【インタビュー】KANA-BOON、モンストとのコラボレーション楽曲「フカ」に込めた想い
2023年にメジャーデビュー10周年を迎えるKANA-BOONが、新曲「フカ」を1月2日にリリースする。
この曲はスマートフォンゲーム『モンスターストライク』(以下『モンスト』)の新春キャンペーンとのコラボレーション・ナンバー。そのタイトルどおり、新たな展開を“孵化”する『モンスト』を祝福する1曲でありながら、我々に〈負荷〉をかけ、行動を〈不可〉にする現代の〈当たり前〉を揺さぶる強いメッセージソングに仕上がっている。
今春、新メンバー・遠藤昌巳を迎え、ネクストステップを踏み出したKANA-BOONは自らの現在地と2022年の世の中をいかに観察し、「フカ」を完成させたのか?4人に話を聞いた。
■KANA-BOON、“変化の2022年”を振り返る
──2022年ってどんな1年でした?
谷口鮪(Vo&G):ホントに見事な転換期でした。一番わかりやすい出来事としてはマーシー(遠藤昌巳/B)の加入。これでまた“4人のKANA-BOON”として歩み出せることになったし、その4人で回ったツアーや楽曲の制作もすごく恵まれた環境でできました。最高だったよな?
一同:うん(笑)。
古賀隼斗(G):2022年は一番変われた年だったなと思っています。マーシーが入ってくれたというのが一番デカい出来事だったんだけど、16年くらい一緒にいる3人のメンバーの気持ちにも変化がありました。今まで以上にKANA-BOONに前のめりになっているというか。どのメンバーも自分のことよりもバンドのことを一番に考えているのがわかるし、みんなバンドのためになることは素直に伝えられるようになりましたね。僕も「これは言わんでもいいかな?」みたいなこともちゃんと言葉にするようになったし。今まで以上に素直に腹を割れる仲間という関係になった気がします。
小泉貴裕(Dr):僕の場合はドラマーという立場上、バンドのことを後ろから見ていることが多いから、ライブ中のメンバーの変化もよく見ることができましたね。今年は本当にメンバーそれぞれが自分を出していたというか、自分のやりたい表現をライブ中に発揮しているのをすごく感じたし、僕自身もどんな表現をするかを深く考えました。特にマーシーという新メンバーとリズム隊を組むことになったからこそ、マーシーから刺激を受けて変われた自分もいたし、逆にマーシーにKANA-BOONの音楽の表現のしかたを伝えられた気もしていて。それがまた相乗効果になって表現の幅を拡げられた1年だったなと思っています。
──遠藤さん自身にとってもこの変化は大きかったのでは?
遠藤昌巳(B):「まさかこんな1年になるなんて」という気がしてますね。
谷口鮪:悪い意味で?(笑)
遠藤昌巳:もちろん、いい意味で(笑)。2022年4月に正式加入したんですけど、打診があったのが2022年に入ってからのことだったので、本当に目まぐるしい1年になりました。それまでもサポートメンバーとしてステージに立ったり、レコーディングに参加してはいたんですけど、やっぱりメンバーとは一歩引いたところにいたつもりだったんです。それがいざ正式メンバーになることが決まってからは、「ちゃんとKANA-BOONのメンバーになる」という前向きな気持ちと、反対に「入っていけるのか?」という不安な気持ちの両方の板挟みになった時期もありました。でも正式加入してからの最初のライブで、ファンの方に暖かく迎え入れてもらえて。それからは「KANA-BOONの1/4になりたい」「もっとカッコいいバンドにしたい」という思いが出てきて、KANA-BOONの音楽の一角を担っているという意識を強く持つようになりました。
古賀隼斗:ベースももちろんなんだけど、マーシーのことをスゲーなと思うのが、こうしてちゃんと喋れるところなんですよ。オレら、デビューして4カ月後とか半年後にこんなに流ちょうにインタビューで喋れんかったよな。
谷口鮪:もう10年もメジャーで活動しているのに、一瞬でマーシーに追い抜かれた(笑)。
──あはははは(笑)。そして2022年を締めくくる1曲として『モンスト』とコラボレートした「フカ」が発表されます。コラボレーションのオファーがあったときの感想は?
