【ライブレポート】椎名へきる、アーティストデビュー30周年記念公演「自分ができる事でみんなの事を幸せにしたい…そう思う30年間でした」

椎名へきるが9月28日、日本青年館ホールにてアーティストデビュー30周年を記念した＜HEKIRU SHIINA 30th ANNIVERSARY LIVE 〜HARMONY STAR〜＞を開催した。

本来は7月27日に予定されていたが、椎名へきる本人が新型コロナウイルスに罹患してしまい、断腸の思いで延期となってしまった経緯がある。本人やスタッフはもちろん、ファンも万感の思いでこの日を迎えた事だろう。様々な人々の感情が交錯した激動の150分をレポートする。

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1994年8月21日、アーティスト“椎名へきる”という存在がこの世に誕生した。それから1年後の1995年、自身初のホールコンサートを日本青年館ホールにて行った。そして2024年、デビュー30周年を迎えた椎名へきるがこの場所へ帰ってきた。当時のことを覚えているファンがどれほど集っただろうか。また 2021 年のキングレコードへの移籍以降、初参戦の＜KING SUPER LIVE 2024＞で強烈な印象を残した彼女に衝撃を受け、今回初めて彼女のライブに足を運んだという方も多いかもしれない。

チケットはもちろんソールドアウト。開演前の会場近くには歴戦の猛者の中に初参戦と思われる方々の姿も見られ、30周年の客層の重みを実感することができた。


ステージには彼女のイニシャル“H・S"が印された青い大きなフラッグが掲げられ、生バンドのサウンドをバックに、ファンのボルテージは高まるばかり。今年5月に発売した自身初のセルフカバーアルバム『HARMONY STAR』のジャケット衣装に身を包んだ彼女が登場すると「30thアニバーサリーライブへようこそ！」と声高らかに宣言。間髪を入れず「空想メトロ」に突入すると、もはや“熟練の域”と言えるコール＆レスポンスが場内から湧き起こり、1曲目からボルテージを上げていく。

続く「少女爆弾」では「みんな盛り上がっていきましょう！」 と手拍子を促す。彼女のライブはペンライトを持たないのも特徴のひとつ。その分の想いが手拍子やコールの 音量の厚みとなり乗っかっていく。「恋のレースクィーン」では、今回のライブグッズであるレプリカフラッグを持ち出し、会場を煽り立てる。


「色褪せない瞬間」までをMC無しで4曲歌い上げると、まずは振替公演へ駆け付けてくれたことに対して感謝を述べた。「今日集まれた事が奇跡だし、皆さんが集まってくれた事が私にとってのプレゼントなので、あとは私から皆さんへ元気を届けるのみです！　ぜひ一緒に楽しいライブを作ってください！」と30年目の選手宣誓をした。

「だめよ!だめよ!だめよ!!」「目を覚ませ、男なら」など定番曲が続き、「せつない笑顔」では打って変わってバラードの流れになるも、そこにはどんな曲でも息ぴったりに応えるファンの姿が。ほんの些細なやり取りだが、彼女がライブを重ねる度に強くなっていったファンとの絆を感じずにはいられない。そして「246」「届けたい想い」と続け、舞台下手へと姿を消した。その間はファンの皆でアウトロを歌い上げ、繋いでいく。バンドの演奏 も、ギター、ベース、そしてドラムとひとつずつ消えていき、最後は客席の歌声だけに。まさに冒頭で彼女が言っ ていたように、“皆で作るライブ”なのだ。


ステージが真っ赤な照明に照らされると、赤いドレスに早着替えを済ませた彼女が舞台奥から姿を現し、「-赤い華- You’re gonna change to the flower」を披露。この真紅のドレスは＜KING SUPER LIVE 2024＞で着用していた衣装でもあり、その鮮やかなインパクトから記憶に残った方も多かったのではないだろうか。ハイトーンボイスを響かせると場内からひときわ大きな拍手が起こった。ここからは「Everlasting Train -終わりなき旅人-」「空をあきらめない」など、力強い歌声を響かせる楽曲が続いた。そんな彼女に寄り 添うように唸るベースや身をよじるようなサウンドを奏でるギターなど、バックバンドのアツくほとばしる演奏が光る。

