【レビュー】全てが驚異のシンクロ率『マガツノート』1stアルバム『魂響』

近未来戦国×ダーク楽曲メディアミックスプロジェクト『マガツノート』。2022年3月の始動以降、ボイスドラマ、アーティストによる書き下ろし楽曲のリリース、朗読劇と音楽ライヴを融合させたリアルイベントなど、様々な展開で“有害人類”を増殖させているが（“有害人類”は『マガツノート』に登場する用語であり、同プロジェクトのファンネーム）、今回プロジェクト初となるフルアルバム『魂響』（たまゆら）が、1月31日に発売されることになった。

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まずは『マガツノート』の概要を説明しておこう。物語の舞台となるのは、西暦2222年。2022年初頭に巨大隕石が衝突し、人類の9割とその文明が喪失した地球で、“人類の保護と再びの繁栄”を謳う「人類生存保障機関 ARK」と、ARKが管理している居住区「カテドラル」の外側にある「解放区」に住む武将達が、因縁渦巻く戦いを繰り広げるというのが大まかな流れだ。2022年にスタートした「Season:1」には、ARK監査局、MAD FANG、蛇-ウロボロス-、ARK医療局、第六天魔王軍という5つの陣営が登場。ラジオドラマでは、登場人物達の関係性や彼らの秘められた過去が、声優陣達の熱演によって明らかにされていったのだが、その内容がかなりシリアスで、ダークで、バイオレンスで……と、かなり絶望的な展開になっている



なお、各陣営に参加している声優陣は、ARK監査局：政宗（CV.峯田大夢）、小十郎（CV.堀江瞬）／MAD FANG：秀吉（CV.小笠原仁）、官兵衛（CV.馬場惇平）、清正（CV.仲村宗悟）／蛇-ウロボロス-：光秀（CV.岡本信彦）、利三（CV.杉山紀彰）、左馬之助（CV.大河元気）／ARK医療局：家康（CV.美藤大樹）、忠勝（CV.岡本和浩）、直政（CV.沢城千春）／第六天魔王軍：織田信長（CV.神尾晋一郎）、蘭丸（CV.土岐隼一）という豪華ラインナップ。

そんな鬱々とした物語を妖しく彩り、このプロジェクトの軸のひとつにもなっているのが、ヴィジュアル系バンドや、ダークな楽曲を基調としているアーティスト達が提供した楽曲群だ。物語に登場する武将達は、悪魔と契約することで得た凶角（まがつの）から、魂響と呼ばれる音を鳴らしながら戦うのだが、1stフルアルバム『魂響』には、「Season:1」で発表された5つの陣営のイメージソング「DRAMA ver.」と、声優陣が歌唱した「CHARACTER ver.」の2パターンが収録されている。



ヴィジュアル系と二次元コンテンツの親和性の高さについては、もはや定説レベルで言われていることであり、『マガツノート』に関しても、それが大いに発揮されている。また、アーティストサイドは、担当した各陣営であり、そのリーダーのキャラクターに合う楽曲を提供しているところはもちろん、プロジェクト側としても、各アーティストの楽曲の特徴はさることながら、ライヴパフォーマンスや彼らが大事にしているアティテュードなどを充分に考慮した上でオファーしていることは間違いないだろう。提供曲を聴いていて、もしこのアーティストが引き受けなかったらどうしていたんだろうと、こちらがいらぬ心配をしてしまったぐらい、驚異なシンクロ率を見せるものばかりだ。

たとえば、「Season:1」の中心人物だった政宗（CV.峯田大夢）が所属しているARK監査局のイメージソングとして「リブラ」を書き下ろしたのは、アルルカン。ヘヴィなバンドサウンドと切ないメロディが合わさった激情的な楽曲が彼らの持ち味だが、バンドのボーカリストであり、歌詞の大半を手がけている暁（Vo）は、人一倍強い葛藤を抱きながら、自分だけの答えを見つけ出していくその様を歌詞に落とし込んでいくタイプのアーティストだ。それは、自身の正義が完全に崩れ去ってしまった中でも懸命に足を踏み出そうとする政宗の姿と、強く重なるところがある。



秀吉（CV.小笠原仁）率いるMAD FANGの「惡鬼招雷」を手がけたのは、零[Hz]。“東京ミクスチャーロック”というバンドコンセプトを掲げ、様々な音楽ジャンルを自由奔放に取り込んでいくのが彼らのスタイルだが、同曲で見せるEDM系統のレイヴィーなシンセ音は、やんちゃでド派手なものが好きな秀吉にぴったり（ちなみに、歴史上の人物のほうの豊臣秀吉は、新しいもの好きだったそう）。



メインコンポーザーの青井ミドリ（B）が、自身の抱えるネガティヴな感情を曲に刻み込んでいくZOMBIEは、光秀（CV.岡本信彦）を中心とした「蛇-ウロボロス-」のイメージソングを担当。2ビートでパワフルに疾駆していく提供曲「ウルトラムシケラボーイ」は、厭世的な性格が極まった果てに、世界を滅ぼそうと企む光秀の心情そのものであり、負の感情を爆発させる強烈な1曲になっている。



