暗黒街を渡り歩く“ざらついたカッコよさ”

ポスト
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暗黒界のボスに「似合うクールな曲がありますゼ」って、
ブルーズ演ってました(笑)


「サイドカー」「謎の女シャドー」「カラテソニー」

これらBurlesque Engine(バーレスク・エンジン)のシングル(番外CDを含む)のタイトルである。なんともクールなんだけどウサン臭くて、妙に心のやや隅に引っ掛かるワードたち。タイトルだけでなく、楽曲自体やライヴ演奏でも、観る者聴く者の予想を裏切り、煙に巻き、イマジネーションの世界へ誘う……、それがBurlesque Engine。

そんな彼らが、1stアルバム『クールワイルド』を2001年2月24日にリリース。

バンドの中心人物であり、圧倒的パフォーマンス能力の高さを誇り、新宿を知り尽くす男、コハラ・スマート(Vo&ハープ)に、ロンチ・ジャパンは果敢に迫ってみた! いざ出陣!?


クールワイルド

ENOUG-HO RECORDS CJEH-3005 ¥2,310(tax in)
2001年2月24日発売

1.プロローグ
2.コマンド9
3.サイドカー
4.裏切りの荒野・赤い海
5.スナイパー&ショットガン予告編~
6.スナイパー&ショットガン
7.怪奇ジャック
8.チャイナ・キャット・ドレス・ガール
9.マッハスピード・ハヤブサ
10.マイティーサム
11.Shadow/謎の女シャドー予告編
12.Shadow/謎の女シャドー
13.カラテソニー
14.エピローグ
15.嵐に立つ男(ボーナストラック)






Burlesque Engineのコハラ・スマートから
ロンチ・メンバーへメッセージが届きました!



――Burlesque Engineはもともと新宿の路上演奏者が集まって結成されたようですが、どうしてみなさん、路上にこだわっていたんでしょうか?

コハラ・スマート:
そもそも今のメンバーが集まったときってのは、バンドを組むというより、セッションをするという感じだったんです。で、セッションをするならば特別ライヴハウスでやる必要もないな、それまでも路上で演ってたから、そこでいいだろうと。だから、週末集まって、気持ちいい音を出してる音楽集団という感じでやっていたんです。

――では、最初は人を集めて聴いてもらうという意識ではなかったのですか?

コハラ:
最初はそうでしたね。そのなかでも、やっぱり自分をアピールしたいってのはあったんでしょうね。まったく知らない、自分の音に興味のない人間に自分の音をぶつけるってのはスリリングだった。

――路上は日本国中、それこそいっぱいありますが、そのなかでも新宿を選んだのは?

コハラ:
規制がゆるいからですね! 池袋や六本木、銀座でも演ったことあるんです。六本木は外国人が多いんでおもしろかったし、銀座は新宿とは違う暗黒系の方々がいらっしゃって…(笑)。もちろん新宿もそういう方々の、目に見えない網がありますから(笑)、その網がどこに引かれているかを知っていないと大変なんです。ここからこっちは、頬に傷を持った方々のテリトリーだから触れてはいけないとか、こっちからは都や国の所有管轄の道路だからイケるとか、ってね。

――なるほど。でも、そういうのは最初分からないですよね。

コハラ:
分からないですね~。だからいろんな痛手を負いましたよ。脅しなんてしょっちゅうでした。大体パターンがあるんですよ。最初、チンピラみたいなのが睨み効かせながらやって来て、いきなり目に見えないところに電話するんです。

――目に見えないところ(笑)。

コハラ:
ええ。いわゆる偉い方ですね。で、そのチンピラが僕に「電話に出ろ」と。そうすると受話器の向こうの方が「本当はとやかく言いたくないんだけど、こっちの営業の妨害になってねぇ。それでもどかないっていうなら、若いモンを2、3人そっちに寄越すから」って。でも、それほど実害がないって思うと、上の方々はもう見て見ぬフリっていうか、いざとなればどうにでもできるって考えがあるんでしょうか(笑)、ドーンと構えて、むしろ応援してくれるんですよ。一度、応援がてらにリクエストを受けましたよ、「ゴッド・ファーザー愛のテーマ」を(笑)。これは演奏できないなぁって思ったから、「ゴッド・ファーザー……暗黒界のボスですよね。それに似合うクールな曲がありますゼ」って。ブルーズ演ってました(笑)。

――そちらの世界の方々との絡みもありつつ、警察のほうからもいろいろ言われたのでは?

コハラ:
ええ。始末書は60枚……もっと多いかな、それくらいの書いてますから。始末書って「金輪際ここで、我々○○○は演奏しません」って内容のものなんですけど、その○○○のところのバンド名をいろいろ変えて書いてました(笑)。

――いけませんね(笑)…(編集部註:よいこの皆さんはまねをしないようにしましょう)。では、お客さん…いわゆる通行人の反応はどうでしたか?

コハラ:
演奏してるっていうよりも、芸事してるって見方されてましたね。もう泥酔した人やトンチンカンな人でいっぱいでしたから(笑)。アルタの前で演ることが多いんですけど、JRの終電の午前1時を過ぎると、そこは人がいなくなっちゃうんですね。だから午前1時以降は歌舞伎町のほうへ移動するんです。あの映画館のいっぱい集まっている広場で。でも、そうすると今度は映画館の館主から、「中まで音が聞こえてくるよ!」って怒られる。それでもごまかしごまかしやりましたね(笑)。だから、なにかを表現して演奏しているとか、伝えたいってことは全然なくて、その空間にいるのが楽しいって感じでしたね。いろんな人がいて、いろんなちゃかしが入ってね。

――そもそもコハラさんは、歌を志していたんですか?

