昼間こそやや汗ばむこともあったが、夜にもなると肌寒い4月1日。ライトアップされた夜桜の美しい日本武道館で、'01年の<SUMMER SONIC>以来となるBECKの来日公演が行なわれた。新作の『Sea Change』は、アコースティック・サウンドをフィーチャーしたアルバムだけに、ライヴでどんなパフォーマンスをするか期待が高まる一方、「アコギだけだったらちょっと寂しいかな……」という思いも交錯する。 暗転したステージで、一人スポットライトを浴びたBECKが「Guess I'm Doing Fine」弾き語りすることからスタートしたステージは、やがてバンド編成に。『Sea Change』のフォークっぽい曲を主体にしつつも、『Mellow Gold』『Midnite Vultures』『Odelay』などからも、バランスよく人気曲がピックアップされ、じっくり聴いたり楽しく踊ったりと飽きさせない。BECK自身も、切なくアコギで弾き語りをしたかと思えば、ラップをこなしたり、ブレイク・ダンスを披露したり、ジャケットを脱ぎ捨て……また拾って着たりと多彩なパフォーマンスを見せる。
▲序盤はフォーク、カントリー系の曲をアコギで弾き語り
序盤は座ってじっくり聴くオーディエンスの姿も多かったが、中盤を過ぎた「Loser」あたりから、アリーナだけでなく、スタンド席の観客もほぼ総立ち。BECKの掛け声に合わせて手を叩いたり、ブレイクダンスに歓声をあげたりと大盛り上がり。「Nicotine & Gravy」や「Where It's At」で大騒ぎになったあと、アンコールは「Devils Haircut」で締めくくりとなった。ラストはメンバー全員がステージで円陣を組んで挨拶。ファンの歓声が飛ぶ。
▲中盤以降、派手なダンス系も披露。 多芸多才を見せつけてくれたBECK
フォークからファンク、HIP HOPまで一度に楽しめてしまう、一粒で3度(それ以上?)おいしいステージはBECKならでは。ジュークボックスのように、次々にいろんな曲が出てくる。童顔のイメージに似合わない迫力ある歌声、そして千鳥ヶ淵の桜のように咲き乱れるBECKという才能を堪能できた一晩だった。ステージを去る瞬間、風に散る桜を眺めるような、切ない気持ちに襲われたのは私だけではあるまい。 取材・文●末吉靖永 |