インスピレーションを感じて、それをうまく演奏できればいい
■インスピレーションを感じて、それをうまく演奏できればいいんだ
まず、この点をはっきりさせておこう。Jeff Beckは世界最高のエレクトリック・ギタリストだ。もちろん、他にもすぐれたプレイヤーはたくさんいるが、Beckに勝るギタリストはいやしない。でもそれは、指が回って派手だからじゃない(どちらも事実には違いないが)。
Beckはフレージングの神様なのだ。
6本の弦を操るあの技法を身に付けているギタリストは他にも大勢いるだろう。しかし、あのギターサウンドはJeff Beckにしか出せない。この男は、これまでの35年間、独特のユーモア、野獣のような攻撃性、この上ない繊細さを合わせ持つ、誰にも真似できない彼だけのサウンドを聴かせ続けてくれた。
Yardbirdsの'66年のヒット曲“Shapes Of Things”で見せた激しいインド風ソロを聴いたことがあるだろうか。“Let Me Love You”('68年にリリースされたJeff Beck Groupの1stアルバム『Truth』に収録)でのRod Stewartとの息の合った掛け合いは? 他にも、Stevie Wonder“'Cause We've Ended As Lovers”のメロディーを思うがままに料理したあの技法('75年の『Blow By Blow』)、“Where Were You”('89年の『Guitar Shop』に収められているすぐれた1曲)で見せた、ハーモニクスと悪魔のような小節ゆらしの絶妙なコンビネーション。
こうした華々しい軌跡は、自ら選んだ楽器を使って表現することにかけて、彼がまさに頂点に立っていることを如実に物語っている。もはや動かぬ事実だ。
Jeff Beckについてもう1つ。彼はあまりレコーディングをしない。『Who Else!』というふざけたタイトルの彼の最新アルバムは、実に10年ぶりのオリジナルコレクションだ('90年代では他に、伝説のロカビリストGene Vincentに捧げた『Crazy Legs』を1枚だけリリースしている。彼のギタリストCliff Gallupは、Beckに大きな影響を与えた)。ギターの練習は毎日欠かさないBeckだが(彼のようになりたいと思ったら、そのくらいの練習は当然だ)、彼のレコーディング嫌いは有名で、過去20年間、数えるほどしかレコーディングスタジオへ足を踏み入れていない。そんな時間があったらイギリスへ戻り、大好きな車を乗り回していた方がよっぽどいいらしい。
彼の運転はかなり激しい。そんなわけだから、『Who Else!』のリリースはまさに一大事だ。この最新アルバムは、時代を超越したメロディーの宝庫とはいえない。一部の曲では、テクニックを見せびらかしすぎている感も否めない。しかし、思わずうっとりしてしまう“Brush With The Blues”の演奏は、そうしたマイナス要素を補って余りある。さらに、ギラギラの“Space For The Papa”とゴージャスな“Angel(Footsteps)”では、スライド・ギターの真髄を聴かせてくれる。世界ナンバー1のギタリストに、これ以上何を望むことがあろうだろうか?
Beck氏について最後にもう1つ。「This Is Spinal Tap」のNigel TufnelというキャラクターがBeckをモデルにしていることは疑いようがない。印象的な黒々とした髪、ロンドン郊外のなまり、独特の話し方。Nigelを演じたコメディアンChristopher Guestは、何から何までBeckに倣い、完全に演じきっている。もちろん、Beckの巧みなギター演奏を除いて。
慌ただしいプレスツアーのさなか、ミッドタウンにあるマンハッタンホテルのバーでブラディメアリーをすすりながら、この“生きる伝説”は実に愛想よくインタヴューに応じてくれた。周囲の注目を集めている状況を結構楽しみながら。
LAUNCH:
大変忙しいスケジュールのようですね。インタヴューやら、ミーティングやら、写真撮影やら。疲れていませんか?
BECK:
まったく平気さ。でも、いつも必ず「ずいぶん久しぶりのアルバムですね。どうしてたんですか?」っていう質問から始まるんだ。そんなときはデジャヴを感じる。でも、まあいいよ。「やれやれ困りましたね、アルバムはもうたくさんですよ」って言われるよりましだから。
LAUNCH:
みんなその質問をするというのはちょっと驚きですね。自分がその気にならなければレコーディングしない人だっていうのは、みんな知っているはずなのに。
BECK:
ああ、まったくそのとおり。そういうと何だか怠け者みたいに聞こえるけれど、本当だよ。その気にならなきゃだめなんだ。レコードを作ろうという気持ちはいつもあるんだが、それを行動に移すエネルギーが常にあるとはかぎらない。それに、大邸宅の管理人だから、あれこれ家事を済ませるだけであっという間に1日が終わってしまうんだ(笑)。家を持っていなかった頃の方がよかったよ。暖かい部屋を手に入れるためにがんばらなきゃって思えたからね。
LAUNCH:
では、今回レコーディングすることになったのはどうしてですか?
