『LOOKING BACK』 BMGファンハウス FHCL-2003 1996年2月1日発売 ¥3,059(tax in)
1 君との思い出 2 昨日 見た夢 3 もっと近くに 4 緑の日々 5 Yes-No 6 風に吹かれて 7 愛を止めないで 8 夏の終り 9 やさしさに さようなら 10 秋の気配 11 僕の贈りもの
『LOOKING BACK2』 BMGファンハウス FHCL-2018 2001年5月16日発売 ¥3,059(tax in)
1 風の街 2 夏の別れ 3 she's so wonderful 4 愛の中へ 5 言葉にできない 6 さよなら 7 あなたのすべて 8 こころは気紛れ 9 愛のうた 10 もう歌は作れない 11 君住む街へ
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小田和正氏本人から『LOOKING BACK2』に関するコメントが寄せられています! | 「お父さん、このCDある?」
居間で新聞を読んでいるぼくに、中学に入ったばかりの息子が突然きいてきた。息子は最近とみにポップ・ミュージックに興味が沸いてきたようで、ぼくのラックから次々とCDを持ち出しては自分の部屋に持ち込み、聴きまくっている。
息子が尋ねてきた歌、それはテレビのCMで流れていたオフコースの「言葉にできない」だった。
さて、あったっけ? まえのセルフカバー(『LOOKING BACK』) には入っていなかったが、確かオフコースのベストはあったはず。
「オフコースのベストを見てきてみな」 「オフコース? これ、競馬の歌の人でしょ? 小田……なんとかさんじゃないの?」
週末の昼間、ぼくが休みならばわが家のテレビは競馬中継が独占する。そこで流されたJRA の、多分JRAのCM史上最も素晴らしいプロモーション・フィルムを彩った小田和正の「Woh Woh 」を、そういえば息子もいたく気に入っていたのだ。
「そうだよ。その小田さんが組んでいたオフコースっていうすごいグループの歌なんだ」
ぼくは少し自慢げに言う。
そう、本当にすごいグループだった。日本のフォーク~ニューミュージックの歴史の黎明期、1970年にデビューし、狂乱の、といってもいいバンド・ブームのさなか、'89年に突然その歴史を閉じたオフコース。
かれらはその20年間、日本の新しいポップ・ミュージックの世界を過激に切り開きながら幾多の名曲を生み出し、また金字塔を打ち立てていった。そう、まさに彼らは過激だった。自らの形態の、また在り方の変化を恐れず、また自身の意志を具現化すること、自身を成長させることに迷うことはなかった。
残念ながらわが家のオフコース・ベスト( 『君住む街へ』) に「言葉にできない」は収められていなかった。が、代わりに、というには余りに素晴らしい贈り物が、ほどなく届けられた。『LOOKING BACK 2』だ。 ぼくと息子は並んでここに収められた歌を聴く。 「「Woh Woh 」入ってないねえ」
よほど「Woh Woh 」が好きらしい。
およそあらゆる音楽はあくまで個人的なものだけど、こうした作品はとりわけその趣が強い。聴く人の過去が投影されるからだ。
ぼくは、時に心の背景の遠くに、あの武道館のスクリーンに映し出されたひまわり畑を映しながら、歌に包まれる。そうしてこんなことをふと、思ってみたりもする。
「おれ、まんざらでもないじゃん」
かつて生まれ今うたわれた歌が、ぼくの今を過去から照らしてくれたのだ。
もちろん、小田和正のことだ、聴き手を気持ちよく裏切ることを忘れはしない。「さよなら」のアレンジはどうだ。そのヴォーカル! 自らがつくった歌をうたうという至福。それを享受する幸福。官能的といってもいい瞬間だ。
そうして「言葉にできない」。ネイザン・イーストのベースが歌をたおやかに支え、そしてヴォーカルに寄り添うと、ぼくの心の中のひまわり畑に風が吹く。“言葉にできない”想いを乗せる声/スキャットのなんと饒舌なことか。小田とはもう“旧友”と呼ぶにふさわしいエンジニア、ビル・シュネーの手腕の白眉だ。
もっともこうしたアルバムゆえ、思いがけない作用を聴く者にもたらすことだってある。「もう歌は作れない」、これはぼくにとって“不意打ち”だった。ぼくがはたちを過ぎたばかりの頃の歌。ぼくはあの時の自分の無念と絶望を今の自分に上書きした。
そして「君住む街へ」で、かつて自分が愛し、裏切り、傷つけた人たちが、この今も、きっとどこかで生きているという事実に直面して、動揺した。 息子の心にどんな風景が描かれているのか、ぼくはわからない。ただ、この歌を聴いて心を動かされている自分を、その隣にいたぼくを、やがていつか彼は思い出すだろう。この今という瞬間を改めて感じるだろう。これらの歌がある限り、この今のぼくのように。
歌とはそんな力も持っている。
さて、この『LOOKING BACK 2』はオリコンのアルバム・チャートの歴代最年長1位の記録を更新したのだという。思わず高齢出産なんて言葉を連想しちゃうのはぼくがアホだからなのだろうが、でも、ぼくらの世代、つまり今のJ-POPへと至る音楽の流れの創世記からそうした音楽を聴いてきた世代にとっては、ちょっと嬉しい事実でもある。
そう、ぼくらはずーっとそうした音楽に親しんできたし、今もなお親しんでいる。そして、日本の社会も自分の会社もいろいろ大変だけど、でも結構お金は持っている。多分、10代の人たちよりはね。
この“1位”が、レコード会社もぼくらの世代にもっと目を向けたほうがいいと気づく、きっかけになってくれたら嬉しいのだけれど。 |
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