【インタビュー】ダグ・アルドリッチが語るザ・デッド・デイジーズ・ベスト・アルバム
photo by David Pear
10月31日に大阪・梅田クラブクアトロ、11月1日に東京・渋谷Spotify O-EASTでの公演を控えているザ・デッド・デイジーズ。今回の来日公演については、バンドの創設者であるギタリストのデイヴィッド・ローウィーが諸般の事情により不参加となることが数日前に公表されたばかりということもあり、突然の出来事に困惑しているファンも少なからずいることだろう。しかし不安を感じる必要はない。そもそもライヴ・バンドとして名を馳せてきた彼らのパフォーマンスは、去る8月から続いてきた北米ツアーを経ていっそう脂の乗った状態にあるはずだし、デイヴィッドの代役を務めるのが元バックチェリーのヨギだという事実もあるだけに、従来の彼らのライヴとはひと味違った刺激を期待したくなるところでもある。
しかも現在、バンドには、あのジョン・コラビが復帰を果たしている。そして2016年以来このバンドを支え続けているギタリスト、ダグ・アルドリッチと彼とは1980年代から旧知の関係にあり、ダグは「ザ・デッド・デイジーズを始めたのはデイヴィッド。ただ、ジョン・コラビこそがこのバンドの“顔”というべき存在だと思う」と語っている。
筆者がダグと話したのは、日本列島が酷暑から抜け出せずにいた頃のことだ。実は彼とは、ライオンの一員として彼がデビューした当時からの付き合いで、初めてインタビューしたのは1986年2月のことだった。しかも偶然にも僕らは誕生日が同じだったりもする(2月19日。ただし、ダグのほうが3歳下にあたる)。あの当時まだ22歳だったはずの彼も来年には還暦を迎えることになるわけだが、その心境を尋ねてみると、次のような答えが返ってきた。
photo by Oliver Halfin
「誰もが言うことだけど、年齢なんて単なる数字。確かに60というのは結構大きな数字ではあるけど(笑)、自分では今も若々しいロックンロールのヴァイブを持っているつもりだし、それはキミもきっと同じだろう? 今も音楽が大好きで、キッズの頃から夢中だったものを愛し続けている。実際、俺たちの憧れたヒーローたちは今やほとんどが70代になり、80代に差し掛かっている人たちもいるくらいだけど、彼らを見ていると、俺たちの世代ももっともっと頑張るべきだと思えてくる。そういえばこの誕生日は、ブラック・サバスのトニー・アイオミとも一緒なんだよ(注:アイオミは1948年の同日生まれ)。まだまだこの先の道のりは長いものだと俺は思っている」
そして、ロックンロールの歴史に敬意を払いながら、時流に囚われることなく普遍的なハード・ロックをプレイし続けてきたザ・デッド・デイジーズの歴史も、いつのまにか10年を超えている。始動は2012年、1stアルバムの発売は2013年のことだった。彼らの現時点での最新アイテムは、去る8月に登場した『BEST OF』というそのものズバリのタイトトルを伴った2枚組ベスト・アルバムということになるが、まさしく彼らにとって最初のディケイドを総括する作品であると同時に、ある意味、ライヴと直結するものになっている。ダグはこのセレクションについてこのように語っている。
photo by David Pear
「俺自身は最初からここにいるわけではないけど、バンドにとって10周年というのは大きな節目となるものだし、その地点を通過することには大きな価値があると思う。その記念すべき年にベスト・アルバムを出すというのは理に適ったことだと思うし、歴史の途中からこのバンドに興味を持ち始めてくれた人たちにとっても最適なものなんじゃないかな。とはいえ、特に凝ったことをしているわけじゃないんだ。CD2枚分の曲を選ぶのもさほど難しいことではなかったし、自分たちがどんなバンドであるかを示せるようなライヴをするためのセットリストを組んでいる感覚に近かった。つまり、「俺たちはこういうバンドだから是非観に来てくれ」とアルバム自体が訴えているんだよ(笑)」
初期からのファンにとってこうしたアルバムの登場はある種の感慨を伴うものだろうし、これまで切っ掛けに恵まれずに来た人たちにとっては、この2枚組が絶好の入口になることだろう。また、このアルバムには“「The Healer」「Let It Set You Free」という未発表曲が収録されているが、それについて訊いてみると、次のような回答が返ってきた。
「ご存知の通り、前々作の『HOLY GROUND』(2021年)と前作の『RADIENCE』(2022年)ではグレン・ヒューズがヴォーカルを担当していたわけだけど、実は前々作を作った後で、次はコンセプト・アルバム的なものを作ってみようか、という話をしていたんだ。ところがパンデミックの余波もあってツアーも含めていろいろと計画変更を余儀なくされていく中で、コンセプトのことはいったん忘れてもっとルーツに立ち戻ったものを作ろうという話になり、結果的に前作はもっとロックンロール然とした作品になった。で、その時に「これはちょっと感触的にディープ過ぎる」という理由でアルバムから漏れたのがあの2曲だったんだ。俺の過去をよく知っているキミならばわかってもらえるはずだけど、特に「The Healer」のほうはスーパー・ヘヴィでシネマティックな曲。バッド・ムーン・ライジング時代の『BLOOD』(1993年)というアルバムに近い感触があるよね。「Let It Set You Free」もメロディはビューティフルだけどダークな曲だし」
