【コラム】原因は自分にある。、初のコンセプトEP『仮定法のあなたへ』から見えた多面的な表現者としての魅力

7人組ダンスボーカルユニット・原因は自分にある。が、3月13日に初のコンセプトEP『仮定法のあなたへ』をリリースした。

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ここでは、EPに収録された6曲について紹介するとともに、原因は自分にある。の表現が各曲において、どのように活きるのかを考察したい。

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2019年7月7日にデビューした原因は自分にある。は、2023年11月、神奈川・ぴあアリーナMMでグループ初となるアリーナワンマンライブ＜因果律の逆転＞を成功させたばかり。デビュー直後、コロナ禍の余波を受けオンライン空間での活動や、配信ライブでファンを楽しませる機会が1年半ほど続いたこともあり、4年目にしてオフラインで一堂に会した初のアリーナワンマンライブは、自然とファンへの感謝を表現する1つの節目となったようにも感じられた。

そのライブで印象的だったのが、メンバーが要所要所で観測者（ファンの呼称）を“みんな”と言うのではなく“あなた”と呼びかけたこと。例えば、本編のラストを飾った「原因は君にもある。」の歌い出しで長野凌大は「僕たちがあなたに歌って、あなたは僕たちに歌ってください」と呼びかけ、最後の挨拶で杢代和人は「メンバーが僕を含めてこの7人で良かったし、何より観測者があなたで、あなたで本当に良かったと思います」と、そこにいる人たち一人一人に対して思いを告げたのだった。もちろん、それ以前から“あなた”に対してメッセージを届け続けてくれている大倉空人、小泉光咲、桜木雅哉、長野凌大、武藤潤、杢代和人、吉澤要人の7人。しかし、グループとしてどんなにステップアップしていこうとも、あくまでも一人一人に対して届けようとする姿は変わることがないのだなということを再確認させられたのが、このライブだった。今まで以上に“あなた”という言葉が、重みを増したように思えたのだ。



そんな彼らが、6つの“if（仮定法）”をテーマにした“あなた”に思いを馳せるコンセプトEPが『仮定法のあなたへ』である。その内容は、まるでマルチバースを冒険しているように、6つの世界を冒険する原因は自分にある。が楽しめるようなもの。実際、収録されている6曲を通して聞いた時に、どの楽曲においても音源の前にいる“あなた”が楽曲に描かれている“あなた”と重なり、共に冒険できるワクワク感を感じた。

また、彼らが4年間で育んだ「2次元と3次元と行き来する存在感」や、インターネットカルチャーと深く結びついた独自の世界観を弾けさせた1枚と謳っていることもあり、レジェンドボカロPや、才華爛発なクリエイターを迎え入れているのも魅力。観測者はもちろん、彼らをまだ深く知らない音楽ファンが聞いても満足度の高い1枚となっている。

さらに、バラエティに富んだ6曲から、原因は自分にある。が持つ多面的な表現者としての魅力を再確認させられたのも事実。3月23日よりスタートする春のホールツアー＜架空のアウトライン＞への期待が高まる内容に仕上がっている。



そんなEPのリード曲を務めたのは、このコンセプトEP全体を表現したと言っても過言ではない「マルチバース・アドベンチャー」だ。同楽曲は、まるでヒーローものを飾る楽曲であるかのようなエネルギッシュさと、ポジティブな方向に前進しているようなメロディが魅力の1曲。歌詞は「もしも、“あなた”が隣にいなくても…」というテーマの元、どこかにいる“あなた”に出逢うためならば、どんな次元も世界線も超えていく勇者になれるといったストーリーを表現。それはまるで観測者にとっての原因は自分にある。かつ、原因は自分にある。にとっての観測者の関係性を表しているようにも捉えられると感じさせた。

作詞・作曲・編曲を担当しているのは久下真音。3次元を生きる原因は自分にある。と2次元世界のアニメーションを融合させたMVのアニメーション部分はAdo「アタシは問題作」などのアニメーションイラストを手がける、えいりな刃物が担当。まさに、楽曲と映像の両方において、リアルとアンリアルを行き交う、唯一無二の表現者・原因は自分にある。を体現した1曲に仕上がっている。