BECK:
1つはっきりしているのは、契約上のことさ。つまり、プレッシャーがものすごかったんだ。これまで10回以上も契約違反を犯しているから、金が入ってこなくなちゃった。でも、シニカルに構えているだけじゃなくて、こう思ったんだ。「しょうがない、始めるとするか。少なくとも、これまで辛抱強く待っててくれた忠実なファンのために」。まだ(ファンが)励ましてくれるっていうのも信じられないことだし、これ以上だらだらしてファンを失望させるわけにはいかない。Santanaとのツアーで約束もしんだ。あれ('95年に行われたSantanaとのツアー)をステップにして、そのまま活動を続けようと思った。ついに実現しなかったけどね。
あれはまったく俺のせいだけじゃないんだ。俺は本当に、あのバンドでやっていこうと思っていた。でも、Terry Bozzio(ドラマー)に子供が生まれて、6週間も仕事を休むわけにはいかなかった。収入もなかったし。ベースプレーヤーにも子供が産まれた。親父連中ばかりだからね。もっと若いのが必要だよ。16歳なら、そんな面倒は言い出さないだろうから(苦笑)。
LAUNCH:
『Who Else!』を聴いてみて、“現代風なサウンド”なのに正直少々驚いています。
BECK:
うん。4拍子のテクノ・サウンドで押し通すこともできたんだが、俺が世間の流れを分かっていて、それをギターで演るとこうなるってところを見せたかった。次のアルバムはテクノ色がもっと強くなるかもしれないし、ならないかもしれない。純粋主義者の意向に沿ってばかりはいられないよ。ぼおっとして世間が望む曲ばかりを演奏してたら、2~3週間ですぐ飽きちゃうよ。だから、常に新しい挑戦が必要なんだ。あまり一面的に受け取らないでもらいたい。偏見を持たずに聴いて欲しいし、音楽の表現方法にあまりこだわらないで欲しい。チョコレートのパッケージに文句を言うようなものだよ。チョコレートがうまければ、それでいいじゃないか。
LAUNCH:
テクノ・サウンドを採り入るようになったいきさつは?
BECK:
自然とそうなったんだ。最初は、ツアーのライヴアルバムを作る予定だったから、1曲目の“What Mama Said”はライヴ公演から収録した。でも、メロディーがどうも気にくわない。その後、テープをあちこち編集しなければ使い物にならないことがわかった。それで、まるごとProTools(デジタル編集システム)にかけたところ、これがなかなかいいんだ。そこからは、ごく自然の成り行きでテクノ方向へと流れた。ソロだけは変えなかったけどね。テクノ・サウンドへと誘い込む非常に印象的な曲だよ。その次の曲(“Psycho Sam”)もデジタル音のリフをベースにしている。そのあと突然、つるっとした顔のテクノから、ライヴ収録による未編集のブルース(“Brush With The Blues”)に流れ込めばシュールだと思ったんだ。
LAUNCH:
あのブルースはどこでレコーディングしたのですか?
