【コラム】いつだって力強くしなやかに駆け抜けてきた。ももクロ15周年記念ソング「いちごいちえ」から見えるヒストリー

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今年の5月17日に結成15周年を迎えるガールズユニット・ももいろクローバーZ(以下、ももクロ)が、アニバーサリーシングルとなる結成 15 周年記念ソング「いちごいちえ」を本日4月21日にリリースした。

一期一会とは、茶道を源とする言葉で、生涯に一度きりのことと思い、誠意を尽くすことを意味する。結成以来、目の前のことに対してひたむきに向き合い、誠心誠意取り組んできたももクロに、これほどふさわしいタイトルもないだろう。

歌詞には、“5475文字の手紙”や“4文字の「ありがと」”など、彼女たちがこれまで歩んできた日々や、モノノフ(ももクロのファンの呼称)をはじめとする彼女たちを支えてくれた人たちへ向けた、ありったけの想いが詰め込まれた言葉が並ぶ。

作詞・作曲を手がけたのは、CLIEVY(C&K)、編曲は小松一也で、これは、10周年記念ソング「クローバーとダイヤモンド」と同じ座組である。ウォームでオーガニックなサウンドや歌唱が柔らかく心地よい10周年記念ソングからは、がむしゃらに走り続けてきた彼女たちに与えられた束の間の休息や、ふっと立ち止まって現在地を確認したかのような印象を受けた。



一方、本作は光が感じられるキラキラとしたイントロに始まり、15周年という区切りを迎えた4人の、明るい前途を予感させるナンバーに仕上がっている。確かに、グループもソロ活動も充実し、4人は輝くばかりだ。しかし、これまで歩んできた道のりは光に包まれていたとは言い難い。むしろ、度重なるピンチを乗り越えてたどり着いた今が晴れやかだからこそ、この「いちごいちえ」はひと際、煌めいて響くのではないか……。



それを確かめるためにも、この新曲を手掛かりに、彼女たちの歩みを(ちょっと大変だったエピソードを中心に)駆け足で振り返ってみようと思う。最初の大きなピンチといえば、中心的なメンバーだった早見あかりの脱退ではないだろうか。これを機に、グループ名を現在のものに改名したのだから、その衝撃は推して知るべしである。しかし、その直後から異種格闘技戦とも言える多様なコラボをがむしゃらにこなし、その愚直さゆえのどこかユーモラスな佇まいも含めて多くの支持を獲得。グループとしての底力と知名度を上げた彼女たちは、2012年に悲願の『紅白歌合戦』へ出場を果たした。


2014年、女性グループとして初めて旧・国立競技場へ単独で立った、ももクロ。名実ともに国民的グループとなったわけだが、歌の軸だった有安杏果が脱退してしまう。「いちごいちえ」の中の、「どこへいざない枝葉別れる」という歌詞からは、そんな彼女たちのヒストリーが透けて見えるようだ。

楽曲の中の、「いちごいちえは (中略)たまに傷つけてきて きやがるんだな」という歌詞からは、彼女たちが遭遇する逆境に苦しみ、戸惑ってきたことが伝わってくる。中でも「きやがるんだな」は4人のユニゾンが力強く響く印象的なパートでもあり、聴き手に勇気をくれる明るさを携えている。山あり谷ありの15年間を力を合わせてくぐりぬけてきた彼女たちだからこその、しなやかな力強さを感じることができるだろう。

もはや、逆境に笑顔で立ち向かってこそ、ももクロ。苦境をバネに、飛躍してきたともいえる。たとえば、『紅白』落選の悔しさは、<ももいろ歌合戦>へと昇華。いまや大物や人気アーティストが多数出演する恒例のライブイベントになっている。そうやって、常に爽やかな笑顔の裏で歯を食いしばって前進してきた彼女たちに、2020年、世界規模のパンデミックが襲い掛かった。コロナ禍で、彼女たちの魅力が炸裂するライブは停止。そこでも、悲嘆にくれるのではなく、SNSでのつながりを強化したり、映像作品を無料で開放したチャリティー、双方向性のあるオンラインライブ等の開催を通して、ファンとのつながり方の多様性を見出した。「今度は僕の番だ/君が助けてくれたから」という一節は、どんなときにも伴奏を続けてくれたファンに向けて、さらに力強く活動を続けていくという固い約束に違いない。


