【ライブレポート】紫 今、豊かな歌声と多才な表現を魅せた初ワンマン追加公演「私の一番の夢である東京ドームで会えることを願って」
8月と9月に東京と大阪で開催された初のワンマンライブ<Mulasaki Ima LIVE 2024"Episode 0">の東京公演が即日ソールドアウト。追加公演として10月24日に東京・代官山UNITで行われた<Mulasaki Ima LIVE 2024"Episode 0+">も大盛況となった。作詞、作曲、編曲を手掛けるクリエイターとしてはもちろん、ステージに立つパフォーマーとしても紫 今の実力は圧倒的だ。卓越した歌唱力と多彩な歌声は、ライブハウスでも輝いていた。このライブの模様をレポートする。
◆ライブ写真
ステージに登場した直後にアカペラで歌声を響かせて瞬く間に今民(いまみん/SNS上でのアイディア募集&投票で10月22日に決定したばかりのファンの呼称)の心を掴んでいた紫 今。バンド演奏が加わると、「ゴールデンタイム」を歌う声は一際力強く迫ってきた。グルーヴィーなサウンドを完璧に乗りこなし、多彩なニュアンスを交えながら表現する姿が活き活きとしている。歌唱スキルが高いのはもちろんなのだが、とにかく歌うことが好きで堪らないのだろう。「ぶちかます準備できてますか? かまそうぜ!」と今民を煽って「エーミール」に突入すると、フロア内で高まった手拍子。続いて「某夜」(原曲は4naとの共演で2022年にリリースされた「某夜 (feat. 紫 今)」)も披露され、会場は清々しい熱気で包まれた。
「同じ登場人物の曲というわけではないんだけど、繋げて聴くとストーリー性が生まれるので、このセトリで組んでみました。“なんでストーリー性が生まれるんだろう?”と考えたら、別れを歌っているからなのかなと。別れはどの立場、角度、時系列で見るかによって捉え方が変わるんですよね」と語ってから披露された3曲──「私の実体験に基づいた曲があって。その人に向けて歌います」という言葉が添えられ、別れに直面しながら抱く悲しみを真っ直ぐに伝えた「Soap Flower」、幸せだった日々を思い出す人物の心を映し出した「夢遊病」、愛する相手から何の言葉もかけてもらえないまま時が過ぎて行く「無言電話」。耳を傾けながら瞳を潤ませていた今民もいたようだ。彼女の歌の豊かな表現力をまざまざと感じたひと時だった。
「しんみりしちゃったんですけど、未公開の新曲をやっちゃってもいいですか? タオルの準備はできてる?」と観客に呼びかけて、切ないムードを一気に切り替えた紫 今。歌い始めた新曲は、今民が掲げたオリジナルグッズのタオルが躍動するサウンドに合わせて勢いよく回転。紫色の花畑のような綺麗な風景を作り上げていた。合いの手のハンドクラップが完璧なタイミングでフロアから届けられた「正面」。踊りながら歌う彼女の姿が、実に楽しそうだった「Server Down」……さらに3曲が披露されてから迎えた小休止では、「高校生の弟があまりにも私の音楽に厳しすぎる件について」というテーマのトークが展開した。新曲が出る度に「今回はびみょうだね」というような評価を弟から受けて落ち込むが、今民の絶賛の声でよみがえっているのだという。しかし、彼が実は評価してくれていることを彼女は知っている。「私の弟はツンデレでして、私のTikTokのアカウントに“いいね”“保存”“再投稿”をしてくれるんですよ。かわいい(笑)」──微笑ましいエピソードで和ませてくれた。
「私の曲は両親のルーツが反映されているものが多くて。父がアフリカの太鼓、ジャンベの奏者で母がゴスペルを歌っていて、そういう音楽を聴いて育ちました。今から歌う曲は、ゴスペルのパートもありまして。そこにも注目して聴いていただけたら嬉しいです」という言葉が添えられた「学級日誌」は、美しい光に溢れていくかのような曲だった。清らかな響きを帯びたハーモニーは、ゴスペルを歌ったり聴いたりする中で自ずと育まれた要素なのだろう。そして、その次に披露された「酔い夏」は、壮大な展開を遂げていった。ハイトーン、ホイッスルボイスを交えた多彩な歌唱表現を受け止めながら心を震わせていた今民。彼女の歌声に包まれる喜びを存分に噛み締めることができた。
妖艶な魅力を振りまいた彼女の歌に今民の《クレオパトラも見惚れちゃう》という声も加わった「魔性の女A」。イントロが奏でられるや否や歓声が上がり、手拍子も沸き起こった「Not Queen」。疾走感に満ちたロックサウンドの未リリースの新曲。飛び跳ねながら盛り上がる人々のエネルギーがフロアを揺らした「フラットライン」。そして「凡人様」は、本当にものすごいことになっていた。大合唱の連続を経て一旦エンディングを迎えそうになったのだが、「もう1回やる? やっちゃおうか?」と彼女が言って演奏再開。《凡人様 凡人様 凡人様 凡人様》という歌声が一際熱く彼女と今民の間で交わされた。歌声が示す興奮の度合いが全く“凡人様”ではなく、かなりどうかしているのが面白くて仕方ない。胸の奥に溜め込んだモヤモヤした感情を吹き飛ばしてくれるような曲だった。
東名阪ツアー<Mulasaki Ima LIVE 2025>(2025年3月29日・愛知・ell FITS. ALL、3月30日・東京・渋谷CLUB QUATTRO 、4月5日・大阪・梅田シャングリラ)が決定した旨を発表した後、想いをじっくりと語った紫 今。「不器用なのでSNSでこまめに愛を伝えるとかできないんですけど(笑)。本当にみんなのことが大好きで、こうやって目と目を合わせて歌って、喋っていられることが本当に幸せです。これからもいい音楽をたくさん作って、たくさんいい音楽を届けて、みんなに恩返しをしていけたらなと思っています。私の一番の夢である東京ドームで会えることを願ってこれからも頑張るので」──そしてラストに届けられた「ギンモクセイ」も大合唱が起こった。フロアから届けられる歌声を心底嬉しそうに全身で浴びていた彼女の姿が思い出される。紫 今の音楽を愛してくれている人々の声の温もりは、最高の贈り物だったのだろう。
バンドメンバーのひとりひとりを紹介した後、彼女は生声で観客にメッセージを届けた。「改めて今日は来てくれてありがとうございます。またみんなと会えるのを楽しみにしています。また遊ぼう!」そしてステージを後にした彼女を大きな拍手と歓声が見送った。
昨年から今年にかけて彼女が着々と人気を高めている理由は、ライブに足を運べばよくわかる。歌声の深い魅力、確かな実力、さらに活動のスケールを大きくしていく気配を目一杯に感じることができたライブだった。
文◎田中 大
写真◎Ryotaro Kawashima
セットリスト
エーミール
某夜 (4na cover)
Soap Flower
夢遊病
無言電話
新曲
正面
Server Down
学級日誌
酔い夏
魔性の女A
Not Queen
新曲
フラットライン
凡人様
ギンモクセイ