ホントに最初のうちは1枚目と似たり寄ったりな感じだったんだよ。もちろんそれでもいいアルバムにはなり得たかもしれないけど、それじゃあ前作に対しての“もう1枚のアルバム”でしかなくなってしまう。そうなることだけは嫌だったんだ。で、あるとき突然、ヒップホップの要素を取り入れることを閃いたところから、ごく短期間のうちにすべてが変わったんだ。結果、このアルバムをレコーディングしてる最中は、1stアルバムと比較しながら物事を考えることなんて一切なかったよ。あれがどんな作品だったかを振り返る機会がなかった、と言ったほうがいいかな。だけど、僕らは自分たちが何者だかをよくわかってるつもりだったし、みんなで新しい音楽を作っていくために何を学んでいくべきかもわかってた。その時点で、今作が前作とはまるで違うものになることは明白だったんだ。

――つまり今作には、ヒップホップの領域から得た刺激が反映された現在だからこそのFUN.の姿が封じ込められていて、もちろん前作にも当時の正直な姿が収められている。この先も、どんな新しい刺激を得ていくかによって、あなたたちの音楽スタイルはどんどん変わっていく可能性があるってことなんですね?

ネイト:そうだね。それは間違いない。

アンドリュー:そこがアルバム作りにおける最重要なポイントのひとつだと思うんだ。そのときに得たインスピレーションというのが、結果的にどういう形で音に反映されることになるかなんて事前にわかるもんじゃないし。実際、1枚目のアルバムのことは今でも誇りに思ってるんだよ。ただ、あのアルバムのときはデモを作ってる段階から、すべてのアイデアについて自分たち自身が把握できていた。本番の録りのためにスタジオに入る以前からね。そして、レコーディングの過程で得られたインスピレーションやエキサイトメントといったものを、結果的に作品に反映させることができた。それに対して『サム・ナイツ~蒼い夜~』の場合は、トラックダウンの段階になるまで何がどうなるのか見当もつかなかったんだ。僕だけじゃなく、メンバー全員がね。それと同じように、次のアルバムがどんなサウンドのものになるかなんて、現時点では予測すらできることじゃないし、そういうのってあらかじめ計画することじゃないと思うんだ。もちろん次回もまたうまくいくことを願っているけど(笑)、同じことを繰り返すことよりも、自分たちがその時点までに得ていたものを作品に封じ込めることのほうが重要だと思うからね。

――設計図を丹念に描いてその通りのアルバムを作るよりも、自分たちでも完成形がどうなるかわからないほうがワクワクする場合がある。そういうことですか?

アンドリュー:うん、そうだね。もちろん“どこに行きたいか”っていう目的地は見据えられた状態であるほうがいいとは思うんだ。だけどスタート地点にいる段階では、どうすればそこに到達できるかがわからないままのことも多いはずだし、結果としてそこに辿り着けたときにそれを理解できればいいことだと思うから。

――なるほど。さて、FUN.の音楽そのものについては多くの説明を要するものではないと思うし、すでにこの作品に惹かれている人たちは、あなた方がどんなパーソナリティーの持ち主であるかに興味を抱き始めているはずだと思うんです。そんなわけで、まずはネイトがどんな人物であるかを、アンドリューとジャックに話して欲しいんですが。

ネイト:あはは!面白い企画だね。

アンドリュー:ネイトは…とても複雑な人間。もちろんいい意味で(笑)。アーティストとしても当然そうなんだけど、とにかく彼の情熱とか才能といったものについて語り始めたら、止まらないんじゃないかと思う。言うべきことがたくさんありすぎるんだ。たとえばディテールへのこだわりの強さ。彼は、ちょっとやそっとじゃ満足しない。最初に想定してた通りにできればOKというわけじゃなく、その完成形がどういうものであるべきかは彼自身がいちばんよくわかってるんだ。少しでもいいものにするためであればまったく妥協しないやつだし、一個人としてはかなり頑固なところもある。これまたいい意味で、だけどね(笑)。とにかくどんな相手にも気を遣える人間だし、憐れみ深いというか、親切というか…。

――すごい。褒めちぎりですね!(笑)

