【インタビュー】須田景凪、2ndフルアルバムを語る「今までの作品の中で一番良いバランス」
ボカロP“バルーン”こと須田景凪が、メジャー2ndフルアルバム『Ghost Pop』を5月24日にリリースする。須田景凪が同アルバムについて語ったオフィシャルインタビューをお届けしたい。
◆須田景凪 画像
須田景凪の真骨頂を示す一枚が届いた。一度聴いたら耳を掴まれてしまうような即効性の強い楽曲から、胸にゆっくりと染み渡っていくようなメロウなナンバーまで。新作のメジャー2ndフルアルバム『Ghost Pop』は、以下のインタビューで語られているように、「ゴースト」と「ポップ」という言葉を通して、須田景凪のアーティスト性の核心にある二つの要素を突き詰めた作品だ。新作はどんな思いのもとに作られていったのかを、じっくりと語ってもらった。
◆ ◆ ◆
■『Ghost Pop』という名前に
■相応しいものを作りたい
──アルバムを作り始めたタイミングはいつ頃で、その時にはどんな考えがありましたか?
須田:アルバムを作るということが自分の中で現実的になってきたのは、去年自分が<メトロック>や<ロック・イン・ジャパン>のようなフェスに初めて出させてもらう機会があった頃ですね。そのとき、やっぱり自分は昔からポップスを作りたい、よりいろんな人に知ってもらいたい、いろんな人に認められたいという気持ちがあることを再確認して。それが『Ghost Pop』の“ポップ”の部分であるならば、一方で“ゴースト”という場所もある。音楽を作る前から、すごくほの暗い場所にいるという自覚があって。どうしても埋まらない穴みたいなものが一生つきまとっている感じがする。とはいえ多くの人に認められたい、より大衆的なものを作りたいという気持ちもある。傍から見たら矛盾するかもしれないんですけど、確かにその二つが自分の中には大きな核としてある。そういった感覚を一つの作品にまとめたいと思って、そこから制作が始まっていきました。
▲『Ghost Pop』初回生産限定盤
──ということは、『Ghost Pop』というタイトルは制作の初期段階からキーワードとしてあった?
須田:そうですね。フェスに出た頃からタイトルだけはぼんやりと自分の中にありました。『Ghost Pop』という名前に相応しいものを作りたいということは、前から思っていましたね。
──より開けたものにしたいという意識はありましたか?
須田:初めましての人にもより届くようなものを詰め込みたかったというのはありますね。長いこと音楽をやってると自分の中で地続きになってしまう部分も多いと思うんですけど、あえてそういうものを無視した要素も多く入れたくて。最初は全部で10曲くらいの予定でしたが、いろんなバランスを考えた結果、最終的にこの14曲に落ち着きました。
──『Ghost Pop』というアルバムを作っていくにあたって、一つの手がかりになった実感があった曲はどれでしたか?
須田:「ラブシック」ですね。歌詞や内容も含めて、この曲がいわゆる『Ghost Pop』というものを一番体現している曲なんじゃないかと思います。だからこそこれを1曲目に置きました。
──この曲は“わかるかしら”という歌詞のちょっと狂気性を感じるような声の出し方や、病んだ恋を思わせる歌詞など、いろんな部分で強いフックを持つ曲だと思います。これはどういうモチーフから書いていったんでしょうか?
須田:この曲は一聴するとラブソングだと思うし、もちろんそう捉えてもらってもいいんですけど、自分の中ではAメロの“もう どうでも良かった 誰かにどう思われようと”という箇所が一番強く思っていることなんです。というのも、最近は昔では考えられないくらい人前に出させてもらうことも増えて、自分が思いがけない形で誤解されることも多々あって。それでも、その一つ一つを気にしてたら生きていけないと思う。そういう気持ちを音楽に昇華したかったというのがあります。
──自分の心情がスタート地点になっているけれども、書き方としては“私”と“あなた”のラブソングにもとれるようなストーリーテリング的な書き方になっている。
須田:自分の曲はそういうものが多いんじゃないかなと思います。一聴したらラブソングではあるけれども、自分は主観的なことを歌うことが多いし、その時々の自分の思考を曲全体に反映させる書き方が多いので。この曲は特にそれが色濃く反映されていると思います。
──この曲の最後に“心に穴が空いてるの”と”心に花が咲いてるの”という韻を踏んだ歌詞がありますが、その意味合いがまさに“ゴースト”と“ポップ”に対応しているようにも思います。
須田:まさにそうですね。矛盾してるなって昔から自分でずっと思ってるんですけど、でも、その二つがあるから自分なんだということはずっと思っていて。このアルバムの大前提のテーマとしてそういう部分があります。
──「メロウ」はTVアニメ『スキップとローファー』のオープニングテーマとして書き下ろされた曲ですが、これは原作に寄り添うように書いていった感じでしょうか。
須田:そうですね。この『スキップとローファー』という作品は、もともと原作の漫画から読んでいて。今までタイアップさせていただいたお話はダークな作品も多かったんですけど、今回はめちゃくちゃキラキラした青春のラブコメディで。そういうお話をもらった時に、自分が書けるもの、自分がここに寄り添う形は何が一番相応しいんだろうと思って、何回も漫画を読み直しました。主人公のみつみちゃんは田舎からやってきた女の子で、志摩くんは東京に慣れている男の子なんですけど、みつみちゃんという存在との出会いで、志摩くんのなかで今までの当たり前が、全て当たり前じゃなかったかのように、景色がどんどん変化して見えるような心情描写があって。これを音楽で書きたいなと思ったんです。で、いざ曲を書き始めた時に、少しでもひねくれたら全く伝わらないものになる、相応しくないものになってしまうんじゃないかという気持ちがどんどん強くなって。結果として作品に強く寄り添った感じがします。
