【インタビュー】鍵盤奏者の平畑徹也、ヨルシカや高橋優、キタニタツヤなど9名のゲストを迎えた初アルバムに音楽人生の総括「自分自身を再確認できた」

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鍵盤奏者、作編曲家の平畑徹也が3月22日、ソロアルバム『AMNJK』をリリースした。高橋優、ヨルシカ、クリープハイプ、いきものがかり、LiSA、キタニタツヤなど、様々なアーティストのレコーディングやライブで活躍している平畑徹也初の単独作品であり、全11曲がピアノを主軸とした楽曲で構成されたもの。ちなみにタイトルの『AMNJK』は“AMaNoJaKu”(天邪鬼)の頭文字を取った略称だ。

◆平畑徹也 画像 / 動画

参加アーティストは、高橋優、キタニタツヤ、 みゆな、小関裕太、緑黄色社会のpeppe、ヨルシカのsuis、reGretGirlの平部雅洋、ヨルシカのn-buna、浅田信一。9名をゲストに招き、多彩なサウンドを鳴り響かせた各楽曲はもとより、各アーティストの新鮮な一面が引き出されているのも楽しい。インストゥルメンタルを含む11曲の全曲詳細について、平畑徹也に語ってもらった10000字越えのロングインタビューをお届けしたい。

   ◆   ◆   ◆

■「やばい歌詞になったね」って
■高橋優くんにすぐ電話しました

──平畑さんは、高橋優、ヨルシカ、クリープハイプ、キタニタツヤ、LiSA、Aimerをはじめとするアーティストのライブやレコーディングでキーボードを演奏されていますが、シンプルに紹介するならば、“鍵盤奏者”ということになりますか?

平畑:そうですね。ライブ、レコーディングでの演奏以外では、作曲や編曲、サウンドプロデュースもさせていただいたりしています。

──今、名前が挙がったミュージシャンのライブに行ったことがある人は、BARKSの記事とかで平畑さんの写真を見て、“あの時の人だ!”ってなっているかもしれないです。

平畑:スキンヘッドの鍵盤奏者は、皆川真人さん、浦清英さん、あとは僕、という感じかもしれないですから。

──“弾きながらヘドバンするスキンヘッドの鍵盤奏者”という条件が揃ったら、平畑さんで間違いないです。

平畑:たしかに、それは今のところ僕ぐらいかも(笑)。


──“小さい頃からピアノを習っていたわけではない”という平畑さんの異例な経歴も、この機会にお訊きしておきたいです。

平畑:高校の軽音部でドラムを始めたんですけど、その傍らで打ち込みを始めたのがきっかけだったんですね。テクノとかデジタル的な音楽を作ることに興味があって、キーボードを買ってから独学で演奏するようになりました。

──高校卒業後に音楽専門学校で勉強して、様々なバンドで活動。2005年に結成したピアノポップユニットのグックルで2007年にメジャーデビューしつつ、大阪から上京した2008年からはサポートプレイヤーとしても活躍するようになり、今日に至る、というのが略歴ですか?

平畑:はい。グックルでアーティストとして一度デビューして。そんなに売れはしなかったんです。でも、アーティストとしての活動を経てサポートプレイヤーになったので、やっぱり自分の音楽を表現したいという想いが、どこかしらにあるんですよね。だから年々、サポートプレイヤーとしての黒子のプレイではない感じになってきているのかもしれないです。

──「自分を出すことによって仕事の機会が減ったとしても、それはそれで仕方ないと思うようになった」という話を以前うかがったことがあります。

平畑:20代の頃は音楽の仕事で食べていくのが最優先だったので、そんなことは言っていられなかったし、仕事として正解の演奏さえできていればいいっていうところもあったと思います。でも、最近は自分の音楽の嗜好に合った現場だけが残った感じがありますね。自分を出さずにやる必要がもうないのかもしれないと感じる段階に入ってきています。

──平畑さんの中にアーティスト気質がずっとあって、それが初のソロアルバム『AMNJK』に繋がったということでしょうか?

平畑:そういうものを何らかの形にしたいと数年前から思っていました。僕は歌ものの世界で生きてきたので、インストゥルメンタルではなくて、歌ものの作品を作りたいというのもありましたし。ただ、メインの歌を歌えるような歌唱力は僕にはないので、“お世話になっているすごいシンガーのみなさんに集まっていただけたらいいな”という漠然とした考えからスタートしたのが、このアルバムです。

──今までのお仕事の中で、素晴らしいシンガーとたくさん出会ってきたからこそだと?

平畑:本当にそうですね。音楽仲間の紹介でインディーズのシンガーのサポートをしたり、そういうところから繋がった人たちが、いつしか大きくなったり。ひょんなところからのご縁を改めてすごく感じています。

──アルバムに参加していただく方々を決める際に、どのようなことを考えましたか?

平畑:お付き合いの深い方々はお声がけしやすいというのももちろんあったんですけど、“今、この人と一緒にやってみたい”っていう気持ちも大きかったです。初期衝動的な感覚で、みなさんをお招きした感じもすごくあります。そういうアルバムでありつつ、音楽として一本筋が通っているものになったと思います。僕はもうすぐ41歳になりますけど、自分のキャリアを総括する上でも、青春時代に聴いていた音楽をどこかに織り込みたいという気持ちもありました。

──平畑さんの青春時代に聴いていたものとして大きいのは、例えばどの辺りですか?