また、ソロで活動の幅を広げたことも、グループにとって大きな転機となっただろう。朝ドラのメインキャストを務めるなど俳優としてキャリアを重ねる百田夏菜子は、芝居を介して「もっと歌がうまくなりたいと思うようになった」と、歌唱への貪欲さをのぞかせている。早くからソロコンサートなどをセルフプロデュースしてきた佐々木彩夏は、後輩たちのプロデュースなどでもその能力を存分に発揮している。高城れにもまた、俳優やソロコンサートなどで持ち前の誠実で愛らしい魅力を花開かせている。玉井詩織はといえば、グループの中でバランサーのような重役を果たしながら、いまやももクロの楽曲に無くてはならない歌の中心軸となった。玉井の安定感のある朗らかな歌声は、もちろん「いちごいちえ」でも豊かに響く。彼女に歌をつなぎ、繋いでいくそれぞれの歌声にも、磨き上げてきた個性が歌声にも現れている。だからこそ、簡潔で力強い「いちごいちえ」に描かれたメッセージに説得力や存在感与えることができるのだ。

15年の歩みの、ほんのさわりだけでも、これだけドラマチックということは、信じられないほど濃密な時間を4人は共に過ごしてきたのだ。少女たちは、1つひとつの出来事に対して真剣に悩み迷いながら、力を合わせて真摯に取り組んできた。そんな彼女たちだから「いちごいちえ」を歌うにふさわしいのだろうし、彼女たちだから歌えるニューアンセムなのだ。


この記念ソングを狼煙に、ももいろクローバーZは15周年イヤーを爆走するようだ。まず、結成記念日の5月17日とその前日16日に、<代々木無限大記念日 ももいろクローバーZ 15th Anniversary>を開催する。7月から10月にかけては15周年記念ツアーで全国を巡ることも決定している。そのほかにも、恒例の佐々木や高城のソロライブや、7月と9月にさらなる新曲の発表も予定している。

今回は、確信に満ちた王道のミディアムバラードで前途を高らかに宣言したももクロだが、彼女たちを音楽的に見ても非常にオリジナリティが高く、尖ったものも少なくない。それでいて、「おどるポンポコリン」をあっけらかんと歌うこともまるで違和感がない。その驚くべき間口の広さや懐の深さは、レディー・ガガやビリー・アイリッシュなどにも通じる、とてもダイバーシティな在り方だと思う。そうした意味で、直近の動向で注目に値するのは、2022年に年長者の高城の結婚発表だ。これは、単にめでたいだけでなく女性グループとして新しいフェーズに突入したこと指し示していると思う。近年、ソロキャリアの拡充目覚ましかった高城が、プライベートも充実させたことは、後輩はもちろん働く女性たちに向けて大いなるメッセージとなったはずだ。それでいて、「いちごいちえ」で変わらず歌声でキュートを振りまいており、いかなるときも自然体で居続けられるのだと暗に示してくれているようだ。


こんなふうに、ももクロはこれまでも先駆的なことをさらりとやってのけてきた。結成以来、ずっと百田は静岡から遠距離通勤を続けてきたわけだが、これも画期的だったと思う。ここ数年は多拠点生活も認知されるようになったが、15年以上も前から当たり前のように続けてきたことに、いまさらながらに驚かされるばかりだ。

彼女たちは、この先もきっとその都度、迷い悩みながら、全力で目の前の事象に体当たりし、自分たちらしさをその手で獲得していくだろう。歌詞のラスト「愛に溢れた道歩ゆんでゆく」と誓ったように、これから歩んでいく先々でどんな色鮮やかな歌声が生まれ、新しい音楽を共鳴させるのか…。そう思いを巡らせると、楽しみで仕方がないし、この先もももいろクローバーZの一挙手一投足から目が、耳が離せそうにない。

文◎橘川有子

ももいろクローバーZ 結成 15 周年記念ソング「いちごいちえ」


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セルフリメイクアルバム第3弾『ZZ’s Ⅲ』


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<代々木無限大記念日 ももいろクローバーZ 15th Anniversary>

【DAY1】2023年5月16日(火) 17:00開場 / 18:00開演 / (21:00終演予定)
【DAY2】2023年5月17日(水) 17:30開場 / 18:30開演 / (21:30終演予定)
【会場】国立代々木競技場 第一体育館

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