そんな「マルチバース・アドベンチャー」の勢いを受け継いだ2曲目として収録されているのは「ケイカクドヲリ」。彼らにとっても初の試みとなる矢継ぎ早に飛び交うラップ曲で、uno blaqlo、Seiji Iwasaki、高坂はしやんの共作である。この楽曲では、天才的頭脳を持つ科学者と超越した力を持つロボットが、世界に対し意のままに干渉する能力を得るといったストーリーを表現。「もしも、己の正義が悪だとしても“あなた”の為ならば…」をテーマにしている。原因は自分にある。らしい哲学的で一考させられる歌詞となっている。この楽曲で驚くのは、初の試みとは思えない7人のラップ曲との相性の良さだ。これまでの楽曲でラップパートを担当することが多かった大倉空人の力強く、心を揺さぶるフロウが安定的なのは言わずもがな。7人で紡ぐ怒涛のラップリレーは、ライブパフォーマンスとしても映えること間違いなしだ。

そこから雰囲気を一変させ、ピアノの旋律とムーディな雰囲気が魅力の「美しい人」。歌詞に出てくるファムファタール＝運命の人のことを、[You’re like a tuberose]とtuberose＝月下香と言い表しているのが印象的。「もしも、私だけが知っている“あなた”が皆のものだったら…」というテーマにある通り、手に入りそうで、いつまでたっても掴みきれない“あなた”との危険な関係性を表した楽曲だということは、実は月下香の花言葉には官能的、危険な快楽とあることからも予想がつく。これまでリリースした楽曲の中でも、ひときわ大人っぽいこの楽曲が最年少・桜木雅哉が高校を卒業し、メンバー全員がいよいよ大人へと近づいたこのタイミングで収録されているというのもあり、彼らの新たな一面をステージで見られるのではないかと期待が高まる。

一方で「推論的に宇宙人」は、ポップでかわいらしい1曲。2ndシングル「嗜好に関する世論調査」に収録されている「ジュトゥブ」や、デジタルリリースされた当時の彼らの等身大の素顔を描いたとも言われている「チョコループ」などと同様、原因は自分にある。としての世界観ではなく、“真”の姿を表した楽曲に近いのではないかとの印象を受けた。「エイリアンエイリアン」や「太陽系デスコ」などで知られるボカロP・ナユタン星人がクリエイターを務めたこともあり、《アイフォーリン宇宙中中中（宙！）》など独特な言い回しがかわいらしさを助長。「もしも、大好きな“あなた”が宇宙人だったら…」としていることもあり、歌詞の中で予測不能な“あなた”に振り回されている“原因は自分にある。”を想像しただけで、彼ら自身が楽しくパフォーマンスする姿が見られるのではないかと心が踊る。



今回の収録曲の中で、1番初めに先行配信された楽曲「ダイヤモンドリリー」は、1億回再生された「ただ声一つ」や「ハナタバ」などの代表曲を持つボカロP・MIMIが楽曲提供したものだ。「もしも、“あなた”がこの世にいなくても…」をテーマに、「夜にしか開かない」と噂されるお花屋さんにこの世を去ったはずの大切な恋人“あなた”が現れると言う綿密なストーリーを語りかけるような吐息まじりの歌声で表現している。透明感のあるメロディラインと、優しく問いかけるように歌う7人の歌声は儚くて、切ない。《これが　永遠みたいな一瞬なんだってことだけ》という歌詞は、まさに「2人の間の切なく遠くなってしまった距離感」を表しているようで、原因は自分にある。のライブを見に行った観測者の気持ちを代弁しているようにも感じる。

『仮定法のあなたへ』を締めくくるのは「もしも、1000年後の世界で“あなた”の歌が見つかったら…」をテーマとした「誰も知らない歌」。愛とか、恋が古いものとして扱われるようになった惑星に生きる、7人の未来人の青年が“最後の愛の歌”を口ずさみ、1000年前にその愛の歌を歌っていたものの自暴自棄となってしまった女性に、その歌が1000年後も残っていることを伝えようとする奮闘が描かれている。作詞・作曲・編曲は、社会現象ともなったマルチメディアプロジェクト「カゲロウプロジェクト」などの生みの親であるじん（自然の敵P）（ボカロP）が担当していることもあり、架空の世界を細部に至るまで表現した歌詞、そして荒廃した1000年後の世界を想像させるメロディが心を揺さぶる。

この6曲が収録された初のコンセプトEP『仮定法のあなたへ』のリリースから10日後には、全国5都市を巡る春のホールツアー＜架空のアウトライン＞を開催する彼らは、今年5周年イヤーでもある。

5周年イヤーのテーマタイトル“夢現の続き”にふさわしく、リアルとアンリアルの狭間に存在する原因は自分にある。の魅せる「夢のような現実」（“ゆめうつつ”）と、彼らがあの日に見た夢を現実にしていくという意味での「夢現」を、どのように体現し、次の“夢”を示してくれるのか。今年はより一層、目が離せない1年となりそうだ。

文・於ありさ