伝説のギターゴッドに虚飾のステージはいらない

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伝説のギターゴッドに虚飾のステージはいらない

 

ギターゴッドの辞書には「控えめ」という言葉はない。ゴッドと崇められ、肥大化した伝説のギタリストによるコンサートでは、えてして延々と続く20分ものソロと、最強のギターの数々、そして派手なステージ装置が駆使されるものである。仰々しいステージの陰で、音楽性など二の次となってしまうのが常なのだ。ギターゴッドがパワフルなコードを1発鳴らすだけで、観客は狂乱してくれる。豪華なChicago Theatreに現れたJeff Beckも、どうやらそうした通俗的なギターゴッドの衝動には逆らえないらしい。しかし、ステージ装置は以前にも増して派手になったものの、質の良いシンプルなポップに根ざした彼の音楽は今も驚嘆に値する。

ステージ装置はかなり手が込んでいる。きらめくケース入りのドラムキット、スモークマシーン、コンピュータ制御の照明、バンドの両脇には巨大な映像スクリーン(この会場の上品な雰囲気には少々不釣り合いだ)。そこへ登場したBeckは、トレードマークのモップトップ・ヘアに、ベストとTシャツというスタイルで、時の流れを少しも感じさせない。オープニングはニューアルバム『You Had It Coming』から強烈な“Earthquake”。4人編成のバンドを従え、長いソロばかり聴かせるものと思っていたところ、セットリストの曲はほとんど4分以内で、短く的を得たプレイが次々と続く。タッピングや速弾きなど、観客が喜びそうなテクニックもちらちらと披露はするものの、Beckは明らかに音楽に集中している。その名も“Brush With The Blues”は特に効果的で、彼のミュージシャンとしての素晴らしい本能を余すところなく聴かせる。

しかし、典型的ギターゴッドのステージという印象もぬぐいきれないわけではない。スタジオサウンドを再現しようと、カラオケのシンセサイザーまで使っていたが、“Star Cycle”のような曲ではかえって処理しすぎに聴こえただけ。さらに、ポスト・サイケデリックの映像や、断続的に使うスモークマシーンなど、くだらないエフェクトも退屈極まりない。これでもかと観客の目を射る強力な照明に至っては、もう迷惑ですらある。溶接工のマスクがあればと思ったほどだ。

とはいえ、これほどの仰々しさにも負けず、Beckはその腕前を見せつけた。ギターはほとんどクリーム色のストラトキャスター1本で通し、一流ミュージシャンぞろいのバンド(ギターにJennifer Batten、ベースにRandy Hope-Taylor、ドラムにSteve Alexander)をバックに、代表曲をすべて巧みなプレイで聴かせてくれた。今夜のハイライトは、上品にまとめられたJimi Hendrixの“Angel”と、ゴスペルタッチの“Rollin' And Tumblin'”、そして新鮮なアレンジによるBeatlesの“A Day In The Life”。アンコールでファンキーな“What Mama Said”をプレイし終わった頃には、やはり名声だけのことはあると納得したのである。

 

 

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