【インタビュー】秦 基博、新たなシーズン開幕を感じさせるフレッシュでフリーダムなアルバム『Paint Like a Child』
■開けたポップなアルバムを作りたいということは一貫していて
■それに言葉がついていったという感じかもしれないです
――アルバムタイトルの『Paint Like a Child』は、パブロ・ピカソの言葉ですね。「ラファエロのように描くには4年かかったが、子供のように描くには一生涯かかったよ」と。
秦:これはどういうアルバムなのか?ということを、作っている途中で、音の作業だけじゃなくて、アートワークとかいろんなことを同時に進めていく時に、周りのスタッフによく聞かれたんですよ。その答えを言う時に、コンセプトとして、ピカソの言葉を引用していたんですね。子供が描く絵のように、自由に思うままに音を表現できるような、ある種の遊びがあるアルバムを作りたいんだという説明をする時に、調べている中でこの言葉が出て来て、「Paint Like a Child」という言葉自体がアルバムのタイトルになるんじゃないかな?と思ったので、アルバムタイトルを決めて、その時期に歌詞を書いていたのが1曲目のタイトルチューンです。サウンド感とメロディ的に1曲目にしたいなということは決めていて、アルバムのコンセプトを体現する楽曲になってもいいのかなと思ったので、タイトルチューンにしました。
――もともとピカソが好きだったとか、あるんですか。
秦:すごく詳しいわけではないんですけど、好きですね。多作で、作品に対しての情熱が冷めないところとか、時期によって青の時代とか、ばらの時代とか、同じスタイルに固執するのではなく、自分のパッションのままにやっている感じがかっこ良いなと思います。あと、この言葉自体がすごく好きで、表現の深みの究極のところを言っているなとも思うし、「子供のように描くには一生かかる」という、無垢で、打算もなく、ただパッションをぶつけることの難しさは、いろいろなことを知れば知るほど増えてくると思うんですけど、ピカソぐらいの人になると、「子供のように描く」ということに表現として到達できるんだなというのは、すごいことだなと思っていたので。
――確かに。
秦:自分は「そんなふうにできたらいいな」ということではあるんですけど。思うままに、そこに音楽を表現したいなという気持ちの表れとして、この言葉を引用しました。
――その、難しさを知ったあとに子供のように描く、というプロセスが重要ですよね。ただ何も知らずに描きなぐるということでもなく。
秦:それこそピカソはめちゃくちゃ上手で、子供の時の絵を見ても信じられないぐらいうまかったりするんですけど、最終的にそちらに向かって行く感じというのが…僕も音楽を仕事にして、時が経てば経つほどいろいろなことを知っていくわけですけど、そこに初期衝動を表出させるということの難しさと、逆に楽しさというものがあって、そこに爆発力を感じるし、単純に初期衝動を表すのは、初期じゃないとできないことで、でももしも表現の先にそういうものがあるのだとすれば、表現者としての理想の形なんじゃないかな?と思う。そういうふうに作っていけたらいいなと思いますよね。
――アルバムの新曲の中には「Life is Art!」という、非常にポップで明るい、踊れる曲もあります。ここでも「ピカソが散らした青」という歌詞が出てきますね。
秦:今に始まったことではないんですけど、色合いだとか、景色とか、本来は音楽にないものがそこにあるのはいいなといつも思っているので、そんな曲ができたらいいなとは思っていました。「Life is Art!」を作っている時期は、楽しげな曲が作りたくて、ライブで一緒に明るい気持ちになれる曲を書きたいなというところから、色合いをいっぱい入れていくことにして、そのあとにアルバムタイトルを決めたので、リンクしていった感じですね。開けたポップなアルバムを作りたいという、やりたいことはずっと一貫していて、それに言葉がついていったという感じかもしれないです。
――それと「2022」という新曲がすごく心に響きます。声高に何かを主張する曲ではないですけれど、その時代の空気と感情を閉じ込めているという意味で、とても印象に残ります。これはどんなことを考えて作った曲ですか。
秦:まさに2022年という時代のムーブメントだったり、そこで感じたことを、情景描写の中で描けたらいいなというのが、歌詞のテーマとしてありました。歌詞の中にある景色は実際に、事務所のある原宿からみなとみらいにあるレコーディングスタジオへ向かう時の景色です。
――いろいろな解釈ができると思いますけど、最後は人と人との繋がりの大切さ、というところに着地しているように感じます。
秦:社会の、どういう単位でものを見るか?ということだと思うんですけど、最小単位は、一人と一人がどう会うかということだと思うし、その先に社会とか、全体がある気がするので。そういう歌詞になりました。
――あと「イカロス」についても聞かせてください。この楽曲から映画『イカロス 片羽の街』が生まれたという、大きなプロジェクトになりましたけど、これはどんな経緯で?