──須田さんのもともとの世界観の中には、爽やかな青春ラブコメはなかったわけで。
須田:絶対なかったですね。
──けれどこの「メロウ」も違和感なく須田景凪の曲として成立している感じもします。
須田:『スキップとローファー』の制作の方々からこのお話をもらったってことは、自分にどんな表現を期待してくれているんだろうとか、どういうアンサーが一番正しいんだろうとか、そういうことを長く考えました。この話がなかったらここまで振り切ったものは生まれなかったんじゃないかなと思いますし、それこそ今までの自分が知らなかった自分を見せてくれた曲でもあったので。ひとつ開けた曲だったのかなと思います。
──昨年には映画『僕が愛したすべての君へ』の主題歌と挿入歌として「雲を恋う」と「落花流水」がリリースされましたが、その時のインタビューで「シンプルな言葉を書くようになった」と言ってましたよね。持ってまわった言い方や難しい言葉をあえて選ぶんじゃなく、直球の表現を選ぶようになった。
須田:なりましたね。特にここ最近はそれがマイブームでもあり、結局その方が伝わることも多いなと思っていて。意図的にそれを選んでいる節があります。
──アルバムを聴くと、そういう意図が曲の根っ子や骨格の部分に作用していて、そのモードが全体に作用している感じがします。
須田:「メロウ」は本当に大きなきっかけになりました。自分の鎧を剥がすというか、今まで培ってきたものを一回崩す作業が必要になった。それを経て、さっき言った自分の核や根本にあるものを赤裸々に書いた方が説得力が増すんだろうなと思った。それが大きなきっかけになったので、他の曲にも大分それが反映されていると思います。
──「いびつな心」はドラマ『沼る。港区女子高生』の主題歌として書き下ろされた一曲で、配信されたバージョンではむトさんをフィーチャリングに迎えていますが、アルバムでは一人で歌っています。この曲はどういうモチーフから作っていたんでしょうか?
須田:この曲もお話があって作り始めたんですけど、言ってしまえば、わかりやすく自分が思う人生観みたいなものを書きたかった曲です。自分も含めて、過去を振り返っても、何が正解で何が不正解なんて一つもわからないということをずっと前から思っていて。たぶん、ここからもっと長いこと生きても、ずっとわからないの繰り返しなんだろうなと思うんです。10代の頃はその一つ一つに一喜一憂したり絶望したりしていたんですけど、最近はその一つ一つで悩み苦しむこと自体が素晴らしいことなんだろうとも思うようにもなった。それをより伝わる形で書こうとしました。
──曲調やサウンド、メロディに関してはどうですか?
須田:むトさんは自分がネットで見つけてオファーさせてもらったんですけど、配信されているバージョンに関しては、そもそも10代とか若い年代の方に届くものにしたいドラマというお話をもらっていて。むトさんがfeat.参加したアレンジにはCarlos K.さんに入っていただいたんですけれど、サウンドに関しては言ってしまえば、あまり日常的に音楽を聴かない人にも届くものにしたいという気持ちが一番強かったです。『Ghost Pop』で自分が歌うときは、自分のアレンジで、同じ歌詞、同じメロディーではあるけれども、もう少しパーソナルな目線を持ったものとして聴く人に伝わるためにはこういうサウンドが相応しいんじゃないかなと思って作ってきました。
──「ダーリン」についてはどうでしょうか。この曲もアルバムのすごく大事なピースになっているし、「ラブシック」と同じくらいアルバムのトーンやムードを象徴している曲のように感じるんですが、この曲はどういう感じでできていたんですか?
須田:「ダーリン」は「ラブシック」を作った直後に作った曲なんです。この曲は依存とか中毒みたいな言葉について考えている時に作った曲で。音楽についても「中毒性がある」ってよく言いますけど、そもそも中毒性のある音楽とは何かみたいなことを考えてました。ミュージックビデオでも顕著なんですけど、薬だったり、お酒だったり、自分の心の拠り所となるもの、中毒になるもの、依存してしまうものが出てくる。そこを軸に作っていったラブソングです。
──曲のモチーフが“中毒”であるというのを聴いてなるほどと思ったんですけれど、曲自体がまさに中毒性があるサウンドや曲構造になっている。そういう狙いはありましたか?
須田:この曲に関しては結構狙いましたね。何度も同じ言葉を使ったり、短い時間軸の中で展開していく曲調だったり、まさに何回でも聴きたくなってしまうみたいな、中毒性みたいなところは意図的に作りました。
──「ダーリン」と「ラブシック」はこのアルバムを象徴している曲であると同時に、すごく今の時代っぽい感覚でもあると思うんです。というのも、かつてのJ-POPって、もっとパッセージがゆっくりな曲が多かったと思うんです。おおらかなメロディをたっぷりと情感を込めて歌い上げるようなタイプのバラードがJ-POPの王道だった。今はそれとは違って上下に飛び回る速いパッセージのメロディがポップスとして成立する時代になっている。そういう意味で、これがポップなんだという今の時代の価値観を打ち出してる感じもしました。
須田:そうですね。おっしゃる通りで、プラス『Ghost Pop』の別の意味合いにもなるんですけど。時代ごとに音楽のトレンドは変わっていくと思うんですけど、今って本当に目まぐるしいじゃないですか。言ってしまえば、音楽が消耗品みたいな扱いをされてしまっている一面もあると思っていて。自分はそれが悲しいことだなと思っているんですけど、それと同時に今だから言えること、今だから伝えられるものを一番大事にしたい気持ちもある。そういう意味合いも「ダーリン」だったり「ラブシック」だったりに含むことができたんじゃないかなと思います。
◆インタビュー【2】へ
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