アンドリュー:あはは! だけど全部ホントのことだよ。

ジャック:確かにそうだな。僕もアンドリューの言ったことに全面的に同意するよ。しかも彼は、人々の期待に応えるために惜しみなくエネルギーを費やす男だし。

ネイト:なんだか照れくさいな(笑)。でも、確かにそういうところはあると思う。僕は、何かひとつのことに取り組み始めると、ものすごくそれに集中してしまうタイプなんだ。スタジオに入ったときなんかは特にそうだし、部屋で曲作りに取り組んでるときも同じ。正直、あんまり融通の利く人間ではないかもしれない。もちろん、ふだん街をぶらぶらしてるときなんかは、そんなことないけどね(笑)。

――次はジャックについて、ネイトとアンドリューから。

ネイト:ジャックはすごい自信家だと思う。自分自身の考えについて常に確信が伴ってるというか。それは僕にとってもすごく重要なことなんだよ。「これでいいのかな?」って尋ねることができる身近な相手がそういう人物だってことだからね。彼は大概の場合、自分なりの答えというものを持ってるし、そうじゃない場合にも、それをなんとか見つけ出そうと努めてくれる。アルバム作りのプロセスのなかで、新しいサウンドに飛び込んでいこうとするような場面でもそうだね。僕自身にはどうすればその音になるのかがわからない場合でも、彼の存在が大きな助けになってくれる。

アンドリュー:ジャックのことを考えるといつも思い当たるのは、こんな親切な男にはこれまで出会ったことがないってことかな。本当にそう思う。しかも常にインスピレーションを与えてくれるし、彼自身が責任を持つ必要のないことに対しても情熱を注ごうとする。そういうところが素晴らしいなと思うよ。

ジャック:2人ともいいこと言ってくれるなあ。なんてナイスな連中なんだ!(笑)

――最後に、アンドリューについて。

ネイト:彼はとても面白いんだ。スタジオでの彼は楽観主義者みたいなところがある。クリエイティヴな意味において楽観的というか。つまり創造性という部分について、何ひとつリミットはないと考えているんだと思う。彼はさまざまな楽器を手掛けるばかりじゃなく、アレンジやハーモニーも考えてくれるんだけど、それがときどき度を越して狂気の沙汰みたいになることがある。でも、それをちゃんと形にできてしまうのが彼なんだ。そういう部分に刺激をもらうことも多いし、とにかく素晴らしい音楽的アイデアの宝庫だと思う。そのおかげでFUN.が進化できてると言っても過言じゃないはずだし、こうして一緒にいられるのが嬉しいよ。

ジャック:アンドリューのアーティスティックな面について感じることはまったく一緒だね。しかも、そういうアーティストってものすごいエゴの持ち主だったりする場合が多いはずだけど、彼の場合は違うんだ。パーソナルな部分で言うと、ストイックで物静かで、いかにも賢い感じがするイメージの彼だけど、実はこの3人のなかでもいちばんファニーでストレンジなんじゃないかな(笑)。

――なるほど。とにかくFUN.が興味深い人間の集まりであることはよくわかりました。

ネイト:まさに(笑)。でも実際、僕らはいい人間の集団じゃないかと思うよ(笑)。

――ところで今回の来日公演は東京での一夜限りのもので、観る機会に恵まれなかったファンも多いはずですけど、その人たちに向けて何かメッセージはあります?

ネイト:まず言っておきたいんだけど、僕らはかならず日本に帰ってくるよ。約束する。

ジャック:これは活字にしてもらって構わないよ。実際、そういう話をしてるんだ。

ネイト:あと、日本のファンに言っておきたいこととしては…僕らの楽曲って、特にここ日本ではクイーンに比べられることが多いんだけど…。

――ええ。だから僕も今日はクイーンのTシャツを着てきたんですよ。

ネイト:ナイス!(笑)正直に言うとね、クイーンとの共通点を指摘されるたびにいつも驚かされるんだ。というのも、彼らから直接的に影響を受けてきた自覚がほとんどないからね。だけどもちろんクイーンは尊敬の対象だし、僕らはいつだってクイーンとかローリング・ストーンズみたいに、大観衆がひとり残らず大合唱するようなエネルギーに満ちたライヴがやれるようになることを望んできたから。ロック・バンドのなかには、安くないお金を払って観に来てくれるオーディエンスとの間に距離感を設けようとする人たちも少なからずいるよね。だけど僕らは、自分たちのことを待っててくれる人さえいればそこに行って、常に大合唱を巻き起こすようなグループでありたいと思っている。そこがちっちゃいクラブだろうと、巨大なスタジアムだろうとね。だから次回の来日までにもっと歌詞をおぼえておいてくれたら、いっそう楽しいことになると思うよ!

文/撮影:増田勇一


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