谷口鮪:純粋にうれしかったですよ。「オレたちを選んでくれてありがとう」という感じというか。
古賀隼斗:最初は「あの『モンスト』が!?」っていう感じだった。
谷口鮪:しかも『モンスト』のスタッフさんの熱量というか、KANA-BOONと何をしたいのか? という思いをすごく伝えてくれまして。制作前から、「『モンスト』が描く世界にふさわしいものを作りたい」っていう気持ちがめちゃくちゃ湧いてました。
■世に蔓延する「当たり前」に痛烈な「?」を投げかける
──『モンスト』の新キャラクターが発表になるということで「フカ」=〈孵化〉というタイトルを付けたのだと思うのですが、一方で谷口さんはこの曲の制作に当たって、「フカ」は〈負荷〉や〈不可〉という意味も込められているとコメントなさっていますね。
谷口鮪:はい。
──実際、歌詞を読んでみると、ご自身に対してなのか?世の中に対してなのか?いずれにしても今の世界のありようをシニカルかつ強い言葉で切り取っている。言ってしまえば「谷口さん、今、イラついてます?」という印象すら受けました。
谷口鮪:かもしれない(笑)。実際、「なんでこれがまかり通るんだ?」みたいな納得のいかなさというのは、バンドを始めたころから感じていたことですし。自分たちの活動と、それによって周囲で起きることを見てみても「世の中おかしいよな」と思うことがある。毎日生活していても「自分たちの暮らしている世界って、なんかおかしいよな」っていう感覚はあります。でもそれが世の中では〈当たり前〉のこととされている。これを〈当たり前〉のこととして受け入れて生きていくのって、いいことなの?という疑問は常にあります。もちろん〈当たり前〉に恵まれている人はそのままでいいと思うんです。一方で〈当たり前〉に苛まれている人、虐げられている人も確実にいるわけで…。そういう人たちにとって、この曲が何かのきっかけになったらいいなと思っています。それは自分自身へ向けた言葉でもあるんですが。
──その〈当たり前〉に対する不満を膨れあがらせる理由のひとつとして、コロナ禍もあったのでしょうか?
谷口鮪:直接的な動機にはなってないけど、確かに「これやっちゃいけない」「あれやっちゃいけない」って言われることが増えたことに対しては思うことはあって…。自分で何かを決定できない状況はやっぱりよくないですし。しかもやっちゃいけないことをひとつでも破れば、破った人は強迫観念に苛まれるし、周りからの同調圧力に当てられてしまうこともあるでしょう。特に音楽業界はコロナの影響を目の当たりにしましたからね。ライブハウスは閉められるし、音楽に対する世の中の向き合い方が酷い時期もあった。あの視線がコロナを蔓延させないためのひとつの真実だよな、とは思うものの、変わってしまったことは多すぎたし、僕を含めた、それについていけない人たちはそろそろ限界にきてるんじゃないか?という感覚はあります。
──ある意味においてアングリー・ミュージックでもある新曲「フカ」ですが、楽器隊のみなさんがはじめてデモ音源を聞いたとき、どう思われました?
古賀隼斗:前のアルバム『Honey & Darling』(2022年3月30日発売)も鮪のかなり素直な歌詞が印象的だったんですけど、そこにさらに力強い言葉が乗っかってきた。何かを訴えかけてくるような力強い言葉は刺さるな、と思っていて。しかも言い回しが、いつもの鮪の歌詞とは違う。でも鮪の口から出てきても違和感のない言葉で。
──具体的にどんなリリックですか?
古賀隼斗:1コーラス目のAメロの「もう聞かんでいい」っていうところですね。これまでなら「聞かなくていい」って歌いそうなところを「聞かん」って書いているのが、いい意味で作詞家・鮪らしくない。でも、だからこそ耳に残るし、伝えたいことを本当に力強い言葉で表現しているんだな、という印象がありました。
──遠藤さんは「フカ」のリリックをどうお読みになりました?
遠藤昌巳:実は僕、鮪がこの曲を作ってるときにずっと後ろにいまして…。
谷口鮪:おったよな(笑)。
──谷口さん、自宅で作詞・作曲なさるんですよね?そこに遠藤さんがいたと?
