【コラム】坂口有望、『科捜研の女 2022』との幸せな出会いと成長が聴こえる「サイレント」

坂口有望の新曲「サイレント」が、テレビ朝日系の人気ドラマ『科捜研の女 2022』(10月18日～12月20日放送予定)主題歌に抜擢され、好評を博している。今年でデビュー5周年を迎えた坂口有望は、高校生でのデビューから大学4年生の現在に至るまで、同世代の恋愛や生き方にフォーカスしたリアルな歌詞と、透明度の高いキュートな歌声で、TikTokをはじめSNSでも厚い支持を受ける若きシンガーソングライター。彼女が生まれる前の1999年から続く長寿ドラマシリーズ『科捜研の女』とは、一見接点が少なそうに見える。しかしそれこそがタイアップの魅力だ。ドラマのファンが新しく才能あるシンガーを発見し、音楽のファンが老舗ドラマの深い魅力にハマる。2022年秋、「サイレント」と『科捜研の女 2022』はとても幸せな出会いだった。

「サイレント」は、細部の色彩や筆使いまでしっかり作り込まれた絵画のようなミドルバラードだ。リリカルなピアノ、シンプルなリズムが作るキャンバスの上で、キーボードが織り成す様々な音色が漂うようにして空間を作る。全体の色合いはブルーで、どことなく寂し気だ。リズムが消えて歌だけになったり、分厚い音とせつない歌声が一体になったり、LASTorderによるドラマチックなアレンジが、犯罪や人間の深層心理に切り込むシリアスなメッセージ性と、娯楽性に富んだドラマの主題歌によく似合う。大人びた悲しみの風景の中に、これまでの彼女の曲にはなかった世界観がある。

思えば、7月にリリースした最新EP『XL』に変化の証拠はあった。彼女のデビュー曲にして代表曲、現在までYouTubeで1500万回再生を超える「好-じょし-」のリアレンジ・バージョンには、骨太なバンドサウンドと落ち着きを増した歌声の中に確実に大人の息吹が感じ取れた。タイトル曲「XL」には、夢見る恋愛ではなくリアルな等身大の恋愛の風景が生々しく描かれていた。歌の中での二人称を「あなた」とすることは、大人っぽ過ぎて抵抗があるとかつて言っていた彼女が、この曲で初めて「あなた」を使って歌詞を書いた。「愛してる」という言葉も初めて使った。そんな20代の初め、ソングライターとして大きな変化の季節の延長線上に「サイレント」はある。

彼女が作詞した「サイレント」の歌詞は、ドラマの世界観に寄り添いながら、もう会うことのできない大切な人への想いを情感豊かに綴る。別れの悲しみを赤裸々に綴りながら、その先に見える光がある。たぶん5年前の彼女ならば、「あなたに会えず泣いたって／その粒に咲く花もあるの」とは書けなかったんじゃないか。「耳をすましてよ ほら／今でも愛は生きているんだ」とは書かなかったんじゃないか。つらい出来事をくぐりぬけたあと、このドラマチックなミドルバラードの最後に「私は幸せ」という言葉は思いつかなかったんじゃないか。長年彼女の歌を聴いてきたファンは、彼女の成長に目を見張る思いでいるんじゃないか。光と闇を大胆に使い、歌う彼女の姿に神々しさすら感じさせるミュージックビデオも必見だ。



たとえそんなことを知らずとも、『科捜研の女 2022』の世界を楽しむファンの心にすっと入り込む、強い魅力を持った楽曲だ。1月15日には東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで、共に5周年を迎えるコレサワと共にWデビュー5周年イベント＜AMIKORE＞を開催する。3月からは「サイレント」リリース記念＜耳をすましてよtour＞として、全国9か所をバンドで回るツアーも決まった。「サイレント」はもちろん、シングルのカップリングに収録された、同世代の悩みや悲しみを力強く励ますロックバラード「綿毛」もきっと聴けるだろう。2023年の坂口有望はもう力強く走り出している。サイレントに沈んだ季節の向こう側に、たくさんの歓声と手拍子が聴こえる時がもうすぐやってくる。

文・宮本英夫

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