| ■<THE TOUR OF MISIA 2004 MARS & ROSES> ライヴ・レポート | MISIAは2004年、全国ツアー<THE TOUR OF MISIA 2004 MARS & ROSES>を行なった。1/3、MISIAの地元・福岡ドームを皮切りに、5都市7公演で行なわれた。これは全国ドームツアーで、女性ソロシンガーとしては初の快挙。すべてチケットが5分で完売し、30万人を動員することとなる。そんなメガツアーのすごいところはたくさんある。スタッフ総勢18,000名、セットは総制作費21億円。ステージデザインはトム・マクフィリップス(マイケル・ジャクソン、マライア・キャリー、エリック・クラプトン等のステージを手がけるデザイナー)を起用し、ステージ上空を生き物のように動く巨大なクロス“オリガミクロス”が配置されている。そしてMISIAの衣装を手掛けるのはデザイナー、マリヤン・ペヨスキー。ビョークらを手掛け、前回のMISIAのステージ衣装も担当した人物だが、今回は9パターンの衣装を用意。そしてステージ上にはMISIAを筆頭にダンサー8名、バンドメンバー7名、ロンドンから呼び寄せたクワイヤー4名が熱いライヴを繰り広げるという豪華なステージなのだ。 【全文を読む】 ■MISIA『MARS and ROSES』インタヴュー | 予感は、昨年のアコースティック・ツアー<星空のライブ>のときからあった。あのときのMISIAの歌声はそれはもう凄まじく、人ってこんなに“出すもの”を持てるものなのかな?とつくづく思わせられたものだ。 凄まじいといっても、決して人を威圧したり遠ざけたりするものではない。優しく大きく、風のようでもあり子守歌のようでもある感触は変わらず。デビュー以来5年間、MISIAが“自分のR&B”を探して積み重ねて、そして確立した世界である。そしてあのとき垣間見せせた“なんかすごいものがMISIAの中で起こってる”感触が、新作『MARS&ROSES』につながるのである。 制作した03年は、このどこまでも出てくる歌声が象徴していた。 「“新しいことがしたい”という気持ちがありましたね。だからいつもツアーのあとにいただくお休みもいらなくて、このまま行こう!ってすぐ今回の制作にとりかかりました。去年の前半はアタマの中でメロディが鳴り続けていて、それも大きかったかも。眠っていても鳴ってるから、これだ、と思ったら飛び起きてメモして(笑)。それで今回4曲書いているんです。声も、自分で“あれ?”と思うほど出ていました。2週間と開けず歌い続けていて、咽が開きっぱなしだからじゃないかと言われたんですけど……」 要はもう、エネルギーがあふれでていたのである。でも本人は“そうですねえ…声、出てますねえ”と、どこかのんびり調子で、決してぎらぎらしたりはしないのだが。 本作でとくに新しいのは、初の海外制作となる、キース・クラウチ(ブランディ『デビュー!』で知られる)プロデュースによる4曲。先行シングル「IN MY SOUL」は、最初から最後まで1ループで通すトラック、幾重にも重ねたコーラス・ワークなど、完全な米国産R&B。なのに、聴いたことのない感触……つまりあくまで“MISIAの歌”でもあった、衝撃的な作品だった。「デビューして5年、今ならキースに染まらずに交じり合って作れると思ったんです」。意外にも遅かった海外制作の理由である。曲を聴くと納得する。ここまで“MISIAな歌”でなければダメだったのだ。 「自分が'90年代に聴き続けてきた、憧れのR&Bをやる…それはもう、どきどきでした。(いわゆるアメリカ的構造のR&Bは)何度か作ってはいたんです。でもトラックだけがかっこよくてメロディがいまいちなものとか、ワンループものの単調さをコーラスで逃げるとか、そういうのはやっぱり嫌だったんですよね。キースの懐かしいソウルの匂いのするトラックや、なによりもメロディを重視する姿勢……そういうところがMISIAと似ていたんだと思います。R&Bを歌いたい、と思い続けてきましたけど、今は自分の体にしみ込んでいるはずのR&Bが、自然に出てくるままにうたえばいいと思っています」。“アメリカ制作だから”“日本のR&Bだから”的なこだわりやルールはなにもなかった。 手探りの打ち合わせを日米でやり取りしたあと、NYへ。「最初はかなり不安でした」という状況も、顔を合わせて歌をうたえば一発解消、「着いてからは、もうただただ、楽しいレコーディングで。ほとんどキースと二人きりで、すごい数を重ねるコーラスをえんえん録ったり、ひたすら歌いました」。 最初の予定は2曲だったのが結局4曲になり出発を1日延ばした、といえばその充実ぶりが想像できる。 アルバムは他に「心ひとつ」などを手がけた鷺巣詩郎とのロンドン編、そして強すぎる個性を持つこのNY&ロンドンに負けない音、ということでSAKOSHIN(「ESCAPE」の作曲やアレンジ)との東京編の三部構成。「キースはまったく未知の世界に飛び込んで作ったもの、そしてロンドンと東京はこれまでのMISIAも知っていてくれる人たちと、新しいものを作る。両方が必要でした」。 体の内側からあふれる幸福感を思わせる「Sunshine」、渡辺香津美氏の濃厚なスパニッシュギターがたまらない「Eyes on me」、アルバム全体のイメージの源「星の王子さま」から生まれた優しい佳曲「Little Rose」、SAKOSHINの「GROOVIN’」は、それこそ今のMISIAを象徴するエネルギーに充ち満ちて……etc。一発で耳をとらえる強靱で麻薬的なループと、それに負けない凛としたメロディ。その上を、出しても出してもつきないあの声が縦横無尽にかけめぐる……そんな曲ばかりである。 どこまでもMISIAらしくありつつも、新しい芽があちこちで生まれている。進行形の変化を目の当たりにできるアルバムだ。 取材・文●亀田裕香 | |