【ライブレポート】Nissyヘのありがとう
Nissy Entertainmentが帰ってきた。
Nissy(西島隆弘)が6大ドームツアー<Nissy Entertainment 4th LIVE ~DOME TOUR~>を開催。これは2022年5月にリリースしたアルバム『HOCUS POCUS3』を引っ提げて行われた、約3年半ぶり、そして自身初、最大規模となるドームツアーだ。しかもソロアーティストによる6大ドームツアー公演は史上2人目の快挙となっている……という功績ももちろんすごいのだが、それよりも何よりも、東京ドーム公演をみて一番感嘆したのは、Nissyの“エンターテインメント”に対する気持ちの強さだった。
◆ライブ写真
自身のプロジェクトに“Nissy Entertainment”と名付けていることからもわかるが、Nissyはエンターテイメントというものを大切にしている。そこには単純に「そこにいる人を楽しませたい」という思いもあるし、もっと広い意味で「そこに関わる人を幸せにしたい」という思いがある。ライブに来た人を楽しませるだけでなく、ツアーでまわる都市を含めた全国各地の地域活性化に繋がる取り組みも行なっていることなどは、まさにNissyが思うエンターテインメントの在り方なのだろう。
それだけに、“エンタメが止まった”このコロナ禍の期間は、Nissyにとって非常に辛い時間だったのではないかと想像できる。「おうち時間のお供になっていただけたら」とYouTubeチャンネルを開設したり、楽曲「僕にできること」やアルバム『HOCUS POCUS 3』を発表したりと、歩みは止めず“アーティストとして出来ること”を提供してくれてはいた。ただ、東京ドーム公演のMCでNissyは「心がポッキリと何回も折れて、全然歌詞も書けなくて」と、この期間の気持ちを吐露。明るい笑顔でファンの皆を支えていてくれていた彼自身も、そんな思いをしていたのだ。
<Nissy Entertainment 4th LIVE ~DOME TOUR~>では、そんな時期を乗り越えて書かれた楽曲「Do Do」からライブがスタート、Nissyから感情をいきなり突きつけられたようでグッと来てしまった。3年越しに会うには、エモすぎる。「Do Do」は、「いつになったら君の前で歌っていい?」という意味深な告知ワードから発表された楽曲だったから。
オープニングムービーを経て徐々に開いていくメインステージ、ミラーボールを背にNissyが登場したと同時に大歓声が沸き起こったのも、当然だ。一見ラブソングのように思える歌詞のこの楽曲は、“会えなくなってしまった私たち”にも重ね合わせて聴くことができる。久しぶりのNissy Entertainmentだという高揚する気持ちの中で、すでにクライマックスのようにこの3年間の思いが溢れ出す。
でもライブはそんなエモい気持ちに浸らせてはくれない。火柱のあがるムービングステージでファンの頭上を移動しながら、「Trippin」を放つNissy。「Do Do」で会えなかった期間の切なさを思い出させてから、「Trippin」、という流れがニクい。夢で見た景色、始まるステージ、そして“Sorry ハマったら 抜け出せないらしいです”とは、今日この日をファンの心に焼き付けようとするNissyの宣言でもあっただろう。そしてさらに感情を滾らせる「The Ride」を経て、最初のMCでは「もっともっと上まで行けますよね! 今日は今日しかないから、最高の思い出作って行きましょう」と高らかに呼びかけた。
ここからは、会えなかった期間を思い出す余裕もなく、今日この日のNissy Entertainmentに引き込まれていった。「ひと足早いけど一緒に夏を体験しませんか」と言ってバンドメンバーとともに海の映像をバックに奏でた「Never Stop」「Relax & Chill」ではチルな雰囲気に包まれたと思えば、その後は一変してシリアスな映像がスクリーンに投影される。とあるミッションを果たすために“この時間軸”に来たというNissyと、NissyをサポートするAIのやりとりという形で、恋人と過ごした時間と記憶をリセットしなければいけないというストーリーが描かれる。ただこれが幕間映像とは思えないクオリティで、映画のようで見入ってしまう。
記憶をリセットするために、Nissyが眠る恋人の手に触れた瞬間……ファンの持つペンライトがアリーナから3階まで登るように点灯、ミラーボールがついてキラキラしたオレンジ色の光で会場が照らされ、流れ始めたのは「君に触れた時から」。映像からリンクする演出が、曲の切なさを一層冴え渡らせる。さらには間奏で、アリーナのセンターを横断する一番長いステージ一帯に噴水まで登場。記憶をリセットされた恋人と雨の日に再開するという映像が続き、今度は四方が噴水のカーテンで覆われたセンターステージにNissyが現れ、「Don't Stop The Rain」の悲しいメッセージを歌い始める。別れを想起させる映像からそのまま繋がるように展開されたこの2曲の演出は、息を呑む美しさだった。
