【インタビュー】I love you Orchestra Swing Style、メロウでチルなアルバム『Proud Story』完成「これが創りたいんだろうな、これだったら戦えるな」
◾️刺激が欲しいからできあがった作品
──『Proud Story』は、前作以降に配信リリースされた曲も半分ぐらい入っていますね。
白水:そうですね。それと、昨年の夏に「Burnout」でコラボしたタイのCopterくんが来日してて、misatoちゃんも交えて1回ライブをやったときに会場限定で先行販売した作品も入ってます。だから前作からここまでの作品集という感じが強いですね。所謂アルバムとしてコンセプチュアルにどうっていうことはそこまで考えてなかったんだけど、ただ『Fantastic Daybreak』を創り終わってから今回の『Proud Story』に向けて、「これぐらいの歌ものと、これぐらいのチルの配分で」っていう枠組みだけ最初に組んだというか。2年前からそれに沿って曲を創りだした感じですね。
──前作の後、最初にリリースしたのが、2022年に配信した「Chamomile」ですね。
白水:このトラックは元々、昔ジム君がソロで創った楽曲が抜群にイケてたんで、それを改めて清書した感じですね。今回のアルバムはサンプリングを多用していて、この曲も女性の声が入ってるから人によっては歌ものに感じるのかもしれないけど、僕らの感覚としては楽器として声が入ってる感じですね。
──次の曲「Doze Off」は“うたた寝”の意のタイトルですが、これもサンプリングで
声を入れてるんですか。
白水:そう、これもサンプリング。たぶん前作がリリースされた直後くらいのタイミングで今回参加してくれているシンガーたちに声をかけ始めたんだと思うんだよね。で、海外のアーティストが多いし次のリリースまで当たり前に時間空いちゃうからね、先にチルをリリースした流れですね。
──アジア各国のアーティストが参加した曲について教えてください。まずタイの俳優/SSWのCopterさんと、日本人女性シンガーMisato Onoさんが参加した「Burnout feat. Misato Ono & Copter」はどうやってできた曲ですか。
白水:原曲はジムくんですね。仮歌も入れた状態で、最初にMisatoちゃんにオファーして。バリバリのコロナ禍だったからZOOMで曲の雰囲気とか方向性とか話しながら何回かラリーして、男性の声も入るとより深くなっていいかもねっていう話になって、それでCopter君にオファーしたんです。Copter君ともオンラインでやり取りをしてたんだけど、この曲の制作はわりとスムーズでしたね。Copter君はタイで超絶活躍しているアーティストで、日本でいうとたぶんリキッドルームとかそんな規模感でいつもライブをやってらっしゃいますね。
──この曲は、〈Words I said~〉から曲調がメジャーな感じになる展開が面白いなと思いました。
白水:あそこ面白いよね。元々ジム君の原曲のアレンジがそうなっていて、このタイミングで男性ボーカルが入ると最高だねっていうことで。
──台湾のシンガーソングライター・Osean(オーシャン)が参加した「Love Song 2023 feat. Osean」もリモートで音のやり取りをした感じ?
白水:そうだね。相手によってラリーの回数は結構違っていて。そういう意味で言うと、Osean君は結構センシティブというか、「じっくりやろうぜ」っていうタイプのアーティストで、だからこの曲は結構時間がかかったかな。ただ、まぁこれまでやってきた海外アーティストとの制作の経験値もあるし、逆にじっくりやるのも楽しめたので。ちゃんと完成に至って良かったです(笑)。
──今はそうやって直接会わずにやり取りをして、曲を完成させるアーティストが増えていると思うんですけど、具体的に海外のアーティストとはどうやってコミュニケーションしているんですか。
白水:メール、LINE、WhatsAppとかが多いかな。お互い母国語じゃなくて英語でやり取りするからさ、伝え方もなるべくシンプルにわかりやすくっていう気遣いをお互いがしてる感じというか(笑)。ただ音楽の細かいニュアンスの話になってくると、「これってどういう意味だ?」みたいに厄介なこともあるので、そこはじっくりやっていくのが良いですね。相手にエージェントがいるときは、本人とエージェントと僕とこっちのレーベルのスタッフがいるグループLINEみたいなもので話したりとか。
──「On My Right feat. Urworld」も同様な制作方法で?
白水:Urworld(ユアワールド)君はタイのサブカルチャーで活躍しているアーティストで、同じタイでもCopter君はメジャーシーンの人って印象かな。やり方は一緒だね。今回の歌ものは「On My Right feat. Urworld」と「Lip-sync feat. nene」の原曲が僕、「Love Song 2023 feat. Osean」と「Burnout feat. Misato Ono & Copter」の原曲がジム君…かな…たぶん(笑)。ちょっと記憶が定かじゃないんだけど、たぶんコード進行的に(笑)。
──曲を聴くと「ああ、俺っぽいコード進行だな」みたいなところがある?
白水:いや、単純にジム君の方が使ってるコードがしっかり難しいんで。僕のはわりと単純なんですけど(笑)。
──アルバム1曲目の「Lip-sync feat. nene」は、「Night Distance feat. mahina」以来の全編日本語詞による女性ボーカル曲ということですが、「Night Distance」のことは意識しました?
