【インタビュー】小林克也×カマサミコング、輝き続ける日本の80年代ポップミュージックを今に伝える

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◾️「ベストヒット USA」は、日本のテレビの歴史とともにある


DJ BLUE:80年代を過ごした僕らの世代で洋楽を聴く人は、とにかく『ベストヒット USA』を観ていました。マイケル・ジャクソンも、マドンナも、デュラン・ディランやカルチャー・クラブも、全て小林克也先生(笑)から教わりました。『ベストヒット USA』が始まった時のことや、現在も番組が続いている経緯をお聞きできますでしょうか。

小林克也:『ベストヒット USA』は、博報堂が考えたんですよ。それにスポンサーにブリヂストンがすぐについた。70年代や80年代はウォークマンが出てきた頃で、ウォークマンで音楽を持ち歩けることができるようになった時代。それと日本の景気が良くなってきた頃で、家族の構造も変わってきて、子供たちは自分の部屋でテレビを観る時代に変わってきていたんですよ。その頃にミュージックビデオ現象が起きて、TVでもっと観るだろう、それによってもっと音楽が売れるだろうということで、音楽に特化した番組を作ろうと『ベストヒット USA』が考案されたの。ちょうどその頃は「11PM」を別の局でやっていて、今野雄二さんが、鮎川欣也さんと出ていた『水曜イレブン』では、「トーキング・ヘッズっていう面白いバンドがニューヨークから出てきたから、ミュージックビデオを観ようか」ってなるんだけど、愛川欽也が映像が始まった30秒くらいで出てきて、「これは面白い」って喋りはじめて、それで今野さんが説明をし始めるわけ。つまり、トーキング・ヘッズの映像は30秒しか流れない。そういうのに対して、映像は最初から最後まで紹介するべきだろうと考えられたのが『ベストヒット USA』。そこから僕のところに、番組でホストをやらないかという話が来たんですよ。

DJ BLUE:そんな経緯があったんですね。

小林克也:僕はその頃、ラジオ番組をやったり、コマーシャルやドラマにも駆り出されたりしていたから、めちゃくちゃ忙しかったの。それと奥さんがマネージャーになったばかりだったし、一度は断ったのに、2週間くらい経ったら黒い服を着た人が4~5人やってきて、「スタートする番組を引き受けて下さり、ありがとうございます」と。うちの奥さんが、断っていなかったの(笑)。それでも悩んだんですよ。例えば海外のアーティストをインタビューするにしても、通訳を挟んでやるけど、それだと会話のキャッチボールができない。インタビューって難しいんですよ。自分の英語力がないこともバレるし。それで一生懸命英語を勉強したんです。それと、ラジオ番組では自分の好きな音楽を選んでいたんだけど、『ベストヒット USA』では、トップ10が既にできていたから、中には自分が好きじゃないものもあった。だけどそこから違う見方や、違う紹介の仕方を考えるようになって、人間としてどういう人間なのかとか、アーティストの良いところに目を向けるようになって。だから自分としてはすごく勉強になったよね。


DJ BLUE:その頃にカフェバーブームもあって、ネオン管のライトがある店で『ベストヒット USA』が流れる店が増えたり、本当に80年代の象徴だと思います。

小林克也:だけどね、それにも終わりがくるんですよ。1988年の終わり頃になって、とんねるずの深夜番組が23時から始まる。

DJ BLUE:『ねるとん』ですね。

小林克也:『ねるとん』は最初はそうでもなかったんだけど、回り始めたら、深夜なのに20%の視聴率になったんですよ。それで、その時間帯にも観るお客がいるんだと、TVの電波料金が上がって。それでもブリヂストンはそのまま提供するけど、音楽だけじゃなくて他の企画もやらなくてはいかないことになったから、僕たちはそこで一度終わったわけ。だけど、今度は時代がデジタル化していくんですよ。そうするとテレビ局は、相当なお金を支払わなきゃいけなくなる。深夜帯のコマーシャルが通販になり始めたのもこの頃だし、僕らのような番組はだんだんと減ってきて、BSにいた人たちが、BSでやればいいのでは? と。それから1年弱してMTV Japanが始まって、それからは『ベストヒット USA』もBSで繋がって残っているという。日本のテレビ局の歴史ですね。

