【インタビュー】お風呂でピーナッツ、トラップとハウスとJ-POPの斬新な融合に「今、本当にやりたい音楽を」
■これを言うのは恥ずかしいけど
■モデルの仕事ってそのまんまそう
──新曲「擬態」は、歌詞も若林さん。どんなイメージで書きましたか。
若林:今回は明確なテーマがあって、それもアレンジに迷わなかった理由かなと思うんですけど、ちょうど読んでいた本にすごく刺激を受けて作った曲で、その本が“懐疑論”について書かれたもので、直接的に“擬態”というテーマに繋がっていくんですけど。内容を自分の解釈で言うと、どんなにコミュニケーションを取っていても、人の中には疑う気持ちが常に消えないということと、生きていく中で“演じる”ということを誰もがやっていて、意識していてもしていなくても“演じる”ということがずっと続くという、そういうことが書いてあって、そこから歌詞を書いたという感じです。今までそういうことは少なくて、内側から出てくる歌詞が多かったんですけど、今回は初めてそういう書き方をしてみました。
──実体験というよりも、哲学的というか、分析的というか。
若林:まぁそうなんですけど、でも日常との繋がりはすごくあるし、その本を読んだ時に自分の中で“そういうことってあるよな”という、今まで自分が体感してきたことを言語化してもらった感覚があったので、それが曲のテーマにも合っていて、そこからふくらませて作っていきました。今回はジャケットワークにもこだわって作ったんですけど、チェスがモチーフになっているんですよ。
──そうですね。白と黒のチェス盤があって、ギリシャ彫刻のような駒が二つ。
若林:それはアーティストのHideoくん(Hideo Daikoku)という人とやり取りする中で、彼が持ち出してくれたテーマなんですけど、チェスもお互いに演じ合って、動き合ってするゲームだし、すごくうまく表現してくれたなと思ってめっちゃ気に入ってます。今回はいろんなものがガチっとはまって、すごく気に入っているんですよね。この作品は全部ブレなかったです、作っている中で。
▲デジタルシングル「擬態」
──樋口さんは、今の若林さんの頭の中のイメージを聞いて、どんなことを思いますか。
樋口:すごく共感するところが多いです。私は防衛本能が強いタイプの人間なので、小さな要素からも不安を感じ取っちゃうし、それを予防するためにうまく立ち回るみたいなところは、常々やっているなと思うんですよね、人と関わる時に。だからあんまりフルタイムで人と一緒にいれないタイプというか。演技というと大げさな気がしますけども、そういうところはあるので、たぶん人とコミュニケーションを取る上で、平均よりは先回りして考えるタイプのような気がするし。あと、この曲を歌いながら重ねていたのが…これを言うのは恥ずかしいけど、モデルの仕事ってそのまんまそうだなと思って。どこか演技しているところはすごくある職業でもあると思うし、リアリティから逸脱した姿で世の中に出る作品というものを仕事にしているので。すごく自意識過剰だとは思うんですけど、私がこれを歌っているのを聴いたら“モデルのことについて言ってるのかな?”と思う人もいるのかなとか思いながら、それは歌詞がどうとかじゃなくて、私が自意識過剰すぎて、ちょっと気恥ずかしくなってしまった部分はあります。これも一種の“演じる”行為なんだろうなと今思ったんですけど、たぶん私は“こう見られたい”像というものがすごく強くあって、そこに向けてどういう要素を出していくか?みたいなところに気を遣ってしまう人間なので。歌詞もしかりで、自分が発するものがどうとらえられるのか、めっちゃ先回りして考えちゃう癖があるので、今“繋がったな”と思いました。
──そこまで読み通して曲を作ったわけですね。若林さんは。
若林:どうなんでしょう(笑)。
樋口:絶対違うと思う(笑)。でも、今の若林くんの本のお話は聞いていなかったので。…普段から歌詞のこと、話さないよね?
若林:話さないね。
樋口:私の場合、急に思春期の子供みたいな気持ちになっちゃうんですよ。自分のものを提出する時も、相手のものを見る時も“ふーん”みたいな感じで、あんまり深入りしないですね、いつも。
若林:今、話しながら思ったのは、あらかじめ共有はしないですけど、俺が歌ってもらいたいニュアンスに対して大きくずれることが今までなかったから、説明していないのかなと。この曲も、全然違う歌い方で来ちゃってたら、説明していたかもしれないんですけど、説明がなくても何か共通の認識は持てているのかな?と思います。そうだし、説明するのは単純に恥ずかしいということもあるし。
樋口:みなさん、話すものなんですかね? 自分の歌詞を説明するのって、けっこう恥ずかしくないですか? 特に、身内に説明するのが恥ずかしいんですよね。こうやってインタビューの場とかで聞いていただく時は、パッケージ化されたストーリーとしてお伝えできるけど、身内で伝えるとなると、私生活のこととも繋がっちゃいそうな感じがあって、ちょっと恥ずかしいのかもしれない。
若林:だからお互い、毎回インタビューしていただいてる時間に、“そうだったんだ”という発見が(笑)。
樋口:めっちゃあります。
──そう言ってもらえると、こっちもやりがいがありますね(笑)。
若林:ありがたいです。
──でも今回の曲は、本当に面白いですよ。「エンドレス」は聴いた瞬間に一発で伝わるキャッチーな曲でしたけど、「擬態」は最初は心地よさと共に謎めいたものを感じて、なんだろう?って聴き込むと細部の音像からいろいろなものが浮かび上がって、歌詞もいろんな解釈ができて、長く楽しみがいのある曲という感じがします。さぁ、ここから始まるお風呂でピーナッツの2024年、今年はどんなふうに活動してくれますか。
若林:今年は純粋に音楽を楽しみたいなという、シンプルな気持ちがありますね。最近はギターを弾いたり、音楽を聴いたり、曲を作るのがすごく楽しくて。去年は楽しいと思う前に“どうやったら聴いてもらえるかな”とか、そういうものをけっこう考えたし、それはこれからも大事にしたいんですけど、今はそれよりも“この音楽って楽しいよね” “俺ってこういうの好きだよね”みたいなことを大切にした活動をしたいなと思っています。
──いいですね。よりシンプルに、自分の心に忠実に。
若林:友達に言われたりとか、作ってきた曲もそうなんですけど、自分のルーツとして、ポップなものを意識しなくてもポップから離れることはたぶんないなということを、すごく感じた2023年でもあって。「擬態」も、ある意味J-POPとして聴き馴染みがある中での自由とか、攻めた部分が入っているのも、そこに繋がるなと思っていて、本当にやりたいことを純粋にやった感覚があるんですね。それが伝わっている感覚もすごくあるので、本当に好きなものをまっすぐやっていこうかなと思うし、だからこそ楽しんでもらえることもあるなと思うし、2024年はもうちょっとわがままに作ってこうかなと思っています。
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