【ライブレポート】Daiki Yamashita「これからも手と手を取り合って、一緒に旅を続けていきましょう」
「みんなありがとう! 世界一幸せな35歳だよ」──真夏のような日差しが降り注いだこの日、太陽のような輝かしい笑顔でそう伝えたのは、声優・アーティストとして大きな存在感を放つ山下大輝である。誕生日当日である9月7日(土)、<Daiki Yamashita 2024 DAIKING Festa Vol.3>を開催した。
本公演は、MEMBER’S CLUB名である山下の愛称を冠に掲げた毎年恒例のイベント。会場は前回、前々回に続き、東京・豊洲PITで、昼・夜の部にわたっての開催。司会もこれまで同様、事務所の同期であり友人でもある浜田洋平が担当。また、毎年豪華ゲストを招いており、今年は旧知の仲である畠中 祐をゲストに迎えた。
これまでの公演と共通点は多いものの、今年はバラエティ要素が強かった例年とは異なり「歌唱多めのイベントになる」と告知されていた。その予告通り、当日は最新曲「プラシー」を含む10曲を各公演で披露し、ワンマンライブさながらの内容に。そこからは、音楽を通じてファンに感謝の気持ちを伝えたいという山下の心意気が感じられる。
なお、ここまで多くの楽曲を披露するのは、2023年6月に行われたLINE CUBE SHIBUYAでのワンマン以来となる。山下がこれまで培ってきた軌跡や成長も存分に発揮された、メモリアルな1日となった。本稿では昼公演を中心に、当日の模様をお届けする。
ロゴやグッズの雰囲気、そして当日の晴れ渡る天気も相まって、会場周辺にはさながら夏フェスのような開放的な空気感。しかし一歩その世界に踏み入れると、爽やかさだけではない、山下のライブならではの温もりが感じられる。本人のアーティスト性や人柄あってこそ生まれる雰囲気だとは思うが、そのアットホーム感にいちばん感動していたのは、もしかしたら本人かもしれない。OPムービーで満場の観客を沸かせ、ステージ上段にカジュアルなパーカー姿で登場した彼は、その瞬間、その場に浸るように観客を見つめ、ゆっくりと表情をゆるませた。
はじまりの曲は「シークエル」。約1年前にリリースされたこの楽曲は、本が大好きな少女の目線で綴られた物語性の強いナンバーで、〈色とりどりの世界〉という歌詞の通り、ステージ・客席が即座にカラフルに染まっていく。その次に持ってきたのは、青春感あふれるロックナンバー「continue」。「みんなの声を聴かせて!」と呼びかけ、力強く腕を振り上げる。表情の異なる2曲でそのポテンシャルを序盤から発揮していった。
観客から大きな拍手が沸き起こると「毛色が違う曲なので心の切り替えが難しかったのですが、披露する中でみんなの熱量を感じました。嬉しいな」と声を弾ませる。そして「今までのバースデーイベントとは違って、歌唱をメインにお届けしていきます。これからも続々と、いろいろな曲をお届けしていくので、最後の最後まで盛り上がってください」と語気を強めた。
ここで進行を担当する浜田が登壇して自己紹介。「今日はトークコーナー、ライブコーナー、トークコーナー……と交互に進行してまいります。ライブコーナーではカッコいいDaiki Yamashitaを堪能していただき、トークコーナーではいつも通りのデェちゃんをお楽しみいただきと、ジェットコースターのようにお届けしていきます」とアナウンスした。
そして、浜田の呼び込みで招かれた畠中は「いえーい、ハッピーバースデー!」と、ふたりが好きなブランドのショッパーを持って登場。目を丸くする山下に対して「本当は裏で渡そうと思ったんですけど、渡すタイミングを見計らっていたら本番が始まってしまって(笑)」と、プライベートで渡す予定だったプレゼントを手渡した。「わああ、ありがとう!マジか!嬉しい~!誕生日になって初めてもらったプレゼントかも…」と喜びの声を上げた。
出会って10年以上。8月末の<Daiki Yamashita 2024 DAIKING Festa Vol.3 直前YouTubeライブ>にも参加していた畠中とは、芝居についての話を「無限にできる仲」であるという。そのため、とりわけ盛り上がったのは、彼らが共演するTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』における現場の話。畠中は、主人公・緑谷出久を演じる山下について「100点を出す役者の方ってたくさんいるけど、山下さんは150点を叩き出せる人。あそこまで到達できる役者さんってなかなかいないと思う。見てるこっちの涙が止まらなくなる」と熱弁。その言葉を受けて「マジか」と少し照れくさそうに微笑みつつも「キャラクターがそうさせてくれるっていうのも大きい。僕らは、キャラクターが生き生きできるように、全力で、魂を込めて声を注ぐのが仕事だから。むしろ、あそこでの記憶があんまりないのよ(笑)」と、いかに役と共鳴しながら声を吹き込んでいるかが伝わってくるエピソードを明かした。
