【ミュージシャンズ・リレー】田口悟のこだわり機材「Edwards Platinum Edition Snapper」
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ひとつのこだわり機材を通して、そのプレイヤーの人柄やミュージシャンシップ、使用機材の魅力やプレイスタイルを伝えていく当連載、今回は田口悟にスポットを当てた。
RED in BLUEのギタリストであると同時に、2022年6月からはYOASOBIのサポートを務めている彼は、鋭利なパッセージを細かい譜割りに叩き込み、太っとくも切れ味鮮やかなカッティングからなめらかなレガート・プレイまで、そして一発で聴くもののをどん底に落とすような飛び道具系エフェクティブ・サウンドをも操る、期待の若手ギタリストだ。
説明するまでもなく、好きな色は緑。ギターは機材関連はもちろん、身につけるものから髪の色まで緑色に囲まれ、個性と特筆したサウンドで我々を引き付ける田口悟のギターは、想像以上に振り切れたものだった。
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──たくさん所有する中で、Edwards Platinum Edition Snapperがメインギターとのことですね。
田口悟:もともと9mm Parabellum Bulletが大好きで、彼らがESPを使っていらっしゃるので僕もスナッパーを使ってみたんです。最初はESPブランドの純正のスナッパーだったんですけど、今はどんな実験的なことでもESPクオリティでできるというエドワーズのプラチナムエディションを使っています。
──どんなスペックですか?
田口悟:最初はアルダー・ボディにマホ・ネック&ローズ指板みたいな感じでミドル重視なサウンドだったんですけど、バンドの立ち位置的にちょっと違うかもなと思って…そこからナットをブラス材にしてもらったり、ボディ裏のスプリング・キャビティをハードメイプルで埋めて直裏通しにしてもらったり色々改良してもらって、それでだいぶ良くなったんです。
──アームは一切使わないわけですね。
田口悟:ギターをビュンビュンやるんで、出っ張ってる部分があると危ないな、みたいな。当時はアーミングプレイもそんなに興味がなくて、いったん排除してもらいました。それとはまた別に9mmの滝さんモデル(Edwords製Suffer)をコピーバンド用に所有していて、そっちを試しにメサ(デュアル・レクチファイア)に突っ込んでみたら思いのほかかっこよかったんです。固い材のドンシャリがかっこよく響く感じになってバンドの中でもハマりの良い位置に来てくれて。こっちのモデルは通常のスナッパーより一回り大きいアッシュ材のボディで、先述のアルダーのモデルよりもこっちのモデルにポテンシャルを感じた旨をESPさんに相談したら「じゃあこれをそのまま改造しちゃおう」ということになって、それが今のメイン機になります。
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──なるほど。最終的にはアッシュボディにメイプル・ネック&ローズ指板という構成で。
田口悟:これはヘッドに鉄板が埋まっています。カッティングとか速いパッセージの音を使うことが多いんですけど、その音の立ち上がりの速度感をどうにか再現してあげたいっていうESPさんから提案をいただいたものです。
──金属板が挟まっているんですか?
田口悟:要はこの緑の部分の材をガッと抜いて、鉄板を差してまた材で埋めるみたいな。これで音がシャープになりつつ、重量が稼げてるからローも出るという不思議な効果が出るんです。
──ヘッドにスタビライザーをつけると、重量バランスとともに共振周波数も変わってデッドポイントも動きますよね。
田口悟:クラフトの方が言うには「弾いた振動がヘッドまで到達して、その振動がまたピックアップに戻ってくること」が大事みたいなんです。ヘッドで受け止めてその返りを狙うみたいな。そういう実験台的なモデルにもなってます。で、このギターは、ネックの片方だけストランドバーグみたいにまっすぐカットされていて、半分は丸いカーブになってます。
──え?これはすごい。これも田口さんのギターのオリジナルですか?
田口悟:そうですね。オリジナルなんですけど、これも僕の提案じゃなくて「こういうことやってみたいんだけど、やってみていい?」って。僕のライブを何度か観ていただいたときに、グリップがシェイクハンドじゃなくて基本このフォーム(クラシカル・フォーム)なんで、親指の位置がブレないように親指を添える部分をストレートにしてみたらいいんじゃないかなと思うんだよねって。
──で、どうでした?
田口悟:実際、弾きやすいです。これじゃなくても良いですけど、こっちのほうがライブ中にいろんなことに集中できるなと思って。
──こんなネック、初めて見ました。他のギターにも採用されているんですか?