「ポリシーはナイスなフロウで聴かせること」(カマサミコング)
「シティポップは生きている」(小林克也)

DJ BLUE:この『FM STATION 8090』ですが、デイタイムは朝から昼にかけての、気持ちのよい波と風と空と太陽を感じてやって頂けたらとコングさんにお願いをして、ナイトタイムは、80年代当時「ベストヒット USA」をやっていた克也さんのシティポップの夜と言ったらなんですけど、“都会的で、ムーディで、雰囲気のあるもの”というイメージでお願いをさせて頂きました。各々、どのようなところに力を入れたか教えて頂けますでしょうか。

カマサミコング:最初にすべての曲を聴いて、各々の曲の歌詞やメッセージがどんなものなのかを確認して、それをどのように変換してストーリーを作り上げていくのかを考えた。それと、朝から午後の時間へかけてショーとしてどのように展開していくか。ポリシーはサウンドをクールに、ナイスなフロウ(流れ)で聴かせていくということだった。

DJ BLUE:ハワイの爽やかな風を持ってくるということで、まずは「グッドモーニング!」から始まって、杏里の「最後のサーフホリデー」に流れる。本当に風が吹いてきそうな感じが最高なんですね。それとコングさんと同じハワイ繋がりということで、何かが起きるのではないかと思い、早見優ちゃんにお願いをしました。優ちゃんは日本へ来る前は、カマサミコングのラジオ番組を聴いていたんですよね。しかも寺尾さんのファンだったという。あとはその時のレコーディングの際に、コングさんが優ちゃんに歌を歌わせました(笑)。

カマサミコング:何か違うことができたらいいなと思って、リクエストをしたら歌ってくれたんだ(笑)。


DJ BLUE:ナイトタイムは、1人1人のアーティストに対する、知られざる面白い話をして、克也さんならではの感じで紹介をしていく。これが素晴らしいんですよ。

小林克也:曲に関しては、懐メロじゃないですか。80年代のポップミュージックって、ちょうど日本が元気だった時期のサウンドトラックなんですよ。それで日本のこういう曲が、なぜアジアで人気なんだろうと考えながら聴くわけですよ。今はタイとか、フィリピンとか成長率が高くて元気なんですけど、ちょうどエネルギーがあった時期の日本に似ている。だからアジアでも人気があるのかなとか。だから聴いた人たちが元気が出るような内容にしようと思って、昔の懐メロにはならないようなタッチでやろうと思った。最初はスキットみたいなものを3~4つ用意していたの。だけどそれを入れちゃうと時間がオーバーしてしまうから、曲順はこちらで考えて、夜にささやく変なおっさんみたいな感じで紹介をしていこうと思って(笑)。

DJ BLUE:例えば稲垣潤一さんの「ドラマティック・レイン」に関する話だとか、EPO、杏里の話だとか、各々にいろんなことが短いセンテンスでいろいろと入ってくる。それを克也さんが曲の頭と終わりにピッとそれを入れていて、まさにラジオのような作りになっているんですよ。だからすごく面白い。それと、前半の終わりと一番最後に「え、こんなこと言うの?」って、小林克也節が(笑)。

小林克也:それは(笑)。


DJ BLUE:日本のシティポップは世界的に若い人たちからも注目を浴びていますが、日本だけでなく世界を意識しても作られたのですね。

小林克也:そうだね。だけどまずは日本人に向けて。だから最初は寺尾聰の曲なんですよ。僕は寺尾聰のことを「ルビーマン」って言ってるんだけど、ルビーマンは、腹を切っちゃってどうすることもできなくて、昔から音楽をやっていたから、もう一度やってみるかって作ったのが「ルビーの指輪」なんですよ。それを井上鑑というブームを呼ぶ男がアレンジ(編曲)をして、あの頃の最高に格好いい曲が生まれた。だから「ゴッドファーザー」とも呼んでいるんですよ。

