PERSONZ、39周年を締め括る盛大なロック・パーティー
2024年に結成40周年を迎えるPERSONZが、“39周年”(サンキューイヤー)を締め括るライブ<I AM THE BEST TOUR 2023「Year-End Ultimate Rock Party」>を12月30日に開催した。会場は大手町三井ホール。ステージは全方位から客席に囲まれる、舞台・演劇用語で言うところの“出臍”(でべそ)という形。本来のステージから伸びた花道の先端にある張り出し舞台で今宵限りのショーが始まる。
まず、オープニングアクトとして三味線JILL屋と渡邉貢が登壇。今回の三味線JILL屋は、JILL、ななえ(七重)、いぶ(伊吹清寿)という従来の編成に加え、篠笛の玉置ひかりも参加。都会の喧騒が夕闇に溶けつつあるアーバンな雰囲気の中で最初に奏でられたのは、「TRUE LOVE」(1991年)。三味線2本と篠笛、四絃琴(ベース)の生音にシーケンスの旋律が加わり、天井高7メートルという開放的なホールの中でJILLの声が伸びやかに艶やかに響き渡る。三味線JILL屋が奏でる花鳥風月を慈しむ雅な世界が、都会の無機質な空間に温かい彩りを与えているようだ。「笛の音を聴くと春めいた感じ、小春日和を感じますね」とJILLが語るように一足早い春の訪れを感じさせた後、「次は手拍子をお願いします」と「びいはっぴい音頭」が披露される。あの「BE HAPPY」(1988年)を大胆にも音頭にアレンジ、春から一転、夏の盆踊りを思わせる一曲だ。時折、演者の後ろ姿しか見えない後方の観客に向けて唄いかけるなど、JILLは気遣いも忘れない。最後に「2017年夏に浅草のお座敷で初舞台を踏んでから早6年、三味線JILL屋はこれからもっとライブをやっていきたいです」とJILLが意気込みを語り、お囃子衆の3人に拍手を捧げながら送り出した。
気づけばステージ背後の陽はすっかり暮れている。JILLと渡邉はそのまま残り、藤田勉と本田毅が花道を渡って現れる。万雷の拍手喝采。ステージ上の4人の間隔も、ステージと客席の距離感も思いのほか近く感じる。本田がエレアコ仕様、藤田がハンドソニック(藤田いわく“音の出るサイドテーブル”。デジタル・ハンド・パーカッションのこと)を携えていることから、ここからアコースティック・セクションが始まるのが分かる。
1曲目は「TRIUMPH OF LOVE」(2015年)。言うまでもなく24年振りとなる日本武道館公演を目指して生み出されたアンセムであり、困難なときでも希望を見失わず、自分自身を信じ続けることの大切さを唄う歌のテーマは、世界的なパンデミック、紛争の勃発、気候変動など目まぐるしく変転し続ける予測不能な時代にこそ響く。
従来のバンド合奏と比べて音がよりシンプルとなり、アンプの増幅などごまかしも一切効かないアコースティック編成でここまで重厚なアンサンブルを聴かせるのだから、積み上げてきた39年のキャリアは伊達じゃない。ナチュラルなアコースティカル・サウンドでも不屈のロック・スピリットがにじみ出てしまうのは、PERSONZがPERSONZたる所以だろう。また、JILLが「アコースティック・セットのアレンジをどうするかが今回のライブのキモで、だいぶ時間をかけて臨みました」と話していた通り、原曲の良さを損なわぬアレンジがどれも秀逸だったことを明記しておきたい。
第1部のハイライトは、やはりスペシャル・ゲストを招いて共演した2曲ということになるだろう。4曲目で、1人目のゲストが登壇。モデル、歌手、俳優と幅広く活躍し、『みんなで筋肉体操』の出演などで知られる當間ローズは赤いスパンコールのジャケットを身に纏い、登場するなりJILLと熱く抱擁。イタリア、ブラジル、日本の血を引き、ポルトガル語、日本語、英語、スペイン語を駆使する當間とは、“あの曲”をラテン・テイストでデュエットするのが良いのではないかとJILLは思案。そんなMCに導かれて披露されたのは、燃え上がる恋を描いた情熱的なラブソング「月の輝く夜に」(2018年)。當間との縁を繋いだ京都の陶芸家、冨金原塊(工房えんじゅ)が制作した、お馴染みのシルバー・ムーンのオブジェをJILLが掲げながら唄う。當間は2番の平歌をポルトガル語で独唱、サビもポルトガル語でJILLとデュエットする。2人の迸るパッションのぶつかり合いをフロアも強い手拍子で盛り立て、終盤のJILLと當間の歌と身振りの掛け合いは耽美かつ妖艶で絶品だった。最後に2人は再びハグし合い、鳴り止むことのない盛大な拍手喝采が場内に響き渡った。