コハラ:
いえ、僕はハープ(ハーモニカ)担当なんです! あくまでもハープが主体で、片手間に歌ってるんです(笑)。もともと兄がいっぱいレコードを持っていて、そのなかにサニーボーイ・ウィリアムソンってブルーズの人のがあってね。そのハープに衝撃を受けたんです。とにかくハープってすごい楽器だし、モノとしてすごいなって。ギターだと教則本とかビデオとかあるけれど、ハープってどうやったらこれをうまく吹けるんだろうって、謎に包まれていましたからね。

――コハラさんのブロウ・アップする攻撃的なハープ奏法は確かにブルーズですが、Burlesqueのサウンドはいわゆるど・ブルーズじゃないですよね。古い日本映画のセリフ回しみたいなヴォーカルだったり、それに伴うテーマ曲のサントラみたいな作りで。そういった方向性になったのはどうしてなんでしょう?

コハラ:
果たして歌は必要なのか?って、僕のなかにあったんです。もちろん歌も好きですけど、ハーモニカの音で音楽の衝撃を受けたわけだし、そういう状況でさらに音楽にのめり込んでいったし。それに自分がバンドを組んだときに、果たして自分は作詞ができるのかと。漁師はきこりじゃないから、木をうまく切ることはできないですよね。それと同じように僕には書けないゾと。それならば、歌は好きなので歌うけど、詞の世界はないゾと(笑)。今、歌があって当たり前ですけど、僕ら、おもしろいことをやりたいって思ってましたから、これでいいと思いましたね。

――そのなかでも、ジャズやブルーズに偏らず、独自のバーレスク・サウンドが出来たのは、コハラさんが映画好きだからですか?

コハラ:
そうですね。そこが大きいですね。幼いころの映画、テレビを感覚で受け取った感じなんです。'60~'70年代の幼少期に受けた衝撃…そのときは不快に思っていたものが、今蘇ってみると実に心地よいものに変わっていると。本当、不思議なんですよ。この衝動を音楽に変えたいなって。たとえば、銭湯にオヤジと行くとしましょう。街並には当時、映画のポスターがたくさん貼ってあってですね、で、それがたいてい2本立てで。で、上のポスターは『ガメラ』なのに、下は『四畳半女責め』とかエグイ映画でね。子供ながらに女性の裸が写ってて、「えへへ…」とは思うんですけど、やっぱり『ガメラ』とのギャップ、写真の質感の暗さに対して、ものすごく不快に感じる訳です。だけど、今それを思い起こすと、なんてオシャレでポップな絵柄あったんだろうって。当時、映画やテレビを観ているときって、その映像やストーリー展開に対しては意識的にのめり込んでいることが分かるんだけど、それに付随する音楽って聴覚に感覚的に入ってくるだけだったんですよね。でもその音楽が潜在的に入って眠っていて、今それを起こすと、素晴らしい音の数々が沸きあがってくるんです。今、ちらっとメロディが浮かんでくるとすると、もう今流行りの売れ線のメロディじゃなくて、昭和初期のベタベタなラインなんです。それが今、逆にポップで、クールでカッコいい。そういうのを表現したい、感覚的に聴いてもらいたいんです。だから、歌詞もただツラツラ並べて説明的でジャマだなって思うんですね。象徴的な言葉だけを加えれば、あとは聴く側のイマジネーションで膨らませてくれればっていいと。

――1アルバム『クールワイルド』に収録されている曲たちも、メロディから出来ているのですか?

コハラ:
実はタイトルからです。タイトルが生まれれば、曲はほぼ完成なんですね。で、そのタイトルが生まれるまでっていうのが、僕の頭のなかに、様々な登場人物が右往左往してるんですよ。そうするとシチュエーションが出来てきて、ストーリーが展開し始める。そうしたら「こういう状況をなんと言うか」って考えて言葉が出たときに、それがタイトルとなり、曲のイメージとなって広がるんです。そのイメージをひとり芝居状態でメンバーに伝えて、音を作ってもらうんです。

――ということは、このアルバムは、『クールワイルド』というひとつの映画のサントラなんでしょうか? それとも1曲1曲それぞれのストーリーを持つオムニバス的作品群?

コハラ:
僕としては1曲1曲って感じですね。作り方がそうで、曲によって設定がまったく違うのがほとんどなんで。でも、こうやって並んでみると、ちゃんと揃ってますよね。だからひとつ大きなストーリーとして捉えてもらっても構わない。

――では、『クールワイルド』というタイトルにしたのは、なぜ?

コハラ:
クールって、単純に“カッコいい”というところですね。音楽やっているならば、クールなところでカッコよく音を出したいですから。で、ワイルドは、荒々しいって意味もあるんですけど、どちらかというと、ざらついた感覚、ですかね。ヴィジュアル的にも音的にも質感って大切だと思うんです。たとえば……今の「水戸黄門」はちょっと違うな!って思いませんか?

――石坂浩二じゃダメですか?

コハラ:
いや(笑)。昨今の水戸黄門と、前の水戸黄門は明らかに違うんです。あんなに緊張感のあった水戸黄門が、なぜ「渡る世間は鬼ばかり」のようにファミリー的なものになってしまったか! それはフィルムとビデオの違いなんです。その質感の違いでこうも印象が、話が変わってしまうか…!と。なんで僕らはあくまでもざらざらで刺々しくありたいと思っているんです。

文●星野まり子

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