【ライブレポート】澤野弘之、7人のボーカリストと描いた多彩で多幸感あふれるシーン
澤野弘之が、2023年2月4日(土)にTACHIKAWA STAGE GARDENにて単独ライブ<SawanoHiroyuki[nZk]LIVE 2023>を開催した。
◆澤野弘之 関連画像
■大いなる才能を感じさせる
■若き実力派シンガーたちの熱演
「やっぱりライブがやれるのは最高だなって改めて感じました」──
<SawanoHiroyuki[nZk]LIVE 2023>の最後のMCで、澤野は素直な想いをこのように口にしていた。劇伴を中心に活動する音楽家・澤野弘之が、ステージに立つ機会はそれほど多くはない。今年の澤野名義のホールライブは、今回が最後になるという。ライブとは澤野にとっても、ファンにとっても貴重な空間であり、澤野はライブでの観客の反応が自身の作品作りに影響を与えているということを語っている。
澤野名義の単独公演としては昨年10月1日に昭和女子大学 人見記念講堂で実施した<澤野弘之LIVE【emU】2022>以来、約4ヵ月振りとなった同公演では、1月18日にリリースしたSawanoHiroyuki[nZk]最新アルバム『V』参加者を中心としたボーカリストたちとともに、彼の多彩な楽曲を音源とはまた一味違う魅力を引き出しながら届けた。本記事では、その模様をお伝えしたい。
開演定刻を迎えると、2本のアコースティックギターによるパーカッシブなカッティングとハーモニクス音が会場に響く。『V』のオープニングナンバーでもある「IiIiI」だ。このSEに誘われるようにバンドメンバーがステージに姿を現すと、観客は拍手で迎え、最後に澤野が登場すると、拍手はより強さを増した。『V』のトラックの流れのまま、TVアニメ『Fate/strange Fake -Whispers of Dawn-』のテーマソング「FAKEit」で、<SawanoHiroyuki[nZk]LIVE 2023>の幕は開いた。ボーカリストのトップバッターを務めたLaco(EOW)は、重低音が効いた大きなグルーヴに乗りながら妖艶さと力強さが組み合わさった歌声をステージから解き放つ。その後のMCで、澤野が“Lacoさんには会場の温度を上げてもらいたかった”と語り、それを受けて“ゴリゴリのツヨツヨでやってきました”と呼応していたとおり、Lacoは続く「Hands Up to the Sky」、「THE ANSWER」では、手を挙げて煽りながらオーディエンスを鼓舞。その一方、[nZk]楽曲のカバーとなった壮大なバラード「ёmot1on」は、雰囲気を一転させて高らかに歌い上げ、想いを込めてメロディを観客に届けた。
会場のテンションを一気に高めたLacoからのバトンを受け継いだmizuki(UNIDOTS)は、清らかに澄みながらも、力強さを芯に持つ凛とした歌声で、観客の心を奪っていく。『86-エイティシックス-』第1クールWエンディングテーマ「Avid」を経て、「e of s」(RPG『SOUL REVERSE ZERO』オープニングテーマ)と「TuNGSTeN」(スマートフォン向けゲーム『勝利の女神:NIKKE』グローバル主題歌)では、優しさと強く広がりのある声を巧みに使い分けながら静と動のコントラストを描いた。澤野のボーカルプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]は、2014年にmizukiが参加したシングル「A/Z|aLIEz」がその出発点。来年でいよいよ10年となる同プロジェクトでは、これまで数々のボーカリストを迎えてきたが、ここまで澤野とともに歩み続けてきたmizukiは、音源のみならずライブにおいても常に大きな存在感を放ち続けている。それを証明するように、mizukiパートのラストとなった「A/Z」では、光り輝くステージ上で澤野とともに爽快感のあるメロディを美しく響かせると、オーディエンスはいっそう熱いクラップで反応していた。
静かなピアノの旋律が鳴り、その直後にギターのディストーションサウンドとヘヴィなリズムが会場に轟く。SawanoHiroyuki[nZk]の2ndアルバム収録の「Amazing Trees」だ。可憐に咲き誇る花のような大きなフリルが印象的な白のドレス姿で登場したTielleは、パワフルで説得力のある歌声を観客の1人ひとりに届けていく。続く「Through My Blood <AM>」でもヘヴィなバンドサウンドをバックに、威風堂々としたボーカルを披露。2015年に行なわれた澤野弘之のボーカルオーディションを通じて、シンガーとしてのキャリアをスタートした彼女もまた、数々の澤野作品に参加。そして、2019年からソロ活動をスタートさせると、昨年はドラマやアニメの主題歌を担当し、活躍の場を広げている。澤野のバラード曲の真骨頂と言える抒情的なメロディと壮大なサウンドを聴かせる「Cage」での、心の内側から溢れ出た想いを表情豊かに響かせたTielleの歌声を聴いていて、ソロ活動を通じて、彼女がアーティストとしての実力をまた一段と高めていることを強く感じることができた。大いなる才能を感じさせる若き実力派シンガーにも出会えることも、SawanoHiroyuki[nZk]の魅力の1つとなっている。
ここまでLaco、mizuki、Tielleと澤野作品でお馴染みのボーカリストがステージを彩ってきたが、ライブ中盤には[nZk]LIVE初出演となるReNが登場。『V』にて自身がボーカルを担当した、洗練されたサウンドが印象的なポップナンバー「7th String」を、穏やかでありながら、色気も感じさせる歌声で聴かせた。ReNの『V』への参加は、以前、澤野が偶然彼の楽曲を耳にして一気に惹き込まれたことがきっかけだったそうだが、ReN自身も澤野の作品を好んで聴いていたそうで、まさに相思相愛の関係。そんなお互いへの想いを表すかのように、[nZk]楽曲のカバー「FLAW(LESS)」では、ダイナミックなバンドサウンドを身体で受けながらReNはステージ上で躍動し、心から楽しんでいる姿を見せた。
幻想的なピアノとともに、たかはしほのか(リーガルリリー)の瑞々しくイノセントな歌声がTACHIKAWA STAGE GARDENを優しく包み込むと、それまでと景色は一変。「LilaS」での胸の中に波打つようにゆっくりと染み渡っていく彼女の声に触れて、思わず目頭が熱くなった。シンセやデジタルビートを生かし、まるで都市の超高層ビルのように調和のあるデザインを施したスタイリッシュなサウンドが澤野楽曲の1つの特徴であると言えるが、有機的でノスタルジックなサウンドスケープを描くこの「LilaS」を聴いていて、彼の音楽性の広さを改めて確認することができた。MCで、2022年4月に開催されたイベント<TVアニメ「86-エイティシックス-」1st Anniversary Operation>を通じて、mizukiと懇意になったことを明かしたたかはしは、続いて[nZk]のmizuki楽曲「CRY」をカバー。mizukiとは趣の異なる透明感のあるたかはしの歌声は、「CRY」に新しい色彩を加えていた。[nZk]LIVEでは、オリジナル音源とは異なるボーカリストのパフォーマンスを通じて、楽曲の新しい魅力に気づけることが少なくない。同時に、普段の活動とは方向性が異なる澤野の楽曲を歌唱することによって生まれるボーカリストたちの新たな表現にも出会えることがあるのだ。
◆ページ(2)ライブ終盤で見せた新たなる可能性
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