谷口鮪:マーシーにサポートに入ってもらったとき(2020年1月)からずっとそうなんですけど、KANA-BOONがどういうプロセスを経て楽曲を完成させているのかを見といてもらおうという理由で、作詞・作曲のときから一緒にいてもらうようにしてるんです。
古賀隼斗:そういうのってプレッシャーとかにならないの?
谷口鮪:まったく。人が見ていてくれるほうががんばれるし、僕はすごく真っ暗な中にポンッと浮かんだ光を掴んで、またその先にある光に向かって行くっていう音の探し方をしているんですけど、たまに…光が途切れるときがあるんですね。マーシーはちゃんと音楽的な知識のある人だから、そこで新しい光を提示してくれるんです。コード進行には一定の制約というかルールがあるので行き詰まることがあるんだけど、「だったらこういう道を通ってみたらどう?こんな展開があるんじゃない?」っていう可能性を教えてくれる。たまに2つめのコードを聞くこともあるもんな?
遠藤昌巳:たまにね(笑)。
──最初にCのコード、ドミソをギターでかき鳴らした直後に…。
谷口鮪:「マーシー、次のコードなにがいいと思う?」って(笑)。
古賀隼斗:質問するのが早い!それもう「作曲:マーシー」だから(笑)。
──もしかして「フカ」の歌詞についても遠藤さんのアドバイスが?
谷口鮪:そこは“ノー・マーシー”でしたね(笑)。
遠藤昌巳:実際、どんな歌詞になるんだろう?と思いながら後ろで見守っていたんですけど、すごくハッとさせられる内容になっていました。さっきもお話したとおり、自分は今、変化の途中にいると思うんです。新しい環境に置かれてまだ1年も経っていない状況で「変わらなきゃ」と思う部分もあるし、「でもやっぱりオレらしく変わらないほうがいいのか?」と思う部分もあって。KANA-BOONのメンバーだからこそ巻き起こるいろんなことをどう消化するのが正解なんだろう?って常に考えながら鮪の後ろにいましたね。
■「鮪、すっごい遊んでるな」
──これは谷口さんの作詞術のひとつだし、先ほどご本人もおっしゃっていたことでもあるんだけど、歌詞の中で〈当たり前〉を何度も何度も繰り返すことで、人々にとっての常識や日常のありようを再検証する内容になっているからこそ、響くものがあった?
遠藤昌巳:今の自分の指針となるかもしれない言葉をもらえたっていう思いが強いですね。
──小泉さんは「フカ」のリリックをどう読みました?
谷口鮪:あんまり深く読んでないでしょ?(笑)
小泉貴裕:最近はちゃんと歌詞を読むようにしてる(笑)。というのも、歌詞を読むことで鮪が特に届けたい言葉やメロディをより深く知ることができますから。鮪はデモテープの段階でドラムも打ち込みで入れてきていて、それを参考に自分なりにアレンジしてドラムパターンを組むようにしているんですけど、歌詞を読むことで「この言葉、このフレーズを強く届けたいんだろうな」というポイントが見えてくるんです。
──本当に先ほどみなさんがおっしゃっていたとおり、変化の1年を締めくくるにふさわしい、変革の1曲なんですね。
谷口鮪:バンドがいい状態になっているからこそ、この1年、肌で感じてきたことをちゃんと形にできたんだろうなと思っています。
──「フカ」の曲構成、ストラクチャーは大変ユニークですね。1コーラス目を聴いたときは「Aメロ→Bメロ→Cメロで構成されたストレートなロックなのか?」と思っていたんですが…。
古賀隼斗:そのままAメロが戻ってこない(笑)。
──そうです。最後に大サビとしてCメロを繰り返しはするものの、2コーラス目以降には横ノリのラップは入るし、それまで聴かせていなかったフレーズが突然入ってくるし、メロディが行ったきり帰ってこない構成になってますね。
谷口鮪:『モンスト』とのコラボレーション曲ということもあって、これまでのアニメやドラマのタイアップ曲と一緒なんですが、まずは89秒の尺の1コーラス目とアウトロを作って、そこからどう展開させていくかを考えたんです。この89秒のパターンを繰り返すのか?とか。
──Aメロ→Bメロ→Cメロを2回しして落ちサビがあって、大サビっていうのが典型的なポップスやロックの構造ですよね。
