【連載企画】「レコードショップができるまで」第一弾「これからショップを作る人、鼎談」

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「ギンザレコード」をはじめ音楽関連事業を行う株式会社マッチファインダーが、都内で個性豊かな飲食店を手掛けるCLASSIC INC.、そして店舗の空間プロデュースのHajikami Inc.がタッグを組み、都内某所で“とある施設”を作ろうとしている。その施設の軸となるのが“音”。今回は「レコードショップができるまで」と題し、その施設の完成を追ってみたい。第一回は株式会社マッチファインダーの新川宰久、CLASSIC INC.の萱場俊克と姫野慶太、Hajikami Inc.の谷脇周平に、どんな施設になるのか話を聞いた。

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──まず、皆さんが知り合ったきっかけは?

新川宰久(以下、新川) 僕と姫野さんですね。

萱場俊克(以下、萱場) 姫野がかなりキーマンで、弊社の美容室部門(CHASSE-PIED ENLAITON)の代表を紹介してくれたのも姫野で、Hajikami INCを紹介してくれたのも彼。新川さんを紹介してくれたのも彼。たまたま天気のいい日に二人で散歩してたら、「知り合った人があるところにビルを借りる予定で、補助金も通ちゃったけど飲食をやったことがなくて困っている人がいる」と。

新川 (笑)。

萱場 僕も動物的な嗅覚で、それ面白そうだ、と思ってすぐに紹介してもらったところから始まったわけ。今年の夏くらいかな?

姫野慶太(以下、姫野) 春先くらいですね。マライア・キャリーを買いに行ったときですもんね?

新川 それだとクリスマスの時期ですね。

▲姫野慶太

姫野 そうだ。一昨年のクリスマスにギンザレコードにレコードを買いに行って……有楽町のミュージックバーをやるときに機材の選定に協力していただいた方が共通の知り合いだったんです。近くでレコード屋さんをやってるから行ってみてくださいと。それからちょこちょこレコードを買いに行ったり、逆にお店にも来ていただいて、音楽の話をいろいろして……。クリスマスシーズンだったので、マライア・キャリーのレコードを買いに行ったときに、いや実はとビルの話をされて……。弊社も倉庫兼社宅が手狭で、ちょうど場所を探しているところで、同時に都内のどこかでお菓子を提供する店舗を探していたんですね。そこで新川さんの話をお伺いして、いろいろとつながって代表の萱場に相談したわけなんです。

──新川さんがビルを借りたときは何もなかったわけですか?

新川 そうなんです(笑)。

萱場 プランはありましたよね?

新川 そう、壮大な夢だけはあったんですが、それをどうやって実現するか、というところが甘かった(笑)。どうにもこうにもならずに1年くらい経過して、今お話ししたように、ポロッと姫野さんに相談したら繋いでくださった。

──で、ビルをどうしようかという打ち合わせが始まった?

新川 元々ビル一棟というのは意味があったんです。うちはオーディオとレコードを売っているわけですが、お店でお客さんがオーディオを試聴したい、レコードを試聴したいといってもほんの数分、数十分。でも本当はオーディオってもっと腑に落ちるような形にしないと、欲しいって思ってくれないだろうって気づき始めたんです。

人は何に時間を費やすのかと考えると、飲んだり食べたりしているとき、友達と喋っているとき……そういうときですよね。であれば、美味しい食べ物と飲み物があるところに、いいオーディオを置いて聞いてもらえれば、ひょっとしたらオーディオとかレコードに興味を持ってくれる人が増えるかも、と。それでそのビルは五階建ですが、一階はカジュアルな感じで、二階はしっくりした感じがいいと、漠然としたイメージがあったのを皆さんが具体化してくれている感じなんです。

──その新川さんのイメージから変わったところとかズレてきたところはありませんか?

▲萱場俊克

萱場 このプロジェクトは、新川さんのプランを聞いたときに面白いなと思ってスタートしたわけですが、新川さんの悩みは二階でやろうとした飲食とハイエンドオーディオの空間、それをやったことがないからどうしよう?というところが始まり。新川さん曰く、「僕がやるのはワンフロアのレコード店部分だけでいい、後のフロアをどうしよう?」ということだったので、ワンフロアはお菓子に、五階はギャラリーにして、ビル自体が複合施設となって巡回できる──お菓子を楽しむだけでなく、レコードを買いに行くだけでなく、音響が聞けてお酒やカフェが楽しめるところもあってアートも楽しめる空間もあって……さらに屋上もあるので、いつか面白いことを一緒にできたらと、だんだん膨らんでいきました。

──ビル自体のコンセプトはありますか?

