【ライブレポート】煮ル果実、<MWLÁND TOUR>ファイナルに誠実なアーティスト性「VOCALOIDに魂を吹き込むのが僕の使命」
2024年12月27日、東京・Zepp Shinjukuで<煮ル果実 One Man Live『MWLÁND』>を体験した。初の中国ツアーを経て11月から大阪、宮城、愛知、福岡を回った<煮ル果実ライブツアー2024『MWLÁND TOUR』>のファイナルでありつつ、セトリも演出も全く異なるスペシャルライブだ。
◆煮ル果実 画像
背後のビジョンには『MWLÁND』のロゴと宇宙船のハッチのような絵。静かに響く工事現場のようなノイズ。ナレーション(cv.廣瀬大介)が『MWLÁND』の仕組みを紹介して非現実のムードを盛り上げる。開演前から世界観を作る準備はばっちりだ。
「世界初のライブハウス型次元転移アトラクション、MWLÁNDへようこそ」
可愛い少女のイラストで描かれるキャラ“ムウ”が開演を告げる。設定が多いのでかいつまんで言うと、我々はこれから三つの異なるVERSE(ヴァース)へ移動して、音と映像のアトラクションが楽しめるらしい。ステージ上にはベース、ドラム、マニピュレーター、ギター、中央には黒い服と黒いハットで決めた煮ル果実。その横にはAI“ムウ”の舞台装置が灯りをともして静かに立っている。
最初に体験するのは、キャッチーなポップチューンでぶっ飛ばす『P-VERSE』だ。1曲目は「アイロニーナ」。煮ル果実の生ボイスとムウ=flowerのボイスのツインボーカルで、サビはオーディエンスの大合唱だ。さらに「ファイアঌフライ」「アメリ」と、キャッチー&ポップでありつつトリッキーな構成や変拍子を取り込んだ、独特の煮ル果実ワールド。ばりばりギターを弾きながらばりばり歌う。背後にはミュージックビデオとリリックが映し出される。予想以上にダイナミックでアグレッシヴなパフォーマンス。
続いては『D-VERSE』、つまりダンスミュージックのエリアへ突入。都会のネオンを描く風景をバックに、ファンキーなリズムにメタルやジャズもぶち込んだ「ハングリーニコル」で、フロアはクラップと手振りで大盛り上がり。リリックはかなりシニカルで過激なことを歌っていても、ダンスミュージックに乗せてしまえば楽しく聴けてしまうのが煮ル果実マジック。拡声器を持ってアジテーションする「トラフィック・ジャム」、スラップベースがカッコいい「命辛辛」と、強力なリズムでぐんぐん飛ばす。ハンドマイクでぴょんぴょん跳ねる、煮ル果実のパフォーマンスも絶好調。
ここからは『E-VERSE』、つまりエレクトロミュージックのエリアへ飛ぶはずが、突如鳴り響く「EMERGENCY」の警告音。ビジョンに不気味なモンスターが現れ、ざわつくフロアに向けて『MWLÁND』制御システム乗っ取りを宣言する。背景に広がる見覚えのある寂し気なモノクロームの風景画。急転直下、「灰Φ倶楽部」の登場が予期せぬ『Φ-VERSE』の始まりを告げる。さらに超攻撃的ロックチューン「Cyborg」からハードコアなヒップホップチューン「ファニー・インシピッド・キャンディ・ベンダー」へ、ステージ上から下へ容赦ない爆音攻撃が続く。
「人間は愚かな生き物」とモンスターが挑発する。「違う、人間の心には温かい火がある」とムウが反論する。それが<MWLÁND TOUR>で得たものだというセリフに、煮ル果実からの強いメッセージが宿る。スポットを浴びてムウ=flowerが一人で歌いきる「ムウ」は、このツアーの核心を示す大事な1曲だ。「今からでいい。魂の向くほうへ進もう」。締めくくりにもう一度「灰Φ倶楽部」に戻って完結させたところで、エネルギー制御が復旧した。ナチュラルな『N-VERSE』へ一旦帰還しよう。
「生きて帰って来れましたね。現実世界に戻って、やろうと思っていたことをやろうと思います」
ここで初めて生身の煮ル果実のMCが聴けた。とても穏やかで柔らかな低い声で、今日のゲスト、はるまきごはんを招き入れる。曲は二人の共作「フランケンX」。ダークでファンクで尖ったダンスチューンで、ツインボーカルの息はぴったり。2024年はコラボやライブ出演などで交友を深め、一緒にキャンプにも行ったという仲良しの二人。もう1曲、『MWLÁND』からの「万有引力」と、わずか2曲だが濃密な時間。しっとり濡れたはるまきごはんのボイスと、穏やかな中にほとばしる情熱を秘めた煮ル果実のボイス、相性はばっちりだ。
