【インタビュー】ハナフサマユ、自身の“好き”を描き切った全11曲「変わらぬ心を持って、酸いも甘いも表現できたら」
■“♪主人公は僕だから。”
■一番最後にしっかりもう一回言いたいなと
──ラブソングも多く収録されていますが、「ボーイフレンド」「プリンセスになって」は、ドラマ『カラ恋』(『今夜、わたしはカラダで恋をする。』)への書き下ろし曲です。『カラ恋』には、Season1で主題歌を3曲書いて、さらにスペシャルドラマ『今夜、わたしはカラダで恋をする。Season2』で主題歌を2曲(「ボーイフレンド」「プリンセスになって」)書き下ろしたことになりますけど、その制作を通して影響を受けたことはありましたか。
ハナフサ:Season1の時は、ドラマの映像を見せてもらって作ったんですけど、今回は台本だけがあって、監督さんにイメージを伺って作っていきました。「前回ほどドラマに寄せすぎない歌がいい」という要望もいただいていたので、台本を読みつつも、自分の中で2人の未来を想像して描いていって。Season1の時の作り方とは違ったので、勉強になりましたね。「ボーイフレンド」は、なかなか自分の経験からは生まれない恋愛を歌っていたり、「プリンセスになって」はすごくかわいい曲になったり。私ひとりではたぶん書けなかったと思うし、新たな扉を開かせてくれた気がします。
──新しい扉を開く中で、苦戦したこともありました?
ハナフサ:「ボーイフレンド」は、歌い出しでもあり、サビの始まりでもある“boyfriend”という言葉が全然出てこなくて時間がかかりました。ここにハマる言葉が絶対に何かあると思って…確かカラオケにこもって作っていたんですけど(笑)、夜中にもいろんな言葉を試しながら歌っていって。“boyfriend”という言葉が浮かんだ時に、“あっ、もうこれしかない!”と思って決めたんです。逆に「プリンセスになって」は、書く時点でイメージが掴めていたので、早かったんですけど。「ボーイフレンド」は、悩みに悩みましたね。全然ややこしい言葉ではないんですけど、これが出てこなかったんですよね。本当によく出てきてくれたなと思います。
──イントロなしの歌始まりなので、特に重要な部分ですよね。今回のアルバムは、歌から始まるパターンが結構多いですが、それは意識的に?
ハナフサ:曲を作る時に、私がイントロを欲しいと思っていない曲に対しては、歌始まりでそのままアレンジに提出させてもらっていて。この歌詞で始まりたいとか、この言葉からもインパクトを与えたいと思う時は、あえて入れていないことが多いですね。逆に、「好きなこと好きなだけ」は、イントロを足したりもしました。今はイントロがなくなってきている時代と言われている中で、私は結構イントロが入っているのが好きなんですけど。曲に対してのアプローチとしてはイントロがないものも好きだし、両方に良さがあると思います。
──アレンジといえば、「ハコニワ」はジャジーなテイストで、グッと惹き込まれました。
ハナフサ:弾き語りで曲を作った時点では、わりとロックというか、ガツガツ歌うようなイメージで作っていたんですよ。でも、結構攻めた内容の歌詞なので、音はおしゃれにしてギャップを持たせるのはどうだろうというアイデアが出て。それならジャズ寄りにしたいですということでお願いしました。楽器隊のレコーディングには私も行かせてもらったんですけど、その場でちょっとエレキのリフが増えていったりするのがすごくカッコよくて。うまくギャップを出してくれたと思います。
──間奏のピアノソロや、セッションのままフェイドアウトするアウトロがカッコいいですよね。ちょっと毒っ気がある歌詞ですが、この曲も“酸い”のほうを描いたんですか。
ハナフサ:そうですね。好きなことをやりたいと思っていても、それを隠してしまう人がたくさんいるんじゃないかなと思って。たぶん、自分の“好き”を隠して誰かに従って生きることのほうがラクだから、小さな箱庭の中でうずくまってしまうような気がしたんです。
──“♪どうしようもない 自己防衛 馬鹿ばっか”など、強い言葉がグサッときます。