新川 忘れちゃったなー(笑)。

谷脇周平(以下、谷脇) えー(笑)。音に包まれた……

新川 ああ、そうだ(笑)。

萱場 「ビル全体を音で包む」というのがコンセプト。なので新川さんの得意どころの“音響”を一階から五階まですべてプロデュースしてくれて、ビル全体がいい音の空間になる。

──今回、飲食スペースを作りにあたり、音があるからこういうメニューになった、音があるからこういうお店になったということはありますか? 

萱場 今回に限らず、うちでミュージックバーをやったり、以前はナイトクラブもやっていて、DJや音楽関係のつながりがあったので、全く違和感なく、このプロジェクトにスッと入れたのはありますね。

──この土地らしさ(情報公開は近日!)というとどういう点でしょうか?この土地だからこれができた、この土地だからこれをやろうとか……。

姫野 僕が新川さんから聞いていたのは、この土地はクラフトワークな街でアーティストさんも多いし、クリエイターも多いけど、音に関するコンテンツがない街で、そこに新たな音のコンテンツを作りたい、ということ。

萱場 その土地自体がどちらかというと昼の街でカフェ文化が育っているところ。コロナになってインバウンドは少ないけど、外国人の方もすごく多かった。その中にジンを作っている会社があって、そこが世界的な賞を取ってたり……それにバーが増えてきていたり。高級マンションもどんどん建っていて、ある程度経済力のある若いファミリー層が引っ越してきて、今は若者の街に変わりつつあって、これからもっと良くなっていくんじゃないかと思います。そういう中で僕たちがやる意義が噛み合ってきた、ピースが埋まってきたという感じ。ニューヨークの横、ブルックリンの街のような職人が集まる場所を目指したい。

──そのビルは元々建っていたものですか?

新川 元々お箸の問屋さんだったビルなんです。販売所が一階にあって。、上には従業員や社長の事務所があって。

萱場 年齢で言うと50歳。ボロボロの古ビルなんですが、Hajikami Inc.曰く、昔だから、骨組みがぶっとくて、頑丈にできている。見た目も悪くないんです、昭和の古さが残っていて……それを残しつつ、中に入ると別世界みたいな空間を作っていきたいと思ってます。

──内装のテーマみたいなものは?

▲谷脇周平

谷脇 おしゃれなニュー純喫茶みたいなものは周辺にたくさんあるんです。そこには寄せていかない。なおかつ、ブルックリンっぽい感じのお店もたくさんあるので、そこにも寄せていかない(笑)。純喫茶なんだけど、ヨーロッパみたいなものも感じられるような……イメージは丸の内の古いビルみたいというか、そういう内装がいいのではと思っています。

萱場 品のある感じだよね。

谷脇 CLASSIC INC.の社名通り、カジュアルだけども品があるクラシカルなスタイル、そこのラインを推しているので、その辺りを意識していますね。まだビル自体、解体中ではありますが。

──このビルでのレコード店、音の役割とは?

新川 まずはあの辺に音楽を鳴らす店がない。あったとしてもガサツな感じというか五月蝿い感じというか、自分の求めているものじゃない。まずは、より広い多くの人たちに音楽の良さを伝えたい。あと、この街にはインキュベーションセンターが2箇所あって、そこを出た後に渋谷、新宿に店を出すのではなく、残るそうなんです。だから若い職人さんたちがズーッといる街。そういう人たちって感性が優れている。音楽が、そういう人たちを少しでも刺激できれば面白いかなと思って。音楽を軸にして、長くビルの中を楽しんでもらえる空間を作りたい。そこにレコード屋がある意味というのは、単純に物を売るわけではなくて、街全体にいい刺激を波及していくような……そして街に違う顔ができたらいい。

──その施設を中心にどんな街作りをしていきたいですか?