DJ BLUE:聴くといろいろ学べるし、聴いた側は玄人目線にもなれる。

小林克也:だからシティポップは、死んでいないんですよ。生きている。日本のシティポップは、1950年代以降のアメリカで生まれたジャズ、ソウル、R&Bなんかの黒人音楽と、ビートルズのようなイギリスの音楽と、70年代以降のパンクとかの白人音楽や、ブルー・アイド・ソウルなんかが日本へ渡ってきて、それを細野晴臣さんのようなジャズを経験してきた優秀なミュージシャンが影響を受けて、新しい音楽を生み出した。日本のジャズがフュージョンと呼ばれた時代があるけど、それがシティポップの元になっていくんだよね。例えば山下達郎の昔の曲を聴くと、凄いヘヴィファンクをやってたりするじゃない。そういうことですよね。

DJ BLUE:それだけ意義のある本作品です。最後にお2人からメッセージを頂けますでしょうか。

小林克也:みんな、元気でね(笑)

カマサミコング 『FM STATION 8090』を買ってね! 聴いてくれてありがとう!

取材・文◎吉岡加奈
写真◎三上信

製品情報

【タイトル(1)】
FM STATION 8090
~GOOD OLD RADIO DAYS~ DAYTIME CITYPOP by Kamasami Kong

発売日:2023年7月12日(水)
商品形態 / 価格(税込み):
 ・CD デラックス盤 [初回生産限定盤] ・・・¥9,990
 ・カセットテープ [初回生産限定盤] ・・・¥3,990
 ・CD 通常盤 ・・・¥2,990

収録内容:
 1,最後のサーフホリデー / 杏里
 2,コットン気分 / 杏里
 3,Super Chance / 1986オメガトライブ
 4,彼女とTIP ON DUO / 今井美樹
 5,マイ・ピュア・レディ / 尾崎亜美
 6,ロング・バージョン / 稲垣潤一
 7,やさしさに包まれたなら / 絢香
 8,音楽のような風 / EPO
 9,一本の音楽 / 村田和人 
 10,君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。 / 中原めいこ
 11,SUMMER SUSPICION / 杉山清貴&オメガトライブ
 12,SUMMER EYES / 菊池桃子
 13,不思議なピーチパイ / 森 恵
 14,ニートな午後3時 / 松原みき
 15,HABANA EXPRESS / 寺尾 聰
 16,セシールの雨傘 / 飯島真理
 17,夏のクラクション / 稲垣潤一

【タイトル(2)】
FM STATION 8090
~GENIUS CLUB~ NIGHTTIME CITYPOP by Katsuya Kobayashi

発売日:2023年7月12日(水)
商品形態 / 価格(税込み):
 ・CD デラックス盤 [初回生産限定盤] ・・・¥9,990
 ・カセットテープ [初回生産限定盤] ・・・¥3,990
 ・CD 通常盤 ・・・¥2,990

収録内容:
 1,出航 SASURAI / 寺尾 聰
 2,ピンク・シャドウ / ブレッド&バター
 3,Boogie-Woogie Lonesome High-Heel / 今井美樹
 4,ドラマティック・レイン / 稲垣潤一
 5,セカンド・ラブ / 来生たかお
 6,シルエット・ロマンス / 大橋純子
 7,君のハートはマリンブルー / 杉山清貴&オメガトライブ
 8,さよならのオーシャン / 杉山清貴
 9,真夜中のドア~Stay With Me / 松原みき
 10,都会 / 大貫妙子
 11,ルージュの伝言 / 絢香
 12,CHINESE SOUP / 土岐麻子
 13,渚のモニュメント / EPO
 14,HAPPY ENDでふられたい / 杏里
 15,オリビアを聴きながら / 杏里
 16,midnight cruisin' / 濱田金吾
 17,アクアマリンのままでいて / カルロス・トシキ&オメガトライブ

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