その後、直前YouTubeライブで展開された「カラオケで歌いたい曲セレクション」の話題に移る。番組内では3曲ずつ、ジャンルに関係なく選んでいたが、いずれアニソン縛りで曲を選んだらさらに深く掘り下げられそうだと畠中。すると、山下が「今ここで、1曲アニソンを挙げるとしたら?」と質問。迷いつつも、畠中は『焼きたて!!ジャぱん』の「SUNDAY」(ザ・ベイビースターズ)を、山下はアニメ『メダロット』の「知恵と勇気だ!メダロット」(竹内順子)をそれぞれピックアップ。観客とコミュニケーションを取りながら、話に花が咲いた。
話題は尽きないものの、畠中と浜田は一度バックステージへと戻り、次のライブパートへ。山下はステージに準備されていた楽器について触れ「すでに気づいていた方もいたかもしれませんが、下手(しもて)にキーボード、上手(かみて)にギターがございます。ここからはアコースティックコーナーです」と、白井アキト(key)、二木 元太郎(G)をステージに招いた。「本当にね、この2人は素敵なの。リハの段階から耳が幸せになるような演奏をしてくれるんですよ」と興奮気味に紹介した。
白井は2023年のワンマンに、二木は前回のバースデーイベントに出演。また、今回の音楽監督は前述のワンマンでプレイヤーとしてステージに立った高慶"CO-K"卓史が務めており、音楽を通してつながってきた仲間が参加している。アーティストデビュー4年目ならではの出来事と言えるだろう。
アコースティックの魅力に気づいたのは、そのアーティスト活動の経験からだったという。「一度、アコースティックをやらせてもらった時に、“あ、これかもしれない”とピタッとハマった瞬間があったんですよね。すごく気持ちよくて。曲の表情の変化が如実に分かるのもとても好きなんです。キャラクターで例えると、“こんな一面があったんだ”“こんな表情をする子もいるんだ!”って発見するような感じ。僕は曲をキャラクターとして捉えることがあるので、そういった新しい面が見られるのが、演者としてうれしいんです」と役者ならではの視点が光る、自身の音楽観を語る。その上で「僕の歌と、2人の演奏に全集中して聴いてもらえたら嬉しいです。アコースティックなので、まったり歌いたいな」と平台に腰掛けて、まずはラブソング「I'm in love」を。シンプルなサウンドだからこそ、山下の持ち味である高音域のボーカルが際立つ。〈この時間がずっと続けば良いのに閉じ込めて 真空パックにしたい〉という一節で、身体をギュッとまるめる仕草を見せる場面も。その小さな動作とその声ひとつからも、表現力の豊かさと、「曲」をキャラクターと捉える彼ならではの、曲に対する愛情や洞察力を感じた。
次の曲に進む前に「よし」と気合いを入れるようにつぶやく。なんと次の曲は、TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第7期のエンディングテーマ「蕾」(Omoinotake)のカバー。山下が歌い出すと共に場内の空気が一瞬ゆらぐも、すぐさま客席のペンライトは山下演じる出久にあわせて緑色へと変わり、その繊細で力強い歌声にすぐに引き込まれていった。なお、夜公演では同じく『ヒロアカ』の「嘘じゃない」(崎山蒼志)をカバー。山下からのサプライズだ。
アコースティックパートを結んだのは、デビュー曲「Tail」(TVアニメ『セブンナイツ レボリューション -英雄の継承者-』のエンディング主題歌)。これまでは山下が引っ張っていく印象が強かったシンガロングパートが、観客の声と溶け合い、まるでひとつの輪を生んでいくかのようなイメージに変化。心地よい一体感が広がっていった。演奏を終えると「いやー本当に素敵な演奏だった! こんなに表情豊かに曲がなるんだって! 生き物なんじゃないかなって」と素直な気持ちを口にする。とりわけ「Tail」に関しては「これまでいちばん歌ってきた曲だけど、まだまだこんなにも表情があるんだなって。めちゃくちゃ嬉しかった」と話し、改めてバンドメンバーに感謝の気持ちを伝えた。そして、バンドメンバーと入れ替わりにオンステージした、畠中と浜田も「良かった!」と絶賛。畠中が「山下さんの声は、アコースティックで引き立つから、いつかアコースティックだけのライブもやってほしい」とリクエスト。山下は「やりたい!」と即答し、観客から期待を込めた拍手が湧き起こった。