会えなかった期間が長すぎたゆえ、今回のNissy Entertainmentはこの雰囲気でエモーショナルに攻めてくるのかと思っていたのは、軽率だった。続いてのブロックでは『Nissy Entertainmentのオールナイトニッシー』と銘打ったラジオ番組風のトークコーナーで笑いを誘い、それが夢オチだったと思いきや今度はチョコレートプラネットの人気コント「静かにしろ」にNissyも学ラン姿で加わるというまさかの展開がスクリーンで繰り広げられる。「君に触れた時から」「Don't Stop The Rain」でのシリアスで美しい雰囲気をややもすればぶち壊しかねないように思われるが、真逆なシーンを展開していく手法は、一筋縄ではいかないNissyの人柄を感じさせる部分でもある。
そこからは怒涛の展開に。トラの着ぐるみにウサ耳をつけたダンサーたちが、大きな『HOCUS POCUS3のパッケージにもなったスーツケース』を乗せたバギーで登場する。ボックスの中身はもちろんNissyで、「DANCE DANCE DANCE」の振り付け指導を開始する。あちらこちらのファンからかけられる声援に答えつつアリーナを一周しながら着替え、メインステージに戻ったところで「DANCE DANCE DANCE」を会場一体となってパフォーマンス。大勢のチアリーダーと一緒にラインダンスも披露し、声出しも解禁されていることから、ファンによる合いの手の合唱も完璧。続けての「The Eternal Live」も、バンドメンバー&ダンサー紹介にNissyのソロアクロバット、水柱が上がれば花火も上がるという圧巻のステージだった。
Nissyがバギーで会場を回ることも、ラインダンスもファンによる合いの手も、花火に驚く歓声も、コロナ前の過去のNissy Entertainmentで体験したことがあるもの。タイムスリップしたかのような不思議な気持ちを感じた。いや、本当はこれが本来の姿だったのだが、実はこの光景のことを実感としてはすっかり忘れてしまっていた。大切な光景を思い出させてくれたことに感謝を覚えていると、MCでNissyがこんなことを語った。
「『HOCUS POCUS 3』を制作した時は、生活するのもままならないほどで、ぽっきり何回も心折れた。全然歌詞も書けなかった。しかし生活用品の買い物も家族に会うことも満足にできない状況の中でもエンタメは必要だと思っていたから、「僕にできること」をリリース。その後も無理だと思う状態が続いたが、そんな時にチョコレートプラネットの「静かにしろ」のコント動画を見た。彼らは静かにしなければいけないという環境をエンタメにしていて、そこで “こんなエンタメがあるんだ”と救われて、歌詞を書き始めることができた。そうしてできたアルバム『HOCUS POCUS 3』は、うまくいっていない人やうまくいかないことを、エンターテイメントに昇華するものとして作られたという。
コロナ禍のような出来事は、今後教科書に載ることがあるかもしれない。しかし、エンタメについては教科書には載らないことがほとんど。そんな中で、『HOCUS POCUS 3』が教科書のようなものになってくれたらいいという願いも込められているとNissyは語る。アルバムを手に取ってくれた人が、10年後に“なんでNissyこんなストーリーの展開のアルバムを作ったんだろう”って思った時に、“ああ10年前はこんなことがあったね”と思い出してくれるようにと。
そしてドームツアー開催の発表をしたときのことも振り返る。開催が発表されたのは2022年5月のことで、まだまだ世間は自粛ムードが残っていた頃だ。でも、Nissyは何かしら前に進んでいかないと何も前に進んでいかないと考え、一歩前進のために開催を決意した。ただ、その中でも「みんなが来やすくなるためにはどうしたらいいんだろう」と頭を悩ませ、地域創生も兼ねてツアーを回ることにしたという。ツアーに来たファンがその土地で飲食したり観光することで、それが地方の助けになるという考え方だ。そして地域創生活動について発信、地域の課題解決に向けた取り組みを「ANAあきんど地域創生プロジェクト」とタッグを組んで行なった。
コロナ禍の間、Nissyがどのようなことを考え、どのような思いで活動してきたか……。これらの真摯な言葉は、会場中に伝わっていたと思う。ただただその場を盛り上げて楽しませて終わることがエンターテイメントではない、自分にはもっとできることがある、と考えて動けるNissyだからこそ、こうして各地のドームに満開の笑顔を咲かせることができた。楽しいライブを見せてくれたし、大切な光景も思い出させてくれた。それに加えて、ファンのこともしっかり考えた上でドームツアーを決断してくれたこともわかって、Nissyにありがとうと伝えたくなった。
そんなことを考えていたところに、Nissyから「たった一回の人生で今日という日は一回しかなくて、そんな皆さんの1日を今日この会場にくれたこと、毎回言ってるけど、本当に感謝している」と御礼の言葉を言われてしまい、感慨で胸が一杯になっていると、そこに鳴り響いたのは鳩時計の音。“喋りすぎ”のNissyを諌める、おなじみの演出だった。慌てて「髪の毛を直さなきゃ」と裏に引っ込むNissy。“髪の毛を直すからちょっと待っててね〜”と口ずさんだメロディーをコーラス隊がなぞり、訳のわからない適当な歌詞ながら無駄にムーディーな一幕となってしまうのはご愛嬌。