BECK:
ミュンヘンのでかい音楽用ホールで、98年の夏の終わりにコンサートをやったんだ。すでに、イタリアでのツアーを終えた後だった。奇妙な演奏にみんな大喜びだったけど、レコーディングしてたことはほとんど誰も気づかなかったよ。そこからドイツまで行き、そこで、ロンドンからのレコーディング部隊と合流した。イギリスへ戻ってテープを聴いたとき、川へ投げ込みたくなった。悪くはなかったんだ。でも、思っていたのと違う。あまりにドライで、ジャズ色が強くて……ストレートな攻撃性が感じられない。それから2~3か月かけて手直しさ。
その間、Tony Hymas(キーボード奏者)が非常にいい曲をいくつか作ったんで、それもスタジオでレコーディングした。今思えば、キーボードプレーヤーとプログラマだけでスタジオアルバムを作り、その後、他のプレーヤーを参加させればよかったんだ。おかげで回り道をしたよ。でも、とにかくアルバムは完成した。やれやれだ。傷ついたり、口論したり、いろいろ大変だったけれど、音楽をやっている以上しかたないさ。のんびりと甘ったるいメロディーを演奏して、それで何百万ドルも稼げるわけじゃない。苦痛や、口論や、流血騒ぎがついてまわる。しょっちゅうは勘弁してほしいけどね(笑)。
LAUNCH:
これまで同様、最新アルバムもワイルド・サウンド満載ですね。“Space For The Papa”のあの高音はどうやって出しているんですか。少々上ずったハーモニクスのように聞こえるのですが。スライド奏法ですか。
BECK:
そのとおり。開放弦のハーモニクスだ。そして、弦の上にボトルネックをそっとすべらせる(スライド)。すると、ああいう音になる。ちょっとずるいだろ?(にんまり)
LAUNCH:
“Angel(Footssteps)”についてはどうですか? 通常のギターではあの高音を出せないですよね。
BECK:
ああ、フレットボードからはみ出してる。あれは、右手(ピッキング)とスチール板を使ってやるんだ。簡単じゃないよ。高音になるほど、弦上の音と音の距離が短くなるからね。半音なんていったら、隣の音とほとんどくっついちゃう。でも、いたずら心からやったわけでもないし、テクニックを見せびらかしたかったからでもない。その音が必要だったからだ。あのテクニックなしでもかなり高音を出せるけれど、十分じゃない。あれを完璧にやるには、ネックを左手で握りしめて、すべての弦をブロックしなければならない。そうじゃないと、弾いていない弦が余計な音を出してしまうんだ。それができたら、スライドを使って高音域を出してみる。金属に金属を押しつけるという行為が、攻撃性と崩壊感をもたらすんだ。手の内を見せちゃったな、3万5000ドルでいいや(笑)。
最初、あの曲は“La Varonese”というタイトルだった。でも、どうにもイヤでね。ビクトリア朝時代みたいだろ? 新しい名前はJimmy Pageが考えてくれたんだ。彼の55歳の誕生日にこのCDをプレゼントしたんだけど、とても気に入ってくれた。でも、そのCDはまだ完成前で、タイトルとクレジットが入っていなかった。で、あの曲を聴いたJimmy Pageが「このタイトルは?」って尋ねた。“La Varonese”だとは言いたくなくて、タイトルはまだなんだって嘘をついた。すると彼は、「“Angel Footsteps”にしなよ」って。彼が考えてくれたタイトルだから、そうしようと決めたんだ。Jimmy Pageがタイトルを付けてくれたあの曲は、俺にとって特別な曲なんだ。
LAUNCH:
この数年間で、ギターに長い間触れなかったことはありますか。
BECK:
毎日、平均してだいたい2時間は練習する。とにかく指を動かすんだ。イギリスのあのふざけた天気じゃ、他にすることもあまりないしね。常に、手の届くところにギターが置いてある。練習しないことには1週間が始まらない。休日出かけるときは、ギターを1本だけ持って行くんだ。アルバムをあまり作らないから、きっとみんなは俺が何もしていないと思ってるんだろうね。でも、言っておくけど、腕がさびつかないように練習だけは欠かさない。心身の均衡を保っているかぎりはね。十分に練習すると、指が勝手に動き出す。ミュージシャンならみんな、それがどんなものだか知ってる。あまり練習しないと、譜面に忠実に演奏できるが、決定的なミスも多い。まあ、インスピレーションを感じて、それをうまく演奏できればそれでいいんだ。
LAUNCH:
私個人としては、10年たった今、あなたの演奏を聴いて最もすばらしいと感じるのは、シンプルなメロディーをさまざまな形で表現できるその才能です。
BECK:
俺にとって、歌は大切なものなんだ。その作品をいい加減に演奏することはできない。メロディーを聴き、その技法を感じ取る。最初はただ聴くだけだ。その曲が、その週のお気に入り曲になるまで演奏しない。これはいけるぞ、となったら、その曲を頭に叩き込む。そうすれば、テープを聴き直さなくても音符を拾うことができる。オリジナルへの愛着が少ないほど、何とかしてやろうって気になる。その後は、自分で考え、自分のやり方で演奏するんだ。陳腐な3つの音の和音でさえ、弾き方によっては生きてくることもある。
LAUNCH:
'75年以前はシンガーのいるロックバンドで演奏していたのに対し、'75年からはすべてインストゥルメンタルになっています。転向した理由は?
