冨田ラボ、20周年を彩るメモリアル・イベントが完結

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冨田ラボが7月15日(土)、TOKYO DOME CITY HALLで活動20周年を記念したイベント<冨田ラボ 20th Anniversary Presents “HOPE for US”>を開催した。

2022年6月にアルバム『7+』、今年6月にワークス・ベスト・アルバム『冨田ラボ / 冨田恵一 WORKS BEST 2~beautiful songs to remember~』をリリースするなど、精力的な活動を続けている冨田ラボ。20周年イヤーの最後を飾る今回のイベントには、YONA YONA WEEKENDERS、TENDRE、KIRINJIが出演。そして冨田ラボのステージには、磯野くん(YONA YONA WEEKENDERS)、AAAMYYY(Tempalay)、TENDRE、長岡亮介(ペトロールズ)、長塚健斗(WONK) 、bird、藤巻亮太、藤原さくら、ぷにぷに電機、堀込高樹(KIRINJI)、吉田沙良(モノンクル)、Ryohuが登場し、ポップミュージックの豊かさと多様性を実感できる素晴らしいアクトが繰り広げられた。

開演前、スクリーンには冨田恵一(冨田ラボ)、磯野くん(YONA YONA WEEKENDERS/V&G)がユニオンレコード新宿を訪れる様子が映された。お互いにレコードを5枚選び、紹介する映像を会場に足を運んだ観客が熱心に見ている。やはり冨田ラボのファンは、コアな音楽ファンが多いようだ。


イベントは15時にスタート。最初に登場したのは、YONA YONA WEEKENDERS。「よかったら立って一緒に楽しみましょう!」(磯野くん)と呼び掛け、心地よいグルーヴが広がる「君とdrive」を放つ。新作EP「into the wind」の表題曲「into the wind」は性急なバンドサウンドと際立ったポップネスを共存させた楽曲。冒頭からバンドとしての個性をしっかりとアピールした。

「“ツマミになるグッドミュージック”をコンセプトにしてやってるバンドです。お酒を飲みながらやらせてもらってるんですけど、今日は冨田ラボ20周年ということで。おめでとうございます! 乾杯!」(磯野くん)と挨拶。さらに「君のFlavor feat. 磯野くん」(アルバム『7+』)の制作で初めて冨田に接したときを振り返り、「すごく優しい方で、“お父ちゃん”みたいな感覚で今日まで来て。お父ちゃんにライブを観てもらうような、なんとも言えない不思議な感じです(笑)」と楽しそうに語った。

さらに”素顔のままのあなたでいなよ“という思いを込めた「シラフ」、「眠らないでよ(feat.原田郁子)」とEP『into the wind』の収録曲を披露。最後は「真っ暗なホールに太陽をぶち上げましょう!」(磯野くん)と「SUNRISE」を演奏し、圧倒的な解放感を生み出した。


続いてはTENDRE(河原太朗のソロプロジェクト)。リハーサルを終え、「そろそろ始まりそうですね! 存分に楽しんでください!」(TENDRE)と1曲目の「FANTASY」へ。しなやかなファンクネスをたたえたサウンドとスムーズな歌声が響き、観客の身体を揺らす。「DISCOVERY」では“グルーヴィーなサイケデリア”と称すべき音像を表現。凄腕のバンドメンバー(AAAMYYY/Cho,Syn 小西遼/Sax 高木祥太/Ba 宮川純/Key 松浦大樹/Dr 松井泉/Per)によるアンサンブルも絶品だ。

「冨田ラボさん、20周年。こんなにおめでたい日はないですね。楽しんでいきましょう!」と挨拶し、ゆったりとした浮遊感を描き出した「CLOUD」、抑制された平歌の演奏と高揚感に溢れたサビの対比が美しい「DOCUMENT」を披露した。

「冨田さんのことを知ったのは、20歳の頃に聴いた『眠りの森』(冨田ラボfeat.ハナレグミ)」から。それから10数年経って、冨田さんに呼んでもらえるなんて、うれしいですよ」と話すと、会場から大きな拍手が送られた。

さらに〈冨田さん、これからもいろんなことを教えて、たくさん話して〉という即興の歌に導かれた「HANASHI」、観客の手拍子とともに、一度だけの人生を賛美する歌が広がった「LIFE」。10月に行われるデビュー5周年ツアーへの期待が高まる圧巻のステージだった。


冨田、堀込高樹(KIRINJI)が「夏の亡霊 feat. KIRINJI」(冨田ラボ)の制作エピソードを語り合うムービーを挟み、KIRINJIのステージへ。オープニング曲は「非ゼロ和ゲーム」。キャッチ―なファンクサウンドと〈利他的であれ〉というメッセージが共鳴し合い、オーディエンスを強く惹きつける。