平畑:僕の世代はベン・フォールズ・ファイヴをガチガチに通っているんです。ベン・フォールズ・ファイヴはそれまでのピアノロックやピアノポップとは違っていて、完全にインディーズ・オルタナティヴバンドとしての音像で勝負していたんですよね。その感じが今回のアルバムコンセプトの“あまのじゃく”に繋がっていると思っています。僕の青春時代の1990年代はグランジやミクスチャーの時代で、上の世代からいろいろ言われつつも、“なにくそ!”という想いを抱きながらやっていた感じもあったんです。ごった煮の中でオリジナリティを求めて、試行錯誤をしていた時代の音楽を聴いていたので、こういう自分になったのかもしれないですね。


▲『AMNJK』初回生産限定盤

──では、収録されている11曲について詳しくお聞かせください。1曲目の「前奏」はインストです。

平畑:曲の前半はポストクラシカル(モダンクラシカル) 、エリック・サティとかから派生した音楽を意識しつつ、自分の40年間の歴史をピアノソロで表現したいと思っていました。コードを構成する1音1音もかなり時間をかけて、熟成させて作っていきましたね。曲後半のバンドサウンドやストリングスとかが混じっていくところはレアグルーヴ。昔のスパイ映画の劇伴を手掛けていたラロ・シフリン辺りのイメージです。ファンクにストリングスのメロディが乗っかっているようなカッコいい音楽が僕は好きなので、そういう感じになっています。2曲目の「天邪アウトロー」の導入という意味も込めた「前奏」なので、プレイヤーは2曲とも同じメンバーです。最後の喋っている声は、ドラマーの柏倉隆史(toe, the HIATUS)さん。ドラムを録ろうとした時にお喋りしていた音声をそのまま使っています。

──「前奏」を経て始まる2曲目が「天邪アウトロー」。歌っているのは高橋優さんですね。彼が書いた歌詞のインパクトも、ものすごいです。

平畑:僕が作曲をして、優くんに送って、作詞をお願いしたんですけど、第一稿の時点でかなり攻めた内容だったんですよ。

──完成形にも出てくる、ホラー映画『サスペリア』に関する事柄のみで仕上げた歌詞が第一稿だったと聞きましたが。

平畑:最初は、“ホラー映画のことしか語ってない”っていう歌詞でした(笑)。それをLINEで送ってもらってから、「やばい歌詞になったね」って優くんにすぐ電話しました。このアルバムの代表曲になりそうな予感が僕の中であったので、“このクレイジーな歌詞はリードソングになるんだろうか?”って一瞬思ったんです。だけど、「天邪アウトロー」というタイトルを付けたということは、無難な方向に持っていくのは違うなとすぐに思いましたね。

──「天邪アウトロー」の由来は、高橋優さんのツアー中の出来事だったとか?

平畑:優くんのツアー中の楽屋トークが由来です。僕が「俺って天邪鬼やからな」って言いかけたんですけど、“アウトローって言ったほうがなんか締まりがいいなあ”と思って、「俺ってあまのじゃ…アウトローやからな」って言い直したんです。それ以来、優くんのバンドの中で“天邪アウトロー”っていう言葉が流行ったんですね。

──言い直したのを目ざとく指摘したのがギタリストの池窪浩一さんだったとか?

平畑:「なんで、あまのじゃで止めて、アウトローって言い直すの?」と(笑)。


──歌詞の“小室哲哉を崇めていた B'zのファンクラブに入った”とかは、平畑さんのことをよくご存じの高橋優さんだからこそ書ける内容です。

平畑:僕のことを紹介してくれている名刺のような曲だと思います。

──“みんなコロコロでおれボンボン みんなジャンプでおれサンデー”とか、“天邪アウトロー”なところも描写されています。子供の頃からそうだったんですか?

平畑:はい。やっぱりひねくれていたんでしょうね(笑)。

──高橋優さんが平畑さんを歌詞に憑依させたことによって、平畑さん自身が歌詞を書いて歌う以上に“平畑徹也”が表れた曲になっているという印象です。

平畑:僕だったら“俺ってただのハゲやで”とか歌詞に書かないと思います。このアルバムの初回生産限定盤付属ブックレットには、参加していただいた方々との対談が掲載されているんですが、その取材のときに「この部分は、はっちゃん(平畑)への愛を込めていて。生半可な気持ちでディスってるわけではないです」と言っていました。

──「素晴らしい演奏ですね」とか褒められた時に「俺ってただのハゲやで」って応えるのが平畑さんの口癖、ということをよくご存知の高橋優さんだから書けた一節だという。

平畑:僕の代弁者として書いてくれたことを、そういうところからも感じます。

──この曲、高橋優さんの尖った面もすごく出ていると思います。

平畑:そうですね。今も尖った歌を歌っていますけど、初期なんて本当に荒ぶっていましたから。アルバム『BREAK MY SILENCE』(2013年発表)の時は、優くんもサポートしていた僕らも、毎回のライブで命削ってやっている感じがありました。そういう時代も共にできたのは、僕の誇りなんです。「天邪アウトロー」はいろいろ考察しながら聴いていただけたら、僕のことだけじゃなくて優くんのことも、いろいろわかる曲かもしれないです。

──ワイルドにビートを乗りこなしながら歌っている感じとか、並みのシンガーではできない表現です。

平畑:彼は只者ではないんです。この歌録り、15分で終わりましたし。通しで録ったのは2テイクくらいで、ほんのちょっと直したくらい。

──MVが先行配信されましたが、こちらも必見です。

平畑:小鉄昇一郎(トラックメイカー/ライター/映像制作)さんからもアイデアをいっぱいいただきながら完成したMVなんです。独創的な映像にしていただいて、感謝しています。


▲天邪合掌(AMNJG)

──『AMNJK』特設サイトに、高橋さんが寄せたコメントに出てくる“天邪合掌(AMNJG) ”についても解説していただけますか?

平畑:文章の説明だけだとよくわからないですよね。僕が喋っている時によくやる手のポーズのことなんですけど。気づいたらいつの間にかやってるんですよ。

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