BECK:
正直言って、Rod(Stewart)の代わりを捜すのに疲れたのさ。無理なんだ。分かりきってる。彼の代わりなんていやしない。途中でやめたことが悔やまれてならないよ。あんなバンド(StewartとRon Woodをフィーチャーした最初のJeff Beck Group/'68-69年)は二度とできないからね。
考えてみると、あれに匹敵するものは(ロック業界で)何1つ出てきていない。Robert(Plant/Led Zeppelin)以外はね。後任がRobertならうまくいったかもしれないが、Jimmyにとられた。だから、永遠に手に入らないものを追い求めていたってわけさ。俺は自信を失った。Hendrixが消え去り、Eric(Clapton)が一気に有名になると、突然、孤独感を覚えたんだ。そんなとき、John(McLaughlin)のMahavishnu Orchestraを見た。実にスリリングだった。(ギタリストTommy BolinをフィーチャーしたBilly Cobhamの)Spectrumが登場し、後頭部を殴られたような衝撃を覚えた。そして思ったんだ。「ヴォーカルがいないなら、それでもいいじゃないか」って。それからだよ。Rodの不在を何とも思わなくなったのは。チケットに自分の名前を印刷できるし、ありきたりのロックバンドにこだわる必要はないじゃないか。幸運にも(プロデューサー)George Martinの手を借りて、何とかあれ(『Blow By Blow』)を出すことができたんだ。
LAUNCH:
これまで、自分のレコーディングに満足したことはありますか。
BECK:
ない。アルバムが完成した後、指の動きを一切忘れて、それを客観的に聴けるようになるまで1か月はかかる。レコーディングしたばかりの曲を聴くと、耳をふさぎたくなるんだ。その曲を指がまだ覚えているし、次にどうなるか全部わかってるからね。ああすればよかった、こうすればよかったと欠点ばかりが耳につく。でも、レコードはもうプレスに回ってるし、もはやどうしようもない。最高にイライラするよ。この新しいレコードについては、そこそこの満足感がある。いい曲ができたからね。でも、ちょっとすると、また新しい刺激が待っている。だから、常に前だけを見続けているんだ。
Mac_Randall (1999.8.3)
まず、この点をはっきりさせておこう。Jeff Beckは世界最高のエレクトリック・ギタリストだ。もちろん、他にもすぐれたプレイヤーはたくさんいるが、Beckに勝るギタリストはいやしない。でもそれは、指が回って派手だからじゃない(どちらも事実には違いないが)。
Beckはフレージングの神様なのだ。
6本の弦を操るあの技法を身に付けているギタリストは他にも大勢いるだろう。しかし、あのギターサウンドはJeff Beckにしか出せない。この男は、これまでの35年間、独特のユーモア、野獣のような攻撃性、この上ない繊細さを合わせ持つ、誰にも真似できない彼だけのサウンドを聴かせ続けてくれた。
Yardbirdsの'66年のヒット曲“Shapes Of Things”で見せた激しいインド風ソロを聴いたことがあるだろうか。“Let Me Love You”('68年にリリースされたJeff Beck Groupの1stアルバム『Truth』に収録)でのRod Stewartとの息の合った掛け合いは? 他にも、Stevie Wonder“'Cause We've Ended As Lovers”のメロディーを思うがままに料理したあの技法('75年の『Blow By Blow』)、“Where Were You”('89年の『Guitar Shop』に収められているすぐれた1曲)で見せた、ハーモニクスと悪魔のような小節ゆらしの絶妙なコンビネーション。
こうした華々しい軌跡は、自ら選んだ楽器を使って表現することにかけて、彼がまさに頂点に立っていることを如実に物語っている。もはや動かぬ事実だ。
Jeff Beckについてもう1つ。彼はあまりレコーディングをしない。『Who Else!』というふざけたタイトルの彼の最新アルバムは、実に10年ぶりのオリジナルコレクションだ('90年代では他に、伝説のロカビリストGene Vincentに捧げた『Crazy Legs』を1枚だけリリースしている。彼のギタリストCliff Gallupは、Beckに大きな影響を与えた)。ギターの練習は毎日欠かさないBeckだが(彼のようになりたいと思ったら、そのくらいの練習は当然だ)、彼のレコーディング嫌いは有名で、過去20年間、数えるほどしかレコーディングスタジオへ足を踏み入れていない。そんな時間があったらイギリスへ戻り、大好きな車を乗り回していた方がよっぽどいいらしい。
彼の運転はかなり激しい。そんなわけだから、『Who Else!』のリリースはまさに一大事だ。この最新アルバムは、時代を超越したメロディーの宝庫とはいえない。一部の曲では、テクニックを見せびらかしすぎている感も否めない。しかし、思わずうっとりしてしまう“Brush With The Blues”の演奏は、そうしたマイナス要素を補って余りある。さらに、ギラギラの“Space For The Papa”とゴージャスな“Angel(Footsteps)”では、スライド・ギターの真髄を聴かせてくれる。世界ナンバー1のギタリストに、これ以上何を望むことがあろうだろうか?