田口悟:最初のアルダーボディのやつもこれにしてもらっています。ファンフレットでもないのに、この形状ってなかなかないですよね。
──もしかしたら発明かも。
田口悟:そうですね。これは安定化を図る上で良いカスタムなんじゃないかなって思ってます。
──でも、これじゃないと弾けない身体になっちゃうと困る(笑)。
田口悟:これじゃないといけないっていう感じは全然ないです。スキャロップ指板のようなエグい加工でもないので、他のギターも全然いけます。けどライブでは、お客さんやメンバーの表情とか、テンションが上がった時の自分のアクションとかいろんなことが起きるじゃないですか。そういうプレイ以外のいろんなところにアプローチしていく現場において手元に気を取られるという要素を数パーセントでも削れるっていう意味では、このカスタムはありなんじゃないかなって思ってます。
──ピックアップやアッセンブリーはシンプルですね。
田口悟:シンプルです。ここまで二転三転しましたけど。ピックアップはダンカンのスラッシュモデル(APH-2n)に変えてもらってばっちりハマりました。JBタイプでパワーがいい感じに低くて、すごく高度な分離感が出るんです。
──言葉で説明するのは難しいところですが、どんな音を求めていたんですか?
田口悟:好きなのは、速くて重たい音。速さっていうのはタッチとかプレイのことだと思うんです。重いっていうのはたぶんコードも見えて艶もありつつ歪んでいるような、歪んでる風に聴こえるきれいな音のことだと思ってます。ディストーション・サウンドはすごく好きなんですけど、実際弾いて録ってみてを繰り返していると、実際はそこまでゲイン量は必要ないんだなってことに気付き始めて、いかにゲインを下げながらさも歪んでるっぽいカッコいい音になってくれるのかなってことを考え始めたんです。それがプレイや機材のグレードと直結していると思い始めて、「どうにかならないですか」ってESPと二人三脚してきました。
──クリーンなのに歪んでいるというか、歪んでいるけど弦が分離している感じというか。
田口悟:その感じです。ガスリー・ゴーヴァンっていうギタリストがすごく好きなんですけど、あの人は手元コンプレッションの達人というか、レガートの美しさとクリーンと歪みの瀬戸際をいくようなサウンドが、僕の目指してるところではあるんです。
──そうなると、ギターとともにアンプも…。
田口悟:アンプは大事ですね。今はデュアルのソロヘッドです。
──レクチファイアはいろんな音が出せますよね。
田口悟:本当に優秀なアンプだと思います。わりとどんなキャビに乗せてもちゃんと鳴ってくれるんです。
──今のサウンドに到達するまで、回り道をしましたか?
田口悟:遠回りしましたね。一番最初はテレキャスだったんですよ。重くて速くてコードが分離したサウンドならテレキャスしかねえって思ってて。酸欠少女さユりさんのサポートでギターを弾いているハルカさんがテレキャスター使いで、すごくかっこいいディストーション・サウンドや空間系のサウンドメイクをされていて、それに憧れたんです。でも当時は竿とアンプのマッチングがあまり分かってなくて、あの時の自分にメサを与えたらどうしてたのかなと思います。現状ではトラディショナルな組み合わせに自分の色を足す形でここに来ている気がします。メサに対してアッシュボディのハムバッカー、みたいな。
──でも、スペックを揃えても同じ音は出ないのが、つらくも面白いところで。
田口悟:そうですね。でもアッシュとアルダーは、めちゃくちゃ好み分かれちゃうなっていうのは感じました。そこのマッチングははずれないんじゃないかな。アルダーだったらやっぱりマーシャルに突っ込んだほうが良かったなって思いますし、アルダーのギターはミドルに色がついている印象が強いので。そこにはミドルライクなアンプを持ってきてあげたほうが効果的だと思っています。
──ここメモですね。
田口悟:あと、僕は足元にEPブースターを入れているんですけど、散ってしまったりふくらんじゃったりするローをこいつがうまくまとめてくれるんです。キャビを持ってない人が箱のアンプを使うんだったら、最前段にEPブースターを0メモリで通しておくと、めちゃめちゃ音がキマりやすくなってスピードが上がるんでおすすめです。ただしEPといっても初期ロットのEPじゃないとだめで、ミドルの艶が初期と後期で違うので、初期モノを頑張って探してください。バッファーとして使えるブースターやエコープレックスをモデリングしたバッファーみたいなものを何種類も買ったりしたけど、EPブースターが今のところ一番いいなって思ってます。
──そんな道程を経ながらも、色はずっと緑ですか?
田口悟:そうですね。もともと茶色のギターだったんですけど緑にしました。ネック裏にはポジションマークとして蛍光テープを貼っているんですけど、余ったテープを貼ったままメンテナンスに戻したら、こっちの色が好きなんだと思われて、次からのギターは全部この色になってました(笑)。
──ネック裏にテープが貼られているのも見たことない。
田口悟:こういうのが貼ってあると自分のテンションがあがるんで。
──それは光るんですか?
田口悟:蓄光ではないんですけど、ブラックライトのようにブワーッと浮き出て見えてアホな感じになります(笑)
──まわりがすべて緑なのは、単に緑色が好きだから?
