【ライブレポート】Ado、国立競技場ワンマン<心臓>で放った3つの“強さ”

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2024年2月から約2ヵ月間、アジア、ヨーロッパ、アメリカの全14都市をまわるワールドツアー<Wish>を成功させたAdoが、4月27日、28日の2日間、女性ソロアーティストとして初となる国立競技場でのワンマン公演<Ado SPECIAL LIVE 2024『心臓』>を開催した。

◆Ado 画像

その最終日(4月28日)は晴天に恵まれ、国立競技場の丸い屋根から見える青空や、時おり姿を見せる飛行機すら演出のひとつのように感じられるほど、この日、すべての要素がAdoのために存在しているかのように思えたシチュエーションだった。

開演時間を迎えると、鼓動のような重低音が鳴り響き、ステージ後方および左右に設置された巨大なLEDスクリーンに、ライブタイトルにもなっている心臓のグラフィックが映し出される。そこから、いきなりの「うっせぇわ」でライブは幕を開けると、本編ラストの「新時代」まで、Adoは100m走並みのスピードを緩めることなく、一気に走り抜いていった。


Adoはこの日も、2023年末の『NHK紅白歌合戦』で目にした人も多いであろうボックスの中で歌い、シルエットでパフォーマンスを繰り広げていたが、ライブ終盤にはボックスの外に出て、シルエットのままながら、ステージを左右に移動したり、アンコールの「DIGNITY」ではステージに現れた巨大な青いバラに包まれるように歌う姿も披露。しかもこの曲では、作曲を手がけた松本孝弘(B'z)がサプライズゲストとして出演し、松本が奏でるレスポールとAdoの歌声というコラボレーションは7万人の観客を大いに沸かせた。

演出面も非常に練られており、「永遠のあくる日」の時には屋根に仕込まれた花火に加え、ドローンによって心臓や青いバラのアニメーションが描かれたり、アンコール時の「行方知れず」「逆光」「FREEDOM」の3曲では、Adoがトロッコに乗った状態で競技場を一周するなど、この日、この場所でしか出来ない演出が目白押し。そして、新曲「桜日和とタイムマシン」でAdoが初音ミクと共演すると、客席からは悲鳴に近いような大歓声が上がった。また、ワールドツアーを共にした高慶“CO-K”卓史(G)、Naoki Kobayashi(B)、和久井沙良(Key)、森田龍之助(Dr)とのコンビネーションも実によく、Adoの歌を支えながらも楽曲の躍動感を生み出していたバンドのパフォーマンスにも拍手を送りたい。



こうした約135分間に渡るライブを通して、ショックに近い強烈なインパクトを感じた点は、Adoが国立競技場という巨大スタジアムで放った3つの“強さ”だった。ひとつは、従来のライブコンサートとは明らかに何かが違う(良い意味で)異質さを強烈に感じさせるエンタテインメントであったこと。もうひとつは圧倒的な歌の強さ。そして3つめが、Adoのパフォーマンスを貫く意志の強靭さだ。順番に、その強さを紐解いていこう。

Adoは計算し尽くされたステージングによって(基本的に)ハイコントラストのシルエットで登場する。ボックスの中でしなやかに舞い、時には床に寝そべりながら歌うAdoのシルエットは、とてつもないオーラを放っていた。観客の中で、誰一人としてAdoの正体を知る者はいない。にも関わらず、誰しもが“Adoだ”と一瞬で確信するシルエットのパワー。そこに7万人が熱狂する様子は、アイドル、ロックバンド、シンガー、いずれのライブとも違う未知の感覚であり、新しい時代の到来を確実に感じさせるエンタテインメントであった。


それでもなおかつ、きちんと音楽ライブと鳴らしめているのは、間違いなくAdoの歌の力によるものだ。その歌唱力は、さすがのひと言だった。一体何が“さすが”なのかと言うと、ずばり歌の強さに他ならない。歌が上手い人ならいくらでもいる。昨今、ライブを観て“歌が上手くて驚いた”という感想をよく見聞きするが、技術的に歌が上手いことはプロとして基本レベルのことであり、そのうえで、その人にしか出来ないもの、その人にしか表現しえないものは何かという点が、アーティストに求められる必要不可欠な要素。その視点で、Adoの歌にとてつもない強さが感じられた。

この日、国立競技場を埋めた7万人は、最後の最後まで異様な熱気に満ち溢れていた。それはAdoの歌声が観客一人一人としっかりと繋がっていたからであり、それをスタジアムで実現するためには、歌の上手さだけでは到底不十分であり、歌の強さを兼ね備えていることが絶対条件なのだ。

例えば、彼女特有の“がなり”は、好き嫌いこそ分かれるかもしれないが、それでもあのがなりを聴いて“Adoだ”と万人に感じさせるパワーは並大抵のものではない。否応なしに誰をも納得させられる、もっと言えば、聴き手をねじ伏せるほどの強烈な個性と言うべきものだ。しかもそれは、努力や練習だけで習得できるものではない。少々大袈裟な表現かもしれないが、彼女の生きざまがあの声に滲み出ているからこそ、観客はその力に惹きつけられるのだろう。もちろん、がなりだけがAdoの強さなのではない。むしろ「永遠のあくる日」のようなバラードをしっかりとスタジアムの隅々にまで届けられる点にこそ、彼女の歌の真の強さが宿っているのだ。