2人目のゲストは、4月に行なわれた<NAONのYAON 2023>で同じステージに立ちながらも直接の共演はなかった、タレントの千秋。ピンクのベレー帽、鮮やかな緑のチュールドレスにピンクとホワイトのボーダージャケットという洗練された出で立ち。なお、JILLがこの日着用していた赤いチュールドレスも千秋のブランド「エリアCC」のものだという。
千秋は以前、自身のYouTubeチャンネルで「DEAR FRIENDS」(1989年)のカバー動画を公開していたが、高校生のときに軽音学部に所属してPERSONZのコピー・バンドをやっていたとのこと。「どんな曲をやってたの?」というJILLからの問いに「『MIDNIGHT TEENAGE SHUFFLE』(1987年)とか…」と千秋が答えると、「じゃあやってみよう!」といきなり「MIDNIGHT TEENAGE SHUFFLE」が演奏される。予定外の即興演奏に千秋は慌てふためくも、スマホで歌詞を検索して唄う。これには観客も大いに盛り上がり、千秋も「『きっといつかは夢をかなえる』という歌詞があるけど、(PERSONZと共演するという)夢が叶った! あの頃の自分に教えてあげたい!」と話し、感極まっている様子が窺えた。
そんな贅沢すぎる余興を経て、肝心のコラボレーションは「DEAR FRIENDS」(1989年)。それもラテンボッサ風とでも呼べば良いのか、千秋をイメージしたという可愛らしいアレンジが施されたレア・バージョンだ。「そばにいて いつも待っててくれる」と唄う場面ではJILLと千秋が肩を組む姿も。
篠笛の玉置ひかりも、當間ローズも、そして千秋も、みな縁が繋がって同じステージに立てていることをJILLは力説。数えきれない無数の事象が関係し合い、成り立つ出会い。もし無数の事象が一つでも欠ければまた違う出会いになったかもしれないし、そもそもその出会い自体すら存在しなかったのかもしれない。巡り会えた出会いは決して当たり前のことではないし、私たちがこうして日々生活できていること自体、幾重の生起が重なった結果であり、これもまた決して当たり前のことではない。だからこそ尊い。そんなつい忘れがちな大切なことを、PERSONZの歌はいつも教えてくれる。
15分の休憩中に、張り出し舞台の後方席が向きを変え、最前席に。これで全席がメインステージを向く形となる。18時44分に場内が暗転、ステージのバックスクリーンに今回のツアー・タイトルが投影される。続いてメンバー1人ずつ写真と名前が映し出され、個別に演奏を披露していくという小粋な演出。渡邉、本田、もはやお馴染みの鍵盤奏者・おおくぼけい、藤田、そして最後にわがロックンロール・クイーン、冠姿のJILLが神々しく降臨。役者は揃った。待ちに待ったバンド編成のライブの始まりに、怒涛の大歓声と共にフロアは総立ち。バンド・セットの序章を飾る「DRAGON LILY」(2006年、今回は“大感謝祭ver.”)の合奏が本格的に始まると、「ヘイ! もっともっともっと! カモン!」とJILLが観客を挑発する。
「SLEEPING BEAUTY」(1993年)、切なく疾走するメロディアスな曲調の「JUSTIFY」(2002年)と続き、JILLが一旦、舞台袖に捌ける。暗転の中でレジスターと硬貨の効果音が鳴り響き、ピンク・フロイドの「MONEY」を喚起する気怠いムードのインストゥルメンタルが奏でられる。自作の“Money”帽子とストール、ゴールドのマネーガンを持ってJILLが姿を現すと、「FUNNY MONEY」(1988年)のイントロが。なるほど、そう来たか。JILLが持参したトランクをバーンと開け、そこに入っていた紙幣の束を勢いに任せて客席へ向けて撒き散らす演出にも納得する。
「みなさん、今日のスペシャル・パーティー、楽しんでいますか? 懐かしい曲を行きます!」と、時代は一気に36年前へとプレイバック。ファースト・アルバム収録の「REMEMBER」(1987年)のイントロが奏でられ、一際大きな歓声が巻き起こる。客席の大部分を占める、今や日本社会の支柱となる世代がただ夢見ていた“Eyes Of Children”の時代へ戻れる時間だ。そのまま矢継ぎ早に「LUCKY STAR」(1987年)へと繋ぎ、夢のプレイバックは止まらない。 その後、ガムランの音色に導かれて「DREAMERS ONLY」(2015年)が始まる。不安な夜を塗り替えて、砕けない夢を夢見て、傷つき倒れそうでも立ち上がり挑んでいく。「自分を信じる心 抱きしめて」。そう唄われる「DREAMERS ONLY」は癒し系ならぬ肥やし系、心の糧となる歌だ。そう考えるとPERSONZの歌はどれも唄うお守りなのかもしれない。