白水:んー、頭によぎりはしたけど、日本語だからって意味で「Night Distance」を意識しようとかっていうことはあんまりなかったかな。neneちゃんの声が本当に良いので、それをどう活かすかっていうところが一番重要だったので。レーベルスタッフと2人で色んなシンガーさんの声を聴いて、その中でああ是非この人とやりたいなって感じたのでお願いしました。
──「Night Distance」でのmahinaさんのボーカルはちょっとR&Bっぽいニュアンスもあるんですけど、「Lip-sync」のneneさんはもっと声を張らない感じの歌い方で、そこに時代が変化している感じを受けました。
白水:確かにあんまり張っていない歌い方だよね。ただ「Night Distance」もmahinaの中では張ってないのかもですね。今回はウィスパーってまではいかないけど、neneちゃんの歌のそういう部分に強く惹かれたのかもしれないです。
──ところで、アルバムには白水さん、ジムさん以外の楽器プレイヤーは参加しているんですか?
白水:いや、基本全部僕らだけで。今回はドラムも打ち込みじゃなくてサンプリングが多いかな。鍵盤はサンプリングだったり自分達で弾いたり。あ、SALVALAIのエマくんに弾いてもらったのもあるかな。
──どの曲も、ベースプレイヤー、ギタープレイヤーとしての2人をあんまり前に出してないですよね。
白水:まぁやっぱり一番大事なのは楽曲だからね。プレイヤビリティーが必要なら出すし、必要ないなら出さないってだけで。例えばKAGEROだったらベースで圧殺しねえとってなるからああやって弾くわけで(笑)。そこはプロジェクトだったり楽曲によって違うってだけですね。
──「Lip-sync feat. nene」は後半の英語パートのところで、ヒップホップ・トラックっぽいハイハットのチキチキチキッていう音が入っていて、単なる歌ものじゃないところが良いなって。
白水:僕らのサンプリングの礎になっているのってローファイ・ヒップホップとかなんで、やっぱりこういうアプローチを差し込みたくなるんだよね。でもハットについてはレーベルスタッフに「これうるさくないですか?」って言われてよく揉めますけどね(笑)。
──この曲のハーモニーはneneさんのアイディアですか?
白水:そうですね。neneちゃんは本当アカデミックにも強いアーティストさんなので、コーラスのハーモニーとかもすごく上手いですね。
──先行リリースもされていますけど、反響はいかがでしょう。
白水:やっぱり「Night Distance」が好きな人には今までの中でも一番ハマるみたいですね。あれからずっと英詞の曲だったので「やっときた!」みたいな感じもあるみたいで。
──アルバムを通してすごく穏やかな音が楽しめる作品だと思いますけど、それは今の白水さん自身の感情も表れている?
白水:いやいや、自分自身の感情はあんまり関係ないかな。むしろ今、僕自身に刺激が欲しいから出来上がった作品、って感覚ですね。
──それは「刺激的な音」という意味じゃなくて、これを出すことによって得られる反響とが刺激になるということ?
白水:今回のCopter君の参加なんてまさにそうなんだけど、目に見えるリスナー数とかの数字がちゃんも出れば、やっぱり大きいアーティストにオファーしやすいじゃないですか。それがどんどん広がっていくのは刺激的で楽しいよね。ILYOSSの反響がある国はSpotifyだと台湾、アメリカ、東南アジア。Apple Musicは日本。だから「Lip-sync feat. nene」はApple Musicが強いですね。
──昨今、グローバルチャートの上位に日本人アーティストが入ったり話題になることがありますけど、今白水さんがやっているプロジェクトで、より大きく世界にアプローチしたいとかグローバルチャートインを目標にやりたいとかそういうことはないんですか。
白水:う~ん、なにかのチャートに入ったよって言われたら嬉しいなとは思うけど、それ自体を目指してやるもんでもないかなって思うんですよね。今、音楽の他にバイトとかしないで生きていけてるんで、別にこのまま死んで行ければいいのかなって(笑)。
──いや、そう言うかなとは思ったんだけど(笑)、思ってもみなかった刺激を受けられる可能性だってあるじゃないですか?
白水:ああ、なるほどね。まあ20代前半ぐらいで今の数字が出せていたら、そういう野望とか抱いたのかもしれないけど(笑)。今はなによりひとつひとつの作品の精度を上げることが一番かなあ。プロジェクトごとの説得力を上げたいってすごく感じてるんですよ。いろんな音楽をやってるからさ、それが浅く広くになるんじゃなくてね。ひとつひとつその土壌の深いところまでやりたいなって。だからこうやってチャートに入るような音楽を創りながら、KAGEROみたいなバンドもやってるっていうのが自分的にすごく刺激的で。創りたい音楽はいろいろあって、だけどただ手を付けるだけじゃなくて、ちゃんとひとつひとつを深いところまで持って行けるように。今は健康的なメンタルでそっちに向かって行ってますね。今年は特に先々決まってる話とかもあるから楽しみが多くて、今2024年が2ヶ月終わったばかりだけど「まだ3月かよ、長えよ」って感じるくらいには日々充実したフィールで。前は「色々なものを創ってるから全部聴いて欲しい」って感覚が強かった時もあったんだけど、今は「チルいILYOSSが好きで、でもKAGEROは殺気が強すぎて…」って人がいても全然良くてさ。ひとつひとつのプロジェクトを、それぞれのリスナーが長く愛してくれるのもいいなって思ってます。
取材・文◎岡本貴之
『Proud Story』
税込 2,750円 (本体+税)
発売 : Ragged Jam Records
販売 : 株式会社FABTONE
01. Lip-sync feat. nene
02. On My Right feat. Urworld
03. Fairy
04. Burnout feat. Misato Ono & Copter
05. Chamomile
06. Doze Off
07. Love Song 2023 feat. Osean
08. Summer Dusk