【インタビュー】ディミトリ・フロム・パリ、「日本のフェスはまったく白紙の状態。自分にとっても新しいチャレンジでエキサイティングだよ」
2023年7月8日(土)、9日(日)南房総市根本マリンキャンプ場にて行われる<GREENROOM CAMP>に出演するディミトリ・フロム・パリ。間近に迫った<GREENROOM CAMP>に向けて、意外にも日本でのフェス出演は初めてと言う彼に聞いてみた。
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■コロナでロックダウンしたときに
■人気のないパリの街に改めて感動した(笑)
──パリでの生活はとても素晴らしいものだと思います。今は平穏な日々をお過ごしでしょうか?
ディミトリ・フロム・パリ 55年以上も住んでいる自分の街だと普段はあまり考えないけど、ふとしたときにパリはとても綺麗な街だって気付くんだ。クラブ帰りの朝方にタクシーでセーヌ川沿いを通って対岸の景色を見たときとかね。パリの街は200年以上前からの都市計画で建築物を規制してきたから、ほぼすべてが同じ年代の建物で高いビルもなくて、どこまで歩いても同じ景観なんだ。世界中でも珍しい例だよ。コロナでロックダウンしたとき、週に1時間しか外出できない時期があって、そのときは人気のないパリの街に改めて感動したよ。これは僕の友人たちもみんな同じことを言うんだ(笑)。
──あなたは豊富な音楽知識とセンスで常にエキサイティングな作品をリリースをしてきていますね。また数多くのミックスCDを残してきました。
ディミトリ・フロム・パリ 15〜16歳のころから音楽が大好きでいつもラジオやレコード屋をチェックしてたんだ。気になるレコードがあるとクレジットをチェックしてそこからまた違う作品やアーティスト、レーベルを発見したり、今で言う“ディギン”をずっとやってきてるだけなんだ。当時、僕の周りには共通の趣味を持っていた人もいなくていつも孤独だったよ(笑)。当時のキッズの趣味はスポーツだったり、音楽と言ってもバンドをやってたりで、僕みたいな音楽オタクは他にいなかったんだ。だから十代のころの小遣いやアルバイト代は全部レコードに使ってたよ。どうやって自分の好きな音楽を他人にシェアできるのだろうとか、それでお金を稼ぐことができるのだろうと考えているうちにDJという存在を知ったんだ。もちろんまだクラブにも行ったことがなかったころ。どうやったら自分の好きな音楽を他人に上手くシェアできるのだろう、というポイントはそのころから常にずっと考えていることで、それは今の自分のDJスタイルにも活きているポイントでもある。だから自分しか知らないようなディープな曲はDJプレイしないし、イージーリスナーもヘヴィーリスナーも両方が楽しめるような工夫をしているんだ。これは自分のDJやコンピレーション制作にも言える大事なコンセプトなんだ。
──今ではエディットやリミックス、ミックスCDなどはスタンダードですが、あなたが世界的にも先駆者で、同時にクラブシーンを切り開いてきたと思います。シーンに貢献してきたあなたは、今のシーンをどう感じていますか?
ディミトリ・フロム・パリ 80年代のディスコの12インチでリミックスの魅力にハマったんだ。大好きな曲がロングバージョンになってイントロやビートもオリジナルよりさらに良くなって、元々の曲に新しい命を吹き込むような感じにすごく惹かれてね。特にPreludeレーベルのフランソワ・ケヴォーキアン(フランソワ・K)が大きなきっかけで自分もリミキサーになりたいっていう小さなドリームになったんだ。もちろん当時リミックスするための知識も機材もなかったから、思いついたアイデアで持っていたレコードプレイヤーとカセットデッキを使って切ったり貼ったりして自分で試行錯誤しながらエディットを作って自分だけで楽しんでいたんだ。
そんなことを3〜4年やっていたんだけど、そのころパリで大好きなダンスミュージックのラジオステーションがあって、試しに自分のエディットのカセットテープを送ってみたんだ。そしたらある日自分のエディット曲がラジオでかかったのを聴いてね。超ラッキーだったよ。その後も自分のエディットのカセットテープを送り続けたら、あるときラジオのプロデューサーから連絡が来て、スタジオに来てホンモノの機材を使ってみないかって誘ってくれたんだ。思えばそれが自分のキャリアの始まりだったよ。
それからは毎日のようにスタジオに入ってプロの機材を使ってリミックスについて試行錯誤しながら学んだよ。20代のころかな。当時フランスではリミキサーは自分しかいないこともあって僕はすぐにフランスのリミックスの第一人者みたいにポジションになった。多くのメジャーレーベルから毎日のように仕事の依頼がきて、それは自分にとっても学習の日々だったね。ほとんどがフランス国内だけで知られているようなポップアーティストの作品だったけど、そんな中で初めてインターナショナルなアーティストのリミックスの依頼がきたのがビョークの「Human Behaviour」だったんだ。そのときビョークはまだブレイク前だったけどトニー・ハンフリーズもリミックスを手掛けていたことなどでNYのクラブシーンにも影響があったからとてもエキサイティングな仕事だった。結局僕のリミックスはプロモ盤だけでリリースはされなかったけどそれがきっかけになって僕の名前はリミキサーとして世界中に知られることになったんだ。
