【ライブレポート】Hakubi、「あなたがいるから強くなれた。本当に心から思う」
ライヴハウスで観るHakubiがまっすぐにこちら目掛けて押し寄せる波だとすれば、ホールで観る3人はどこまでも高く続いていく冬の夜空だった。初のホールワンマンは、バンドの表現にさらなる可能性と奥行きを生み出したと言っていいだろう。
◆ライブ写真
バンドのバックドロップの前に、下手からヤスカワアル(Ba)、片桐(Vo,G)、マツイユウキ(Dr)が横一列で並ぶ。3人それぞれのパフォーマンスに焦点を当てたステージセットだ。静寂を音で表したような荘厳なSE、リズムパッドなども取り入れて丁寧にサウンドスケープを組み上げた1曲目「悲しいほどに毎日は」と、冒頭から客席をじっくり楽曲の世界へと引き込んでいく。
緊迫感と感傷性に富んだ「Twilight」をドラマチックに届けると鮮やかに「夢の続き」へつなげ、続いての「どこにも行けない僕たちは」と併せてほとばしるバンドサウンドで魅了。スピード感あふれる音像はたくましく、観客を自由へと誘うようだ。音の中で3人は一歩も引かず、自らの美学を貫くように音を鳴らす。個々の色が出れば出るほど、Hakubiという調和が取れていく様子も痛快である。
街の雑踏の音から「在る日々」をスケール大きく届け、ゆったりとしたダンスビートが心地よい「Friday」では幻想と現実がない交ぜになった淡い音像で一帯を浸す。ここを機に会場が徐々に内省的な没入感に包まれていった。なんだかそれは夜が深まっていく様子と似ていた。ひとりで思いに耽るときの解き放たれていくような感覚、眠れない夜の心細さ、本当に朝が来るのかという疑念と不安、この空間が無限に続いていくのではと錯覚するほどの無敵感、周りが見えなくなるほどの陶酔感など、夜に顔を出す内なる感情が心の奥から浮かび上がってくる。序盤から主に藍色の照明が使われていたことも影響しているかもしれない。「あいたがい」のぬくもりに溢れた音色を聴きながら、寒い夜に浮かぶオーロラはこんなふうに見えるのだろうか、と想像を巡らせた。
Hakubiの描く夜は、さらにその色を濃くしてゆく。ステージに斜幕が掛かり、映像とともに演奏されたのはバンド初のクリスマスソング「32等星の夜」とポエトリーリーディングも印象的な「サーチライト」。メンバーはさらに曲に対する集中力を高め、その音が斜幕に映し出された景色と言葉をより鮮明に刻み付ける。息を飲むような迫真の演奏に、観客も見入り拍手を忘れるほどだ。幕が開いた後に披露した「薄藍」ではその集中力をさらに研ぎ澄ませ、観客の心の中に灯った炎を焚きつけた。
深い夜にも朝陽が差し込んだ。「アカツキ」では暗闇で身をひきずりながらも彷徨うなかで微かな光を見つけたような、切実な願いにも似た音色と歌声が会場を照らす。ステージのライトも深い青からオレンジへ。思いを高く空へ放つような、深い青を少しずつ新しい色で染めていくような力強い演奏は、まさに暁そのものだった。
片桐はホールならではのライヴが実現できている喜びを語ると、キーボーディストの善岡慧一を招き入れて4人編成で「栞」を届ける。可憐なピアノソロを挟み、ギターを置いた片桐がハンドマイクでスツールに腰掛けると、「スペシャルヴァージョンということで、久しぶりにこの曲を。すごくすごく大切な曲です」と告げ「22」を歌唱。じっくり自分自身、そして楽曲に向き合って歌う彼女の姿に、観客も熱い視線を送る。リズム隊が演奏に入ると片桐は立ち上がりギターを抱えてギターボーカルスタイルに。内なる感情を抱えながら前に進んでいく、楽曲に宿る物語をより明確に印象付けた。
再び3人編成に戻ると、片桐は会場にいる人々が自分たちの味方でいてくれること、仲間でいてくれることの喜びと感動をあらわにする。「幸せな気持ちに……なってしまってもいいよね。幸せなことってあんまりないから変な感じがする。でも、こんな空間もいいですよね。あなたがいてくれてほんとうれしいわ」と等身大の語り口で続けると、3人は仲間の手を取り走り出すように「ハジマリ」を颯爽と奏でる。「フレア」では観客がその手を握り返すように、盛大にクラップを鳴らした。藍色のステージには赤と黄色の光も灯り、より華やかに。片桐が「あなたがいるから強くなれた。本当に心から思うんですよ。だからこれはあなたのための歌」と叫んでなだれ込んだ「mirror」は、過去の彼女の言葉を通じて今の彼女に生まれた感謝や愛情が溢れてゆく。どんな波よりもしなやかで、どんな夜よりも感情を揺さぶるステージに、客席も高く掲げた固い拳で思いを返した。
<Noise From Here – HALL edition>というタイトルは、2020年のコロナ禍に行った配信ライヴ<Noise From Here>から取られた。その理由を片桐は“「あれからのわたしたちのことを歌いたかったし、あれからのあなたたちと会いたかった」と話す。3人が本編ラストに選んだのは、ライヴで一緒に歌いたいという願いから生まれた「君が言うようにこの世界は」。あたたかくて不器用なギターの音色に合わせて、観客はスマートフォンのライトを掲げて揺らす。やわらかく広がるサウンドスケープは陽だまりのよう。片桐は「人は分かり合えないけど、ひとつになれる。心を共有することができる。この曲を一緒に作ってくれてありがとう」と語り掛け、会場一体となり本編を晴れやかに締めくくった。
アンコールではリズム隊2人が軽妙なMCを繰り広げ、片桐が後から合流して「辿る」で伸びやかな演奏を響かせると「光芒」へ。サビを弾き語りで歌い切った片桐が「今日は本当にありがとう!」と笑顔を浮かべると、客席からあたたかい拍手が湧く。3人の真摯な演奏と、熱を帯びた観客のクラップは、未来へのファンファーレのようにエネルギッシュに響いていた。
初のホールワンマンで様々な挑戦を重ね、さらに自分たちの音楽を愛する人々との結束を強くしたHakubi。片桐はMCで現在の自分について「少し強くなった自分と、何も変わらない自分が心の根っこで歌っている」と語っていた。彼女がなぜ少し強くなれたかというともちろんHakubiの楽曲を求める人の存在と感謝ゆえだが、その思いを抱いたのは間違いなく“何も変わらない彼女”である。彼女は一つひとつ積み重ねてきたからこそ、できることが増えた。そしてヤスカワとマツイの両名は、自分のポリシーでもって彼女の意志を最大限に尊重する。それぞれに異なる光を持つからこそ美しく、目を奪う大三角形が出来上がるのだ。それが夜空に凛と浮かび上がる星座のように見えたのも、ホールという空間ならではかもしれない。Hakubiはこの日また、新しい物語の1ページをめくった。
取材・文◎沖さやこ
写真◎翼、
「32等星の夜」
Pre-add、Pre-save事前登録サイト:https://lnk.to/32touseinoyoru
ワンマンライブ情報
[大阪] 心斎橋BIGCAT
2022年11月17日(木)
18時開場 / 19時開演
前売り 3,800円(税込・ドリンク代別)
チケット残りわずか
Hakubi オフィシャルメンバーシップ
会員限定チケット先行やオリジナルグッズ販売を始め、様々なデジタルコンテンツを企画中
先行登録受付中
https://hakubi-fc.jp
◆Hakubi オフィシャルサイト
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