無事髪の毛を直し終えたNissyが再登場し届けられたのは「I Need You」。スクリーンには自然の景色が映し出され、まっすぐで温かなメッセージが胸を満たしていく。そして視点は変わり、Nissyの背中から客席が映し出されたと思うと、コロナ禍で最初に届けられた「僕にできること」が流れ始める。
辛かった時期、この歌で励まされた人も多かっただろう。あの時は様々なアーティストがそれぞれの方法で、エンタメの灯を繋いでくれていた。こうしてまた復活したNissy Entertainmentを見ていると、それがいかにありがたいことだったのかがわかる。会場にシャボン玉が舞う演出も綺麗だったし、高くペンライトを掲げて全員で歌唱するのも、とても良い光景だった。Nissyが「僕以外の景色もしっかり目に焼き付けてください」と言ったのは、エンタメが作る美しい光景を忘れないで欲しいというNissyの願いだったと思う。
(c)TM & (c)2023 Sesame Workshop、(c)2023 Peanuts Worldwide LLC、(c)TM & (c)Universal Studios. All rights reserved
そしてライブは大盤振る舞いの終幕へ向かう。ネオンの光でスケルトン化したダンサーが大量に湧き出て踊るダークでロックな「Get You Back」はとても格好良かったし、「The Days」「トリコ」ではユニバーサル・スタジオ・ジャパンから『PEANUTS』のスヌーピー、ルーシー、チャーリー・ブラウン、『セサミストリート』よりエルモ、クッキーモンスター、バート、アーニーが登場し、一緒にフロートに乗ってファンの目の前を手を振りながら一周。ネオンのついたパラソルを使った演出も目に楽しかった。「Cat & Mouse」ではタオルを回して、楽しい気持ちで高揚しつつも数年前のNissy Entertainmentともリンクする光景にちょっと涙目になってしまったり。ものすごい演出の数々に圧倒されながら、本編最後はみんなに勇気を贈ってくれる「NA」で締めくくられた。
アンコールも特盛状態で、「まだ君は知らない MY PRETTIEST GIRL」では久々のピンキーダンスにときめき、即興でカバー曲を披露する場面も。「ワガママ」はスクリーンの映像とペンライトでドーム中がプラネタリウムのようになり、「My Luv」では再びユニバーサル・スタジオ・ジャパンのキャラクターたちが登場。
Nissyは「今年10周年を迎えるので何かできたらいいなと思っております。またその時、ぜひお付き合いいただけたらなと思います。同じ時代を生きている同志として、今日のこの思い出が皆さんのパワーになってくれたらと思います」と挨拶。ファンによるスマホでの写真撮影も許可して、しっかりと思い出を作ってくれた。
(c)TM & (c)2023 Sesame Workshop、(c)2023 Peanuts Worldwide LLC、(c)TM & (c)Universal Studios. All rights reserved
オーラスの「My Luv」の歌詞にある“また出会える時”。コロナ禍を経て、“また”の大切さを知った。こういう気持ちは、一期一会で本当に大切なものだった。Nissyが体現してくれた通り、エンターテインメントは必要なもの。誰かを元気にしたり、誰かに寄り添ったり、そして地域や物を助けることもある。いま自分の周りで享受できるエンターテインメントは、味わえる時にたっぷり味わうことにしよう。そうすれば自分は幸せ、きっと周りも幸せだ。楽しかった、そしてそれ以上に、いろいろなことを思わせてくれた<Nissy Entertainment 4th LIVE ~DOME TOUR~>。素敵なエンターテインメントに、感謝と敬意を。
取材・文◎服部容子(BARKS)
撮影◎田中聖太郎写真事務所
写真◎Nissy Entertainment 4th LIVE 〜DOME TOUR〜at TOKYO DOME 2023.2.17
セットリスト
2.Trippin
3.The Ride
4.Never Stop、Relax & Chill
5.Jealous
6.君に触れた時から
7.Don't Stop The Rain
8.Say Yes
9.DANCE DANCE DANCE
10.The Eternal Live
11.I Need You
12.僕にできること
13.Get You Back
14.The Days、トリコ
15.Cat & Mouse
16.NA
EN1.まだ君は知らない MY PRETTIEST GIRL
EN2.ワガママ
EN3.My Luv
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