【インタビュー】抜群の歌唱力とキュートな表現力、韓国ネットシーンからCielA、日本上陸

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韓国ネットシーン発の女性シンガー、CielAが注目度を上げている。

2015年からカバー楽曲をYouTubeに投稿しはじめたCielA。力強さと繊細さを併せ持ったボーカル表現、そして楽曲の雰囲気とリンクした衣装やメイクを施した映像によって音楽ファンの心を掴んできた。

2024年2月からはボカロカバー・シリーズがスタート。第1弾「少女A」(椎名もた)に続く第2弾「ロキ」(みきとP)ではミュージック・ビデオもCielA自身がディレクションを担当し、歌、映像の両面で魅力をアピールしている。BARKS初登場となる今回のインタビューでは、これまでのキャリアを振り返りつつ、「少女A」「ロキ」のカバーについて語ってもらった。



──BARKSでの初インタビュー、よろしくお願いします。

CielA:(日本語で)よろしくお願いします。私は外国人なので、ちょっとバタバタしたところがあるかもしれません。もしわからない日本語があったら翻訳機を使ってお返事します。

──ありがとうございます。というか、めちゃくちゃ日本語うまいですね。

CielA:そうですか?よかったです。

──まずは音楽に興味を持った時期のことを教えてもらえますか?

CielA:音楽というより歌ですね。すごく小さい頃から、歌うと周りの人から誉め言葉をもらっていたし、「あなたは歌が得意ですね」と言われて。何かの集まりがあると「ここで歌って」と言われるんですけど、私は迷わず前に行って歌っていました(笑)。そんなこともあってどんどん歌が好きになりましたね。その頃はたぶん、幼稚園で学んだ英語の童謡とかが多かったのかな。

──10代の頃はどうだったんですか?

CielA:ビルボードのランキングに入っている曲を聴いていました。いちばん好きだったのはアヴリル・ラヴィーンです。中学の頃、アヴリルは私の大統領でした。

──大統領っていいですね。アヴリル・ラヴィーンのどんなところが好きだったんですか?

CielA:小さい頃からロックとポップが好きだったんですけど、少女時代のCielAにとってアヴリルは本当にカッコよかったし、今も大好きです。スモーキーアイ(メイク)もよかったし、特に3枚目のアルバム(『ベスト・ダム・シング』)のすべての歌詞が気に入っていました。繊細でつらさを抱えていて、どうすれば自分を救えるかもわからなくて。その混乱した心を正直に表現しているなって思っていました。そのほかですと、レディオヘッド、アウル・シティーはリリースされていたアルバムをすべて聴きました。当時は韓国の音楽もほとんど聴いてなかったですね。最近は韓国と日本の歌しか聴かなくなってます(笑)。

──韓国、日本の好きなアーティストは?

CielA:ベテランの歌手の方ですがイ・ソニさんの歌が好きです。最近のアーティストですとアン・イェウンさんのボーカルに憧れていますね。日本の音楽では、私がいつもカバーさせてもらっているサブカルチャーの歌を聴くことが多いです。アニメの曲もそうですし、Spotifyのプレイリストだったり、ボーカロイドの曲も調べまくって聴いています。ボカロを初めて知ったのも10代の頃で、韓国版のボーカロイドが発売されたのがきっかけでした。そのときは何も知らなかったので「ロボットが歌ってるってすごい」と思ったのですが(笑)。それからしばらく経って、大学生になってからまた聴くようになりました。好きなボカロPは伊根さん、r-906さん、ピノキオPさんなど山ほどいます(笑)。日本の歌手の方ではAimerさんがいちばん好きです。私とボーカルのスタイルがまったく違うので、逆に憧れがあるんですよ。



──なるほど。カバー動画を発表するようになった経緯を教えてもらえますか?