ハナフサ:そうですね(笑)。歌詞で見るとそうなんですけど、歌い方としては、リズムに乗って歌ってるので。歌詞を見て、“まさか「馬鹿」って歌っているとは”って気づく人もいると思います。わりと韻を踏む言葉を探して作りましたし、さらにジャジーでおしゃれなサウンドで、怖い曲だと思われないような感じにしたかったんですよね。
──そして、歌詞で面白いと思ったのは「Farfalla」。セルフライナーノーツに“推しがいる人に聴いてほしい”とあって、なるほどと思いました。
ハナフサ:応援歌のイメージで作り始めて…最初は“ファンファーレ”という言葉が浮かんで、頑張る人を応援するみたいな感じにしていたんですけど。“ファンファーレ”は今までに使ったことがある言葉だったので、同じような響きの言葉を探していたら、この“Farfalla”がヒットしたんです。イタリア語で蝶という意味なんですけど、誰かにとって、その応援している対象が輝いて見えたり、自由に空を舞っている蝶のように見える瞬間があるんじゃないかなって。自分が影になり、風になり、一人の蝶を舞わせるために全力で頑張るみたいな、そういう方たちへの応援歌になりました。
──今、誰かを推すことが当たり前のカルチャーとしてあるし、共感できる人は多いと思います。それも、ひとつの“好き”のかたちですよね。ハナフサさんも“推し事”はあるんですか?
ハナフサ:私自身が、何かを推しているっていうことはないんですけど。漫画が好きだから、漫画を読みながら“頑張れ!”と思うことはあります。あと、テレビとかで推し活が紹介されているのを観ていたら、そこに出てきた方々がすごいパワーを持っていて。好きな人たちを輝かせるためにすべてを懸けている姿がカッコいいと思ったんです。でも、たぶんご本人たちはそのカッコよさに気づいていらっしゃらないと思うので、だからこそ焦点を当てたくて作りました。
── 一方で、最後に“♪主人公は僕”と歌う「僕のストーリー」という曲があって。アルバムを締め括るに相応しい、強いメッセージのこもった曲ですね。
ハナフサ:これは、アルバムに入れることが最初に決まった曲なんです。制作中、ずっと軸としてあった曲ではあるんですけど、なんとなく最後だとは思ってなくて。でも、アレンジが出来上がって、レコーディングが終わって全曲揃った時に、“絶対にこの曲が最後だな”と思いました。最初から大事にしていた曲ではあるんですけど、本当に大事な存在になってくれたというか、しっかりアルバムを締め括る曲になってくれました。
──歌詞に書かれているのも、楽しいことだけではなくて。ちょっとネガティヴなところからスタートして、それを含めて肯定してくれる流れも素敵です。
ハナフサ:この曲は…“♪雑に飲んだトマトジュース お気に入りのシャツを赤く染めてため息”という部分がありますけど、本当にトマトジュースを落としたことから始まったんです(笑)。トマトジュースは好きなんですけど、それをこぼして、バーッと服にかかってしまって。“もう最悪!”と思ったところから、“じゃあ、そのまま曲にしよう”って書いたんです。そこから、前半はわりと早めに書けたんですけど、そのあとにどう繋げていていくかですごく悩みました。「僕のストーリー」というタイトルから映画とかけて、“♪カットがかかったままの映画の続きを探しにいこう”と結びついて、ようやく終わりが見えて。サビの部分もどうしようか悩んだ記憶があります。
──まさか実話から始まっていたとは。
ハナフサ:トマトジュースをこぼしていなかったらできていない曲だと思います(笑)。
──“♪主人公は僕だから。”というワードは?
ハナフサ:そこは決まっていました。はじめは、一番最後の部分が“主人公は僕だ”で終わってたのが、制作チームからの意見もあって“僕だから。”に変えたという経緯はあります。やっぱり、“僕だから。”ってしっかりもう一回言いたいなと。
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