家康（CV.美藤大樹）が局長を務めるARK医療局のイメージソング「In The End」を提供したのは、BXW。本作では唯一、ボーイズグループからの参加ということもあり、クールで妖艶さもあるダンスポップはある意味異色だが、そもそもBXWというグループ名は「ダークな恰好良さ（Black）と、無垢な可愛さ（White）」から来たもの。真逆の表情を持つという意味では、表の顔は人当たりがよさそうでありながらも、実はしたたかな性格を持つ家康にも同じことが言える。



織田信長（CV.神尾晋一郎）による第六天魔王軍のイメージソングは、RAZORが提供した「存在証明」。彼ららしいラウドかつ凶暴でありながらもキャッチーなメロディーを軸にした楽曲になっているが、フロアのオーディエンスを一人残らず巻き込んでいく求心力抜群のステージパフォーマンスを繰り広げるフロントマンの猟牙（Vo）は、圧倒的なカリスマ性に満ちた織田信長が持つ魔性の魅力を表現するために打って付けの人物でもあるだろう。



本作『魂響』は「魂響盤」と「戦盤」の2形態でリリースされるが、「戦盤」には物語の外伝的な立ち位置となった「戦シーズン 壱st Battle 『桜華狂騒』」のオリジナル楽曲2曲も収録されており、秀吉・政宗連合軍による「GOLD」はBabyKingdom、光秀・家康連合軍による「闇と桜」をザアザアが、それぞれ担当している。“桜華”というタイトルの通り、桜の木が物語の中心にあるのだが、疾走感のあるハードなサウンドを基調にしつつ、雅やかな和楽器を取り入れたBabyKingdomと、同じくアップテンポではありながらも、バンドの特徴でもある強烈なまでに哀愁を帯びたサウンドで寄り添ったザアザアと、それぞれが自分達の軸をずらすことなく、各々らしいアプローチで作品を彩った。

どれも異常なまでに高いシンクロ率を誇る楽曲ばかりだが、それらが「CHARACTER ver.」を歌う声優陣にも強い影響を与えたことは、想像に難くない。自身が演じるキャラクターを土台にしながらも、楽曲によってはデスボイスやラップなど様々な歌唱法を駆使しつつ、それでいて各アーティストの節回しを意識したり、原曲のイメージを壊したりすることなく、絶妙なバランスをとりながら表現しているところは、とにかく圧巻の一言。楽曲提供者へのリスペクトと、普段から声を武器に戦っている彼らの矜持を感じさせるものになっている。また、いつもはまったく異なるフィールドで活動しているアーティストと声優がタッグを組み、ひとつの目的に向かって突き進んでいくところは、どこか少年漫画の王道的な雰囲気もあり、心をくすぐられるところも。そこはこのプロジェクトの魅力のひとつでもあるだろう。

現在、『マガツノート』は「Season:2」のラジオドラマがスタートしているのだが、幸村（CV.野島健児）、佐助（CV.小野将夢）、 才蔵（CV.堂島颯人）の3人による新陣営・六道閹のイメージソングを、lynch.のボーカリストでもあるHAZUKIが担当することが先日発表された。また、『魂響』には未収録だったが、「Season:1」から登場していた悪魔斡旋会社DDのメフィスト（CV.森久保祥太郎）のイメージソング「Doll in Doom」は、luzが楽曲を提供。こちらはすでに配信中で、ヘヴィでダークファンタジー色全開の楽曲に仕上がっている。

さらに、プロジェクトの1周年を記念した2本のリアルイベントも決定。プロジェクトのお披露目イベントとなった＜解放区＞からちょうど1年後となる2023年3月16日に、赤羽ReNY alphaにて、＜1stファンイベント「有害人類集会」＞が、2023年3月28日には豊洲PITにて＜マガツノート主催ライブ「大祝戦」＞が、それぞれ開催されることになっている。各イベント共に詳細は後日発表されるが、＜マガツノート主催ライブ「大祝戦」＞には、BabyKingdom、ザアザア、RAZORの3組に加え、新しいコラボバンドも出演予定とのこと。どちらのイベントも貴重な瞬間が続出しそうな予感がすでに漂っているが、YouTubeの『マガツノート』オフィシャルチャンネルでは、これまでのボイスドラマはもちろん、過去に開催されたリアルイベントのダイジェスト映像も公開中。

2月28日は、2022年6月にKT Zepp Yokohamaで開催された＜解放区-初夏の陣-＞のライヴDVDも発売予定となっているので、未体験の方はまずはそちらで現場の空気を感じ取っていただき、“有害人類”として、まだまだ大きく広がっていく『マガツノート』の世界に深く溺れていただけると幸いだ。

文◎山口哲生