CielA:初めて投稿したのはミュージカル俳優になりたくて、そのために大学受験の準備をしていた時期ですね。大学には合格したのですが、そのすぐ後に足を怪我してしまって手術を受けなくてはいけなくなって。結果的に1年休学したのですが、まだ若かったこともあって耐えられないほど憂鬱でつらくなってしまったんです。そのときに「とにかく何かを残したい」と考えて、まず、お小遣いを全部使ってマイクを買いました。Blue Yetiというマイクなのですが、今も記念に持っていますけど、それを使って当時いちばん聴いていたザ・バンド・ペリーの「If I Die Young」のカバー音源を録音したんですよ。それを聴いて「これは私ひとりで聴くのはもったいないな」と考えるようになったのが、カバー動画を発表するようになったきっかけです。今聴き返してみると、大したクオリティではないのですが(笑)。

──最初に投稿したプラットフォームは?

CielA:韓国の歌ってみたコミュニティです。いろいろな歌い手のカバーを聴いて「ポップな曲は合わないかな」と思ったので、アニメ「東京喰種トーキョーグール√A」の「季節は次々死んでいく」(amazarashi)をカバーしてアップしました。amazarashiさんは韓国で日本のサブカルチャーや音楽が好きな人はみんな知っていて、特に男性に人気があるような気がします。歌詞がカッコよくて、私も大好きなんですが、「季節は次々死んでいく」をアップしたら、聴いてくれた人たちが「あなたの歌声が好きです」と言ってくれて。受験準備に疲れていた心が癒されたし、そこから趣味としてカバーの投稿を始めるようになりました。

──歌を本格的にやっていこうと思ったきっかけは何だったんですか?

CielA:6年前にも「ロキ」を歌ったのですが、そのときの反応を見て、ちょっと真剣になったんですよね。YouTubeにアップしたのですが、日本の方からも「君にはこの歌がいちばん似合う」みたいなコメントがいっぱい集まって。初めて少しバズったのもうれしかったですね。あと、歌の仕事のオファーをくれた人から「あなたは身体的な表現も良い」と言われたんですよ。その人から「顔も才能のひとつだから、ぜひ顔を出して映像を撮ってみて」とアドバイスをもらって。顔出し映像を撮り出したのは、そのときからです。

6年前の「ロキ」カバー

──CielAさんの歌ってみた動画は、楽曲の雰囲気やテーマに合わせたメイクやファッションも印象的です。ビジュアルには相当こだわってますよね?

CielA:いちばんこだわっているところですね。サブカルチャーの歌のビジュアルは、イラストがメインじゃないですか。顔出しするようになったときに「サブカルチャー的な感じと合わないかもしれないな」と思ったし、聴いてくれる人に「退屈だな」と思われるのもよくないなって自分なりにいろいろ悩んで、ミュージカル俳優みたいに、楽曲に合わせて自分なりのストーリーやキャラを考え、シチュエーションを作って、服を探して撮影するようになりました。もちろん好き嫌いはあると思いますが、何よりも私が楽しいので、これからもこの形で作っていきたいですね。

──コスプレに近いところもありそうですね。

CielA:そうですね。コスプレはやったことがないけど、確かに近いところはあるかも。オタクなので、この方式はすごく合ってると思います。

──学生の時に学んだミュージカルの勉強も役に立っているようですね。歌のレッスンもやっていたんですか?



CielA:やっていました。受験の準備のときもそうだし、大学でも教授から個人レッスンを受けていて、最近も1年に1~2回はレッスンしてもらっていて、そのたびに「どうしてそんな発声なの!」って怒られてます(笑)。

──(笑)ご自分のボーカルについてはどう捉えていますか?

CielA:そうですね…韓国語には「感情線」という言い方があって、感情の流れを表す言葉なんですけど、歌うときはそのことをいちばん気にしているし、それが私の良いところだと思いたいです。ジャンルでいうとロックがいちばん歌いやすくて。むしろバラードはちょっと難しいですね。

──音楽、サブカルチャー以外で気になっていることや好きなものというのは?