「ここから全力でライブパフォーマンスに注力します」
ツアーを共にした頼れるバンドメンバーを紹介したあと、ムウの力強い宣言をきっかけに再び演奏開始。盛大なクラップで盛り上がる「ムーンガイズ」、「騒げ!」と煽りながらぶっ飛ばす「魔天楼」、キレキレのスピードギターポップ「スミス」と、息つく暇もない。「無理にやらなくてもいいですが」と言われたらむしろやりたくなる、フロアが大合唱とジャンプで一つになった「紗痲」と、キラーチューン連発で全力疾走。
正直ここまでやるとは思わなかった。煮ル果実のライブパフォーマンスは非常にフィジカルでヒューマニック。凝った仕掛けや映像はあるものの、どこかアナログの手触りを残したようなハートウォームな世界観。そしてラスト1曲「有無」を歌う、人間とボーカロイドのツインボーカルとフロアの大合唱が、ここにしかない平和な世界を作り上げる印象的なフィナーレ。
熱烈なアンコールの声に応え、まずは嬉しいお知らせから。ビジョンに映し出された「2025年2月11日、浅草花やしきで<HOUSE PARK 2025>を開園」の文字に大歓声が湧き上がる。活動7周年のアニバーサリーライブ、次はどんな世界観で楽しませてくれるんだろう。
「無力感にさいなまれた日々を昇華するというテーマで『MWLÁND』を作りました。それをツアーに落としこんで、ここまでやってきました」
「僕は無力だと思っていましたが、そうじゃないことがわかりました。本当にみなさんのおかげです」──アーティストの生々しい内面を語りながら、力強く前を向く言葉。「ボーカロイドに魂を吹き込むのが僕の使命」という言葉ににじむ、誠実なアーティスト性とクリエイター魂。最後は全員揃って賑やかに、フロアにマイクを向けながら「イヱスマン」を歌い、スタッフクレジットを流しながらのエンドロール「タイニーワールド」も生演奏でしっかり聴かせて、2時間近くに及ぶライブ、いやアトラクションは幕を下ろした。
最後にムウ=flowerが感謝の気持ちを語り、ナレーションが『MWLÁND』にまつわる物語を締めくくる。明るくなった中で退場SEの「YOMI」を思わず歌いだす人がたくさんいる。“ライブハウス型次元転移アトラクション”の設定を借りて、煮ル果実の世界を表現しきった『MWLÁND』は、一つの到達点であり通過点。お別れのひとこと、「また生きて必ず会いましょう」という言葉がリフレインする。寒い帰り道の途中も温かさがいつまでも残るような、忘れがたいハートウォームな一夜だった。
取材・文◎宮本英夫
■<煮ル果実 One Man Live『MWLÁND』>2024年12月27日@東京・Zepp Shinjuku セットリスト
02. ファイアঌフライ
03. アメリ
04. ハングリーニコル
05. トラフィック・ジャム
06. 命辛辛
07. 灰Φ倶楽部 (ラスサビ前まで)
08. Cyborg
09. ファニー・インシピッド・キャンディ・ベンダー
10. ムウ
07'. 灰Φ倶楽部 (ラスサビ)
11. フランケンX with ゲスト:はるまきごはん
12. 万有引力 with ゲスト:はるまきごはん
13. ムーンガイズ
14. 魔天楼
15. スミス
16. 紗痲
17. 有無
encore
18. イヱスマン
19. タイニーワールド
■<煮ル果実 one-man live『HOUSE PARK 2025』>
2月11日(火祝) 東京・浅草花劇場
▶第1部:メモリアル
※煮ル果実とVOCALOIDが歩んできた7周年を共に振り返るライブ
open13:00 / start13:30
▶第2部:ピック・ユア・フルーツ
※ファンによる楽曲投票を行いランキング形式で発表していくライブ
open16:00 / start16:30
▼チケット
スタンディング ¥6,600
※税込・入場時別途ドリンク代・整理番号付き
※各部それぞれのチケット料金
【FC先行受付】
受付期間:12/27(金)21:00〜1/8(水)23:59
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※メンバーシップ有料会員限定