ダグのそうした発言に同意し、ことに「Healer」にはサウンドガーデンを思わせるところがあると伝えると、彼は「その指摘は完全に的を射ていると思う」と言い、さらに次のように発言を続けた。
「あの『BLOOD』という作品はまさにグランジの時代に作ったものだし、それまでのバッド・ムーン・ライジングらしさを維持しながら時代に適合したサウンドを探した結果のようなところがあった。あの当時、グランジ/オルタナティヴについて否定的なことを言うミュージシャンがこの界隈には多かったけど、それは単純に、そうした新しい流れが世の中を変えてしまったことに起因していて、それこそサウンドガーデンのような素晴らしいバンドもいたし、アリス・イン・チェインズにもいい曲がたくさんあった。すべてのバンドがクールだったとは言えないけど、俺自身、純粋に音楽的な意味においてはそういったバンドにも惹かれる部分が当然のようにあった。「The Healer」には確かにそれに通ずるものがある。特にブラック・サバス的なあのギター・リフのあり方についてはね」
photo by Oliver Halfin
興味深いのは、そうした匂いのする「The Healer」と、日本盤のみのボーナス・トラックである「Oh Well」が、このベスト・アルバムの中で違和感なく調和していること。この曲はフリートウッド・マックの1969年の楽曲のカヴァーだが、その解釈は1980年代的とも1990年代的ともいえる。ダグいわく「あのお馴染みのリフをレッド・ツェッペリン風にアレンジしてみたら、むしろ少しホワイトスネイクの「Still Of The Night」っぽくなった」とのことだったが、こんな具合にさまざまな普遍的要素を自然に融合させながら、現代ならではのクオリティで体現しているところも、ザ・デッド・デイジーズの魅力だといえる。
そんな彼らの日本公演が、今回も必見であることは言うまでもない。そしてダグ自身も「日本でプレイすること」をとても大切に考えているようだ。最後に彼は、この国に対する想いを次のように語ってくれた。
「それこそキミと初めて話をした時から、もう37年ぐらい経っているんだよ。俺はこれまでの人生を通じてたくさんの人と出会ってきたけれど、そうした素晴らしい出会いが日本では特にたくさんあったし、その多くが大切な友人になった。常にサポートしてくれるそうした友人たちに日本に行くたびに会えるのはとても嬉しいことだし、ちょっとした挨拶を交わせるだけでも俺にとってはすごく意味がある。そんなみんなと再会してハグをすることが楽しみでならないし、それはファンに対しても同じことだ。みんなにはいつも感謝しているし、今回また大阪と東京で会えるのを楽しみにしているよ」
ザ・デッド・デイジーズ『BEST OF』
最後に少しばかり取材時の余談を。今回はZOOMを通じての会話となり、ダグ自身は自宅にいたのだが、彼の視線の動きから、近くに誰かがいることを察した僕が「もしかして、そこに誰かいるんですか?」と尋ねると、画面の脇から姿を見せたのは7歳になる彼の娘さん。父親が画面に向かって取材に応える様子が面白かったのだろう。ダグが「日本のファンに挨拶をするかい?」と尋ねると、彼女は照れくさそうに「コニチワ」と言い、父親からの「好きな食べ物は?」との質問には「スシ」と答えていた。
そして、すべてのやり取りを終えた後、ダグは「今回のことは本当にごめん」と言ってきた。その言葉を聞くのはすでに3~4回目だったが、実は今回は取材の予定時刻に彼がつかまらず、開始が大幅に遅れたのだった。こちらとしては話さえ聞ければ何の文句もないし、遅延の経緯は尋ねずにいたのだが、彼がちょっと恥ずかしそうな表情で明かした理由は、なんと居眠りだった。彼は「実は今日、リモートでの仕事が結構続いていたんで、その合間にちょっと休憩しようと思ったら迂闊にも眠ってしまってね。起きてみたらメールやメッセージがたくさん届いていてびっくりした」と言い、さらに「本当にごめん」と繰り返した。こんな正直さもダグ・アルドリッチという人物の魅力のひとつである。
今回は大阪、東京での二夜のみの公演だが、この機会に是非、ザ・デッド・デイジーズというバンドの稀有さを体感して欲しい。加えて、東京公演のみではあるが、この日のために特別に結成されたカヴァー・セッション・バンド、THE MIDNIGHT ROSESの出演も見逃せないところである。
取材・文◎増田勇一
◆ザ・デッド・デイジーズ・ツアーサイト