「アルバムのカヴァーのコンセプトを考えてるときに昔の写真を見てて、あの写真を見つけたんだ。それを見て3人で大笑いしちまってさ。ピッタリじゃないかって思ったんだ。みんなが見てた俺たちの姿、俺たちのスタイルをもう一度見せられるわけだから」
ナメたジャケットである。そのナメさ加減が、なんともビースティ・ボーイズらしい。オールド・スクールのスメルがプンプン漂い、思わず手に取ってしまった、もしくはクリックしてしまった人も多いだろう。映画『クラッシュ・グルーヴ』をまた観たくなるような、80年代当時の写真。マイクDが続ける。
「撮影当時のことを思い出したんだけど、当時のマネージメント、つまりラッセル・シモンズのオフィスの下の階段のところでふざけてたことだとかさ。そんなことを思い出して笑ったんだ」
2006年、ビースティ・ボーイズの活動歴はちょうど四半世紀となる。彼らは元々ハードコア・パンク・バンドとしてスタートした。アドロックが初めて参加した「クッキー・プッス」をリリースした1983年ごろにはヒップホップへと傾倒。ラッセル・シモンズとデフ・ジャムを起こしたDJのリック・ルービンと連むようになる。
デフ・ジャムから1986年に1stアルバム『ライセント・トゥ・イル』をリリース。ラップとブレイクビーツに、パンク/ハード・ロックのダイナミズムがミックスされたアルバムは、シングル「ファイト・フォー・ユア・ライト」の大ヒットを追い風にラップ・アーティスト初の全米チャート1位を獲得し、ヒップホップ黎明期のメガ・ヒット作品となった。
これまでの6枚のアルバムのうち、4枚はビルボード・チャートNo.1アルバム。例えばiTunes Music Storeのチャートでも新作に混じってランクインされていたりと、『ライセント・トゥ・イル』をはじめとする彼らのカタログがいまだ好セールスを記録しているという事実は何かを物語っている。『ソリッド・ゴールド・ヒッツ』に並んだビースティーズ・クラシックは、それなりの懐かしさはあるものの、いまでもスピーカーからフレッシュに響いてくる。
「みんなに気づいて欲しいのは、俺たちが出してきた曲はすべて“ヒット”なんだってこと。“ヒット”しか発表してないし、“名曲”しか発表してない。それをもう一度実感してもらいたかったのさ」
1stアルバム『ライセント・トゥ・イル』、“ペット・サウンズ・オブ・ヒップホップ”※(Rolling Stone誌)といった評価を得た1989年のキャピトル移籍第1弾『ポールズ・ブティック』、ロサンゼルスへと活動の拠点を移したビースティーズが再び楽器を手にした1992年の『チェック・ユア・ヘッド』、レーベルや雑誌などのグランド・ロイヤルの本格始動と共に人気を博した1994年の『イル・コミュニケーション』、エレクトロやスクラッチといったヒップホップ・マナーを武器とした1998年の『ハロー・ナスティ』――それぞれの時代の“名曲”が収録されている。
※『ペット・サウンズ』:ビーチ・ボーイズの名盤
『ソリッド・ゴールド・ヒッツ』は2枚目のベスト盤。1999年にリリースされた『サウンズ・オブ・サイエンス』は、活動初期のレア・トラックや未発表曲、豪華なブックレットまで付いた2枚組のベスト盤だった。当然、そこには2004年の6thアルバム『トゥ・ザ・5ボローズ』の曲は入っていない。再びNYCのトリオとなった彼らの最新作からは「チ、チェック・イット・アウト」「トリプル・トラブル」「アン・オープン・レター・トゥ・NYC」が収録されている。
「ただ音楽を作るのに熱中してて、そんな先のことは考えてなかった。世界中をツアーして回るようになるなんてことすら思ってもいなかったんだから」
『ソリッド・ゴールド・ヒッツ』の限定盤に付いてくるボーナスDVDは、音楽史に残る名作ばかりで一見以上の価値があるビデオ・クリップ集。唯一、当時ビデオがなかった「ブラス・モンキー」は2004年10月9日に世界で最も有名なアリーナで行なわれた最新ツアーでのライヴ映像を収録。このビデオは“予告編”という務めを果たしている。映画『Awesome: I F***in' Shot That』のサウンドトラック、つまりキャリア初のライヴ・アルバムも期待できるのだろうか。
「一応、いまその話はしているんだ。もしかしたら映画の発表と同時になにかしら発表できるかもしれない」
オールド・スクール時代からの偉業をコンパクトに振り返ることができる『ソリッド・ゴールド・ヒッツ』に、ヒップホップ・エンターテインメントの楽しさ/おもしろさが満喫できるであろう『Awesome: I F***in' Shot That』。彼ら自身も、ファンも、一度リセットされることになるはず。しかし、その先の話をするにはまだ早かったようだ。
「わからないな。実際に(制作に)取り掛かるまでは俺たちにもわからないんだ。やってみなきゃわからないよ。ただ音楽を作り続けてるってだけ。他はトップ・シークレットだよ」
取材・文●栗原 聰
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