【インタビュー】お風呂でピーナッツ、一度聴いたら忘れない声と音楽がここにある

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■ポップスの良いところって言葉とメロディの調和
■ふたつの相乗効果で人の感情に触れやすくなる

――歌詞も個性的ですよね。可弥子さん、以前から書いていたんですか。

樋口:いえ、それまでまったく書いたことはなくて、初めて書いたのが『スーパー銭湯』に入っている「A.M.6:00」です。

――独特ですよね。夜と朝の間の情景とか、賑やかなパーティー会場なんだけど孤独を感じているとか。感情が多層になっているというか、一色だけじゃないなという印象があります。

樋口:たぶん私の人生全般的に、白黒分けられるものってないとずっと思っているので、それが歌詞にはどうしても出ちゃうんですね。見方によっては、何を言ってるんだ?って、はっきりしないという受け取られ方もあると思うんですけど、そういうグレイな部分が私のものの考え方の中心にあると思うので、それが出ているのかなと思います。



――イマジネーションを刺激する歌詞だと思います。

樋口:ありがとうございます。でも数曲は若林くんも書いています。半々ぐらいかな。

若林:言葉とメロディはすごく密接なもので、特にJ-POPは日本語の音階の影響がすごく強いと感じるので。そこの意識は最近より出てきたかなと思います。

樋口:ポップスの良いところって、そういう言葉とメロディの調和だと思っているので、ふたつの相乗効果で人の感情に触れやすくなるというか。そこは最近二人でもよく話していて、もっとうまく書けるようになりたいなと思っています。

――特に可弥子さんは日常的に英語、スペイン語、外国の言葉の中で仕事をしているわけで、その中で日本語で音楽を作るというのはすごく面白い体験をしていると思うんですけど、日本のポップスって外国と比べて何か違いはあると思いますか。

樋口:すごい違いはあると思います。今メジャーで活躍している人は、特に独特な方向性だと思います。

――それはたとえば?

樋口:たとえばKing Gnuとか、Adoちゃんとか、すごく日本らしい、アニメ文化だったり、ボカロ世代のコンポーザーの人たちが台頭してきたのが、今のシーンでは本当に大きいと思っていて。たとえばAyuとか、宇多田ヒカルさんとか、ドリカムもそうだけど、あの頃は少なからず外(外国の音楽)の影響が強かったと思うんですけど、そこから独自路線に入っていってるのではないか?と思っているんですけど。あと、さっき言ってたみたいに日本語の音階はすごく大きいと思います。

――すごく的確な指摘だと思います。若林さんは作曲家として、ボカロ世代以降のコンポーザーというよりも、もっとオーセンティックな、オールドとは言わないですけど、伝統的なタイプだという自覚はありますか。

若林:ああ、そうですね、ある程度ルーツ的なものに触れるようにはしています。最近の曲だけじゃなくて、オールドなヒップホップを聴いたりとか、音楽の文脈的なことはなるべく追えたらいいなとは思っています。新しいものもいろいろ聴いてはいますけど、あまり今だけを見たくないという感覚はあります。

――それは曲を聴いているとすごくわかります。だから世代を超えて聴ける感触があるんですよね、お風呂でピーナッツって。

樋口:うれしいです。

若林:流行りだけになりたくないんです。

――そこ重要ですね。そういう意味で言うと、配信リリースされたばかりの新曲「後夜」(こうや)は、どんなテーマで作った曲ですか。

樋口:最初に私がサビの部分を思いついて、それから二人で話して、若林くんが作り上げてくれた曲です。

若林:サビが、言葉付きで来たんですよ。“ロックミュージック”とか。歌もののイメージが強かったので、そこを生かして、シンプルなアレンジでロックテイストで、ということを意識して練り上げていきました。間奏部分にはヒップホップ的な要素を突っ込んで、オールドな部分も意識して、という作り方でしたね。

樋口:すごいお気に入りの曲になりました。歌っていて気持ち良いのは、自分でメロディを作ったからだろうし、カラオケで歌うのが楽しみだなって思っています(笑)。


▲「後夜」

――言葉付きでメロディが出てきた時には、何か具体的なイメージがあったんですか。せつないというか、内省的というか、混沌とした感情を歌った曲に聴こえますけど。

樋口:“教えてよ君だけのロックミュージック”という言葉で始まるんですけど、そこがパッと出て来て…いや、たぶんメロディが先で、そのあとに歌詞が出てきたのかな。めちゃめちゃプライベートな話なんですけど、彼氏と別れた時だったんです。もちろん全部が実話ではないんですけど、一つのエッセンスを抽出して、そこから広げていくという作業をしたのが初めてだったんですね。今までは、歌詞を書く時は情景を描写することが大事で、それが目標だし、これからもそれがやりたいと思うんですけど、歌詞を聴いていて、登場人物が出てくるというよりは、景色が見える歌詞の書き方しかしていなくて。それが自分の好きなスタイルではあるんですけど、その時期、それこそ宇多田ヒカルさんにハマった時期で、その時代のJ-POPを聴いていると、人物描写がはっきり思い浮かぶ曲が多いじゃないですか。固有名詞が出てきたりして、たぶんそういうものをやってみたいなと思っていた時に、あのメロディが浮かんできて、そこへたまたまそういう事件があったので、そこから広げて書いたって感じです。恥ずかしいですけど。どうやってオブラートに包んで、この質問に答えようかなと思っていたんですけど、ちゃんとしゃべるにはやっぱり出て来ちゃいますね(笑)。



