【インタビュー】海蔵亮太「日本語の美しい響きと歌の豊かな情緒を世界に届けたい」
日本語の美しい響きと、日本の歌の豊かな情緒を世界に届けたい。カラオケ世界大会2年連続チャンピオンの栄冠を引っ提げ、今年デビュー5周年を迎えた海蔵亮太から届いたニューアルバムは、全編日本のポップスと歌謡曲に特化したカバー集だ。4年前のファーストアルバムの続編『Communication 2 ~ Covers』に収録されたのは、1972年の「喝采」(ちあきなみ)から2015年の「花束の代わりにメロディを」(清水翔太)まで全6曲。今の時代に伝えたいメッセージを名曲に託して歌う、これが海蔵亮太の存在証明だ。
■歌詞の繊細な部分がたまらなく好き
■基本的には日本語が好きなんだと思います
――1年前のアルバム『コトダマ』がオリジナル曲オンリーで、今作は原点回帰のカバー集。やはり気持ちは違いますか。
海蔵亮太(以下、海蔵):違いますね。前回は自分で作る楽しさがありましたが、カバーは元の曲のイメージがみなさんの中にある前提で歌っているので、良い意味で緊張感があります。みなさんの中にある思い出を自分の歌でどうやって蘇らせて、みなさんの心を動かせるか。オリジナルとはまた違う挑戦だなと、毎回感じます。
――今回、曲を選ぶ時の方向性やテーマはどんなふうに?
海蔵:今回のチョイスの基準は、やはり歌詞ですね。この時代にこの歌詞を伝えたいという曲を選んでいるので、いま昭和歌謡が流行っているとか、若い世代にも聴いてほしいとか、もちろんあるんですけど、それ以上に、コロナ禍で毎日大変な日々を過ごされていたり、思うような生活ができない方がいる中で、この曲の世界観を伝えていきたいという思いがありました。
――それは曲名を見て、聴いて、ちゃんと伝わってきました。
海蔵:僕が曲を好きになるきっかけは、やはり歌詞なんですね。キャッチーなメロディとか、もちろんすごいなと思うんですけど、この歌詞の繊細な部分がたまらなく好きだなとか、今自分が求めている言葉だなとか、そこに耳が行く人間なので。カバーする時も基本的には歌詞を見ます。日本語が好きなんだと思います。
――今回の6曲は、昔から親しんできた曲ばかりですか。
海蔵:「愛燦燦」は家族でカラオケに行って歌ったり、「糸」も学校の授業で習うような曲でした。「花束の代わりにメロディを~」は、僕が学生時代に、こういう愛の伝え方は素敵だなと思って聴いていて、何度かテレビでも歌わせてもらった曲です。「秋桜」は、実は山口百恵さんの歌はあとから知ったんですよ。さだまさしさんが大好きなので、前回の『Communicaton』の中でもさだまさしさんの「大切な人」という曲をカバーさせていただいたんですけど、さだまさしさんの曲をまた歌いたいなということで選びました。
――1曲ずつ聞かせてください。1972年にヒットしたちあきなおみ「喝采」は、とても物語性の強い独特の歌詞ですけど、主人公の気持ちやシチュエーションを想像しながら歌うという感じですか。
海蔵:正直、最初は歌詞の意味がわからない部分もあったんです。“黒い縁取り”って何だろう?とか。でも男女の別れがあって、それでも強く生き抜く人の美しさみたいなものが、この曲にはすごくあるなと思っていて、カバーできて良かったと思います。僕がこの歌詞を読んで思ったのは…悲しい経験があっても強く前を向いて生きる一人の女性の物語だということで、今は男女平等と言われて、男女だけじゃない多様性も受け入れて支えていこうという素晴らしい世の中になっているので、一人の人が輝いて前に進む姿を歌った曲は、誰かの背中をぐっと押すことになるんじゃないかな?と思いました。そういう意味で「喝采」は、今の時代に必要な曲かもしれないと思って選びました。
――その解釈はハッとするところがあります。過去の悲しみに引きずられるよりも、強く前に進む人間の歌としてとらえることが。
海蔵:そこで光を見い出して進む人の強さと美しさ、それって今の時代にも当てはまるというか、僕自身もコロナで思うような活動ができない時期もあったんですが、それでも音楽が好きだから続けて来て、少しずつ前に進めているので。みなさんも大変だと思いますが、前に進めば良いことがあるかもしれないという気持ちを伝えたいんです。僕は、「喝采」は希望の歌だと思います。
――素晴らしいですね。なるほど。
海蔵:そういう意味で、いろいろな受け入れ方ができる度量の広さがある、あらためてすごい曲だなと思います。
