| ──今回初の完全カヴァー・アルバムを完成してみてどうでしたか?
平原綾香(以下、平原):いつも通り制作は大変でしたけど。今回は1曲ごとにプロデューサーさんが異なるので、ひとつひとつの作業が新鮮でしたね。いつも新しい扉を開いていた感じ。だからオリジナル曲を作るより、あっという間だったような気がします。
──でも、カヴァーした曲は日本の音楽シーンに燦然と輝く、名曲中の名曲ばかり。レコーディング前には原曲を聴きこんで、臨んだのでしょうか?
平原:原曲はそんなに聴きませんでした。メロディを覚えておく程度で。それにアレンジが原曲と異なるものばかりだったし。新鮮な気持ちで曲と向かい合いましたね。
──確かに、どの曲もオリジナルとはひと味違うアレンジですよね。「翼をください」はロック調だし、「いとしのエリー」はボサノヴァ。「TRUE LOVE」はレゲエっぽいビートだし。原曲の新たな部分を引き出しているアレンジであると同様、平原さんの新たな部分も引き出しているような。
平原:ただこれまで公開していなかっただけです。平原綾香も動きますから(笑)。その部分をちょっとお聴かせできるかな、と。
──そもそも、今回の選曲基準は?
平原:まず名曲を探そう、ということでスタッフが約300曲候補を持ってきて、そのなかから、私が歌うと意外性のあるもの。しかも世代をこえて愛される歌を選んだ結果、収録された11曲なんです。よくよく見ると、女性アーティストの曲って2曲しかないんですよね。私の中低音域の声が生きるのは、男性キーのほうなのかな?と(笑)。
──なかでも、今回どうしてもカヴァーしたかった1曲はありますか?
平原:いっぱいあるんですけど。なかでも先行シングルにも収録されている「いのちの名前」は、以前からカヴァーしたかった曲です。今年、あるTV番組で、作曲者の久石譲さんと共演することができて。それがきっかけで実現できた曲なんです。レコーディングでは久石さんと同じブースに入り、ヘッドホンをせず、自然の響きだけで歌入れができたのも、うれしかった。これは夢がかなった1曲なんです! あと、「言葉にできない」は、デビュー前のデモ音源を録ったときに歌った、唯一の日本語の曲なんですよ。もう一度初心に戻ろう、という思いで収録しました。あえて小田さんの声のキーより低く歌ってみました。そうすることによって、曲の持つ少年性がひきたつような感じがしたので。
──そう言えば、ユーミンさんが平原さんの「晩夏(ひとりの季節)」のカヴァーを「深みのある声に圧倒された」などと、とても評価されているそうで?
平原:今回アレンジをしてくださった松任谷正隆さんからうかがったんですけど。松任谷家に来る方すべてに私の歌った「晩夏」を聴かせているそうで。うれしいですね。
──じゃあ、今度は書き下ろしで新曲も?
平原:そんなことになったら、光栄です(笑)。
──他にも今回いろんなタイプの曲にチャレンジしていますが、そのことによってヴォーカリストとして新たな可能性を感じることもあったのでは?
平原:そうですね。私、こんな声が出せたんだという発見はいろいろありましたね。自分自身すごく成長できた気がします。
──また今回歌ったのは、名曲中の名曲ばかり。歌ってみて“名曲の条件/鉄則”みたいなものを感じました?
平原:どの曲もメロディと言葉に無駄がないんですよ。このメロディには、この歌詞しかない!って思わせる説得力がありますよね。あと、しっかり曲の構成力があって、どんなにアレンジを変えたりしても、存在感があるというか。それが名曲だと思います。
──では次に作るオリジナル曲は、その鉄則に基づいた名曲になると?
平原:任せてください! このレコーディングもそうなんですけど、初の全国ツアーも終え、もっとみなさんを盛り上げる歌を作らねば!と思っていて。実は「翼をください」でロック調なアレンジにしたのも、次のツアーではこういうエネルギッシュな曲もやるんだよ、という意思表示だったりするんですよ。
──え? じゃあ新曲はハードにロック!?
平原:そう、紫のチークなんかつけて(笑)。いや、本当にどうなるかわかりませんよ。まだまだいろんな可能性が自分のなかに眠っていると思うので。今後は、癒し路線の曲ばかりでなく、時には演歌調やロック調の曲にも挑戦するかもしれませんよ。私がいいと思える音楽は、ジャンルを問わず挑戦していきたいので。
取材・文●松永尚久 |
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