【インタビュー】関取花、EP『メモリーちゃんズ』に刻む今「風のように音楽をやっていきたい」

ポスト


■ 無駄なものは入れない

──2曲目「ナナ」は、フォトグラファー・大畑陽子さんの写真集「Nana」からインスピレーションを受けて制作されたそうですが、この写真集にはどのように出会ったんですか?

関取:元々、大畑さんとはお仕事でご一緒させていただいたことをきっかけに知り合っていて。ちょっと前に大畑さんのおうちにお邪魔させていただいたことがあったんです。ちょうど大畑さんが「Nana」を作られたちょっとあとだったので、大畑さんの手から写真集を買いたいなと思って。それで、家に帰ってから写真集を見てみたんですけど……気づいたらこの曲ができていた、くらいの感じでした。

──何がそこまで、関取さんを突き動かしたのでしょうね。

関取:この写真集は「みんなに見てほしい」と思う反面、私なんかが言葉にするのは野暮だなと思っちゃう感じなんですけど……。「Nana」は、近所に住んでいるナナちゃんという子の、めちゃくちゃ簡単な言い方をすると、成長記録なんです。まず、その距離感が絶妙なんですよね。家族でもなく、自分の子供でもなく、大畑さんにとってナナちゃんは年の離れたお友達で。そんなナナちゃんが、最初は撮られることも何も気にしていないんです。本当に無邪気に、草っぱらで寝転んだりしていて。でも、ページをめくる毎に少しずつ時は過ぎて、少しずつ歳を重ねて、カメラに向ける笑顔が、くしゃっとした満面の笑みではなっていくんです。照れが出てきたり、愁いを帯びた表情が出てきたり……少女が少しずつ女性になっていく過程を感じるし、洗練されることで加わっていく美しい輝きがある一方で、消えてゆく、子供時代だけの特別な輝きもあって。誰にどう見られているかをまったく気にしていない、「私がこれをやりたい!」だけで生きることができていた輝きが、少しずつ薄れていく。ページをめくっていると、白紙のページが来るんです。そして、それをめくると、制服を着てすっかり女性になったナナちゃんの写真が出てくる。ヘアスタイルもバッチリ決めて、お化粧もして、そして、制服というオリジナルなものではない、ある意味では「型にはまる」ときに渡されるものをまとったナナちゃんの姿を見たときに、涙がボロボロと出てきて。いろんな感情が沸きました。寂しさと、「こんなに綺麗な女性になったんだ」という喜びと。すごく遠くに行ってしまった感じもするし、でも今の私には制服を着ているナナちゃんの方が感覚的には近い気もするし。何がいいのか悪いのかもわからない。人が社会というものに適応していくなかで失っていくもの、手に入れていくものが、まったく言葉の説明なく、全部そこにあるような気がしたんです。

──本当に、いろんな気持ちがこみ上げてきそうな写真集ですね。

関取:ほんとに。今話しているだけで鳥肌がたってくるくらい。

──3曲目「すきのうた」は弾き語りですね。

関取:この曲は、部屋でポロポロと弾き語りをしていたら呟くようにできた曲なんですけど、基本的なスタンスとして、「弾き語りで十分だな」と思ったものには、無駄なものは入れないです。19歳のときに出したデビューアルバムの1曲目も弾き語りだったし。音楽的にいろいろ入っていたほうが偏差値は高く見えるのかもしれないけど、「本当にそれって、かっこいいか?」とも思う。

──「すきのうた」は、配信シングルとしてリリースされた際のジャケットもすごくよかったですね。

▲「すきのうた」配信ジャケット


関取:本当に。世界一愛おしいジャケットですよ。テーマソングをやらせていただいているラジオ(『パンサー向井の#ふらっと』)のコーナーで出会った子たちに描いてもらったんです。「すきのうた」は、そこで出会った子供たちと話してできた曲でもあったので。子供たちとは結構しっかりと話したので、最初は「〇〇ちゃんにはこれを描いてもらおう」ってお願いしようとしていたんですけど、よく考えたら、「あのとき話したことがすべてなわけないじゃん」と気づいて。それって当たり前のことなんだけど、仕事脳になると、どうしても忘れちゃうんですよね。だから、「とにかく、みんなが好きなものの絵を描いて」とだけお願いしました。みんなそれぞれ違うんです。犬一匹、お花一輪とっても、それぞれ描き方が違うから、違うものみたいで。まさに、子供たちに感じる輝きそのものだなと思いました。愛しさで胸がぎゅーってなって、家で見たとき、泣いちゃいましたね。


──そして、「明大前」と「障子の穴から」のライブ音源なんですけど、この2曲は、アルバム『また会いましたね』収録曲の中でも曲が生まれた時期が古かった曲なんですよね。

