【インタビュー】ハナフサマユ、自身の“好き”を描き切った全11曲「変わらぬ心を持って、酸いも甘いも表現できたら」
ハナフサマユが9月20日、メジャー3rdアルバム『バートレット』をリリースした。2020年にメジャーデビューを果たし、2021年に『Blue×Yellow』、2022年に『結晶』と、意欲的にアルバムをリリースしてきた彼女は、アコースティックギター弾き語りからスタートしつつ、前述の2枚のアルバムを通して、ソングライターとしてもシンガーとしても新しいことに挑戦し続けてきた。
◆ハナフサマユ 画像 / 動画
3rdアルバム『バートレット』は、改めて“自分の好きなもの”にフォーカスした作品だ。“好き”をまっすぐ表現した楽曲「好きなこと好きなだけ」から、情熱的なラブソングの「ボーイフレンド」、“好き”を押さえつけられる憤りを歌う「ハコニワ」など、自分らしく生きていくために背中を押してくれる11曲の“好き”の揃い踏み。原点であるアコースティックギターの音色も多く豊かに盛り込まれ、自身の生き様も刻まれたアルバムの完成だ。果たして『バートレット』がどのように出来上がっていったのか、じっくり話を訊いた。
◆ ◆ ◆
■好きなことを言葉にしたり表現しなかったら
■いつの間にか何が好きかわからなくなる
──『バートレット』は、どういうアルバムにしようと思って制作を始めたんですか?
ハナフサ:今回、アルバムを作ることが決まってから、最初にタイトルを決めようと思って。その時に、“自分は何が好きなのか”ということを考え始めました。 そうしたら、洋服が緑系で溢れていたとか、好きな果物は洋梨だから、それも黄緑だということに気づいて。さらに、アルバムが発売される9月の誕生果がバートレットという洋梨で、その果物言葉が“変わらぬ心”ということを知ったんです。音楽を、変わらぬ心を持って届けたいという気持ちと、バートレットの特徴である“甘味と酸味が調和した味”というところも繋がって。自分の“好き”をいろいろ詰め込みながら、その中に酸いも甘いも含めて表現できたらいいなという思いで制作を始めました。
──どんどん繋がっていったんですね。もともとバートレットという洋梨のことは知っていたんですか?
ハナフサ:知らなくて、9月つながりで調べて見つけました。9月の誕生石や誕生花を調べていた時に、誕生果もあることを知って、花言葉のように果物言葉もあったんですよね。バートレットという響きにも惹かれて、もうピンときちゃったんです。絶対これがいい!と思いました。
──なるほど。タイトルから作ることは、今までもやったことはあるんですか?
ハナフサ:先にタイトル名を決めて、アルバムのコンセプトを考えて作っていくのは初めてでしたね。そもそも、アルバムタイトルを収録曲のタイトルから持ってこないのも、前回が初めてだったくらいなので。
──前アルバムの『結晶』は、「作っていく中でテーマが見えてきた」ということでしたね。
ハナフサ:そうです。曲たちが揃ってから、浮かび上がってたので。今回は、逆にアルバムタイトルが決まってから、それにふさわしい曲を作ったり、もともとあった曲を引っ張り上げてきたりして。酸いと甘いのバランスも考えて選んでいきました。
──『結晶』では“人生”がテーマで、大きい視点の楽曲も多かったので。だからこそ、今作ではパーソナルなコンセプトになったんでしょうか。
ハナフサ:前アルバムでも自分がしたいことや好きなものは盛り込んでいたんですけど。『バートレット』では、より自分が何をしたいか、何を伝えたいかに向き合っていく中で出来上がった感じでしたね。だから、前作が気づかせてくれた部分もあると思います。ありがたいことに、毎年アルバムを出させてもらっているので、自分が好きなもののイメージがよりぎゅっと濃くなってきたのかもしれないです。
──1曲目の「プリムラ」はアコギの弾き語りでスタートしていて。弾き語りはハナフサさんの原点ですけど、意外とアルバムが弾き語りで始まるのは初なので、ご自身の近いところで鳴っている音楽という印象を受けました。
ハナフサ:アレンジをお願いする時に“アコギで始めてほしい”と伝えたわけではないんですけど、こういうかたちで出来上がって。その音を聴いた時に、1曲目は絶対「プリムラ」だと思いました。曲の持っている力と、メロディが耳に馴染む感じが、自然とアルバムの幕開けにフィットしたというか。確かに、どちらかというとピアノで始まる曲のほうが多いので、“ギターの弾き語りなんだ”って言われることはありますね。そういう意味では、またちょっと違う色を見せられればいいなと思っています。
──サウンドはすごく爽やかなんですけど、歌詞は少し切なくて。
ハナフサ:そうですね。1曲目は“酸い”のほうから始めようかなって。昔を思い出してちょっと切なくなる気持ちを書いているんですけど、曲調が明るいことで、この曲の中で酸いも甘いも両方表現できたイメージがあります。
──ミュージックビデオでもアコギで弾き語っているのをフィーチャーしていて。夏の海など、ナチュラルな雰囲気が素敵でした。
ハナフサ:撮影は朝から晩までやったんですけど、めちゃくちゃ暑くて大変でした(笑)。海が出てきたり、夏感もありつつ。でも、この曲自体は冬のことを思い出していたりするので、ミュージックビデオの中でも、夏を思い出しながらコーヒー飲んでいるようなイメージで作ってもらって、楽しかったです。
──2曲目の「好きなこと好きなだけ」は、まさにアルバムのコンセプトを象徴する1曲だと思いますが、最初のほうからあった曲ですか?
ハナフサ:いや。実は、この曲を最後の最後にどうしても入れたくて、滑り込みで作ったんです。このアルバム自体、私の“好き”に向き合って、私の好きなものを詰め込んだと言いながらも、そういうことを歌っている曲があるわけではないなと気づいて。シンプルに、“自分の好きなことを好きなだけ追いかけてほしい”という思いを入れたくて作った曲です。ありがたいことに、“エアジョーダン”という商標登録された固有名詞やMr.Childrenさんの「Prelude」に関する歌詞の使用許可をいただけたので、そのまま使わせてもらっていて。私自身はエアジョーダンのシューズを持っていなかったので、この記念に、と思って買いました(笑)。
──ははは。ミスチルの「Prelude」はもともとよく聴く曲なんですか?
ハナフサ:よく聴く曲の中の一つだったんですけど、特にこの曲を書いている時の自分にとても当てはまって。すごく沁みたからこそ、“27秒から刻むエレキがかっこいい”ということに気づけたんですよね。今まで何気なく聴いていた部分が深く感じる瞬間があって、この曲のヒントになりました。歌詞は、ただ私が好きなものを言っているような感じなんですけど…好きなことを言葉にしたり表現したりしなかったら、いつの間にか何が好きかわからなくなるようなことってあるじゃないですか。私が、アルバムコンセプトを考えたことで身の回りに緑色が溢れていたことに気づいたように、皆さんも知らず知らずのうちに自分の“好き”を見逃していることがあると思うので。この曲を聴いて、自分の好きなものを思い出してみようかなって思ってもらえたら嬉しいです。
──この曲があることで、アルバムのコンセプトが立体的になりますよね。
ハナフサ:そうですね。最後に作って、入れられてよかったと思います。どうしても伝えたいことだったので。
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