「出演している人たちのなかで、(冨田とは)たぶん僕がいちばん付き合いが長いと思います。冨田さん、改めて20周年おめでとうございます。よもやま話でもしたいんですけど、曲をいっぱい持ってきたんで」(堀込)と「時間がない」へ。軽快さと構築美を感じさせるポップサウンドと、“ある年齢に達し、残り時間を意識しはじめた”という状況を描いた歌のコントラストが絶妙だ。バンドメンバーは千ヶ崎学/Ba、シンリズム/G、So Kanno/Dr、宮川純/Key、小田朋美/V,Syn。現在のKIRINJIの音楽性を的確かつ奔放に表現する、最強のメンバーである。

続く「僕の心のありったけ」はアルバム『For Beautiful Human Life』(2003年)、「悪玉」はアルバム『3』(2000年)の収録曲。どちらも冨田のプロデュースによる作品だ。ご存じの通り、90年代後半から00年代前半にかけてKIRINJI(当時は“キリンジ”)は、冨田とタッグを組むことで、その才能をさらに開花させた。冨田ラボの20周年記念ライブでこの2曲を披露したことは、両者にとって大きな意義があったはずだ。

さらに最新シングル「nestling」、小田朋美のボーカルをフィーチャーした「killer tune kills me」、堀込のしなやかで抒情的な歌声が心地いい「Rainy Runway」などを演奏。9月にニューアルバムを控えるKIRINJIの“これまで”と“今”を実感できるアクトだったと思う。


イベントの最後を飾ったのはもちろん、冨田ラボ。Overtureとともにバンドメンバーの平陸/Dr、鈴木正人 (LITTLE CREATURES)/Ba、樋口直彦/G、そしてバッキングボーカルのMeg、ツヤトモヒコ、Hanah Springが登場。ギターを持ってステージに上がった冨田が姿を見せると、会場は祝福の拍手と歓声で包まれた。まずはこの日のために制作されたインスト。冨田自身がリードギターを担当する、冨田ラボ流ハード・フュージョン・ナンバーだ。

「こんばんは! ここからは冨田ラボのステージをゆっくり楽しんでください。最初のシンガーを呼び込みたいと思います。TENDRE!」(冨田)というMCに導かれ、「Take That!feat.TENDRE」へ。ソウルフル&ダンサブルなサウンド、しなやかなボーカルによって観客のテンションをさらに引き上げた。さらに「TENDREさんと同じく、僕のなかで〈ソフトな”ええ声”〉ランキングに入っているシンガー」(冨田)という長塚健斗(WONK)が登場し、「眠りの森feat.ハナレグミ」。長塚、TENDREの豊かなボーカルが重なる至福の瞬間が実現した。


「気づけば何曲も一緒に曲を作っています」と紹介されたのは、藤原さくら。ノスタルジックな旋律が心に残る「Bite My Nails feat.藤原さくら」をゆったりと歌い上げた。さらに「前回のアルバム(『7+』)に入っている曲で、とてもいい歌を歌ってくれました。藤巻亮太」(冨田)という言葉から「さあ話そう feat.藤巻亮太」を披露。藤巻は“大切なあなたと話をしたい”という切実な思いを丁寧に紡ぎ、観客をしっかりと魅了した。



豊潤なグルーヴを備えた磯野くんのボーカルが印象的だった「君のFlavor feat.磯野くん(YONA YONA WEEKENDERS)」の後は、「すごく長く付き合っているアーティストの一人を呼びたいと思います」(冨田)というMCに導かれ、birdが登場。「Lush」(2015年のbirdのアルバム『Lush』収録)が披露された。アルバム『Lush』は冨田、birdの二人だけで制作された作品。演奏の前に冨田は、「現代ジャズのプレイヤー(クリス・デイヴ、マーク・ジュリアナなどの)はずっと好きだったけど、あのアルバムの制作に入るちょっと前から、ヒップホップや R&B 界隈とジャズ・プレイヤーの交流がより盛んになって、僕の音楽にもコンテンポラリーなものが入ってくるようになった」とコメント。レイドバックしつつ独特の“訛り”を感じさせるビート、凛とした強さと生命の美しさを内包したbirdのボーカルが生み出すケミストリーは、このイベントのハイライトの一つだった。