あと制作についてだけど、僕はリミックスを制作するときには必ずオリジナルのヴァイブを壊さないように留意しているんだ。デジタルで何でもできるようになった今でもオリジナルのヴァイブやスピリットを大事にするようにしている。音も極力オリジナルを残すようにして、よほど注意して聴かないと分からないぐらいあまり音を変えないようにしているんだ。マジックと同じでネタがバレてしまったら面白くないし、逆に多くを変えてしまったら元々の曲の良さが失われてしまうからね。幸い僕はオールドスクールもニュースクールも経験してきているからそのどちらの良さも分かるんだ。
またエディットについては今も個人的なDJのツールとして捉えているんだ。元々ダニー・クリヴィットやフランソワやウォルター・ギボンスとかが自分のDJセットのためにオリジナル曲を組み替えたりして使っていたようにね。最近ではエディットという言葉が一人歩きしてサンプリングやリミックスと混同されているような気がするんだ。リミックスは曲をバラバラにして音を変えたり足したり抜き取ったりするけど、エディットの定義はオリジナルのサウンドをそのまま使用すること。昔から変わらずオールドスクールのヒップホップDJがレコードを2枚使ってトリックをして作ったような音源のことを指すんだよ。
──今はどんなプロジェクトを手がけていますか?
ディミトリ・フロム・パリ いくつかのプロジェクトが同時進行していて、ひとつは友人のパリのレコードショップのレーベル“Le Heartbeat”のCHATOBARONっていうダンスミュージックのバンド・プロジェクト。それに自分のレーベル“DFP Vaults”からは初めての7インチで、大好きなオールドスクール・ドラムブレイク曲「The Soul Searchers“Ashley's Roachclip”」のエディットをリリースする。あとこれはフランスだけの話題かも知れないけど60~70年代に大活躍したフランスのポップス・シンガー、クロード・フランソワの「Alexandrie Alexandra」っていうフランスではウェディングで使用されるようなクラシック曲のリミックスを制作しているんだ。最後にもうひとつ、スペインの現行ブギープロジェクト、CASBAH 73のリミックスを制作した。これは最近リリースされたばかりだよ。
──2005年にはDJとしては世界初となるフランス芸術文化勲章「Chevalier」を受章しています。文化勲章を受賞したことについて詳しく教えてください。
ディミトリ・フロム・パリ 僕がこの勲章をもらえるなんてとてもナイスサプライズだったよ。「Chevalier」はフランス政府がフランスの文化を守るためにアンダーグラウンドなアーティストにも授与してりる勲章なんだけど、画家や俳優やライターといったトラディショナルなアーティストだけと思っていたからね。それに当時僕よりもっとビッグなDJがたくさんいる中で僕がもらえるとは思ってもいなかったよ。けどこの勲章をもらったからといって仕事が増えたとか特に変化はなかったけどね(笑)。
■東京のクラブシーンは寂しいことに
■音楽的にはどんどん衰退していっている気がする
──あなたは親日家として有名です。日本のどこの都市が好きですか?年に何度かくらい来日されるのでしょうか?
ディミトリ・フロム・パリ 日本には95年から毎年2〜3回ペースで来ているよ。東京が好きでいつも9割は東京にいていろいろなところを歩き回っている。間違いなくパリの街より東京の方がよく知っていると思うよ(笑)。東京ではよくショッピングするんだけど、好きな街は中野(トイ)、下北沢(レコード、古着)、最近は高円寺(古着、アンティーク)にもよく行ってる。上野周辺の下町のオールドスクールな感じも好きでこれからもっと散策してみようと思っているんだ。東京の町はとても人が多くて忙しいエリアと、そんな所に隣接してとても静かな場所があったりそのコントラストがとても魅力的だと思う。あと日本のカレーライスが大好きで人に教えたくないシークレットスポットもいくつかあるよ(笑)。クラブはやっぱり日本に来始めたころにレギュラーで出ていたイエローやループが今でも好きだな。東京のクラブシーンは寂しいことに音楽的にはどんどん衰退していっている気がするんだ。ヴィジョンやコンタクトもなくなってしまったし……ビジネスとしての商業的なナイトクラブがあってもやっぱりリアルなダンスミュージックをサポートするようなナイトライフがないとその町の魅力は半減してしまうよね。行政にはそういったことも理解して都市計画に盛り込んでいってもらえると良いと思うけどね。
──今回<GREENROOM CAMP>は野外ですが、いつもの東京でのプレイと違いますか?
