【インタビュー】スーパートランペッター黒田卓也に訊く! ライブイベント<The BUNDLE>のすべて

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ニューヨーク(以下、NY)を拠点に、世界をマタにかけて活動をつづけるスーパートランペッター黒田卓也。自身のリーダーバンドやJ-Squad、aTakなどの活動のほか、著名アーティストのプロデュースやサポートなども行うなど、さまざまなコラボレーションを展開している。間違いなく、いまや日本を代表するジャズメンだ。そんな彼が自身のまわりにいるJAZZアーティストたちを一堂に介したライブイベント<The BUNDLE>を、2023年10月1日に渋谷のWOMBにて開催することとなった。今回は<The BUNDLE>について、イベントに対するその思いなどを中心に、主催者であり、自身も出演者として参加する黒田卓也に聞いてみた。

◆黒田卓也 関連画像

■ミュージシャンを目指したきっかけは一本のビデオ

──トランペットをはじめたきっかけを教えてください。

黒田卓也:じつは、マネージングをやっているWardrobeの高瀬健太郎さんが、僕の中高のブラスバンド部の先輩で、兄の同級生で兄がトロンボーンで、高瀬さんがトランペット。だから、彼がトランペットの師匠と言いますか、トランペットを始めたきっかけなんです。僕が中1で彼が高2でした。その後、彼は東京で音楽業界の仕事をしていて、僕はミュージシャンをやっていて……。

──満を持してクロスオーバーしたというわけですね(笑)。

黒田卓也:しましたねー(笑)! じつはこの<The BUNDLE>も、ふたりでいつかやろうと言っていたことのひとつなんですよ。父はクラシックレコードの収集家だったこともあり、家ではジャズは流れていませんでしたが、兄がブラスバンドに入ってから、隣の兄の部屋からジャズが流れていたという記憶があります。それが僕が小学校のときくらい。だから、ジャズは兄の影響なんです。

──意外な答えで驚きました(笑)。ミュージシャンを目指すことになったきっかけは何ですか?

黒田卓也:学校のブラスバンド部の先生で、さまざまな音楽のビデオを収集されている名物先生がいたのですが、休み時間とか練習の間とかに先生のいろんなビデオをよく観ていたんです。僕が中3のときに、たまたま<Mt. FUJI JAZZ FESTIVAL>のビデオを観て、それはフレディ・ハバード(tp)が出演していた回のものなのですが、「Misty」という有名な曲を始めたときに、フレディの後ろから、何千人か、何万人か分からないのですが、お客さんが原っぱに座って聴いている会場を映したシーンがありまして、それにむちゃくちゃ憧れたんです。「いつかコレをやりたい!」と。それがきっかけですね。

──大学卒業後にNYに留学されましたが、その時点ですでに音楽に携わっていこうと考えていたのですか?

黒田卓也:思っていました。「これは引き返せんな!」って。関西にずっといて東京にも行ってないのに、とりあえず、一回NYに行って、世界を見てみないと「諦めるにも諦められない!」と。関西では地元のジャズクラブとかでよくジャムセッションをやっていたこともあって、「挑戦したい!」という気持ちはありましたね。

──J-Squadのみなさんとは、どのタイミングでお会いしたのですか?

黒田卓也:ドラムの(小川)慶太は、実は地元の神戸にあるジャズクラブでバイトをしていたんですよ。彼は神戸の甲陽音楽学院に通学していて、僕が毎日のように行っていたジャズクラブのジャムセッションで出会ったという感じで、すごく長いんですよ。あとはみんなNY時代です。

──YOUTUBEチャンネルの『黒田卓也のTIMEOUT』の馬場智章さんとの回を2回分とも拝聴しましたが、馬場さんとはかなり親み深い雰囲気でしたね。

黒田卓也:彼は同じ申年で12歳下なのですが、「ボストンから出たてのルーキーがいる!」みたいな感じでJ-Squadに大抜擢されたんです。でも、コロナをきっかけに地元の札幌に一度引っ込んでいて、僕がたまたま仕事で北海道でに行った時に馬場やんと会ったら、元気がなく。だから、「東京に出ろ!」ってけしかけたんです(笑)。

──今回の<The BUNDLE>でも出演されていますね。

黒田卓也:彼は、『BLUE GIANT』という映画を経て、いまや時の人のひとりになられて。じゃあ、もう「よろしくお願いします!」って感じでしたね(笑)。


■"BUNDLE"という名前に込めた思い

──今回のイベント<The BUNDLE>を始めたきっかけを教えてください。

黒田卓也:aTakというアフロビートの大所帯バンドで、神戸でライブをしたときに、2日目を神戸の100BANホールというハコを使って、文化祭じゃないですが、1日中音楽があって、どこを切っても楽しい!みたいなイベントをやったのがきっかけですね。

──反響があった?