新川 そんな烏滸がましいこと……(笑)。

萱場 音楽が主役というよりは、音楽が刺激になったり、スパイスになる、そういうことだと思うんです。僕らが最初に恵比寿に出した飲食店が東北食材を使ったイタリアン・レストランでした。最初は何もなかった場所なんです。でも僕らが成功したことによって、“死んでいた”場所に飲食店がたくさんできるようになった。今回も音楽とお菓子、アート、落ち着いたらバー/お酒も、そういうコンセプトのお店が少しづつ増えていったら、回遊性もさらに上がって、面白い街になる。今後、昼だけではなく夜も通して、あそこに行くとなんか楽しいことがあるよね、と、そういう街になれるような、最初のお店にしたい、それが僕らの共通認識。まずはビル全体に回遊性があって、あのビルに行くと楽しいよね、それが広がって街ができあがっていくと理想ですね。

──実はこういうお店を入れたかった、なんてありますか?

新川 僕は自分が描いた絵姿にほぼなっているので……ズレなく。僕一人ではできなかったものが出来上がった、というかできそうなので。

萱場 このビルはCLASSIC INC.とマッチファインダーとの共同事業という意味で二階がメイン。ただスタートはカフェで、昼しか楽しめない。将来的に夜はバーに切り替わって活かせるような空間にしたい。そこが始まるとほぼほぼ理想のビルになる。あとはホテルをやってみたかったです。四階か五階でひと組だけが泊まれるような。


──この施設が成功したら他のところでもお考えですか?

新川 自分の中で事業計画の元になったのがいい音楽と食べ物を組み合わせて自分の部屋みたいに楽しんでもらうというコンセプト。これがうまくいったら新しい音楽の売り方ができるはずだと思っていて、本来であれば六大都市で展開したい。

萱場 ベンチマークしていたロンドンの……。

新川 ロンドンのSPIRITLAND。オーディオファイルバーの走りみたいなお店で、そこがいい音を長時間楽しんでもらうために始まったのですが、アルバムを一枚まるごとピュアオーディオで聞く会をやったり、そういうのをやり始めた。最近は賑わっていて、DJバーっぽくなっているんです。昔からレコードでDJをしていた人たちが、クラブではなくあえてそこでDJしている。

──DJバーではない?

新川 ピュアオーディオでやるのが大きな違いですね。それがやりたかったんです。なので、今回のお店はほぼ理想形になりそうですね。

萱場 今回やり切れてないのは、SPIRITLANDのようなライブをやれる空間だったり、今回の店舗にはDJブースを構えてない点かな。

新川 スペースはあるんですけどね。

萱場 まずは今の状態でスタートして、ドンドン肉付けしていく形になると思うんです。予定しているオーディオセットはみんな見たことがないと思うし。

姫野 自分が新川さんと出会って、音響でこんなに音が違うんだ、と痛感したんです。我々が経営しているミュージックバーもヴィンテージのJBL、RANEのミキサーと設備にはこだわっているんですが、ギンザレコードで新川さんのチョイスしたオーディオで同じアルバムを聞いても、まるっきり違う。そういえばあれもマライア・キャリーでしたね(笑)。鳥肌も立って、僕が知っている音じゃない。その差を感じることを今度できるお店で、おしつけではなく自然にできたらいいなと思っています。このお店って心地いいよね、と。

萱場 JBLはパキッとしてる、TANNOYは柔らかい……いろいろな表現があるけれど、新川さんのオーディオは包まれているような、臨場感のある音が聞ける。気をつけて聞いてもらうと全然違うんです。そういうのを味わえるお店ってないと思う。ミュージックバーは乱立しているけど、あの流れではないんです。新しい……リスニングルームというのが適切か分からないけど、新しい言葉を作ってそこにハメていければいい。なんかいい言葉ないですかね(笑)?

姫野 マイリスニングルームですよね。

▲新川宰久

新川 暇なときはお客さんが持ってきたアルバムを聞けたらいい。それでもお客さんにしてみたら新しい体験だと思う。さっき姫野さんがおっしゃってたようにびっくりすると思うんです。ギンザレコードの試聴室で泣く人もいるんです。そういう経験って実際に聞かないとできないじゃないですか? 音楽は聞かないと共有できないんです。だから体験を無理やりしてもらうというか……気づいたらその場でいい体験をしていて、自分は価値があるところにいるんじゃないか、そんなふうに思ってもらえたら。美味しい食べ物を提供する店、インテリアが素敵なお店、音がいいお店はたくさんあるけど、コンセプトとして、ビル全体がすべての要素において、働いている人を含めていいとなったら、圧倒的に存在感が変わってくる。三つ星レストランのイメージなんです。

◆ギンザレコード Instagram
◆CLASSIC INC. オフィシャルサイト
◆Hajikami Inc. オフィシャルサイト
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