Beck氏について最後にもう1つ。「This Is Spinal Tap」のNigel TufnelというキャラクターがBeckをモデルにしていることは疑いようがない。印象的な黒々とした髪、ロンドン郊外のなまり、独特の話し方。Nigelを演じたコメディアンChristopher Guestは、何から何までBeckに倣い、完全に演じきっている。もちろん、Beckの巧みなギター演奏を除いて。
慌ただしいプレスツアーのさなか、ミッドタウンにあるマンハッタンホテルのバーでブラディメアリーをすすりながら、この“生きる伝説”は実に愛想よくインタヴューに応じてくれた。周囲の注目を集めている状況を結構楽しみながら。
LAUNCH:
大変忙しいスケジュールのようですね。インタヴューやら、ミーティングやら、写真撮影やら。疲れていませんか?
BECK:
まったく平気さ。でも、いつも必ず「ずいぶん久しぶりのアルバムですね。どうしてたんですか?」っていう質問から始まるんだ。そんなときはデジャヴを感じる。でも、まあいいよ。「やれやれ困りましたね、アルバムはもうたくさんですよ」って言われるよりましだから。
LAUNCH:
みんなその質問をするというのはちょっと驚きですね。自分がその気にならなければレコーディングしない人だっていうのは、みんな知っているはずなのに。
BECK:
ああ、まったくそのとおり。そういうと何だか怠け者みたいに聞こえるけれど、本当だよ。その気にならなきゃだめなんだ。レコードを作ろうという気持ちはいつもあるんだが、それを行動に移すエネルギーが常にあるとはかぎらない。それに、大邸宅の管理人だから、あれこれ家事を済ませるだけであっという間に1日が終わってしまうんだ(笑)。家を持っていなかった頃の方がよかったよ。暖かい部屋を手に入れるためにがんばらなきゃって思えたからね。
LAUNCH:
では、今回レコーディングすることになったのはどうしてですか?
BECK:
1つはっきりしているのは、契約上のことさ。つまり、プレッシャーがものすごかったんだ。これまで10回以上も契約違反を犯しているから、金が入ってこなくなちゃった。でも、シニカルに構えているだけじゃなくて、こう思ったんだ。「しょうがない、始めるとするか。少なくとも、これまで辛抱強く待っててくれた忠実なファンのために」。まだ(ファンが)励ましてくれるっていうのも信じられないことだし、これ以上だらだらしてファンを失望させるわけにはいかない。Santanaとのツアーで約束もしんだ。あれ('95年に行われたSantanaとのツアー)をステップにして、そのまま活動を続けようと思った。ついに実現しなかったけどね。
あれはまったく俺のせいだけじゃないんだ。俺は本当に、あのバンドでやっていこうと思っていた。でも、Terry Bozzio(ドラマー)に子供が生まれて、6週間も仕事を休むわけにはいかなかった。収入もなかったし。ベースプレーヤーにも子供が産まれた。親父連中ばかりだからね。もっと若いのが必要だよ。16歳なら、そんな面倒は言い出さないだろうから(苦笑)。
LAUNCH:
『Who Else!』を聴いてみて、“現代風なサウンド”なのに正直少々驚いています。
BECK:
うん。4拍子のテクノ・サウンドで押し通すこともできたんだが、俺が世間の流れを分かっていて、それをギターで演るとこうなるってところを見せたかった。次のアルバムはテクノ色がもっと強くなるかもしれないし、ならないかもしれない。純粋主義者の意向に沿ってばかりはいられないよ。ぼおっとして世間が望む曲ばかりを演奏してたら、2~3週間ですぐ飽きちゃうよ。だから、常に新しい挑戦が必要なんだ。あまり一面的に受け取らないでもらいたい。偏見を持たずに聴いて欲しいし、音楽の表現方法にあまりこだわらないで欲しい。チョコレートのパッケージに文句を言うようなものだよ。チョコレートがうまければ、それでいいじゃないか。
LAUNCH:
テクノ・サウンドを採り入るようになったいきさつは?