秦:2021年にこの曲を書いて、その時点ではメロディとサウンドだけだったんですけど、映像の似合う曲だなという気がしたんですよ。今までの流れだと、ミュージックビデオを作ることが一般的ですけど、それとは違う映像のアプローチの仕方があるんじゃないか?というふうに思って、みんなで相談している中で、曲をもとに映画を作ろうという話になりました。普段であれば、映画があって、それに対して曲を書かせてもらうことが多いんですけど、曲をもとにどんな映画が生まれてくるのかにすごく興味があって、3人の監督(児山隆、枝優花、中川龍太郎)に作ってもらったんです。
――どうですか、実際に映画が完成しての心境は。
秦:「イカロス」という曲のテーマが「喪失」で、映画は「喪失と再生」というテーマで作ることと、舞台が横浜であるということだけが縛りで、あとは監督のみなさんの自由だったんですよ。どんな映画ができるのか、すごく楽しみにしていたんですけど、できあがってみたら本当に三者三様、まったく違う話になっていて、こういうふうに曲を受け取った人の中で広がる景色とか、物語が違うんだなということをすごく感じました。監督のお三方のお話をうかがっても、それぞれのパーソナルな部分と結びついて作品ができそうなので、そういうクリエイティブな部分に触れられたのも、自分にとっては刺激的でした。映画がどうやって作られるのか、全然わからなかったんですけど、監督のみなさんがどうやって物語を生み出すのかを知れたのが、自分にとっては素晴らしい経験でした。
――普段と逆の立場で、タイアップの妙味を知るというか。
秦:自分がタイアップで曲を書かせてもらう時は、元になる作品に対して自分の心がどう動くか、どこが動くかが曲の元になっていくんですけど、それが映画『イカロス 片羽の街』を作る時の、監督のみなさんもそうだったのかなと思うので、逆の立場を経験できて良かったです。
――このアルバムに入っている「泣き笑いのエピソード」も、『おちょやん』という作品に寄り添った楽曲でしたよね。秦さんの思いを乗せながら。
秦:『おちょやん』という物語は、主人公の人生はすごく壮絶だったので、そこで何か一つ言えることがあるとしたら?ということで出てきたのが「泣き笑い」というフレーズなんですけど。人生の悲喜こもごもの落差が強く描かれていたドラマだったので、主人公の生きる姿と、自分自身とを結びつけた時に出てきた言葉です。
――大切なアルバムになりましたね。さっきの「喪失と再生」という言葉を借りれば、再生のアルバムなんじゃないかという気がします。規制と抑圧の時代を乗り越えて、ポップで、開かれて、前向きで。
秦:本当に、自分が今やりたいことが詰め込めたんじゃないかなと思いますし、今の秦基博を強く感じてもらえるものにもなったかなと思います。
――ジャケットは、実際に子供たちが描いた絵なんですよね。
秦:そうです。幼稚園から中学生までの子たちに描いてもらった絵の組み合わせなんですけど、テーマは自由で、何も注文はしていないんです。白い紙に何でも描いてくださいと言ったら、こういう絵が出て来て、左側にあるメインになっているものは、一番小さい幼稚園生の子たちが描いてくれた絵です。
――大きな花のように見えるものですか。
秦:そうです。自由に絵の具をまき散らしたり、ルールがないんですよ。そこの自由さが、まさに『Paint Like a Child』という言葉を体現していると思うので。実際に子供たちが描くまで、どんな仕上がりになるかわからなかったんですけど、本当に芸術が爆発している感じで、あらためてすごいなと思いました。
――そしてアルバムツアーが4月から始まります。久々ですよね。
秦:ここ数年、弾き語りで回ることが多かったので、アルバムリリースでバンドと回るツアーは久々ですね。まずはこの『Paint Like a Child』というアルバムの世界をライブで再構築することにはなるんですけど、バンドと回る久々のツアーでもあるので、全国のみなさんに自分の歌を届けに行く機会としても、バンドアンサンブルでいろんな曲を届けていけたらいいなと思います。以前の曲も、アルバムを軸に、ライブ全体の中でどういうふうに聴こえるのかが楽しみなので、これから準備したいと思います。
――まだわかりませんが、コロナ時代の規制もかなりなくなってくるんじゃないかと思います。お客さんも歌えるといいですよね。
秦:そうですね。でも声が出せないなら出せないなりに、その時々で全然楽しめると思うので。その状況に合わせて最大限できることを表現して、一緒に歌える場面があったら、もちろんいいなと思います。
取材・文:宮本英夫
ヘアメイク:鷲塚明寿美
スタイリスト:高橋 毅(Decoration)
・Tシャツ\15,400(is-ness)
・シャツ\46,200(RAKINES)
・パンツ\44,000(RAKINES)
・靴\35,200(ORPHIC / alpha PR : 03-5413-3546)
リリース情報
2023年3月22日(水)発売
■初回限定盤(CD+BD:スリーブケース付)
UMCA-19068 ¥5,280(税込)¥4,800(税抜)
■通常盤(CD)
UMCA-10093 ¥3,300(税込)¥3,000(税抜)
CD 収録曲(全形態共通)
1. Paint Like a Child
2. Trick me
3. サイダー
4. Life is Art !
5. 残影
6. Dolce
7. 2022
8. 太陽のロザリオ
9. 泣き笑いのエピソード
10. イカロス
〈初回盤 収録映像〉
●「Office Augusta 30th MUSIC BATON Vol.7 秦 基博 Billboard Live YOKOHAMA 2nd Anniversary Premium Live」(全13曲)
ライブ・イベント情報
2023年
4月29日(土・祝)群馬・高崎芸術劇場 大劇場
5月4日(木・祝)福岡・福岡サンパレスホール
5月6日(土)熊本・熊本城ホール メインホール
5月12日(金)高知・高知県立県民文化ホール・オレンジホール
5月14日(日)香川・レクザムホール・大ホール(香川県県民ホール)
5月20日(土)愛知・名古屋国際会議場センチュリーホール
5月26日(金)岡山・岡山市民会館
5月28日(日)広島・広島文化学園HBGホール
6月2日(金)北海道・札幌文化芸術劇場hitaru
6月9日(金)埼玉・大宮ソニックシティ 大ホール
6月16日(金)石川・本多の森ホール
6月18日(日)神奈川・神奈川県民ホール
6月23日(金)大阪 フェスティバルホール
6月25日(日)福島・いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
7月1日(土)宮城・仙台サンプラザホール
7月9日(日)秋田・あきた芸術劇場ミルハス 大ホール
7月15日(土)奈良・なら100年会館 大ホール
7月17日(月・祝)兵庫・神戸国際会館 こくさいホール
7月22日(土)東京・東京国際フォーラムホールA
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