ここでドラムがエイトビートを刻みだすと、再び椎名へきるは下手袖へ。バンドメンバーによるインストゥルメン タルのメドレーが、彼女の去ったステージに更なる熱を加えていく。やがて青のジャケットに白のパンツ姿に着 替えた彼女が、「ブルーウォーター」で登場すると、ここからは「JUST COMMUNICATION」「ゆずれない願い」とアルバム『HARMONY STAR』に収録されているカバー楽曲エリアに突入。ライブ初披露の楽曲にも関わらず、ここでも息のあった合いの手を入れるファンの温かみを改めて感じた。


「この曲を私が歌う日が来るなんて！」と本人は謙遜するものの、自身にとっても大切な作品に関わる楽曲として、これらのアニソンカバーを披露した。「後半戦も残り少なくなってきましたが......」にお約束のブーイングが 入ると「私ここまでたくさん歌ってきましたよね！？」と笑いを誘う。「愛の拳を突き上げてください！」と、椎名へきるライブでの作法を説きつつ「よもや初参加の人、いませんよね？」と語りかけると、臆せず元気な声で返事する参加者に対し、大きくも温かな拍手が場内から沸き起こったのがとても印象深い。


MCの前に青のジャケットを脱いで「ガンバレ」「One」とラストスパートらしい選曲で駆け抜けていく。「じゃあ、 皆でこの歌を歌いたいと思います」と「旅立ちの唄」のイントロをピアノ伴奏と観客の全力の歌声で歌うと、 一気にBPMを上げ、ラストへ向かって大きく走り出す。「MOTTO スイーツ」は、まさに全力疾走といった様子で、飛んで跳ねて最後は高く拳を突き上げ「ありがとうー！」と叫び、ステージを後にした。

直後からアンコールを求める声がホールいっぱいに響き渡る。これだけハッキリとした大音量のアンコールも珍しいくらいだ。バンドメンバーが現れると、今度は彼女を求める「へきる」コールへと変わる。「抱きしめて」を披露し、「みんなひとつになっていこう！」と呼びかけ「風が吹く丘」へ。間奏では彼女からひとりずつ呼び込みがあり、バンドメンバーが紹介されていった。


2曲を終えたところで、オンラインくじやアニバーサリーブックの発売等の新情報解禁があったが、一番声が上がったのは2025年1月 26日に神奈川県 民大ホールで新年ライブを開催することだろう。

「最後はこの曲で盛り上がって終わろう！」と「Graduater」を披露。後半になってもなお力強さを増していく彼女の歌声に応えるかのように、ファンは今日一番の声援とこぶしを突き上げる。曲の最後には金テープも飛び交い、興奮は最高潮に。「最後の挨拶を......」と準備をする椎名を遮るように「もう一回！」のコールが自然と場内から起こると、バンドメンバーと何やら相談した結果、「もう1曲歌います！」と言い残し、ステージにはキーボードの川村と椎名だけに。


「色んな事が世の中で起こる度に、自分の無力さを感じて、そんな自分が嫌だったりもしたけど、自分ができる事でみんなの事を幸せにしたい、そう思う30年間でした」とダブルアンコールに入る前に、涙ぐみながらその胸中を語ってくれた。「これから先、出来る事は限られてるかもしれませんが、自分がライブをやる事で、皆の帰ってくる場所になれるのだとしたら、私もとても嬉しいです」

そんな想いを込めたピアノ伴奏での「何も出来なくて」は、ただただ涙するのみだった。彼女の想いへ応えるように鳴りやまない大喝采の中「これからも一緒に楽しい時間を作ってください！」と語りかけてくれた。そして最後に特大の「ウォンチュー！」で締めくくった。


デビューから30年間、一貫して彼女はライブを主戦場のひとつとしてきた。声優初の日本武道館での公演を成功させた事も然り、これまでに通算450本以上のライブをこなしてきた実績が何よりの証左だ。最後に語ってくれたように、30年という月日の中には様々な苦難もあった事だろう。しかし、それと同時に“30年”という数字はその分の困難を乗り越えてきた証でもある。つまり、椎名へきるは今日を乗り越え、そのまた先へと全力で走り続けていく。小さな身体から繰り出すパワフルな歌声は30年前からちっとも変わらない。 これが椎名へきるの生き様なのだ。

取材・文◎前田勇介