会話の中で「蕾」をカバーした理由を問われると「好きだから!」と前置きした上で「キャラクターの心情、積み重ねてきた思いが曲にぴったりで、聴いた瞬間に大好きになった曲だったので、今回歌ってみていいですか?と」相談したそう。そして「全力で歌わせてもらいました。驚いて、喜んでくれたら嬉しいです」と添えた。
さらにもうひとつサプライズとして、畠中とのデュエットすることを伝えると、観客から歓喜の声が上がった。「祐と歌うと決まったときに、絶対にこの曲を歌いたいと思ったハッピーな曲があって! 祐の歌声は本当に素敵だから、祐の声をたくさん聴いて楽しんでいってください!」と呼びかける。タイトルコールと共にはじまったのは 佐伯ユウスケ (佐伯youthK)が手掛けたグルーヴィーなナンバー「Hello」。互いに顔を見合わせたり、ハンズアップしたりしながら、リズミカルに掛け合いを重ねてにぎやかなムードに。クライマックスのユニゾンでは特に楽しそうな表情をにじませつつハイタッチしてみせた。山下は「うわあ~楽しい! やっぱり良いわ、祐の声が好きだ~」としみじみと噛みしめる。畠中も「楽しかった! 全身で音楽を楽しんでいるのが、みちみちていて。一緒に歌ってて感動しちゃった。これだよ、これって! “純”なの。芝居もそうだけども、歌い合っていても、それがビシビシと伝わってくる。みんな山下さんみたいになったら、マジで世界が平和になる。最高でした! 自分も心を入れ替えよう!」と笑いも誘いつつも、心からのリスペクトをにじませた。
一呼吸置いて、本編最後のトークパートへ。【DAIKING キーワードトーク】と題し、今日のセットリストにある曲のタイトルや歌詞から引用したキーワードによるエピソードトークを展開した。
最初のキーワードは「continue」。ずっと続けていること、幼少期から続いている習慣を問われると、ふたりとも食べ物の話題に。畠中は「気持ち悪くなるまで食べ放題で食べること」だそうで、一緒にご飯にも行く山下曰く「食べ方がずっと小2」だそうだ(笑)。一方の山下は「似ているけど、1日1食、肉(のメニュー)が入ってる」と肉好きならではのエピソードを明かす。「あと皆さんは知ってると思うけど、山下家では兄弟それぞれにバスタオルが与えられて。寝るときにもそのバスタオルがないと寝られなくて……」と、“バーリー”と呼ばれるタオルの存在について切り出すと「えっどういうこと!?」と興味津々の畠中。そのリアクションを受けて、山下は「バカにしてるでしょ! 恥ずかしくなってきた!」と笑った。
続いてのお題は「I'm in love」にかけて、「恋しているもの、愛してやまないもの(ただし肉以外)」。山下は愛猫である「おこめ」と即答し「なんでも買っちゃう」と、その溺愛っぷりを語った。すると、畠中も実家で暮らす元野良猫の「くうた」について語りだす。少年時代、畠中の後を追ってきたことから家に迎えることとなったというエピソードを明かすと、山下は感極まった表情を浮かべた。9月15日に23歳を迎えるというくうた。「なんて良い話なんだ!」とじんわりと温かな空気感が広がった。
最後は「Tail」の歌詞〈流れ星 流れる前に〉にかけて、流れ星に願いを届けるなら?というお題。畠中は季節外れの冬にグランピングに行き「誰もいなくて、雪まみれ(笑)。とにかく寒かったけど、満天の星空で流れ星が見えました。あれだけの景色を見ると、シンプルに世界平和を願ってしまう」としみじみ語る。「いやーそうなっちゃうよね!」と同意しつつ、山下の願いは、自身の出身地が誇る「炭焼きレストランさわやか」の経営がこれからも続きますようにといったもの。名物・げんこつハンバーグが大好物で、X(旧Twitter)のアイコンにも掲げている山下。「運命共同体だから」と必死に愛を語ると、それを受けて、畠中も「本当に大人気店だから、店によっては待つこともあるじゃないですか。じゃあ僕は、もうちょっと待たなくても(さわやかに)入れるようにと願います」と肉付けし、笑いに包まれた。
いよいよ本編クライマックスを飾るライブコーナーへ。披露されたのは、アーティストとしての新しい方向性を最初に示した「ヒトコキュウノ」である。“かもみら”がイラストを、“えむめろ”が編集をしたMVをバックに、ファンタジックで幻想的な世界観を表情豊かに描き出していく。続いて、yama「春を告げる」のサウンドプロデューサーとしても知られる”くじら”によるシティポップナンバー「キャンドル」を歌唱。客席に黄色い光が灯る。この曲でも、ヨルシカ作品など多くのアニメーションMVを手掛けている”大鳥”によるイラストが描かれたリリックビデオが映し出される。視覚と聴覚の両方で、その世界へと引き込んでいった2曲を経て、本編最後に、8月30日にリリースされたばかりの最新曲「プラシー」をプレゼント。「プラシー」は、「小さい頃に大切にしていたぬいぐるみにもしも感情があったなら」という視点から、ササノマリイが描いた大人のファンタジーソング。〈覚えてる? 君が 僕の手を握って いつだって 一緒にいたの君と見た景色 〉という一節では、まるで隣に「君」がいるように歌い、それまで片手で握っていたマイクをところどころ両手で握る。屈託のないまっすぐでピュアな歌声とオルゴールのような優しい音色が、心のやわらかい部分を刺激する。曲が終わると温かな拍手と歓声が、会場を包みこんだのだった。