ディミトリ・フロム・パリ 実は日本の野外フェスに出るのはこれが初めてなんだ。しかもビーチでラインアップもいろんなジャンルのアーティストがいて正直どんなセットになるか自分でも見当もつかないよ。でもいつもそのときのヴァイブスを見極めて即興でセットを作っていくから今回もそうすると思う。オーディエンスのノリ、それに天候や気温とかも大事な要素なんだ。僕たちDJはバンドと違ってセットリストがあるわけじゃなくすべて即興だからいろんな可能性があると思う。ヨーロッパやUKのフェスはずっとプレイしてきているから大体分かるけど日本のフェスについてはまったく白紙の状態。自分にとっても新しいチャレンジだからとても楽しみでエキサイティングだよ。
──さまざまな都市でロングツアーをしていますが、ツアーについてのエピソードや旅について感じることを教えてください。
ディミトリ・フロム・パリ ツアーをすることは僕たちDJにとっては仕事なんだ。いろんな国のいろんなクラブからオファーを受けて仕事に出かけていくというね。もちろん受けて行くかどうかの判断は自分でできるけど……だからプライベートな旅とはちょっと違うんだ。そんな中でビジネスとしてのイベントと自分が音楽を楽しむためのイベントとバランスを取りながらやっているんだ。何千人という大箱イベントと100人程度のアンダーグラウンドなイベントでは熱量やコンセプトに伴ってプレイする曲も全然違ってくるし。そしてそのどちらも自分にとって必要なことだと思ってるんだ。
──日本のオーディエンスはあなたをいつも待っています。あなたの音楽や人間性にとても惹かれています。ファンに一言いただけますか?
ディミトリ・フロム・パリ 日本のファンの人たちにはいつもとても感謝しているよ。彼らがいなかったら今の自分もなかったと思うぐらいにさ。日本人は普段はとても控えめであまり感情を表に出さない、けどクラブではとてもストレートに感情を表現してくる。彼らのハッピーなスマイル、音楽に対するピュアな愛情とフィードバックは自分にとって最高のご褒美だと思っているよ。それにもう30年も日本に来てプレイし続けているのに今でも変わらず新しいファンの人たちが自分を観に来てくれて、しかも自分のプレイに対して30年前と変わらないフィードバックをくれるなんて他の国じゃあり得ないよ。本当にビッグ・サンキューだね。
──音楽にはヒーリング効果があると言われますが、あなたはどうお考えですか?
ディミトリ・フロム・パリ 確かに音楽は人の身体や感情にいろいろな効果をもたらすものだね。自分のミュージックはやっぱり人をハッピーにすることだと思っているんだ。悲しんでいる人や怒っている人、絶望を感じている人たちが自分のセットを聴いてフィールグッドになってくれたら本望だよ。
──30年以上に渡り世界中のクラブシーンでDJを務め、シーンを牽引していますが、これから先は音楽家として、またはDJとしてどちらの比率が上がってきますか?
ディミトリ・フロム・パリ 自分のスタートはリミックスの制作からだったけど思えばその作品も人に向けてプレイしたいというのが原動力だったし、DJとプロデューサー、どちらも自分にとって欠かせないものなんだ。フロアでプレイするために新しい作品を制作する、そしてテスト的にそれをプレイしてフィードバックを見てまた新しい作品を制作する。今の自分にはどちらが欠けても成り立たない。だからコロナのロックダウンは本当にキツかったよ。3年間ずっとスタジオで制作ばかりして現場では一切プレイすることが出来なかったからね。DJとプロデューサー、これからも良いバランスで両立させていくつもりさ。
──いまは戦争している国もあり、経済は悪化して、人種差別、強盗、銃撃事件などあまりにも酷いニュースが続いています。世界はどう秩序が守られて平和になってくると思いますか?
ディミトリ・フロム・パリ DJやミュージシャンはエンターテイナーであって僕らの使命はオーディエンスにグッドタイムを提供することだと思うんだ。特に今みたいに良くない状況のときこそ、自分たちの活動で多くの人たちが少しでも日常からエスケープしてベタータイムを持つことができたらと思っているんだ。
interview: Take Shimizu (BBQ)
text:Yasushi Takayama(RUSH! PRODUCTION)
<GREENROOM CAMP>
南房総市根本マリンキャンプ場
主催:GREENROOM Co.
◆<GREENROOM CAMP> オフィシャルサイト