谷口鮪:そのA、B、サビっていう構成はおっしゃるとおり普遍的なものだし、KANA-BOONとしても一番気持ちのいいものだから、あえて変な構成にしてやろうみたいな筋書きや思惑があったわけでもないんです。
──それこそ〈当たり前〉の当たり前さを揺さぶる歌詞ともリンクさせた、当たり前じゃないロックを作ったのかな?なんて邪推していたんですけど…。
谷口鮪:すみません、たまたまです(笑)。「こういう曲、面白いな」と思っただけというか。メンバーにとっては新鮮だったかもしれないけど。
遠藤昌巳:後ろで見ていたら、89秒バージョンを作ったあと、それほど間を空けずにフルバージョンを作り始めていたんですけど「うわっ、メロディがこんなに変わっていくんや」ってビックリしました。「どういうベースを入れようかな?」っていうのを考えながら作曲するのを見てましたね。
──一方、ギター・ソロやオブリガードをバンバン弾きまくる古賀さんのギターはKANA-BOONのシグネイチャー・サウンドだと思うんですが、この曲ではソロすら…。
古賀隼斗:ないんですよ(笑)。でも歌詞を読み取ってそれを表現するのが僕の仕事だと思っているので、このプレイで正解だと思っているし、実際、アウトロのフレーズはすごく入れ込んで作っている。いつもどおり楽しく弾けました。
──先ほど遠藤さんが「ベースをどう入れようか?」と考えたように、リズム隊の一員である小泉さんにとってもなかなか頭を悩ませる1曲のような気もしますが。
小泉貴裕:確かに第一印象は「鮪、すっごい遊んでるな」っていうのはありました。最初は勢いのある感じなのに、2コーラス目になったらすごくグルーヴィだし、そのあとにはなんかすごく“大きな”リズムのとり方をするメロディになって、またサビに戻っていきますから。ただそれに違和感を覚えたり、苦労したりっていうことはなかったですね。表現としては新しいけど、ドラマーなりに楽しんで演奏させてもらいました。
──大晦日には『モンスト』のYouTube公式チャンネルでスタジオライブの模様が配信されるそうですね。その映像は『モンスト』ファンはもちろん、KANA-BOONのファンも観ることになるわけですよね?
谷口鮪:そうですね。
──そういうファンはKANA-BOONをきっかけに『モンスト』を知ることになります。
谷口鮪:僕たちが「面白い」と思って引き受けたコラボレーション企画ですから、みなさんも触れてみてはいかがでしょう?楽曲でタイアップするときはいつもそうなんですけど、KANA-BOONはもちろん、タイアップ先にも「うれしいな」と思えるポイントがあるといいな、と思ってますから。
──最後に、来たるべき2023年、そしてKANA-BOONにとってメジャーデビュー10周年イヤーはどんな1年にしましょう?
谷口鮪:いろいろ計画中だし、すでに1年間の予定はおおよそ決まっている状態なんですけど、まあ忙しいっす(笑)。
──でもそれって幸せな忙しさですよね?
谷口鮪:そうですね。10周年を忙しく過ごさせてもらえることのありがたさは今からすごく感じています。KANA-BOONとして新しい音源を出す機会や、ファンに会いにいける機会をたくさん作ってもらえるわけですから。特に10周年イヤーはとにかくライブをする予定になっているので。その感謝の気持ちをちゃんと自分たちの口で伝えに行こうと思っています。
撮影◎飯岡拓也
取材・文◎成松哲
編集◎尾谷幸憲
<KANA-BOON 10th Anniversary KICK OFF LIVE「Sunny side up - Moon side up」>
2023年5月14日(日) 日比谷野外音楽堂
指定席 ¥4,800(税込)
◆ツアー特設サイト
◆ゆくモンくるモン'22→'23 ~Music Night~(モンスト公式YouTubeチャンネルで大晦日に配信)
◆KANA-BOONオフィシャルサイト
◆モンスターストライク(モンスト)公式サイト
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