アンコールには、今回のグッズのひとつであるTシャツ姿で登場。「新曲でしっとり終わるのも良いなって思ったけど、やっぱりラストはみんなの明るい笑顔を見たいなと思って! ラストは熱い曲を聴かせられたら良いなと思っています」
拍手を受けつつ、次に歌う曲について、さらに続ける。
「今年35歳になった今の自分だからこそ歌える曲。年齢を重ねるごとに、熟成されて進化していくんじゃないかなと思う曲です。今回いろいろなところから来てくれる方もいるだろうし、中には朝から(グッズに)並んでくれている方もいて。ライブ中、みんなからの愛もずっと感じていました。今日、みんなから色々なプレゼントをもらいました。でももらっているだけだと正直ちょっと恥ずかしくて、何か返せたらいいなと思って、今日も歌わせていただきました。みんなにね、“暁”みたいな大きなハンバーグを焼いて、とびきりの笑顔で終われたら良いなと思っています!」
その言葉にピンときたファンから感嘆の声が漏れた。最後を飾ったのは、BLUE ENCOUNTのボーカル・ギター田邊駿一が楽曲提供した「暁」。頭サビをエモーショナルな歌声で届けたあと「今日は本当にありがとう!みんなのおかげで最高の1日になった」と冒頭に書いた言葉──「世界一最高な35歳だよ!」と情感いっぱいに叫んだ。
そして葛藤を乗り越えた先にある〈「本当は変わりたいんだ」〉という想いを力強く歌い、今度は眩しい表情で〈まだ見たい未来(けしき)がたくさんあるよ〉と観客側を指差す。客席には明るい笑顔も広がっていたが、中には涙ぐむファンも見受けられる。「暁」が力強い応援歌としてだけでなく、その枠を超えて届いていることを感じさせた。
ライブを終えるとあらためて感謝の気持ちを述べ、この日の出演者をステージに招く。縁の下の力持ちとして、本日ステージを支えたマニピュレーター・柳 俊彰もステージに上がり記念撮影タイムに。なお、夜公演では柳がバースデーケーキを持って登場し、山下を驚かせた。
「本当にありがとう! 誕生日ってさ、何歳になっても嬉しいし、何歳になっても照れるね」──そう伝えると、客席から「おめでとう」「ありがとう」の声が止まらない。その中で、最後にメッセージ。
「音楽業、声優業を続けていく中で、今後もいろいろな曲と出会っていくと思います。曲の中で、いろいろな世界に行きたいなと思っていて。等身大の自分、夢を追いかけている子どものときの自分と、2通りの山下大輝が、いろいろな曲を通じて、みんなと一緒に旅をする…そんなイメージで音楽活動をしています。その物語の世界に一緒に飛び込めたらこれからも楽しいだろうなって思っていますので、これからも手と手を取り合って、一緒に旅を続けていきましょう」
ソロアーティストとして最初のテーマとなった「エール」から、幻想的な世界へと誘うファンタジーまで、表現者としてさまざまな音楽の世界を追求してきた山下大輝。どんな音楽表現においても、その根底には「大丈夫だよ、ひとりじゃないよ」「好きなものは好きで良い、間違ってない」といった彼ならではの柔らかで優しいメッセージが込められているように感じる。そして、彼の幅広い表現力は、まさに今も進化し続けていることを改めて感じさせるライブであった。なお、また、今回のライブグッズは9月11日18時より、イベントグッズの事後通販が決まっている。今後のアーティスト活動も、楽しみに待ちたい。
Text by 逆井マリ
Photo by 江藤はんな(夜公演)
■Daiki Yamashita 2024 DAIKING Festa Vol.3 イベントグッズ事後通販
お申込み:https://official-goods-store.jp/yamashitadaiki/
デジタルシングル「プラシー」
作詞・作曲・編曲:ササノマリイ
ジャケットイラスト:まぁ坊
■DAIKI YAMASHITA OFFICIAL MEMBER’S CLUB「DAIKING」
税込価格:8,000円
◆DAIKI YAMASHITAオフィシャルサイト