関取:ああ……それ、今気づきました(笑)。単純に、ライブ音源を聴き返して自分でドキッとしたのがこの2曲だったんですよね。「上手くやろう」じゃなくて、「外しても飛んでもいいから、全部ぶつけよう」ってやっている感じが、すごく自分に刺さったんです。

──そして、最後のMCなんですが……これ、いいですよね(笑)。MCが収録されると聞いて、エモーショナルで感動的なMCが入ったりするのかなと思ったんですけど……。

関取:いやいや、もう(笑)。そんなことは全然ないです。こういう部分含めて、今の自分のスタンスっぽいかな、と思ったんですよね。胸がきゅっとなるような新曲が3曲あって、心を抉り取るようなライブ音源が2曲あって、「最後はなんだろう?」となったときに、MCになっちゃったっていう(笑)。基本的に、明るい曲も暗い曲も、嫌なこともいいこともあるけど、結局は今がよければいいよね、ということは昔から共通してあるような気がしていて。過去だけを歌っている曲も実はそんなにないし、今だけを歌っている曲もなくて、全部ひっくるめてのことだったりするんですよね、私の曲のテーマは。今回収録したMCも、ちょっとしたズッコケ話から光のある方向に行くのがちょうどいいかな、と思いました。

▲E.P.『メモリーちゃんズ』ジャケット


──このEPは谷口雄さんと一緒に回るツアー<関取二人三脚>で販売されるということですが、どのような経緯で決まったツアーだったんですか?

関取:谷ぴょんとふたりでやるのって、イベントとかでは一緒にやったことはあったんですけど、自分のワンマンではなかったんです。一番一緒にやってきた歴が長いサポートメンバーで、プライベートでも仲がいいんですけど、この2023年という1年を考えたときに、弾き語りツアーがあって、「メモリーちゃん」と「ナナ」を鍵盤のいないバンド編成で録って……となったときに、谷ぴょんと何もしない1年というのは、自分にとってすごく変な感じがして。それで「やりたいな」と思ったツアーなんです。それに、フルのバンド編成でのライブっていつでもできるわけではないから、「メモリーちゃん」や「ナナ」を弾き語りでも、ふたり編成でもできるようになっておきたい、というのもありますね。ライブはライブの楽しみ方があるよっていうことを、お客さんにも伝えられたらな、と思います。

──最後に、「メモリーちゃん」の“ちゃん”がもたらす、メモリーに対しての距離感がいいなと、個人的に思いました。この“ちゃん”に込めた思いはどのようなものですか?

関取:単純に可愛いからっていうことなんですけど(笑)。そもそも「メモリーちゃん」は仮タイトルで付けていたものなんですけど、「メモリー」だけだと過去だけのものという感じがして、センチメンタル要素が勝っちゃうなと思ったんです。それよりも「あの時があって、でも今も楽しいよね」という現在進行形のニュアンスがでるようなもので、尚且つ、「あなたのおかげで今の私があります」みたいな重さがない距離感を考えたとき、「メモリーちゃん」のままでいいなと思ったんです。



取材・文:天野史彬
撮影:大橋祐希

  ◆  ◆  ◆

New E.P.『メモリーちゃんズ』

PROS-1029
¥1,500(tax in)
2023年11月15日発売
※ユニバーサルミュージックストア、およびライブ会場限定販売
※紙ジャケット仕様
ご購入はこちらから https://store.universal-music.co.jp/product/pros1029/

1.メモリーちゃん(ドラマ「カメラ、はじめてもいいですか?」主題歌)
2.ナナ
3.すきのうた
4.障子の穴から(関取独走 ver.)
5.明大前(関取独走 ver.)
6.おまけMC

<関取 花 2023 ツアー “関取二人三脚”>

11月25日(土)
東京・ダンスホール新世紀
【開場/開演】17:00/18:00
【Info.】ホットスタッフ・プロモーション
(TEL:050-5211-6077 受付時間:平日12:00~18:00)

12月9日(土)
京都・磔磔
【開場/開演】17:00/18:00
【Info.】SOUND CREATOR
(TEL:06-6357-4400 受付時間:平日 12:00〜15:00 ※祝日を除く)

12月10日(日)
名古屋・JAMMIN’
【開場/開演】17:00/18:00
【Info.】ジェイルハウス
(TEL:052-936-6041 受付時間:平日 11:00~19:00)

【チケット料金】
全自由:¥4,500(税込) / 当日券:¥5,000(税込) 
※ドリンク代別

チケット一般発売 / 10月14日(土)10:00〜

この記事をポスト

この記事の関連情報