このように、Adoが歌で届け、そしてMCで伝えた想いの強さは、否応なし記に受け手の心に響くものだった。筆者は運よく、1stアルバム『狂言』リリース時にAdoにオンラインインタビューを行う機会を持つことができた。その時期は、既に「うっせぇわ」が世の中を席巻しており、Adoの名前は広く知れ渡っていたが、取材を通して、当時の彼女からは、歌い手として好きな歌を歌っていたらあれよあれよという間にここまで来てしまったというような、若干の戸惑いが残っているようにも感じられた。

しかしこの日、Adoが語った熱いMCを聞いて、あの時から、自信も、確信も、野心も、すべてが何十倍にも増幅したのだということがはっきりと伝わってきた。そして、自分が最も大切にしている日本のボカロ文化、歌い手文化を、もっともっと世界中に広めていくことこそが自分の定めなのだということに誇りを持ち、必ずそれをやり遂げるんだという強い決意と覚悟が感じられた。

「ワールドツアー<Wish>は、私にとってスタートにすぎません。もちろん、夢のような経験、夢のような時間でした。でも私は、日本のアーティストや歌い手が、まだ誰もやったことのない規模のワールドツアーを行うと誓いましたし、私はもっと、世界を目指すつもりです」

「私がいま、ここに立てているのは、歌い手とボーカロイドに助けられてきたからです。歌い手とボーカロイドは私の“心臓”で、かけがえのない存在です。だからこそ、2つの素晴らしい文化がより世界に広まって欲しいと願っていますし、その架け橋になれたらいいなと私は思っています」


そして、Adoは「歌い手とボーカロイドが、この先の未来に輝き続けることを祈って」と語り、先述したように新曲「桜日和とタイムマシン」を初音ミクと共に歌い終えると、さらに強い想いを吐露した。

「私は絶対に、絶対にこの愛する文化を忘れないし、絶対に生涯、愛し続けるって決めました。だから今日のライブが、彼女(初音ミク)と歌ったあの曲が、文化へ恩返しできるひとつのきっかけになったら、とても嬉しく思います」

国立競技場ワンマン<心臓>以降も、5月31日にはなとり楽曲提供による新曲「MIRROR」が配信。7月10日には、同曲も収録された2ndオリジナルアルバム『残夢』がリリースされ、そしてアリーナツアー<モナ・リザの横顔>がスタートしている。

いままでは、Adoの夢をひとつずつ実現していく旅だったと言えるかもしれない。するとここからは、次章の幕開けと言っていいだろう。Adoの闘いは、いよいよ本番を向かえる。我々も心して、彼女の歩みをきちんと見届けていきたい。

取材・文◎布施雄一郎
撮影◎石井亜希/木村泰之/Viola Kam (V’z Twinkle)/VERMILLION

■<Ado SPECIAL LIVE 2024『心臓』>4月28日(日)@東京・国立競技場

01. うっせぇわ
02. Tot Musica
03. ラッキー・ブルート
04. ドメスティックでバイオレンス
05. 愛して愛して愛して
06. 過学習
07. マザーランド
08. ギラギラ
09. 永遠のあくる日
10. 私は最強
11. レディメイド
12. クラクラ
13. ショコラカタブラ
14. Value
15. Hello Signals
16. いばら
17. 唱
18. 踊
19. 新時代
encore
20. DIGNITY w/ 松本孝弘
21. 行方知れず
22. 逆光
23. FREEDOM
24. 桜日和とタイムマシン w/ 初音ミク
25. 心という名の不可解

■<Ado JAPAN TOUR 2024『モナ・リザの横顔』>

07月14日(日) 大阪・大阪城ホール
07月15日(月/祝) 大阪・大阪城ホール
07月20日(土) 新潟・朱鷺メッセ
07月21日(日) 新潟・朱鷺メッセ
07月27日(土) 広島・広島グリーンアリーナ
07月28日(日) 広島・広島グリーンアリーナ
08月03日(土) 愛知・ポートメッセなごや 第1展示館
08月04日(日) 愛知・ポートメッセなごや 第1展示館
08月17日(土) 北海道・真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
08月18日(日) 北海道・真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
08月31日(土) 千葉・LaLa arena TOKYO-BAY
09月01日(日) 千葉・LaLa arena TOKYO-BAY
09月07日(土) 宮城・セキスイハイム スーパーアリーナ
09月08日(日) 宮城・セキスイハイム スーパーアリーナ
09月15日(日) 福岡・マリンメッセ福岡 A館
09月16日(月/祝) 福岡・マリンメッセ福岡 A館
10月12日(土) 神奈川・Kアリーナ横浜
10月13日(日) 神奈川・Kアリーナ横浜


▼open / start ※全日程
公演1日目:open15:30 / start17:00
公演2日目:open14:30 / start16:00

▼チケット
・VIP席:¥20,000(税込/特典付き)
・ファミリー席:¥15,000(税込) ※着席指定席
・S席:¥15,000(税込)
・A席:¥10,000(税込)
・車椅子席:¥15,000(税込)
※3歳以上チケット必要/2歳以下入場不可
※ファミリー席のお申し込みの方は、必ず3歳〜12歳(小学生以下を対象)とのご来場をお願いいたします。当日お子様のご年齢を確認させて頂く場合がございます。
(問 / チケット)https://faq.l-tike.com/contact/0119/0262/
(問 / 公演)ディスクガレージ https://info.diskgarage.com/

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