【対談前編】龍ヶ崎リン × 水槽、3rdシングル楽曲提供秘話を語る「ここまで尖った曲になって大丈夫?」
2023年2月にアーティストデビューを果たしたVTuberの龍ヶ崎リンが6月4日、早くも3rdデジタルシングル「ギヴミー」をリリースする。同曲のソングライティングを手掛けたのは、兼ねてからファンであることを公言しているシンガーソングライターの水槽だ。
チルなシティポップ調の過去曲とは対照的に、「ギヴミー」は生楽器とプログラミングが交錯するエッジーなサウンドに加え、鋭い言葉たちが並ぶ攻撃性を孕んだ楽曲だ。果たして、この楽曲はどのような経緯で生まれたのだろうか。対談前編では両者がタッグを組んだきっかけから、「ここまで尖った曲になって大丈夫?」というやり取りまで発生したという楽曲テーマと、その背景を探る。
▲3rdデジタルシングル「ギヴミー」
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■水槽というハードウェアは同じだけど
■OSを龍ヶ崎リンに入れ替えての制作
──龍ヶ崎さんはVTuberデビューなさった2020年頃から、水槽さんのファンだそうですね。
龍ヶ崎リン:くじらさんの「幽霊少女」がすごく好きで、“どなたか、歌ってみた動画を投稿してないかな?”とYouTube検索して出てきたのが、水槽さんのカバーでした。「幽霊少女」は歌ってみた用のインストが配布されていなかったので、カバー動画が少なくて。少年性のなかに女性的な要素を入れる中性的な歌い方を聴いて、一瞬で好きになりました。その後、オリジナル曲の制作までなさっていることを知って、オリジナル曲のカッコよさにも心を奪われて、ずっと一方的にファンで。3rdシングルの制作をお願いするにあたって、初めてコンタクトを取りました。
水槽:リンちゃんご本人から、「すごくファンなので3rdシングルの楽曲を書いていただきたい」とか「この曲が好きなんです」といった、すごく丁寧なメッセージをいただいたんです。リンちゃんのYouTubeに飛んでみたら、スタイルが確立されたすごく素敵な歌声で、ぜひ制作させていただきたいなと。ほぼ迷わずにすぐ決めましたね。
龍ヶ崎リン:わあ、めっちゃうれしい! 水槽さんのオリジナル楽曲「事後叙景」の、気だるげだけど強い意志が込められた歌い方がめちゃくちゃ好きで。水槽さんが作詞作曲編曲をなさっているので、今回ご一緒させていただくにあたって、リファレンス曲として「事後叙景」も提出したんです。「事後叙景」でギターを担当している香取真人さんが、今回の「ギヴミー」でもギターを演奏をしてくださって、大興奮しましたね。
──確かに「事後叙景」と「ギヴミー」はつながる部分が多いですが、どういう流れで「ギヴミー」の制作は進んでいったのでしょう?
龍ヶ崎リン:まず最初に、リモートでイメージを共有して、その後、テキストをお送りしました。めちゃくちゃ長い文章を(笑)。
──龍ヶ崎さんは1stシングル「Twilight Stream」のときも2ndシングル「追熟」のときも、作家さんにご自身の年表やメモをお渡しになった、と以前のインタビューでお話いただきましたが。
龍ヶ崎リン:水槽さんに送った文章は、過去2曲のときよりも結構恥ずかしいというか…あんまり人に知られたくない思いを書いたものなんです。というのも、「ギヴミー」は「Twilight Stream」や「追熟」に至る前までの気持ちが描かれているんですね。オブラートに包んでしまうと水槽さんも楽曲を作りづらいだろうなと思って、当時抱えていた怒りや悔しさ、“なんでなんだよ!”という憤りをありのまま伝えました。
水槽:“こんなふうに生きてます。こういうことを考えていて、こういうことが不満なんです”というリンちゃんの思いや普段考えていること、パーソナルな部分を、まず自分が吸収するところからのスタートでした。だから打ち合わせやテキストから、曲を書くための材料もらったという感じでしたね。“こういう人ならこういう感じの楽曲を歌うだろう”というイメージで曲作りをしていきました。
──水槽さんは提供楽曲とご自身用の楽曲では、制作に対する感覚も変わるのでしょうか?
水槽:制作段階では同じなんですけど、その前段階となる起点が全然違いますね。楽曲提供する場合は、その人の辞書を自分で作って、そこから言葉や音のイメージを引っ張ってくるんです。
龍ヶ崎リン:辞書ですか?
水槽:そうなんです。「ギヴミー」はリンちゃんからいただいたワードを、まず水槽なりに辞書へ落とし込んでいって。その辞書には自分の楽曲を作る場合は使わない言葉も入れて、作詞する際、そこから言葉を引っ張ってくるという。だから、水槽というハードウェアは同じだけど、OSを龍ヶ崎リンに入れ替えての制作というか。それがすごく面白いんです。
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