モダンなデザインの中身は超リアルなグランドピアノ、カシオ「Privia PX-S7000」大解剖
カシオの電子ピアノ「Privia PX-S7000」は、インテリアに調和するモダンなデザインと、音色やタッチはもちろん、響きやペダルの操作性など、グランドピアノをとことん追求した本格的なピアノ性能を両立したことで、昨年秋の登場以来、多くのピアノ奏者から注目を集めている。そこで今回は、どのような経緯でこの新しいスタイルの製品が生まれたのか、開発者に直撃してみることにした。サウンドBU 商品戦略部 池田 晃氏と開発本部 デザイン開発統轄部 中村周平氏に、開発の経緯やグランドピアノを再現する仕組み、その他独自の機能など、開発者だけが知っている「PX-S7000」の秘密を大いに語っていただいた。(本文中敬称略)
■ピアノとしての確かな性能を持ちつつ
■カジュアルに楽しめるデザインのものを作りたい
――まず、お二人が「PX-S7000」開発にどのように携わられたかを教えてください。
池田晃(以下、池田):私は商品企画の担当です。このモデルの前からPrivia全般のプロデューサー的な立場で、ターゲットユーザーやコンセプト、ラインナップ、仕様など全体的な企画に携わっています。
中村周平(以下、中村):私はデザイナーチームを取りまとめるデザインディレクターという立場です。製品をどういうデザインにするか、ターゲットユーザーにどんなデザインが適しているかといった、デザイン戦略を担当しています。
――「PX-S7000」の開発に至った経緯は?
池田:少しさかのぼりますが、2019年に「Privia PX-S1000」というモデルを出しました。2003年のPriviaブランド誕生から時間が経過し、あらためてPriviaを生まれ変わらせて新しいユーザーにアピールしようという狙いで開発したモデルです。ピアノを本格的に勉強して真剣に上達を目指すような方たちだけではなく、気軽な趣味としてピアノを楽しんでいる方たちにもアピールしたいと。たとえば以前ピアノを習っていたけれどやめてしまった、でももう一度ピアノを弾いてみたい、というような人たちです。ただ、このときに出した「PX-S1000」や後継モデル「PX-S1100」などでは、まだアピールしきれていないお客様がいることが分かりました。
▲サウンドBU 商品戦略部 池田 晃
――それはどういうお客様なのでしょうか。
池田:長く続けていたけれども何らかの事情でやめてしまった方というのは、かなり高度なレベルまで達していた方が多いんです。そういう方を我々は“スキルユーザー”と呼んでいるんですが、スキルユーザーは、鍵盤や音質といった基本性能にもっとこだわりを持っていたんです。それに加えて、ライフスタイルに調和する形でもっと気軽にピアノを楽しむために、デザインにもこだわったものが求められていることもわかったんです。そこで、そういうユーザーに向けたピアノを作ろうと「PX-S7000」の開発を始めました。本気で演奏するにしても、ストイックなクラシック以外の方向もあるはずですから、高度な性能を持ちつつ、カジュアルに楽しめるデザインのものを作りたいと思っていました。
――楽器の性能と同じようにデザインも重要な要素だと。
中村:そうです。今回の「PX-S7000」ではデザインはかなり重要なキーポイントになっています。開発にあたって、ピアノは好きだけれど今は演奏していない、そんな人たちがなぜピアノから離れてしまったかを、ロンドンに行ってデザイン的な観点からリサーチをしてみたんです。すると、今のモダンなライフスタイルやインテリアの中にピアノのデザインがマッチしないから弾かないんだ、という話がありました。また、壁を向いてストイックに練習する孤独なイメージのピアノではなく、身近な人と共に楽しめるものを求めている、という声も聞けました。これらのことから、我々が狙っているターゲットユーザーにはデザインがかなり重要ではないかと思ったんです。そこで、生活空間にマッチし、部屋の中央に置いても楽しめるようなデザインを実現したいと考えました。その結果、従来のピアノがある場合とは違う、新しいライフスタイルを提案できるものになったと思います。ピアノに合わせるのではなくて、自分のスタイルに合わせてピアノを選んでいただけるのでは、と。
▲開発本部 デザイン開発統轄部 中村 周平
――デザインの大きな特徴はどんなところですか?