黒田卓也:ありましたね。あとは友達の演奏をあらためて聞けるチャンスがあったりして、自分たちのコミュニティにとってもかなり良かったんです。仕事だと、ミュージシャンがミュージシャンをチェックしたり、ゆっくり聴きに行くなんてことも減ってきますから。

──“BUNDLE”という名前は、どのような意味でつけられたのですか?

黒田卓也:BUNDLEって“束”という意味なんですけれど、仲の良い奴らとみんなで束になってやっているということなんです。今はSNSとか、60秒のバズるビデオがあればスターになれるとか……もちろんそういうのも良いと思うのですが、価値観が共有できる連中と匂いの濃い、色の濃い、そこでしか聴けない音といいますか、それは笑いもそうなのですが、文化全般、そういう部分をみんなで作りたいという意味で名前をつけました。「ひとりではできないことをしたい!」というのが、名前に込めた思いですね。そういうコアな所から派生していったら、面白いと思っています。

──会場を渋谷WOMBにされた理由はありますか?

黒田卓也:もともと2022年5月にaTakのレコ発を渋谷WOMBでやったのですが、天井がすごく高いし、すごく良かったんですよ。ジャズをジャズのハコに聴きに行くという固定概念を無くしたいとか、そういうわけではなく。組み合わせによって、裾が広がったり、間口が広がるんじゃないかな、というのが一番の狙いです。

──今回の出演者は、どんな感じで決められたのでしょうか?

黒田卓也:「興行を成功させたい!」という気持ちに正直にいけば、とにかくネームとか、お客さんがついている人とかにお願いするのが正しいのかもしれませんが、それよりは音に一番プライオリティがあるというか、かっこいいことをやっている人たちを選びたい、という選出ですね。神戸のときもそうですが、ポップスやヒップホップとかのコマーシャルが強いジャンルの音楽よりも、もうちょっとジャズというか、芸術性に追求している人たち、そういう部分に焦点を当てたい、そういう硬派な思いなんです。

──今回の出演者のなかで、一番ライブを見て欲しい人は誰ですか?

黒田卓也:もちろん全部!なのですが、ひとりと言われると、やはりコーリー・キングのソロセットは聞いて欲しいですね。彼は僕のNY人生で一番仲が長くて、僕の一番の音楽の理解者なんです。僕自身も一番応援しているし、尊敬に止まない人ですね。恐らく、ライブはアゲアゲではなく、どちらかというとディープに入っている感じの音楽ですが、ギターの技術が上がっているから、そこもまた楽しみです。ビザの問題とか、いろいろありますから、まずはちゃんと来てくれることを祈っていますけれど(笑)。

──出演者のみなさん、それぞれを簡単にご紹介ください。

黒田卓也:広瀬未来くんは同じトランペッターで、NYで一緒に切磋琢磨した仲間なんですよ。5つ下の学校の後輩なんで、腐れ縁なんです(笑)。

──なんと!

黒田卓也:僕の1年後、2004年にNYに来て、ふたりでジャムセッションに行ったりしていました。彼は、NYでさまざまなシーンで活躍する中でサルサバンドにもずっと入っていて、ビャンビャン吹いていた人なんです。技術はもう世界に通用する人ですが、帰国後は関西に住んで教育に力を入れたり、月に何回も東京に来ている、引っ張りだこの人ですよ。今回は、ラテンのバンドをやるということで、じつはこの人の後にはあまり吹きたくないんです(笑)。

──YOUTUBEでも「怪獣クチビルゲになる!」って言われていましたが、やはり腫れるんですか(笑)。

黒田卓也:腫れます。特にフィジカルの強い人とやると、一緒になって吹きますからね。

──そして、中村海斗さん。

黒田卓也:彼はまだ23くらいで若いんですよ! NYでイマニュエル・ウィルキンスなどがやっている最新の表現をいま日本で(一番先進派の一番アップデートされたジャズを)やろうとしているかっこいい人です。彼とはジャムセッションで会うという感じでしたが、インスタでよく彼のバンドの映像が上がってきて、「むっちゃかっこいい!」と思ってお願いした次第です。

──さらに加藤真亜沙Trioですが。

黒田卓也:加藤真亜沙に関しては、グラミー賞とか、いろいろとありますけれど、NYのシーンにがっちり入り込んでいて、いろんな現場に呼ばれている、そういうNYのトップティアー(Top Tier)にいるピアニストのひとりなんですよ。でも、ラージ・アンサンブルをやる人って、意外とラージ・アンサンブルばかりお願いされちゃうじゃないですか。ピアニストとしてもブチ抜けているので、今回はトリオでおもいっきりピアノ!ってところが見えたらいいかなと思っています。