CielA:えーと、お茶が好きですね。以前は専門的に研究して飲んだりしてましたが、「喉にいちばんいいのは水かも」と思ってからは、ちょっと我慢してます(笑)。日本にはいいお茶が多いから、行くたびに買ったりしてますけどね。あとはもっとキレイにカメラに映りたくてカメラの勉強をはじめたり。ダンサーさんの映像を観ることにも興味があります。自分もたまに“踊ってみた”をアップするんですが、もともと運動音痴なんですよ(笑)。なので踊りの上手な韓国のアイドルだったり、日本のみなさんの踊っていたカバー、ストリートダンサーの映像を観るのが好きで。

──ぜんぜん時間が足りないですね。

CielA:そうなんですよ。最近は自分の活動だけで本当に時間が足りなくて、ゲームしたりアニメを見る時間もなかなか取れないので。もちろん好きでこの活動をやっているので大丈夫なんですが、ちょっとでも時間があるとアニメ観たりしてます(笑)。最近よかったのは「ダンジョン飯」ですね。

──オタク活動も大事ですよね。それにしてもCielAさん、本当に日本語がお上手ですね。どうやって学んだなんですか?

CielA:勉強したことは特にないんですが、日本の歌を歌ったりアニメや映画を観て覚えたことも多いです。最近は1週間に2回ぐらい私のYouTubeのチャンネルで生配信をやっていて、日本のみなさんもいっぱい観てくれていて、チャットにも入ってくれるので、翻訳機を使いながらやり取りを続けているうちにここまで話せるようになりました。日本語と韓国語は文法が似てるので覚えやすいんですよ。

──ボカロカバーでも日本語の発音が完璧ですが、第1弾は「少女A」(椎名もた)。この曲に対するCielAさんの印象は?

CielA:先ほど「10代の頃にボーカロイドを知った」という話をしましたが、「少女A」はその頃に初めて聴いたんです。当時は「不思議な曲だな」という印象でしたが、改めて聴いてみると「本当に繊細な曲だな」と。だから自分で歌うときも、その繊細な感じを活かすために努力しました。普段の私の歌い方ではロックになり過ぎるというかちょっと強すぎるかもしれないなって。とにかく歌詞の繊細さをダメにしたくなかったんですよね。

──歌詞のどの部分に繊細さを感じていたんですか?


CielA:いちばん最後の「僕が僕であるために」という歌詞ですね。繊細な人は生活のなかで緊張することも多いだろうし、そのたびに悩みながら対応も違ってくると思うんですよ。この曲の話者(主人公)はそれを不安に感じているんだけど、最後は「自分は自分でいたい」と歌うんです。私に似たようなところがあるので、余計にこの歌詞が好きになったんだと思います。

──映像ではセーラー服を着てますね。

CielA:タイトルが「少女A」なので、少女として歌わなきゃという考えがありました。この年齢でセーラー服を着るのはメンタル的にきつかったんですが(笑)、やはりこれが正解だろうと思いました。


──そしてボカロカバー第2弾は「ロキ」。さきほど「6年前に歌った」という話もありましたが、最初に聴いたのはいつだったんですか?

CielA:大学生の頃に歌ってみたコミュニティの友達が「この曲めっちゃいいよ」とお勧めてしてくれて。私も一聴して「いいな」と思い、その週末に家に戻って急いで歌ったんです。当時はレコーディングできる時間が週末しかなかったので、とにかく急いで録ってアップしなきゃと思って。

──それくらい惹かれた楽曲だった、と。今回「ロキ」をもう一度カバーすることになったのはどうしてだったんですか?

CielA:U/M/A/A(レーベル)のスタッフの方から「ボカロのカバー楽曲をリリースしてみませんか?」という提案をいただいて。候補曲を選んでミーティングしたのですが、そのとき私が持っていったのが「ロキ」だったんです。最初に歌ったときはまだ顔出ししてなかったんですけど、ファンの人たちも好きな曲だから、きっと喜んでくれるんじゃないかなって。6年前よりも歌は上手くなっているはずだし「大丈夫だろうな」と思いながらレコーディングしたんですが、思った以上に難しかったですね。6年前にリスナーのみなさんが気に入ってくれたのは、私の歌のグルーヴや強弱の付け方だったと思ってるんですよ。今回もそれを意識して歌ったんですけど、「以前は発音が雑だったから、ノリで歌ってたところがあったんだな」と気付きまして。いろいろ試しながら歌ったのですが、予定してた倍の時間がかかりました。ちょっと苦労しましたが、結果的に今回の「ロキ」のほうがもっと好きですね。

