映画サントラ特集『ダンサー・イン・ザ・ダーク』

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音楽と映像の密接な関係――。

映画の脚本を読んで大泣きし、その映画のための音楽を作っていくうちに、主人公セルマを演じようと決心したビョーク。ラース・フォン・トリアー監督の熱烈な申し込みによる配役だったが、最後には「
ラースよりも私のほうがセルマのことをわかっている」とまでにのめり込んだ。

そんな映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は、セルマが敏感に音に反応し、空想癖を最大に膨らませたミュージカル・シーンが話題だ。

が、ミュージカルという明るいイメージとは裏腹に、ストーリーは悲しく暗い展開へ…。ビョークの演技と音楽を一層高めるために、名優カトリーヌ・ドヌーブらが脇を固めている。

カジヒデキも大プッシュのこの映画をぜひ、ロンチ・ユーザーにも観ていただきたく、ご紹介しよう!



『ダンサー・イン・ザ・ダーク』


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あの、世界でもっともヒップでかつ神秘的な歌姫ビョークが主演した2000年度のカンヌ映画祭パルムドール受賞作品。

“ビョーク”“カンヌ”といった単語に加え、『奇蹟の海』を監督したラース・フォン・トリアー監督の作品ということで、さぞや作品としては精神的に重厚にのしかかる映画であることが予想されたが、蓋を開けてみるとこれが期待を少し裏切るものだった。

なんとこれ、“ミュージカル”なのだ。

それ故、ストーリー展開的にもかなり分かり易く作られている。ただ、全体のトーンとしては拭いがたく重々しい荘厳な空気は流れてはいたが。

ストーリーの概要は以下の通り。舞台は'60年代アメリカの片田舎(でも、映像がとてもアメリカに見えないほどくすんでいる)。

チェコ出身のセルマ(ビョーク)は女手ひとつで息子ジーンを育てて働いている。彼女は遺伝性の病ゆえに失明の危機にさらされている。そんな彼女の生き甲斐はチェコで憧れた夢のあるハリウッド産のミュージカルで、自らも町内のミュージカル劇団に入り歌い踊り、ときにはちょっとした物音からも自らが架空で思い描くミュージカルの世界へと没入するほど。

そして、彼女には人に秘密にしている目的もあった。それは息子ジーンの目を遺伝性失明から防ぐための手術費を稼ぐことだった。目の状態の悪さにもかかわらず健気に働く彼女に周囲の人間たちも暖かく見守っていた。

しかし、彼女が視力を失い、仕事のミスで工場をクビになり、心から信頼していた家主に息子の眼の治療費を盗まれたあげく、人を殺めることになってしまう。そこから、彼女のあまりにも悲しいストーリーがはじまっていく…。

罪を一方的に被せられたセルマは息子ジーンの眼の将来を命を懸けて案じる。幾たびの絶望がセルマに襲いかかる度に、自分の状態が危険になればなるほど、その特異な“幻聴ミュージカル”を展開させ、ほんの一瞬、スクリーンに幻のような希望を与える。そして悪化する悲劇と「うたかたの希望」が交錯し続けた末に、物語はあまりにもショッキングなエンディングへと突き進んでいく―。

この映画、ストーリーの筋からして“親子愛”映画として解釈するのも可能だが、それだけでは決してない(もし、それだけだとしたらストーリー的には随分と粗も多い)。

『SelmaSongs ~music from the motion picture soundtrack 'Dancer In The Dark'~』
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この映画の最大の見所は、“ミュージカル”というものを現在の世の中にいかに有効に成立させているか、ということにある。

ハリウッドでミュージカル映画が成立した時代というのは、アメリカという国が「夢」という概念を何の疑いも持たず無邪気に持ち得た頃。いわばミュージカルは「希望」の産物なわけである。

だが、仮にもしミュージカルがそのような存在であるのならば、それは本来、どんなに絶望的なシチュエーションに直面したときでさえも希望を与えられるようなものでなくては嘘ではないのだろうか。ましてやこの出口の見えない混迷した世の中にこそ、実はミュージカルが鳴らされる必要があるのではないか。

僕は劇中、ビョークのミュージカル・シーンが終わらないことを心から願ってしまったが、それは僕自身もそんな“絶望”を“歓喜”に変えるわずかな希望の光を見たかったからだろう。

僕はビョークや、登場人物の踊りや歌に何の滑稽さも形式美学も感じなかった。全ての音が必然のもとに鳴らされていること、それを僕はもう痛いほどに理解できた。

恐らく「生」という存在について、ここまで肯定的に描かれたミュージカルというのはないのではないだろうか。少なくとも僕は他に見たことがない。それがあまりにも生々しい残酷さと隣り合わせというのが痛くはあるのだが、それ故にひときわ輝いていること、これは紛れもなく事実である。

文●太澤 陽

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年デンマーク)
12月23日(土・祝)より全国松竹系にて公開!

監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
音楽:ビョーク
振付:ビンセント・パターソン
主演:ビョーク、カトリーヌ・ドヌーブ、デビッド・モースほか
上映時間:2時間20分
配給:松竹、アスミック・エース

Special Thanx to www.dancerinthedark.net

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