Kid Rockをなめんなよ
Kid Rockをなめんなよ |
歴史は繰り返す定めなら、甘めのやつに戻ってみない? 自称いかしたアメリカ人のKid Rockに訊いてみな。やつが最近世に出した『The History Of Rock』なるアルバムは、手直しされてはいるものの、Kidのすべてをさらけ出す、もってこいの入門編だ。 デトロイトを拠点とするこのラッパーの当初の目論見では、'98年の大ヒットアルバム『Devil Without A Cause』に続けて、インディーズ時代の既に廃盤になっている2作のレコード、'93年の『The Polyfuse method』と'96年の『Early Mornin' Stoned Pimp』を間髪入れずに再発する予定だったのだが(印象の薄いJiveからのデビュー盤『Grits Sandwiches For Breakfast』は、まだ手に入る)、本人の最終的な決断で、既存の素材に手を加えてまとめ、新曲「American Bad Ass」をオマケにつけてリリースすることになった。 「それじゃ、キッズに失礼かと思ってさ」 当初のプランを撤回したことについて、Rockはこう語っている。 「旧譜をそのまま再発して、しこたま儲けようなんて、濡れ手にアワもいいところだろ。少なくとも『Devil』ぐらいのレベルのやつを…とりあえず、今やあのアルバムが標準なんで…出してやろうじゃないか、と。2枚のアルバムの一番美味しいところをまとめて、さらに未収録曲をプラスする。そしてミックスもやり直す。変えちゃうわけじゃないんだよ。リックは同じ、歌詞も同じ。ただギュッと引き締めて、今ならうまく使える道具を活用してさ。それで1枚、ちゃんとしたレコードの出来上がり」 「キッズにわかってもらいたいのは…」と、彼は続ける。 「俺はいつも言っているだろ? もう10年もやってんだって。長いこと、がんばってきたんだぞって。『American Bad Ass』から「Cowboy」とかのヒットを飛ばし、ホイッと出てきたわけじゃない。そこんところを理解してもらうのが肝心だ。昔のことだから、赤面モノもあるけどさ。「Born 2 B A Hick」なんかも入れといたけど、あれってかなり安っぽいよな。でも、ああいうのもやった上で、今の俺があるわけで、どれも本気だったんだって、それをキッズに伝えたいんだ。人間、どんどん変わるもんだけど、その時々の自分ってものを、常に誇りに思わなきゃ」 今のRockはといえば、危なっかしくも人の羨む地位にある。1000万枚を売り上げた『Devil』と、一発屋ではないところを証明してみせたい次作の中間地点。 『History』が前作の成功に追いつかないであろうことは、彼も前からわかっていたが、それを言ったら、何だってあれには絶対かなわない。それが現実なのである。 「800万枚売れたレコードを、どうフォローすりゃいいんだよ」と尋ねる彼。 「過去の記録を見てみなよ。およそ不可能なんだから。『History Of Rock』は、その点からも丁度いい。『Devil』ほどには売れないだろうし、反動くらって、俺はいくらか後退するかもしれないが…」 彼の言う“反動”とは、ポップス界において避けようのない1つの現象だ。レコードを山ほど売って、あるシーズンで一番の成功例となったアーティストが、気がつけばその成功がゆえに、マスコミや世間からいきなり総スカンを食らってしまうことをいう。 「あぁ、今にそうなるさ(笑)。いつそうなってもおかしくない! 確かに俺は露出過多だよ。毎日のようにテレビの中から、みんなに顔をさらしてる。となりゃあ、それも当然だ。知ってのとおりアメリカ人は苦労人が好きなんだ。俺はもはや苦労人じゃない。世間が俺をこきおろし始めても、俺は覚悟できてるよ。かまうもんか。この商売にはつきものだ」 そんなRockの今後だが、今年の夏はツアーに精を出し、その後は様々なサイドプロジェクトで友人を助けてスタジオにこもり、それから自分の次なるオリジナル作品に取りかかる予定だ。 「既にいくつかクールなやつができてるんだ」と保証の言葉。 「世間の期待通りになるぜ。つまりは、何か違ったものになる。「Cowboy」みたいな曲は、もう入らない。『Devil』とそっくり同じにはならない。あれの上をいってると俺が思えるやつじゃなきゃ。ここ何年かの体験と、俺の頭で回ってること。それが基盤になるだろう。実にクールなミュージシャンとも大勢知り合えたことだし、一緒にやってみたいんだ。ちょっとづつゲスト参加してもらってさ。まぁ、確実なことは言えないけど、今ある数曲は、とにかくメチャクチャいけてるぜ。キッズもきっと、気に入るはずだ」 by Stephan Peters |