【ライブレポート】Kroi史上最高のライブはライブハウスを越え、航空機を経由し、極彩色の「RED」へ
6月23日、渋谷のNHKホールにてKroi史上最大規模の全国ツアー<"Magnetic" Tour BLUE / RED>の最終公演が行われた。筆者はプライベートでも彼らのライブには足を運んでおり、ライブレポートを書かせてもらうのは本稿で4回目である。
◆ライブ写真
彼らのパフォーマンスの練度の高さ、アーティストとしてのスケールの大きさについて、割と早い段階で最大限の賞賛を送ってきたつもりだ。が、今回はちょっとレベルが違った。ハイエイタス・カイヨーテやディアンジェロなどの偉大な先駆者たちの名前を挙げながら、Kroiの音楽に迫ろうと試みてきたが、彼らはライブを経るごとに異なる景色を見せてくれる。渋谷のCLUB QUATTROではマハラージャンと「ファンクのメタモルフォーゼ」を見せ、Zepp Hanedaではブロックパーティさながらのフリーライブを実現し、LINE CUBE SHIBUYAではいよいよスターダムを一気に駆け上がりそうな雰囲気を感じさせた。
今回のツアーはBLUEとREDに分かれ、前者は全国津々浦々のライブハウスで開催され、後者は大阪と東京の2か所でホール公演として行われた。最大キャパシティ3800人を誇るNHKホールは、この時点ではKroiのライブとして最大規模の箱である。そして、この日のライブ終了後、2023年1月20日に武道館公演の開催が発表された。
先のCLUB QUATTROで開催されたライブは2022年の1月の話なので、わずか1年と半年の間にここまでステップアップしてきたのだ。
しかし、Kroiの道のりは必ずしも順風満帆ではなかった。有歓声のライブが局地的に許されたのは、パンデミック以降今年が初めてである。すなわち、上で名前を挙げたすべての箱で声出しが禁止されていたのだ。音源が素晴らしいことを前提に書くが、ライブバンドとして一級品であるKroiにとって、その状況は大きなディスアドバンテージだった。もちろん以前のライブも楽しめてはいたが、彼らはオーディエンスと双方向性の高い応酬でもって、さらに輝くミュージシャンだと確信があった。
全くその通りだったのである。ライブが始まる前、ステージ上を白い帳(とばり)が覆っていた。それが開幕と同時に下りて、舞台上の姿があらわになる。その瞬間、これまでの彼らのライブでは聞けなかった大歓声が上がった。本当に、多くのファンがずっとこの光景を求めていたと思う。フロントマンのLeo Uchida(Vo, G)は当日の客席の様子についてこう語る。「こんなにたくさんの人たちが僕たちの曲を聴いてくれてるなんて……。僕らのライブってほとんどコロナ禍だったから、今みたいな反応をもらえるのってほぼ初めてなんですよね」。3年間、オーディエンスもずっと彼らを声でサポートしたかったのだと、改めてこの日思い知った。1曲目の「Juden」から、目頭が熱くなる。
Kroiの演奏にも力が入る。テレビの舞台裏のようなステージデザインは、彼らの迫力をさらにかき立てる。細部まで凝った意匠が施され、「BROADCAST」をモチーフとした様々なアイテムが置かれていた。随所に置かれたモニターが、退廃的でサイケデリックな世界観を映し出す。今回テーマとされていた「RED」は、これまでの彼らのクリエイティブを結集し、なおかつ新しい要素も多く含んだ極彩色の輝きを放っていた。
「shift command」や「Page」など、軽快でグルーヴィーな楽曲が我々をめくるめくサウンドスケープへと誘う。あいさつ代わりにそれぞれのパートが辣腕を振るった。メンバー全員が凄まじい演奏技術を持つのがKroiの特徴だが、今回のライブではそれぞれのテクニックにフォーカスする頻度が過去一レベルで高かったように感じる。LINE CUBE SHIBUYAでは照明オペレーターが八面六臂の働きを見せていたが、NHKホールでもそれは顕在であった。
とりわけ、メロディを担うYuki Hasebe(G)とDaiki Chiba (Key)の存在感は際立っていた。特にChibaの手数の多さはライブを通して特筆すべきポイントだったように思う。「cranberry」から「Funky GUNSLINGER」への繋ぎは、AORや音楽ジャンルとしてのフュージョンを包括しながら土臭いサザンロックへと鮮やかな移り変わりを表現していた。中でも「cranberry」のパフォーマンスは、2人の活躍がないと成立しなかっただろう(無論すべての楽曲がそうなのだが)。
かねてからKroiは、打ち込み主体のクラブミュージックをリファレンスにすることが多かった。それを人力で演奏し、DAW上で表現しきれない生の質感を顕現させる。今回も「sanso」でドラムンベース風のアレンジが耳を引いた。Hidetomo Masuda(Dr)の身体能力と正確なリズム感がなせる業である。