BECK:
自然とそうなったんだ。最初は、ツアーのライヴアルバムを作る予定だったから、1曲目の“What Mama Said”はライヴ公演から収録した。でも、メロディーがどうも気にくわない。その後、テープをあちこち編集しなければ使い物にならないことがわかった。それで、まるごとProTools(デジタル編集システム)にかけたところ、これがなかなかいいんだ。そこからは、ごく自然の成り行きでテクノ方向へと流れた。ソロだけは変えなかったけどね。テクノ・サウンドへと誘い込む非常に印象的な曲だよ。その次の曲(“Psycho Sam”)もデジタル音のリフをベースにしている。そのあと突然、つるっとした顔のテクノから、ライヴ収録による未編集のブルース(“Brush With The Blues”)に流れ込めばシュールだと思ったんだ。
LAUNCH:
あのブルースはどこでレコーディングしたのですか?
BECK:
ミュンヘンのでかい音楽用ホールで、98年の夏の終わりにコンサートをやったんだ。すでに、イタリアでのツアーを終えた後だった。奇妙な演奏にみんな大喜びだったけど、レコーディングしてたことはほとんど誰も気づかなかったよ。そこからドイツまで行き、そこで、ロンドンからのレコーディング部隊と合流した。イギリスへ戻ってテープを聴いたとき、川へ投げ込みたくなった。悪くはなかったんだ。でも、思っていたのと違う。あまりにドライで、ジャズ色が強くて……ストレートな攻撃性が感じられない。それから2~3か月かけて手直しさ。
その間、Tony Hymas(キーボード奏者)が非常にいい曲をいくつか作ったんで、それもスタジオでレコーディングした。今思えば、キーボードプレーヤーとプログラマだけでスタジオアルバムを作り、その後、他のプレーヤーを参加させればよかったんだ。おかげで回り道をしたよ。でも、とにかくアルバムは完成した。やれやれだ。傷ついたり、口論したり、いろいろ大変だったけれど、音楽をやっている以上しかたないさ。のんびりと甘ったるいメロディーを演奏して、それで何百万ドルも稼げるわけじゃない。苦痛や、口論や、流血騒ぎがついてまわる。しょっちゅうは勘弁してほしいけどね(笑)。
LAUNCH:
これまで同様、最新アルバムもワイルド・サウンド満載ですね。“Space For The Papa”のあの高音はどうやって出しているんですか。少々上ずったハーモニクスのように聞こえるのですが。スライド奏法ですか。
BECK:
そのとおり。開放弦のハーモニクスだ。そして、弦の上にボトルネックをそっとすべらせる(スライド)。すると、ああいう音になる。ちょっとずるいだろ?(にんまり)
LAUNCH:
“Angel(Footssteps)”についてはどうですか? 通常のギターではあの高音を出せないですよね。
BECK:
ああ、フレットボードからはみ出してる。あれは、右手(ピッキング)とスチール板を使ってやるんだ。簡単じゃないよ。高音になるほど、弦上の音と音の距離が短くなるからね。半音なんていったら、隣の音とほとんどくっついちゃう。でも、いたずら心からやったわけでもないし、テクニックを見せびらかしたかったからでもない。その音が必要だったからだ。あのテクニックなしでもかなり高音を出せるけれど、十分じゃない。あれを完璧にやるには、ネックを左手で握りしめて、すべての弦をブロックしなければならない。そうじゃないと、弾いていない弦が余計な音を出してしまうんだ。それができたら、スライドを使って高音域を出してみる。金属に金属を押しつけるという行為が、攻撃性と崩壊感をもたらすんだ。手の内を見せちゃったな、3万5000ドルでいいや(笑)。
最初、あの曲は“La Varonese”というタイトルだった。でも、どうにもイヤでね。ビクトリア朝時代みたいだろ? 新しい名前はJimmy Pageが考えてくれたんだ。彼の55歳の誕生日にこのCDをプレゼントしたんだけど、とても気に入ってくれた。でも、そのCDはまだ完成前で、タイトルとクレジットが入っていなかった。で、あの曲を聴いたJimmy Pageが「このタイトルは?」って尋ねた。“La Varonese”だとは言いたくなくて、タイトルはまだなんだって嘘をついた。すると彼は、「“Angel Footsteps”にしなよ」って。彼が考えてくれたタイトルだから、そうしようと決めたんだ。Jimmy Pageがタイトルを付けてくれたあの曲は、俺にとって特別な曲なんだ。