――「愛燦燦」はどうですか。小椋佳が作って、美空ひばりが歌った、この歌詞から何を感じて、何を伝えたかったのか。
海蔵:自分が小さい時に、歌うと親が喜んでくれた曲ということもあるんですが、この曲の人生観がすごく好きなんです。人生って不思議なものだし、悲しいものでもあるけど楽しいものでもあるよねという、あまり悲観せずに常にフラットな感じでいる世界観がすごく好きです。生きるのってすごく大変じゃないですか。落ち込むこともあるし、楽しいこともあるけど、その中でもフラットにいろいろなものを見て、小さなことに幸せを感じたりする、そういうものがこの曲には入っていると思うので。
――確かに。
海蔵:今の時代、SNSとかで、知らない人から突然刃物を突き付けられるような状況があるから、たぶんみなさん、日々の中ですごく戦っていると思うんです。見えないところで。でもこの曲のように、いろいろあるけどできるだけフラットに、自分の心を大事に、人生を大事に過ごしていくことが一番大切なことなんじゃないかなと思います。美空ひばりさんの歌も、気張っていないんですよね。この曲に関しては。
――そうですね。まさにフラットな感じ。
海蔵:人生は凪だなというか、いろんなことがあるけど身を任せていく楽しさというか、それが今の時代には必要なんじゃないかと感じています。
――そういう意味で言うと、中島みゆき「糸」も人生というか、人と人との出会いの不思議について、フラットに歌っているような気がします。
海蔵:「糸」に関しては、とにかく歌詞が好きなんです。シンプルなんですけど、それ以上でもそれ以下でもない真理があると思います。僕の世代では懐かしい、小学校で歌っていた曲という感じなんですけど、もっと若い世代だと、もしかして知らない可能性もありますよね。そういう意味で歌い継いでいきたい曲だと思いますし、生きる上では人と交わっていかなければいけないので、その時にこういう気持ちの持ち方がすごく大事なんだろうなと思います。
――人の縁とは、縦の糸と横の糸を織りあわせていくようなものだと。
海蔵:そういうふうな関係性で、お互いに良いことが生まれてくるかもしれないし、助け合えるかもしれないし、そういう世界観の歌詞がすごく素敵だなと思います。こういう曲を聴くと、日本語の“わびさび”と言うんですかね、そういうところが世の中的にどんどん薄れてきていると思っていて、自分も忘れがちではあるんですけど、こうしてその頃の曲を聴くたびに、自分の中に蘇って来るものがあるというか、日本語って美しいなということをあらためて感じます。
――この曲だけ、歌の表情がほかとは違う気がします。ストイックというか、声を張ったりせず、言葉を一言ずつ届けるようなスタイル。
海蔵:「糸」はアレンジが独特で、オリジナルとは違う雰囲気なので。いろいろ考えながら歌ったという意味では、一番時間がかかりましたね。
――そういう意味で言うと、清水翔太「花束の代わりにメロディを~」は、新しい世代の曲ですよね。それでも日本的な情緒はその中にあると。
海蔵:この曲に関しては、自分の中では憧れという部分がありますね。ただ“好き”と言うのではなく、メロディを届けるという言葉、価値観というか、そこが僕の中にはないものだったので、うらやましいなと思います。たぶん自分の世代も、自分より若い世代も、純粋に“好き”と言うことが恥ずかしい感情があると思うんですけど、それを暗に伝えることができる歌なのかなと思います。そこがストレートな歌詞ではないからこそ、二人の関係性が見えてくるし、日本語の美しさがある感じがします。
――また発見がありました。翔太さんのような世代にも日本語のわびさびがちゃんとある。
海蔵:お会いしたことがないのでわからないですけど、デビューしてからずっと聴いていて、急にこの世界観が出てきたので、びっくりして、これは自分の心の中から絞り出した曲なのかな?と思いました。かっこ良いフェイクをぐっと抑えて、日本人の曲を作ろうみたいな、その覚悟が見え隠れするところが良いんですよね。清水翔太さんをずっと聴いてきたからこそ、僕はそう感じました。ちなみに、「花束の代わりにメロディを~」は、楽器の人たちと一緒に一発録りしています。うまくいかなかった部分とか、個人的にはいっぱいあるんですけど、直さないほうがいいかなと思ったので。
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