【インタビュー】関取花、EP『メモリーちゃんズ』に刻む今「風のように音楽をやっていきたい」

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関取花が6曲入りEP『メモリーちゃんズ』を、ライブ会場とユニバーサルミュージックのオンライン販売限定でリリースした。販売形式的にはファンアイテムと捉えられるかもしれないが、もしかしたら、この作品を聴いて「自分の好きな関取花がここにいる」と思う人は多いかもしれない。バンドサウンドで録られた「メモリーちゃん」と「ナナ」という2曲の新曲に、弾き語りで録られた新曲「すきのうた」、そして「明大前」と「障子の穴から」のライブ音源に、まさかのMCまで収録。一見雑多なこの作品は、しかし、関取花というアーティストの多面的な魅力を、さりげなくも見事な手捌きでパッケージングしている。ここに関取花のすべてがあるような気がしてくるし、同時に、これはこれで断片なのだ、という気もしてくる……そんなリアルな作品である。コンパクトなところも、いい。

今、とても自由に、軽やかに、音楽活動ができているという、関取花。そんな彼女の今が刻まれたEP『メモリーちゃんズ』は如何にして生まれたのか、話を聞いた。

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■やっぱり“もの”は欲しい

──EP『メモリーちゃんズ』は、バンド録音あり、弾き語りあり、ライブ音源あり、MCありで、多面的な関取さんの魅力が凝縮されている印象があります。何故このような作品を作ろうと思われたのでしょうか?

関取花:大体、CDを作るとなると「これくらいの時期にこういう作品を作ろう」という話が事前にあるんですけど、今回はそういうスケジュールがあったわけではなくて。最初はタイアップ曲として作った「メモリーちゃん」を1曲だけ配信として出す予定だったんです。でも、他にも「ナナ」や「すきのうた」という曲たちはできていたし、その2曲もすごく気に入っていて。なので、曲をできた順に配信で出すことにしたんです。

──「ナナ」、「すきのうた」の順番でリリースされましたね。この2曲が配信リリースされたのは、事前に決めていたことというより、もっと突発的なことだった?

関取:そうなんです。そもそも、私はすごくCDが好きなミュージシャンで、作品は「もの」として手元にあってほしいし、歌詞カードを見てほしい、クレジットを見てほしいタイプなんですよね。なので、配信だけで出すことはそんなにしてこなかったんですよ。やったとしても、クレジットを見なくてもわかる弾き語りの曲がメインで。でも、せっかく今は配信という形があって、「今聴いてもらいたい」と思うものをすぐに出せる環境があるのであれば、やってみても面白いんじゃないかと思って。私も普段聴き手として配信を利用しているわけだし。それで出したのが「ナナ」と「すきのうた」なんですけど、そのうえで、「やっぱり“もの”は欲しいな」と思って(笑)。すごく好きな曲たちだから。

──なるほど。



関取:でも、今CDはファンコンテンツになりつつあるわけで、それなら今回はライブ会場限定とネット通販限定にしよう、と。一般的なCDショップには並ばないけど、「こういう新しいやり方があってもいいんじゃないか?」って。なので、今回のCDは作りながら、その場で思いついたことをスタッフさんと相談して実現させていった感じなんですよね。「せっかくだから6曲くらい入れようか」「ライブ音源を入れてみようか」……そういうことも全部、作りながら決めていったんです。

──事前にカッチリと決め込むのではなく、その場その場で出てくるアイディアを咀嚼しながらの作品作りって、作り手の成熟した意志がないとできないことのような気もします。様々な経験を経たうえでの今の関取さんだからこそ、こういう作品を作ることができたのかな、と。

関取:そうだと思います。この『メモリーちゃんズ』という作品は、1年前の自分ではたぶん出すことができていない作品だと思う。「こうしなきゃいけない」とか「私はこういうスタンスなんだ」というものに囚われていたものが解放されて、今、「とりあえず、やってみよう」と思えている実感はあるんですよね。今は「何をやっても関取花の作品になる」という自信がついているからこそ、こうしてフラッシュアイディアを形にすることを恐れなくなったのかなと思う。

──関取さんの今の軽やかさに至る歩みというのは、ご自身から見てどのようなものですか?

関取:私はインディーズで活動していた期間が長かったので、2019年にメジャーデビューしたときは、インディペントじゃない人との繋がりで作品を作ったり、今まで使ったことがないような大きなスタジオで作品を作ることを敢えて選んだんです。その経験は絶対に積んでおいたほうがいい、と思ったので。それはミュージシャンというよりは社会人として「そういう試みをしてみたい」と思っていた部分もあるんですけどね。そのとき決めていたのは、メジャーで1枚目のフルアルバムはいろんな方とお仕事をして、「自分はポップスをどこまでできるか?」を試してみる、ということ。やってみたうえで、再生数が増えること、ライブの動員が増えること、有名になること……「どれが自分は嬉しいと思うか?」を自分に問いかけたくて。

──結果として、メジャー1stアルバム『新しい花』は様々なプロデューサー陣と組んだ豪華な1作になりましたが、関取さんがそこで出した答えはどのようなものだったんですか?

関取:「やっぱり私はライブが大好きだな」と思ったんです。それなら次のアルバムは、ライブを一緒にやっているメンバーとセルフプロデュースで絶対に作ろう、と決めて。それが前作のアルバム『また会いましたね』。そこまでの流れは、私の中でスタンスを決めて動いたことだったんですよね。1枚目はいろんな人とポップスを作って、2枚目はセルフプロデュースで作るって。で、それらが終わって、「……ふぅ」って(笑)。ちょっと一息ついてみたうえで、「さあ、どうしよう?」と。2枚のアルバムを作ったうえで私が思ったのは、プランがなくても後先考えずに動くことができる地力が欲しい、ということだったんです。

──地力ですか。

関取:「明日ライブあるよ、いける?」と聞かれた時に「いけます」と応えることのできるミュージシャンって、時代的にどんどん減ってきていると思うんです。若い方は特に自分の見せ方を考えるし、そのための準備をきちんとするから。そういう部分は若い方たちをすごく尊敬しますけど、私はもうちょっと風のように音楽をやっていきたくて。そのための地力が欲しいな、と思ったんです。今回の『メモリーちゃんズ』は、そんな思いから出てきている作品、という感じもしますね。

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