田口悟:本当にそれしかないです。飽きたらやめますけど、飽きないし好きだから続けているだけなんです。音楽と一緒で、ずっとこれなんで自分では普通になっているんですけど、全部が緑なんでたまにすれ違った人にびっくりされるんですよね。
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──本人は平常運転なんですね。
田口悟:僕はこれで平常運転なんで、周りももう何も言わない。自分の気持ちがあがるもので身を固めたいんですよね。
──そこ、大事ですよね。現在追求したいことはどんなことですか?
田口悟:アンプの電源とスピーカーケーブルはいったん現状でいいんですけど、電源周りやケーブルがピュアになったせいでノイズに弱くなっちゃったんです。全部をクリアに出すからノイズも一緒に出ちゃうみたいで、そこで、最近電源クリーナーに手を出しました。それを通したほうがコードの分離とか音の重みがよく見えるようになった気がして、ゆえにまた迷走しました(笑)。
──電源って、めっちゃ大事ですもんね。
田口悟:大事ですよね。それこそ高架下のライブハウスとか、照明がつくとノイズが流れ始めるライブハウスみたいなところには、すごく良いんじゃないかなと思って。ただ、変わることと良くなることは別なので、トライ&エラーですね。外すかもしれないし残すかもしれないし…をやってる感じ。
──こういった要素に対し、ギタリストにもこだわる人と無頓着な人と二分されますよね。
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田口悟:そこはゴールというか、ポジションにもよると思うんです。曲を作ってるのか、バンド/グループの中でどういう責任を持ったポジションにいるかで変わってくる。曲を作ってライブのトータルのプロデュースや全体を見ている人であればあるほど、ギターというのも主役のお付きの人みたいなポジションだと思うんで。優先度が違いますよね。見えているゴールでだいぶ変かわってくるんじゃないかな。
──いずれにしろ追求してしまうのが、アーティストの性かな。
田口悟:みんな百年のうちに死んでしまうんだったら、なるべく気持ちいいルートを辿りたいって思いますよね。好きなことがあって続けさせてもらってて、腕を磨ける時間を作れるフィジカルがあるって時点で、だいぶ恵まれてるなと思います。決して自分の手柄じゃない思いがあるんで、続けさせていただいてありがとうございます/五体満足に生んでくれてありがとうございます、って気持ちが強い。これといって何も好きじゃなく、趣味がない人も等しくいる中で、せっかくゴールが見えている状態なのだから、それをやりがいにしたいです。
──すばらしい。
田口悟:音楽から供給してもらえるエネルギーって、すごく言語化しづらいですもんね。音楽聞きました、そこに胸を打たれて、もう何個かその人の人生での答え合わせを経てからそれが行動に表れてくるというか、いくつかクッションが挟まって最終的に頑張れる、みたいな。
──その時の感動に気付かず、後から思い起こすこともありますよね。
田口悟:ありますよね。嘘だろうと思ってたんですけど、「人柄が音に出る」って本当なんだなって思いました。
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──2023年はどんな年になりそうですか?
田口悟:2022年は何を頑張るべきなのか、何を求めてもらっているのかをめちゃ考えた1年だったんですけど、今年は選ぶ年かなと思っています。曲を作ることのドリームのスケールが壮大なものになってきていて、同時にギタリストとして花開く道も見えてきて、何を伸ばすかをちゃんと決めて動く1年にしたいと思ってます。川谷絵音さんとかギタリストとしても凄腕ですし、星野源さんもそうじゃないですか。ギターものすごい腕前なのにソングライター/シンガーとして一線に立たれている。どこを自分のストロングポイントとしてプッシュしていくかは、自分で絞って焦点を合わせつつも、どれも伸ばしていった結果あのポジションがあると思うんですね。「いい曲とは」「いいプレイとは」「いいサウンドとは」を常に考えながら過ごせば、おのずと見えてくるのかなって思ってます。
──誰も登ったことのない山を目指している感じですね。
田口悟:僕が音楽に求めているものって、興奮なんです。なので、歪んでいれば歪んでいるほどカッコいいし、速ければ速いほどいいみたいな、車と一緒ですよね。なるべくうるさいほうがいい(笑)。曲、サウンド、プレイにしても自分の原点である興奮というファクターが大きいので、これだけ忘れずにいきたいなって思っています。
──数年後はどんなサウンドを出しているんでしょうね。
田口悟:わからないですよね。YOASOBIでの活動がなかったら、僕はストラトもヴィンテージもガットギターも触ることはなかったですから、おもしろいなと思いました。ガットギターもめちゃめちゃ楽しい。なのでリッチー・ブラックモアみたいになるかもしれないですし(笑)。
──これからの活躍も楽しみにしています。ありがとうございました。
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取材・文◎烏丸哲也(JMNは統括編集長)
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