──それは楽しみですね。

黒田卓也:それと、あとは加藤真亜沙TrioのパーカッションのKanくんなんですよ。いま若手でナンバーワンのパーカッショニストで、じつは同じ座組みで神戸でやっていたんですけれど、彼でしか出せない空気感が出てて、そのときが一番ミュージシャンが集まって聴きに来ていたという人ですね。

──あとは馬場智章さんですが……YOUTUBEチャンネルでのMr.Childrenのモノマネが本当に似てませんでした(笑)。

黒田卓也:最悪でしょ(笑)! でも、彼はフィジカルが強くて、NYで初めて会ったときは、ダークな質感だったのですが、最近は、映画の影響もあってか、楽曲がけっこう明るくなってきているというか。特にメンバーが面白いんですよ。ヤセイコレクティブ(Yasei Collective)の松下マサナオくん、マーティ・ホロベックと宮川純。さらに佐瀬悠輔という、これまたすばらしいトランペッター。結構エネルギーバチバチのハッピーセットが観られると思います。

──あとはDJがおふたり。

黒田卓也:柳樂光隆さんは、僕が10年前にブルーノートでデビューしたときからのお付き合いです。でも、最近DJをするって知ったので、ちょっと面白いから「お願いします!」って言ったら、ふたつ返事で帰ってきました(笑)。そうしたら「ジャズ系だったら!」って、柳樂さんがクロエ・ジュリエットを連れてきてくれたんです。

■聴きたいと思ってくれている人たちへ向けてイベントをしたい

──今回は、若い世代に向けた低価格企画もありますね。

黒田卓也:以前、新宿南口のオープンイベントでやったフリーライブで、ライブ後にトランペットケースを持った若い子たちがいっぱい来て、「サインください!」って。そのときに、「こんなところに聞きたいと思ってくれている人がいたんだ!」っと思ったんですよ。僕自身、いままでそんなことを考えたこともなかったんです。NYから仕事で来て、ビルボードとかブルーノートでやったら8000円みたいなチケットですよね。10代のみならず、20代の子もきついですよね。ジャズクラブも無理じゃないですか。「ちょっと行ってみよう!」ができない金額で、映画の2〜3倍するわけですよ。馬場やんの映画は2000円で観られるけれど、馬場やん本人を観るのに6000円かかるって、「なんでやねん!」って。

──たとえが馬場さん(笑)!

黒田卓也:いえ! あくまでも映画の話です(笑)。でも、今回は高校生でももちろん入れるので、もし「行ってみよう!」って人がひとりでも増えたら嬉しいですよね!それは期待しているというか、それでたくさん来てくれれば、ミュージシャンにもペイできるかもしれないですから。

──「人が入ったらもっと出すから!」と言われて一度も渡されたことがない!と、YOUTUBEチャンネルでお話しされてましたね。

黒田卓也:CDとかも「何枚売れたらボーナスあげる!」とか、よくある話なんですよ。でも、今回は史上初!黒田卓也がそう言って「ちゃんとボーナスをくれた!」にしたいです(笑)。だから、若い人たちにもたくさん来て欲しいです。こういう音楽を観る機会も少ないでしょうし、感じに来て欲しいというか、きっかけになったらいいですよね。これはちょっと自分の中でも楽しみのひとつなんです。

──最後にひと言お願いします!

黒田卓也:この<The BUNDLE>は、まわりにいる友人であり、尊敬するアーティストたちが一堂に介して、みんなで「わーっ!」てなっている、そんな1日なんです。6時間というなかなかの長時間イベントですが、すぐ終わるんじゃないかなと僕は思っていますね。そして、今回が成功すれば、今後はNYの友達も日本のシーンとどんどん繋げていきたいという考えもあります。ということで、今回の<The BUNDLE>、ぜひみなさんに渋谷WOMBに来ていただいて、爆アゲでよろしくおねがいします!

取材・文◎カネコヒデシ(BonVoyage)


<The BUNDLE>

2023年10月1日(日)
渋谷WOMB
OPEN14:00/ START15:00
ADV: 一般¥5000/ U25¥3000
DOOR:一般¥6000/ U25¥4000
※入場時別途1D¥700

■LINE UP
広瀬未来 and Gravy Burritos
馬場智章band
中村海斗Quartet
加藤 真亜沙Trio
Corey King (Solo Set)
黒田卓也 All-Stars
DJ 柳樂光隆
DJ Chloé Juliette

◆黒田卓也 オフィシャルサイト
◆WOMB オフィシャルサイト
◆黒田卓也 YouTube
◆aTak Instagram
◆【InterFM】黒田卓也のムーンフライト InterFM897/ 毎週火曜 21:00-21:30 オンエア
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