ニューヨークで始まった“リリシストラウンジ”は、ラップ界なら有名無名を問わずだれでも参加できる、オープンマイクのジャムセッションだ。そして今回のツアーを見るかぎり、ある種の即興性を重んじるこれまでの傾向は変わっていないようだ。ツアー最終日となった9月17日のロサンジェルス、ハウスオヴブルーズでのセッションには(あらかじめ出演が決まっていたアーティストのほかに)豪華なゲストたちが参加した。たとえば、A Tribe Called QuestのPhife、De La SoulのPos、Talib Kweli、そして最後に忘れてならないGeorge Clinton。実際このセッションは、George Clintonのコンサートにそっくりだった。長さにおいても(ほぼ5時間!)、さまざまな出演者が登場する点でも、ノンストップのファンクという点でも。 この夜のステージは2部構成だった。第1部は、DJ1人とドラムワークを担当するSwiss Chrisがバックに付いて次々にラッパーが登場する形式。第2部は、Mos Defがライヴバンド(Jack Johnsonと名乗っていた)と共演する形式だった。このバンドのメンバーは、Bernie Worrell(P-Funk)とDoug Wimbish(シュガーヒルのハウスバンドLiving Colour)、Will Calhoun(Living Colour)。Mos Defは第1部にも登場していたが、第2部はまさに彼の独壇場だった。彼とJack Johnsonがロサンジェルスの夜に放った1曲目は、Ronnie Hudsonの“West Coast Poplock”(「カリフォルニアはパーティーのやりかたを知っている…」)だった。続いてたまたまロサンジェルスにいたGeorge Clintonが突然現れ“Flashlight”で盛り上がった。そしてMos Defは彼のグループBlack Starの曲を2曲はさんで、“The Ghetto”を取り上げた。これはBlack Starがロックを取り入れた“歌える曲”で、気持ちは入っているのだが、彼の他の音楽と比べるとやはり見劣りのすることは否めない。しかし、Mos Defにとって、そんなことは問題ではなかった。“ナマのジュークボックス”でいるよりも自分のやりたいことをやりたい、と彼は観客に説明していた。 長時間にわたったマラソンライヴには、そのほかにも多くの見所があった。アンダーグラウンドのヴェテラン、Bahamadiaは絶妙のテクニックを聞かせていたし、デトロイト出身の才能豊かなFat Catはこの日がロサンジェルス初登場だった。エネルギッシュなSlum Villageも印象深い。彼らのライヴは、リリックも心憎かったが、それを上回って余りあるのがJay Deeの美しいビートだった。A Tribe Called QuestやDe La Soul、the Pharcydeなどのサウンドを担当しているのが彼である。観客の心をつかんだのはSpontaneousも同様だったし、オープニングアクトを担当したPunchline & Wordsworthも飾り気のないラップで注目を集めていた。そのうえ、Phifeが出演した。彼は本来、亡くなったBig Lを追悼するためにやって来たのだが、観客の要望に応えて、まもなく発売されるソロアルバムから怒りのこもった厳しいラップを披露した。さらにPosdnousも大きな拍手に迎えられて“Oooh”を歌った。 もし事前に発表されているアーティストしか登場しなかったとしても、このリリシストラウンジ・ツアーはすごいライヴである。今後これを見る人々は、そのときも期待以上のものに出会うにちがいない。 |