老いも若きもOiコールで拳を突き上げ、興奮冷めやらぬなか、“B, B, E-S-T, B-E-S-T, Go!”という今やすっかりお馴染みとなったリフレインが聞こえてくる。本編最後は本ツアーを象徴する一曲、「I AM THE BEST」(2020年)。バンドは最後の力を振り絞って渾身のプレイを聴かせ、JILLは張り出しの舞台まで詰めかけて最後の最後までオーディエンスを煽り、終幕と相成った。忌々しいコロナ禍を経て3年越しのツアー開催という悲願のリベンジを果たしたことの喜び、達成感をバンドと観客が共に分かち合えた瞬間だった。
当然の如くアンコールを求める歓声が鳴り響き、待望の新曲「FLOWER OF LOVE」について言及。「これからもバンドを続けて花を咲かせたい。ずっと音楽を続けていたらみなさんという花が咲いてくれました。みなさんがPERSONZの曲を育ててくれた」。そう語るJILLは、この「FLOWER OF LOVE」を1月25日にデジタル・リリースし、それ以降、毎月新曲を届けようと考えていること、それが溜まれば1枚のアルバムにしたいと考えていることを告げた。そうして披露された「FLOWER OF LOVE」は、如何にもPERSONZらしく実にポジティブな、聴き手を鼓舞するように快活なナンバー。PERSONZの新たなクラシックとなる風格をすでに兼ね備えた一曲と言えるだろう。
「PERSONZは大器晩成型なのかな? 今は何も怖いものがない。みんなでハッピーになりましよう!」とJILLが話し、“ラララ…ララ…ラララ…”と観客とのコール&レスポンスを経て披露されたのは、オープニングで披露された音頭ではなくオリジナルの「BE HAPPY」(1988年)。JILLは再び張り出しステージまで駆けつけて絶唱し、本田が渡邉のもとへ駆け寄って一緒にジャンプしながらプレイする様が微笑ましい。場内の揺れが凄い。初期楽曲の無垢なパワーが聴き手を無垢の笑顔にして無邪気に踊らせるのだろう。
その後、JILLは「今年ほど死を身近に感じた1年はなかった」と、この2023年が数多くのバンド仲間が他界した悲痛な1年だったことを明かした。「正直、自分たちだっていつまでこのバンドを続けられるかわかりません。でも、もし私がどこかで倒れて二度とバンドをやれなくなったとしても、そこで悔いがないと言い切れるバンド活動を普段からしていたい。だから来年もまた…私たちに会いに来てください!」
大歓声で応えるオーディエンス。そのリアクションを受けてJILLは続ける。「言霊ってありますからね。ここで言っておきます。私は100歳まで唄い続けます!」。そう高らかに宣言し、披露されたのは「THE SHOW MUST GO ON」(1993年)。この曲を今日この場でプレイすることこそ数多くの仲間たちを見送ってきた彼らならではの大いなる決意表明であり、志半ばで倒れた仲間たちへのレクイエムであり、この日のライブにおけるハイライト、一番の見せ所に思えた。JILLもそれに相応しい声の張り上げを聴かせ、尋常ならざる歌唱力の高さに圧倒される。
さて、宴もたけなわだ。3時間半に及ぶ究極の“Rock Party”の締め括りは「DEAR FRIENDS」(1989年)。千秋と當間ローズを呼び込み、1番の平歌を千秋が、2番の平歌を當間がそれぞれ独唱。間奏のギターソロで本田が初めて張り出し舞台へ駆け寄り、終盤の“Wow, wow, wow, my best friends”の大合唱では、JILL、千秋、當間の3人が張り出しへ出向いてフロアとの境界線をなくす。全席から届く“Wow, wow, wow”、圧倒的一体感。「2024年もまた一緒に唄おうね!」というJILLの掛け声と共にアウトロへ加速、大団円を迎えた。
“THE SHOW MUST GO ON”、人生もショーも悔いの残らぬように最後まで最善を尽くして全うしたい。結成40周年の節目に向けてそう宣告し、表現者としての覚悟を明示したPERSONZの2024年は、いつか大輪の花を咲かせる日を夢見て絶えず疾走を続けるのだろう。寒苦に耐えて咲く梅や椿のような美しさ、可憐さ、揺るぎない強さを身に纏い、PERSONZの自己ベスト記録更新は続く。
Text:椎名宗之
Photo:アンザイミキ
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