――めちゃくちゃ伝わります。それと、話はそれますけど、ちょっと前の可弥子さんのツイートで、モデルの仕事を見てもらうのは何も思わないけど、歌を聴いてもらうのは未だに照れがある、と言っていて。覚えてます?

樋口:はい(笑)。

――それ、聞いてみたかったんですよね。どういう心理なのか。

樋口:たぶんモデルの仕事って、見えているのは私だけど、メイクだったりヘアだったり、ライティングだったりカメラだったりで、デコられているという感覚があるんですね。作品の一部分でしかないという自覚があるんです。慣れたということもあると思うんですけど、歌はもっとパーソナルな部分に近いという感じがします。もちろん歌も、私がその一部となってできているんですけども、声とか歌い方とかは自分が調整できることだし、自分がコントロールできる割合が高いというのがあって、未だに照れちゃうのかなって思います。

――顔よりも、もしかして、声のほうが裸が出ちゃうのかもしれない。

樋口:と思いますね。

――若林くんはどうですか。音楽を作る時には、自分の裸が出ちゃうという感覚はありますか。

若林:それはけっこうあるんですけど、自分の場合は、作品が世に出た瞬間に自分のものではなくなる感覚があるんですね。作っている段階は自分の領域でちゃんと可愛がっているんですけど、世に出ちゃったら、誰がどう聴こうがご自由にという感じなので。わりと客観的に、自分の書いた曲でも“良い曲だよなー”とか平気で言えちゃいます(笑)。自分から離れて行ったものだと思うので。

――じゃあ客観的に、お風呂でピーナッツの曲を誰かに勧める時に、どういうところが良いんだよって言います?

若林:えー、どういうところ? それ、めっちゃ難しいです。

――客観的に言えるって言うから聞いたのに(笑)。

若林:確かに(笑)。でも、何だろう。“面白いJ-POPだよ”って感じですかね。ある程度のキャッチーさと、変わったところとのバランスが良いって感じですかね。わかんないですけど。どう?

樋口:えー、何だろう。でも私は、音に若林くんの人格がすごい出ていると思っています。若林くんって人に可愛がられ才能がすごいあると思うんですよ。自然に人が集まって来る感じがあって、その大らかな人柄が曲の中にも色濃く残っているなと思うので。うまい表現がみつからないですけど、あったかい作品が多いなって私は思います。

――間違いないです。お風呂感ありますよね。ゆっくり浸かれるお風呂系ポップス。

樋口:それ良いですね(笑)。

――みなさんぜひ浸かってみてください。おしまいに、ユニットしての今後の目標、夢、やってみたいこと、ライブしたい場所、何でもいいので、未来についての言葉をもらえれば。

若林:それで言うと、自分たちは国際フォーラム希望で。ドームとかそういうレベル感じゃなくて、国際フォーラムがいいなって。

樋口:ホールへの憧れはめっちゃありますね、私たち。

若林:そこでできるようになりたいです。あとは、タイアップとかも含めていろいろな人に作品を作っていきたいです。二人で。

樋口:やっぱり長く続けたいですね。この場所で歌えるのが、私の中ですごく大事な場所なので。すごく自意識過剰なことを言うんですけど、若林くんがお風呂用に作った曲って、私が歌うのが一番ハマるので、そういう場所があることが私の中ですごくラッキーなことだと思っています。それがほかの活動にも、モデルとかにも繋がってると思うので、本当に大事にしたいパートだなと思います。あとやっぱり、ホールはやりたいですね。高校にホールがあったんですよ。そこでいつもライブをやっていて。その記憶もあるのかもしれないです。

――夢がかないますように。後押しします。

若林:「長く」というのは僕もあります。二人で長くやっていきたいですね。

取材・文:宮本英夫

リリース情報

Digital Single「後夜」
2022年11月23日(水)リリース

ライブ・イベント情報

<スーパー銭湯ライブ vol.2>
2023年1月6日(金)@代官山 晴れたら空に豆まいて
出演:DinoJr.、碧海祐人、a子、お風呂でピーナッツ
◆http://haremame.com/schedule/73920/

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