「おめでとうございます! テキーラを持ってきました」と笑顔で登場したのは長岡亮介(ペトロールズ)。「パスワードfeat.長岡亮介」でソウルの粋を感じさせる歌声を響かせた。さらにぷにぷに電機の官能的なボーカルとエキゾチックな音像が溶け合う「須臾の島 feat.ぷにぷに電機」、そして、冨田がギターを弾いた「ディストピアfeat. AAAMYYY(Tempalay)」ではAAAMYYYがオルタナティブなポップセンスを炸裂させた。




エンディングを変奏したメンバー紹介を挿んで、堀込高樹(KIRINJI)がオンステージ。
「カタカナの“キリンジ”のときは高樹くんのメインボーカルも数曲録音したけど、コーラスが多かったよね」(冨田)「コーラス1000本ノック、やってましたよ(笑)。オートチューンがない時代だったから」(堀込)というトークを挟み、「夏の亡霊 feat. KIRINJI」。続いて磯野くん、AAAMYYY、TENDRE、吉田沙良(モノンクル)が登場し、合計7人のバッキングコーラスとともに堀込が作詞を担当した「煙たがられてfeat. 細野晴臣」を披露。冨田が煙草をくゆらせる映像とともに、超レアなセッションが繰り広げられた。


ここからイベントは終盤へ。イベントのタイトルになった「HOPE for US feat. 磯野くん(YONA YONA WEEKENDERS), AAAMYYY(Tempalay),TENDRE,吉田沙良(モノンクル)& Ryohu(KANDYTOWWN)」では、レコーディングに参加した5人がパフォーマンス。先が見えない社会を背景に、〈闇照らす光 hope〉というラインを美しく響かせ(鋭利なRyohuのラップもカッコいい!)、豊かな感動へと結びつけた。

〈全ての愛が届きますように〉という祈りを込めた「MAP for LOVE」(冨田曰く「『7+』を作るきっかけとなった最初の曲」)は、磯野くん、長岡亮介、長塚健斗、bird、藤原さくら、吉田沙良、Ryohuで披露。そして最後は、出演者全員による「for YOUR BUDDY」。冨田ラボとしてレコーディングしてきた様々なデータをサンプリング、膨大なアーカイブから歌詞を一文字ずつ探して制作されたアッパーチューンによって、イベントは大団円を迎えた。

イベントは約5時間半に及んだが、体感時間は一瞬。日本の音楽シーンを更新し続けるアーティストたちの演奏と歌唱によって、“ポップマエストロ”冨田ラボの20周年を彩るメモリアルなステージだった。

TEXT:森朋之
PHOTO:上飯坂一

リリース情報

『冨田ラボ / 冨田恵一 WORKS BEST 2 ~beautiful songs to remember~』

https://jvcmusic.lnk.to/tomitalab_WORKSBEST2
(通常盤:2CD)
6月21日(水)発売
品番:VICL-65825~65826
税抜価格:4,500円(税込価格:4,950円)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VICL-65825.html
<収録曲>
Disk 101. 冨田ラボ / 新曲(タイトル未定)
02. 土岐麻子 / Tell Her About It
03. V6 / IN THE WIND - V626 ver.
04. 椎名林檎 / 青春の瞬き
05. 高野寛 / Tokyo Sky Blue
06. 藤原さくら / 茜さす帰路照らされど・・・
07. VIXX / Last Note~消えた後の蝋燭の香り
08. 冨田ラボ / パスワード feat. 長岡亮介
09. Negicco / 雫の輪
10. kiki vivi lily / Copenhagen
11. bird / Lush
12. 鈴木雅之 / スクランブル交差点
13. JUJU / 人魚
14. Naz / Clear Skies
15. 冨田ラボ / MAP for LOVE (Album Version)

Disk2
01. 冨田ラボ / 夏の亡霊 feat.KIRINJI
02. 冨田ラボ / エイプリルフール feat. 坂本真綾
03. Ryohu / One Way feat. YONCE
04. 牧野由依 / 私と世界
05. 冨田ラボ / 冨田魚店 feat. コムアイ
06. 冨田ラボ / Take That ! feat. TENDRE
07. 森口博子 / Ubugoe
08. 早見沙織 / garden
09. 冨田ラボ / この世は不思議 feat. 原 由子, 横山剣, 椎名林檎, さかいゆう
10. 薬師丸ひろ子 / Come Back To Me ~永遠の横顔
11. 冨田ラボ feat. Emi Meyer / 光あれ
12. スガ シカオ / スターマイン
13. 矢野顕子 / 大丈夫です
14. 秦 基博 / Girl(Tomita Lab. Remix)
15. 冨田ラボ / HOPE for US feat. 磯野くん(YONA YONA WEEKENDERS),AAAMYYY(Tempalay), TENDRE, 吉田沙良(モノンクル)& Ryohu(KANDYTOWWN)
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