中村:日々の生活と調和するデザインというのが大きなコンセプトで、3つのポイントがあります。まず1つめはミニマルなデザイン。普通のピアノのように曲線的で装飾があったりすると、特定のスタイルにしか合わなくなってしまう。そこでこのモデルはどんな空間にも合うミニマルでモダンなデザインを意識しました。そして2つめが全方位に美しいフォルム。一般的なホームピアノは壁際に置くことを前提としているので、“背面”があるデザインなんです。でも「PX-S7000」は部屋の真ん中に置いても違和感なく使えるように、360度どこから見てもいわゆる背面らしいところがなく、好きな位置に好きな向きで置くことができます。ピアノを“壁際から解放する”というデザインですね。
▲PX-S7000HM
▲PX-S7000BK
▲PX-S7000WE
――演奏者と向かい合うところにいる人も一緒に楽しめるわけですね。
中村:その通りです。自分の練習のためだけでなく、身近な人とのコミュニケーションの中でピアノが存在する、そんなシーンにも似合うようにしています。3つめのポイントとなるのが「CMF」、つまりカラー、マテリアル、フィニッシュです。カラーはハーモニアスマスタードと名付けた黄色のほかに、黒と白、合計3色あります。そしてガラスのような透明の譜面立て、ソファーのようなスピーカーネットのファブリック、家具のような木目調のスタンドなど、インテリアにあるような質感の素材を使っているので、生活空間になじむと思います。
▲ピアノにはあまり使われないユニークなハーモニアスマスタード。グランドピアノのようなポリッシュ塗装になっている。
――3つのカラーの中で、中村さんのイチ押しはどれですか?
中村:もちろんハーモニアスマスタードです。他のピアノにはほとんどない、特徴的な色だと思います。ハーモニアスマスタードのモデルに関してはグランドピアノのようなポリッシュ仕上げを施しており、色はピアノらしくないけれど仕上げはピアノらしい、というところでバランスをとりました。
――なぜこの色を採用したんですか?
中村:新しいジャンルのピアノだという主張をするために、ピアノにはあまりない色を使いたかったんです。ただ奇抜な色を使えばよいわけではないので、欧州などのインテリアブランドも色々調査しました。その結果、黄色は大きなソファーなどでも定番として使われている色だとわかったので、ライフスタイルに調和する色として採用しました。
▲“抜け感”を作りだしているスタイリッシュなスタンドとクリア素材の譜面立て。
――スタンドの脚が下に向けて細くなっていくのもスタイリッシュで、オシャレ家具のようなデザインですね。
中村:デザインでもっとも苦労したのは、実はスタンドなんです。ここが軽やかさを生む一番のポイントですから。なるべく物量感がなく軽やかにしつつ、演奏の際の安定性や構造的な強度を維持できるラインを探して、エンジニアとともにこのデザインを作り上げたんです。このスタンドとクリア素材の譜面立てで“抜け感”を作り、生活空間の中に圧迫感なく入っていけるようにする、というのがこだわったところです。デザインについては楽器というより、家具のような意識で取り組んだところもありますね。
――スタンドだけでなくペダルも一体型になっているんですね。
池田:初心者や、気軽に楽器を奏でたい方であれば、簡易的な外付けペダルという選択肢もあると思いますが、演奏技能の高いスキルユーザーならペダルを多用した激しい演奏もするだろうと。それに対応できるように、安定して使える一体型にしました。ペダルと本体をつないでいるのは中空のパイプではなくて、中のつまった棒なんです。そのぶん重いですが、演奏性と安全性、デザイン性を両立させるために採用しました。ただスタンドとペダルも外すことが可能ですし、スタンドペダル一体型でないスタイルで使いたいユーザーさんには「PX-S6000」というモデルも用意しています。
▲PX-S6000
――6月8日にはPrivia専用の椅子「CC-7」も発売されましたが、これもデザインを重視したものですか?
池田:「PX-S7000」は楽器として性能が高くインテリアにも調和する、新しいピアノですから、それに合わせた椅子ということで新たに開発しました。インテリア性についてはカシオの知見だけでは足りないと感じたので、福岡にある株式会社関家具が展開するブランド「CRASH GATE」とコラボレーションさせていただいて作りました。脚部と座面枠には天然のブナ材を使用し自然な風合いを持たせつつ、「PX-S7000」とあわせ直線的で圧迫感のない軽やかな印象になっています。ブナ材が持つ硬さや粘りと、重さや座面・脚部のバランスなどを考慮した設計で、演奏時の重心移動にも耐えうる高い安定性を確保しています。また、自由なスタイルで演奏を楽しめるよう、一般的なピアノ椅子とは異なる丸い座面を採用しているのも大きな特徴です。座面のクッション材には厚みを持たせたウレタンフォームを使用することで、姿勢を崩しにくいだけでなく快適な座り心地を実現しています。また、座面を回転させることで無段階に高さを調整できるので、体格に合わせて正しい姿勢で演奏することが可能になっているんです。「PX-S7000」本体カラーのハーモニアスマスタード、ブラック、ホワイトと調和するよう、木部や座面部の張地の色味にこだわったライトとダークの2モデルをラインアップしています。
▲老舗インテリア会社の関家具が展開するブランド「CRASH GATE」と共同開発したPrivia専用のピアノ椅子『CC-7』。
▲脚部と座部は天然のブナ材。座面のクッション材には厚みを持たせたウレタンフォームを使用。座面を回転させることで無段階に高さを調整できる。
――この椅子を合わせることで、ますますインテリアに調和しそうですね。
池田:そうですね。このピアノで提案したかった新しいスタイルが、この椅子を合わせることで完成すると考えています。
◆音色や操作性に迫るインタビュー(2)へ
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