個人的にEP『MAGNET』の中で最も好きな曲が「Cosmic Pillow」なのだが、それゆえに期待値も相当高かった。初めてこの曲を聴いたとき、それぞれの楽器パートの独立した魅力と全体の構成力に舌を巻いた。そして曲のタイトルを改めて見たときの高揚。この内容で“Cosmic Pillow”とは、それとしか言いようがない。身体的な迫力と、それに相反するかのような宇宙的浮遊感。実に見事。
それがライブで再現されるとどうなるか? Masanori Seki(B)がド迫力でもってバンドサウンドを牽引するのである。ベースでこれほど全体を引っ張ることのできるプレイヤーは極めて稀だろう。あまりにもNathan East。かの御大よりもSekiはロックの文法が占める割合が大きいかもしれないが、バンドを牽引するベーシストとしては確実に同じ系譜にいる。
それぞれのセクションにスポットライトが当たる度に歓声が上がっていたが、彼らのスケールはもう1000人単位の規模には収まらないのかもしれない。
筆者はどのアーティストのライブに行くにしてもある程度聴き込んでから臨むたちなのだが、Kroiの場合は音源にないアイデアが現場で立ち現れることがある。これまでのライブレポートでも様々なアーティストを参照しながら筆を進めてきたが、この日「risk」が演奏されたときには新たにBrand New Heaviesの存在を感じた。多幸感溢れるサウンドに、奥行きのあるファンクネス。それをたった5人でやってしまうのだから末恐ろしい。「You Are The Universe」ばりのポジティブなバイブスが、会場を包み込んでいた。
彼らのライブに行く度に、つくづく音楽が好きで良かったと思わされる。Kroiの音楽観がステージ上で明らかになると同時に、自分がこれまで接してきた音楽がふいに顕現する。そんな瞬間がいくつもあるのだ。
そして、オンライン上で配信も行われたラスト3曲。「Balmy Life」、「HORN」、「Fire Brain」の流れは、ここまで散々踊り狂ってきたオーディエンスの体力を根こそぎ奪う構成である。もはや達人の居合切りとか、そういったレベルの必殺技になりつつある「Fire Brain」は、メンバーにとってもラストスパートだ。彼らにも間違いなく疲労が蓄積しているはずなのだが、各パートの音の抜き差しが寸分のズレもなくハマっていく。この曲はライブを経る度に異なるアレンジが施され、同じ“居合切り”でもポーズやタイミングが大きく違う。それが実にスリリングで、至高のライブ体験をもたらしている。
そして楽曲の途中、Uchidaから突如アナウンスされた「武道館公演」。「自分はなぜ表現をするのか、音楽は何なのかってことを考えながら日々生活してるんですけど、最近は『生きた証を残すためなんじゃないかなぁ』って思ってます。そして我々Kroi、新たな証を残すため、2024年1月20日、日本武道館にてライブを行いたいと思っております」。
楽曲と同じくらい、会場からは歓声が上がる。3800人から10000人へのさらなるジャンプアップ。Kroiの音楽よろしく、いっそこのまま突き進んでもらいたい。終幕後、Twitter上では「#Kroi_武道館」というハッシュタグが散見された。
…いやー、マジなんですね。ぬるい夜風に吹かれながら、途端に「武道館」がリアルに感じられた。
取材・文◎川崎ゆうき
写真◎jacK
セットリスト
shift command
夜明け
Page
Monster Play
Drippin' Desert
Astral Sonar
cranberry
Funky GUNSLINGER
sanso
PULSE
Hard Pool
pith
Cosmic Pillow
Selva
風来
risk
Balmy Life
HORN
Fire Brain
<Kroi Live at 日本武道館>
TICKET
全席指定 7,800円 (税込)
・FC抽選先行(ぴあ)
6/23(金) 21:00 〜 7/2(日)23:59
https://kroi-fc.net/about/
・オフィシャル最速抽選先行(ぴあ)
7/3(月) 18:00 〜 7/17(月祝)23:59
https://w.pia.jp/t/kroi-t/
・オフィシャル最速先着先行(ぴあ)
7/21(金)10:00 〜 7/30(日)23:59
https://w.pia.jp/t/kroi-t/
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