LAUNCH:
この数年間で、ギターに長い間触れなかったことはありますか。
BECK:
毎日、平均してだいたい2時間は練習する。とにかく指を動かすんだ。イギリスのあのふざけた天気じゃ、他にすることもあまりないしね。常に、手の届くところにギターが置いてある。練習しないことには1週間が始まらない。休日出かけるときは、ギターを1本だけ持って行くんだ。アルバムをあまり作らないから、きっとみんなは俺が何もしていないと思ってるんだろうね。でも、言っておくけど、腕がさびつかないように練習だけは欠かさない。心身の均衡を保っているかぎりはね。十分に練習すると、指が勝手に動き出す。ミュージシャンならみんな、それがどんなものだか知ってる。あまり練習しないと、譜面に忠実に演奏できるが、決定的なミスも多い。まあ、インスピレーションを感じて、それをうまく演奏できればそれでいいんだ。
LAUNCH:
私個人としては、10年たった今、あなたの演奏を聴いて最もすばらしいと感じるのは、シンプルなメロディーをさまざまな形で表現できるその才能です。
BECK:
俺にとって、歌は大切なものなんだ。その作品をいい加減に演奏することはできない。メロディーを聴き、その技法を感じ取る。最初はただ聴くだけだ。その曲が、その週のお気に入り曲になるまで演奏しない。これはいけるぞ、となったら、その曲を頭に叩き込む。そうすれば、テープを聴き直さなくても音符を拾うことができる。オリジナルへの愛着が少ないほど、何とかしてやろうって気になる。その後は、自分で考え、自分のやり方で演奏するんだ。陳腐な3つの音の和音でさえ、弾き方によっては生きてくることもある。
LAUNCH:
'75年以前はシンガーのいるロックバンドで演奏していたのに対し、'75年からはすべてインストゥルメンタルになっています。転向した理由は?
BECK:
正直言って、Rod(Stewart)の代わりを捜すのに疲れたのさ。無理なんだ。分かりきってる。彼の代わりなんていやしない。途中でやめたことが悔やまれてならないよ。あんなバンド(StewartとRon Woodをフィーチャーした最初のJeff Beck Group/'68-69年)は二度とできないからね。
考えてみると、あれに匹敵するものは(ロック業界で)何1つ出てきていない。Robert(Plant/Led Zeppelin)以外はね。後任がRobertならうまくいったかもしれないが、Jimmyにとられた。だから、永遠に手に入らないものを追い求めていたってわけさ。俺は自信を失った。Hendrixが消え去り、Eric(Clapton)が一気に有名になると、突然、孤独感を覚えたんだ。そんなとき、John(McLaughlin)のMahavishnu Orchestraを見た。実にスリリングだった。(ギタリストTommy BolinをフィーチャーしたBilly Cobhamの)Spectrumが登場し、後頭部を殴られたような衝撃を覚えた。そして思ったんだ。「ヴォーカルがいないなら、それでもいいじゃないか」って。それからだよ。Rodの不在を何とも思わなくなったのは。チケットに自分の名前を印刷できるし、ありきたりのロックバンドにこだわる必要はないじゃないか。幸運にも(プロデューサー)George Martinの手を借りて、何とかあれ(『Blow By Blow』)を出すことができたんだ。
LAUNCH:
これまで、自分のレコーディングに満足したことはありますか。
BECK:
ない。アルバムが完成した後、指の動きを一切忘れて、それを客観的に聴けるようになるまで1か月はかかる。レコーディングしたばかりの曲を聴くと、耳をふさぎたくなるんだ。その曲を指がまだ覚えているし、次にどうなるか全部わかってるからね。ああすればよかった、こうすればよかったと欠点ばかりが耳につく。でも、レコードはもうプレスに回ってるし、もはやどうしようもない。最高にイライラするよ。この新しいレコードについては、そこそこの満足感がある。いい曲ができたからね。でも、ちょっとすると、また新しい刺激が待っている。だから、常に前だけを見続けているんだ。
Mac_Randall (1999.8.3)
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