──すごくダイナミックだし、感情表現も豊かで、素晴らしいボーカルだと思います。ミュージック・ビデオはCielAさんがディレクションを担当したそうですね。


CielA:「この曲のミュージック・ビデオは自分で作ってきます」と言いました(笑)。ロケ場所を探して、コンテを書いて、衣装やメイクもやって。撮影から編集まですべて自分でやりました。ここまで本格的なミュージック・ビデオを作ったのは初めてですが、オリジナル曲のミュージック・ビデオのコンセプトやコンテは自分で作ってきましたし、YouTubeチャンネルにアップしているカバー動画も私が撮って編集してるんですよ。

──それも“歌ってみた”カルチャーですよね。「ロキ」のミュージック・ビデオのコンセプトは?

CielA:「部屋に引きこもって、「目の前に観客がいる」と想像しながらひとりでコンサートをしている人」がコンセプトです。歌詞の内容と自分の状況を合わせた感じですね。私もいつも部屋にいて、レコーディングしたり映像を撮ったりしてるので。外に出るのは依頼を受けてレコーディングするときくらいかな(笑)。

──完全なインドア派(笑)。ミュージック・ビデオにはギターを演奏するシーンも。

CielA:楽器を弾きながら歌うことに憧れがあって。ギターを買って練習したのですが、上手く弦が押さえられないです。



──(笑)「ロキ」はライブでも盛り上がりそうですが、これまでのCielAさんのライブの経験というと?

CielA:何回かやったことがあります。自分で歌い手を集めてイベントを開いたことあるし、知り合いの歌い手から誘われたこともあって。去年はU/M/A/Aさんに呼んでいただいて、日本で小さなライブもやりました。「ロキ」もぜひ舞台で歌ってみたいですね。原曲はデュエット曲なので、どうしょう?と今から悩んでます(笑)。

──「少女A」「ロキ」のカバーをきっかけに日本のリスナーからの注目度はさらに高まると思います。この先やりたいことは?

CielA:カバーはたぶん一生やっていくと思います。日本のサブカルチャー…特にボカロ曲の持っているジャンルの幅、多様な感情線、実験的なところなども大好きなので。オリジナル曲もこれから増やしていきたいです。今や韓国語の歌詞作りをやっていますが、今後は日本語でも歌詞を書いてみたいですね。100%助けが必要だと思いますが、いつもひとりでいろいろ考えている方なので、それを歌詞として表せたらいいなと。



──歌詞を通して、CielAさん自身のことも伝わっていきそうですね。ご自分の性格についてはどう感じていますか?

CielA:けっこう内向的な方だと思います。人が多いところだったり、初めての人と会うときは緊張するし、疲れやすくて。なるべく(緊張や疲れが)表に出ないように気を付けています。ただ、親しくなった人たちは心を許しますし、その人だけの道化師になることもありますね(笑)。

──仲良くなると「面白い人なんだな」ってことになる、と(笑)。将来的にはどんなアーティストになっていきたいですか?

CielA:やりたいことはたくさんありますが、聴いてくれる人たちの生活の隙間、隙間に入って、力を与えられるようなアーティストになりたいといつも思っています。歌というのは、普段言い尽くせないような感情や状況を表現できるし、それを聴くことで皮相的な考えを整理して、晴らすこともできる。それが歌のいちばんいいところだし、私自身も幼い頃から助けてもらってきて。だからこそ私も、リスナーのみなさんの助けになるような歌が歌えたらなって。これからもいっぱい頑張って、いい歌を歌っていきますし、ライブもたくさんやりたいです。

──これからの活動に期待しています。ありがとうございました。

取材・文◎ 森朋之
編集◎BARKS編集部




「ロキ」
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「少女A」
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