【インタビュー】OGAWA RYO、最新作『egos』と創作の背景「衝動やパワーはジャンルと関係ないんです」
■ ポジティブな言葉だけでごり押しすると拒否反応が起きる
── 作家として楽曲提供のお仕事を重ねる中で“OGAWA RYO”名義でも作品を世に出すようになったのは、どういうきっかけだったんですか?
OGAWA:結構前からそういうこともしたいという意識があったんですけど、自己評価が低かったので躊躇していた部分があったんです。でも、最近は自分の作品として出していくのも面白いのかなと思うようになってきました。2017年くらいからTuneCoreで出し始めてはいたんですけど。
── 今年の3月に9曲入りアルバム『meme』をリリースして、今回リリースするのが5曲入りのEP『egos』。今年に入ってから動きが活発ですね。
OGAWA:そうですね(笑)。最近作っている曲が面白いのかなと感じていて、どうせなら作品にしてしまおうと思ったんです。
── 今作のテーマは、人間のエゴですか?
OGAWA:はい。最初から明確なテーマがあったわけではないんですけど、人のエゴや価値観をいろいろな曲を聴いた時に感じたんです。「これは人のエゴというものでまとめられる作品になるのかな?」と思ったんですよね。
── 1曲目の「Tatoo」は、恋愛というエゴの曲ですね。「私はあなたのことが好きだからあなたも私が好きでいるべきだ」とか「愛を証明せよ」と相手に求めたりしがちなのが恋愛ですが、人間のエゴの典型だよなと聴きながら感じました。
OGAWA:そうですよね(笑)。この曲は映画『ベティ・ブルー』からの着想です。「ああいうとんでもない愛を描くとどうなるのか?」というところから歌詞を書いていったので。こういう曝け出した剥き出しの感情みたいなものの方が面白いのかなと。
── 今作の特徴の1つは、爽やかなラブソングが1曲もないという点です。
OGAWA:たしかに(笑)。少しこじらせていますね。理想的な愛を描いたものは世の中にたくさんあるので、現実を直視したものを作りたいという思いがあるのかもしれないです。
── 「Tatoo」は、イントロがかっこいいです。
OGAWA:ありがとうございます。アメリカンムービーみたいな世界が好きなので、そういうイメージですね。昔のゾンビ映画の音楽は聴いてみるとかっこよかったりするので、そういうのも吸収したりしています。
── 「Say It Back」とかもそうですが、ダンサブルなサウンドをいろいろ聴けるEPにもなっていますね。
OGAWA:そうですね。数年前にカロ・エメラルドが来日しまして、ライブを観に行ったんです。お客さんが楽しそうに踊っていたのが印象的でした。そういう体験があるので、「自然と身体が踊りたくなる音楽にしたい」というがあるのかもしれないです。「歌いたくなって踊りたくもなる」という、人が自然と反応するようなものが好きなんですよね。
── 「Say It Back」は、ベースラインがかっこいいです。OGAWAさんの曲は、ベースが印象的なものが多いようにも感じます。
OGAWA:ベースが一番好きな楽器かもしれないですね。単純に一番かっこいいと感じるところがあって。
── 「Say It Back」はサウンドのかっこよさと、終わった恋のモヤモヤを描いた歌詞のコントラストがかなり大きいです。
OGAWA:男性のみっともないところを描きたかったんです。「あの人、最低」とか言いつつ未練があって、根に持っているようなみっともなさを描きたくて。
── 歌詞に関しては、曲を作った後にフィットする言葉を探していくんですか?
OGAWA:そうですね。作詞は完全に後付けです。音に合う言葉を乗せたいというのがすごくありまして。添削を重ねた末に「こういう曲になった」という感じに毎回なっています。作詞は時間がかかります。「他に書いてくれる人がいないから毎回頑張って書いている」っていう感じなのかもしれない(笑)。やり始めの頃は「誰か書いてくれないかな?」って思っていましたから。
── 「Be Alright」もサウンドと歌詞のギャップを感じます。晴れやかなテイストのディスコチューンですけど、物悲しげなムードが漂っているので。
OGAWA:前向きに励ますようなものが似合わないように感じていて(笑)。そういうものよりも「世の中いろいろごちゃごちゃしてるけど……まあ、やるしかないんじゃない?」みたいなところを描きたいんですよね。影響を受けているのはトモフスキーさんです。
── 「Be Alright」の《いじけてるだけだよ そういう事にしとく》とか、トモフスキーさん的なものを感じます。
OGAWA:「何も解決していないんだけど、まあ気分次第でいいかな?」みたいな感じです(笑)。
── (笑)。《さあ行こうか 全ては gonna be alright》と非常に歯切れの良いことを言った直後に《待ってくれる人はもういないけれど》というフレーズを放つのは、非常に素敵な肩透かしです。
OGAWA:《さあ行こうか 全ては gonna be alright》だけで終わらせると気持ち悪くなっちゃうんですよね(笑)。ポジティブな言葉だけでごり押しをすると自分の中で拒否反応が起きてしまいまして。最初の段階の歌詞はもうちょっとハッピーだった気がするんですけど、結局こんな感じになっていました。
── 「インターネットギャング」は、今作の中で一番ロックテイストのサウンドですね。途中でドラムンベース的な展開になったり、とてもドラマチックです。
OGAWA:ギターを使ったサウンドをやりたいというのが最初にあったんですけど、そこにビリー・アイリッシュ的な物悲しい感じも入れて両立させたいと思っていました。ビリー・アイリッシュ的なものだけだと面白くなかったので、頽廃的なものを壊してくれる要素としてドラムンベースを入れました。ダークヒーローみたいな壊し方をする感じというか。
── 歌詞に関しては、SNS上で人の揚げ足をとって監視をするようなことに対する違和感を描いていますよね?
OGAWA:そうですね。存在する事象をそのままサウンドに乗せていったら、こういう感じになっていました。ネットを見ると粗探しをしている人がたくさんいて、それぞれがそれぞれのエゴで必死に戦っていますからね。曲自体もよくわからない感じになっていくので、歌詞とリンクするところがあるのかなと思います。
── この曲も歌詞とサウンドのギャップがすごいです。
OGAWA:暗い歌詞に暗いサウンドを乗せてしまうのが、あまり好きではなくて。自分なりの強さみたいなものがないと、あんまり面白いと思えないんです。塞ぎ込んだままではなくて、「それでも強く生きていきたい」みたいな感じのものにしたかったので、この曲もロックテイストなものになっています。
── 「ボタン」は、どのようなことをイメージしながら作っていきました?
OGAWA:曲を作る過程で「こういう歌詞になるのかな?」というのが漠然とありながら作った感じがあります。
── 《僕はこのエゴ 君はそのエゴ 同じなんかじゃなかった》というフレーズが出てきたりしますが、双方のエゴが引き起こすボタンの掛け違いで終わっていく恋の曲ですね。
OGAWA:はい。「ボタン」というテーマは後々になって出てきたんですけど。
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